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森のくまさん

「そうだ。舟が無かったな……」


 先程森へ行った際に舟を使った事を船着き場に来て思い出したエレインは腕を組み思案する。ハウリンガーはその横で座りジッとエレインを見つめている。


「対岸に転送する方法しかないか……ん?」


 何気なく空を見上げると鳥が飛んでいるのが見えた。それを見てエレインはふとランスロットとの会話を思い出す。


「ランスロット、確か重量を最小にすれば風に乗って空を飛べるのだったな?」

≪はい、正確には滑空と言った方がよろしいかとは思いますが、ある程度の距離の移動は可能です≫


 ランスロットに尋ねるとすぐに答えが返ってくる。その答えを聞いて一つの案を思いつく。


「湖を飛び越えようと思うのだが、出来るか?」

≪問題ございません≫


 あっさりと断言されたが、エレインは湖を見る。とても飛び越えて渡る距離では無かった。だが、ランスロットが断然するのであれば出来るのだろうとエレインは考える。


(私の性能は私よりランスロットの方が詳しいのだからな。ちょっと情けない話ではあるが)


 自嘲気味に笑い、隣にいるハウリンガーを見る。目が合ったハウリンガーは「何か?」という感じに首を傾げる。その仕草に思わず笑みがこぼれハウリンガーの頭を撫でる。


「ハウリンガーはどうするかな」

≪防水加工はしておりますので、水中移動も可能です≫


 自動人形であるハウリンガーは呼吸の必要も無く、更に水中を潜っても問題無かった。ただ、かなり重いので泳ぐというより湖底を走っていく形になる。そんな方法だったが、エレインはそれを拒否した。


「それは可哀想だな。一緒に飛ぶ事は出来ないのか?」

≪可能でございます。エレイン様が身に着けている物、または持っている物は重量操作の対象になります≫

「つまり抱えていればいいのだな」


 そう言ってエレインはハウリンガーを両手で抱え上げる。全長2m近くある狼、しかも体の殆どが金属で出来ているのだがエレインは事も無げに持ち上げる。ハウリンガーも大人しくしていた。


「よし、次は風の方向だな」


 自分の髪や周りの木を見て風の向きを確認する。


「先程行った方角には吹いていないか」

≪先程向かわれたのは南でございます≫


 ランスロットはエレインのメンテナンスの際に対岸に渡った記録を既に解析していた。今現在もハウリンガーの眼から情報を得ている。それらの情報から屋敷および島周辺の大まかな地形は把握していた。日の光や影などから方角も把握済みだった。


「という事は……東に吹いているという事だな」

≪その通りでございます≫

「それでは今度は東の岸に行ってみるか」


 エレインは船着き場を離れ、島の東側に移動する。


「対岸までの距離は南側とほぼ同じ様だな」


 対岸を眺めながら大体の距離を測る。小脇に抱えられた状態のハウリンガーは足をプラプラとさせながら大人しくしていた。


「どれくらい飛べるか分からないからな。出来るだけ高く飛んで風に乗るか。よし、重量を最小に設定……」


 最小にした状態でピョンピョンとその場で飛んでみると着地までの滞空時間がとても長かった。そしてちょっとした風の流れでもフワフワと動いてしまう。


「ハハ、これは新しい感覚だ」


 少し力を込めて飛べば2,3mは飛ぶ。ただ、軽すぎて狙った方向へ飛べず、体のバランスを取るのが大変だった。


「軽すぎるのも問題か……。飛ぶ時、空中、落下と小まめに重量の調整をしてバランスも保たねばな。とりあえずちょっとだけ重くして……」


 真っ直ぐ飛べる事を確認すると、エレインはその場でしゃがみ、体を丸める。


「考えるのはこの辺にして、とりあえずやってみるか。出力は……30%くらいでいいか。思い切り飛んでみよう。行くぞ、ハウリンガー」

「ウォン!」


 尻尾を振りながら元気よく吠えるハウリンガーへ微笑みながら。脚にグッと力を込め思い切り地面を蹴った。そして空へと一直線に飛び立つ。


「うぉっ!」


 あまりの速度に思わず声を出してしまう。エレインの体は一瞬にして空高くに舞い上がり、下に見える湖が小さくなっていく。その光景に一瞬思考が止まったがすぐに立て直す。


「い、いかん飛び過ぎた。うわっ!」


 飛んだ時の勢いが落ちた瞬間、今度は強風に煽られバランスを崩す。


「じゅ、重量を重くせねば……」


 回転しながらもエレインは重量を上げる。すると風に流されつつも落下する速度が上がって行った。


「よ、よし」


 体勢を維持し、落ち着きを取り戻す。高所による恐怖心も無く、見た事の無い空からの景色を楽しむ程だった。ハウリンガーも特に表情を変える事無く、周囲をキョロキョロと見渡している。恐らくランスロットの指示だろうとエレインは推測しつつ、自分も周囲を見渡す。


「上から見ると、本当に広大な森なのだな」


 湖全体が見下ろせる高さから見ると、森の広大さがはっきりと分かった。


「これは森を出るのが大変そうだ。でも一度出れば転送できるか。人間にも会えるといいが……っと」


 周囲を見渡しながらそんな事を考えていたが、森の外への楽しみは一先ず置いておき、目的の東側対岸に目を向ける。が、岸はすでに真下に来ていた。後退が出来ないのでこのままでは岸を通り過ぎ、森へと突っ込む事がほぼ確定な所まで来ている。


「いかんっ。急いで降りなくては。重量をさらに上げて……」


 慌てて設定を変更した途端ガクンと落下スピードが格段に上がり、垂直に落下する。岸から少し森に入った辺りに向かって。


「あ、上げ過ぎたっ! うわっ!」


 森の中へと勢いよく突っ込む。バキバキと枝の折れる音の後にドンという落下音が響いた。そしてそれに驚いた鳥達が森の中から飛び出す。


「……失敗してしまったな」

「ウォン!」


 尻餅をついた状態で苦笑いを浮かべるエレイン。落下時の重さのまま垂直落下し臀部から落ち、地面が少しへこんでいた。抱えられていたハウリンガーは上手く地面に着地している。背負っていたナップサックも下敷きにはならずに済んでいた。


「軽くする暇もなく落ちてしまったが、これくらいの衝撃では体は問題無いようだな」


 立ち上がり髪や肩に着いた木の枝や葉を払い落としているとある事に気付く。


「む、仮面が無い」


 自分の顔に触れて仮面が外れている事に気付き辺りを見渡すが、落ちていない。


「ウォン!」


 辺り探しているとハウリンガーが上に向かって吠える。ハウリンガーの見ている方を見ると、木の枝に仮面が引っ掛かっていた。


≪落下の際に引っかかってしまったのかと思われます≫

「かなり枝にもぶつかったからな。よし、取るか」


 仮面の引っ掛かっている場所まで3m程の高さがあったが、エレインは丈夫そうな枝に手を掛けるとスルスルと登って行った。


「木登りはお手の物だな……っと」


 難なく回収して地面に飛び降りる。今度はちゃんと着地出来た。


「む、紐が切れてしまっているな」


 そして回収した仮面を見ると耳に掛ける紐が片方切れてしまっていた。


≪エレイン様。仮面に関しては問題点の改良も踏まえ、私が一から作ろうと思うのですが≫


 ランスロットからの提案に首を傾げる。


「一から?」

≪はい、簡単には外れない様に。そして幾つか機能を付けようかと。いかがでございましょうか?≫

「……そうだな。簡単に外れては困るし、ランスロットに任せよう」

≪ありがとうございます。それでは製作に移らせていただきます≫

「よろしく頼む。この仮面は……袋の中に入れておくか」


 背負っていたナップサックに仮面を入れ、改めて周囲を見渡す。岸に近い事もあり、木々の隙間から湖が見えた。


「よし、不恰好なスタートになってしまったが、予定通り森の散策をするか」

「ウォン」


 エレインとハウリンガーは湖とは逆方向に歩き出した。南側と同様東側の森も高さが20~30mはある大木がそこらじゅうにあり、日の光が余り届かず全体的に薄暗かったが、所々差し込む光と心地よい静けさが神秘的でエレインはそんな空間を楽しみながら歩いている。


「ん?」


 少し歩いたところで前からのそのそと黒い狼が現れた。南の森で出くわした2m程の大きな狼だった。


「またあの狼か」


 ハウリンガーは既に身を低くして臨戦態勢に入っている。エレインは今度はどうやって追い払おうか考えていたが、狼はエレインに気付いた瞬間「キャフッ!」と情けない声を上げて逃げて行ってしまった。呆気に取られるエレインとハウリンガー。


「なんだあれは……」

≪南の岸で投げ飛ばされた狼だったのでは?≫


 ランスロットの意見に「あ~」と納得する。言われて最初に襲いかかってきた狼が飛んで行った先がこの辺りだと思い出した。


「……というか、あれだけ飛んで生きてた事に驚きだな」

≪木の枝がクッションになって助かったのかもしれません。かなり疲弊していたようですが≫


 ランスロットが言うように南の岸で出会った時より弱々しかったように思えた。


「……こちらを見て一目散に逃げる元気はあるようだし、いいか」


 自分に襲って来ないだけで十分だと思い、再び歩を進めた。






「お、あの実は何だろう」


 目の前の木に生えている実を見つけ立ち止まる。卵型をした黄色い実が5m程の木に生っている。エレインはヒョイと木によじ登り、実をもぎ取った。実は5cm程の大きさでつるりとした薄い皮に覆われている。触った感じも中身の柔らかさが実感できる物だった。


「見た感じ美味しそうだな。それに……」


 地面を見下ろすと、動物が食べたであろう実の欠片や種がいくつも落ちていた。


「これも美味しさの目安になるのかもな。最初に取った実は違ったが……」


 南で取った青い実はとても甘くエレインは気に入ったのだが、背の低い木に生っていたにも拘らず一つも食べられた形跡が無かった。


「皮が尋常じゃなく苦かったしな。態々食べなくても他にあるか」


 そう言いナップサック開けて中を見る。エレインはここに来るまでに数種類の実を見つけて回収していた。


「ふふふ、後で食べ比べをしてみよう」


 自動人形のエレインにとって食事による栄養の摂取は必要ない。だが、味覚のおかげで食べる喜びを知ったエレインにとって楽しみの一つになった。 そして3個目の黄色い実を意気揚々とナップサックにしまおうとした時。


「グォォォォッ!!」


 遠くから動物の鳴き声が聞こえてきた。低く怒りの籠った声が辺りに響く。


「なんだ?」


 エレインは声のする方を見るが木が多くて見えない。下にいるハウリンガーも警戒しているのか周囲を見渡している。


≪近いようです≫


 ランスロットの声を聞きつつ、エレインはハウリンガーの傍に着地する。


「そうか。方角はこちらであってるか?」


 ハウリンガーに聞くとコクンと頷く。エレインは気を引き締めて声のする方へと歩いて行った。ハウリンガーも警戒しながらエレインの横に付いて行く。

 少し歩くと、木々の隙間から大きな岩が見えてきた。周囲の木々を数十本束ねたような一際大きな木の根元に高さ5m幅10m程の岩が置かれ、巨木と岩に立て掛けるようにもう一つ同じくらいの大きさの岩が置かれている。長い年月が経っているのか巨木も岩も苔が覆われ一つの物体の様に感じた。


「これは凄い―――」

「ギャンッ!」


 圧倒的なスケールの巨木と岩に近づこうと木々を抜けた瞬間、岩の向こうから黒い物体が飛んできた。黒い物体の正体は狼で、これまで出会った狼より小柄で全長1m程。体は灰色の斑模様になっており別種の様にも思えた。飛んできた狼は首があらぬ方向を向いており、ピクリとも動かない所を見ると絶命している様だった。


「何が……」


 ゆっくりと岩の反対に回りこんでみると、大きな熊と飛んできた狼と同じ狼が睨み合っていた。狼は熊に対して距離を取り威嚇しているが、尻尾が垂れて震えているようにも見える。一方の熊は全身が艶のある黒色、全長4m程はある巨体で、威嚇する狼を睨みつけていた。その足元には頭が半分地面に埋まった狼の死体があった。


「グォォォォォッ!」

「キャフッ!」


 熊が両手を上げて声を上げると、狼は悲鳴のような声を上げて森の中へと逃げて行ってしまった。


「流石に2体もやられては逃げるか」

≪無謀な戦いに挑んだ様でございますね≫


 岩影から様子を伺うエレインとハウリンガー。熊は狼の死体を咥えると、巨木と岩が並ぶ方へと歩き出す。だが不意にエレインの方を見た。


「あっ」


 目と目が合うエレインと熊。エレインは恐る恐る岩陰から出る。


「あ~……やぁ」


 どう対応しようか迷い、手を上げて笑顔で挨拶する。熊は咥えた狼をその場に置き、エレインの方へ体を向ける。


「私は危害を加える気は無いのだが、分かってもらえは……」

「グォォォォォッ!」

「……しないよな」


 両手を上げて無害をアピールするも熊は立ち上がり声を上げる。


「まぁ、伝わらないか……」


 エレインは小さく溜息を吐く。ハウリンガーは前に出て臨戦態勢に入った。


「言葉も伝わらないし、戦わなきゃいけないか……ん?」


 エレインは岩と巨木の間が洞穴になっている事に気付く。その洞穴から小さな黒い塊が2つ、チラチラと見えた。


「あれは……子供か?」


 洞穴から見えたのは2匹の小熊だった。


「……そうか、子供を守っていたのだな」


 威嚇する親熊を見つめ考えるエレイン。痺れを切らしたのか親熊は猛スピードで駆けてきた。


「ハウリンガー、手を出すな。怪我をさせたくない」

「ウォン!」 

「……と言っても手段が思いつかないが」


 魔法を使うか考えている間に親熊は目の前まで接近、左手を振り上げていた。


「ッ!」


 力いっぱい振り下ろされた手をエレインは右手で受け止める。だが、重量を軽くしていた為体ごと持って行かれそうになった。


「っとっとっと!」


 エレインは慌てて重量操作を切り、足を広げて踏ん張る。するとピタリと止まりそのまま親熊の手を押し戻して体勢を元に戻す。


「力勝負は私の勝ちの様だな」

「グォォォォッ!!」


 親熊は反対の右手を同じように振り下ろすが、エレインの左手に受け止められてしまった。お互いが向き合ったまま均衡状態の様に見えるが、親熊は怒りに満ちた表情、一方エレインはまだまだ余裕の表情だった。


「子供に危害を加える気はないぞ。分かってくれないか?」

「グァウッ!」


 両手が塞がれた親熊はそのままエレインの顔に噛みつこうとする。


「おぉっ!」


 エレインは上半身を仰け反らせ回避するが、親熊は再び牙をむき出しでエレインの顔目掛けて突っ込んでくる。


「このっ!」


 エレインは両手を掴んだまま後ろに下がる。すると体重を掛けていた親熊は前へと体勢を崩し、ドスンという音と共に親熊が前のめりに倒れた。エレインはすかさず親熊に飛び乗り、両手で親熊の頭に置き押さえつける。


「グァァァウッ!! グァァッ!」

「コラッ! 暴れるな!」


 親熊はエレインを乗せたまま起きると、エレインを振り払おうと暴れる。エレインは慌てて左腕で親熊の首にしがみつく。親熊はエレインが相当重いのか思ったような動きが出来ない様でエレインも振り落とされずに済んでいた。


「お前達親子を傷つけるつもりはない! 落ち着け!」


 エレインが親熊に向かって大声を出すと、親熊の頭を触れていたままだった右手の手袋の中が淡く光った。どうやら掌から発している光の様だった。


「グァァ……ァァァ……? グァフ……」


 真珠色をした淡い光が出た途端、親熊はパチパチと瞬きをして次第に大人しくなりその場で寝そべってしまった。


「な……何だ?」


 目を大きく開き歯をむき出しにして怒っていた親熊は完全なリラックスモードになってしまっていた。エレインは右手を親熊の頭に載せたままゆっくりと背から降りて親熊の前に移動する。親熊はそれを上目使いで見ているが警戒の色が伺えなかった。


「大人しくなってくれたのはいいが、何故だ? ……やはりこの手の光か?」


 エレインは親熊を刺激しない様にゆっくりと右手を離した。親熊は特に反応する事無くじっとエレインを見たままだった。エレインは手袋を外して掌を見る。やはり真珠色の光は掌から出ていた。だが、次第に光は弱くなり消えてしまった。


「何だったのだあれは……」

≪今のは魔力でございます≫


 離れていたハウリンガーを介して様子を見ていたランスロットが答える。


≪エレイン様はエレイン様の魂と同化した賢者の石から生み出される魔力を動力に致しております。生物が血を巡らせているように、エレイン様は魔力を巡らせております≫

「その体を巡らせていた魔力が出たという事か?」

≪はい、基本的に魔力は魔法に変換して出力するのですが、エレイン様の意志で魔力をそのまま放出できます≫

「なるほどな。魔力が出る事は分かったが、何故これほど大人しくなったのだろうな」

≪仮説ではございますが、エレイン様のお気持ちが魔力を通して伝わったのではないかと≫

「魔力を通して?」

≪マーリン様の仰るには魔力は精神と深い繋がりがあるとの事です。魔法に変換されてしまえばそれは定められた唯の現象になってしまいますが。敵意が無い事を伝えようとなさったお気持ちが、魔力を通じ相手にも伝わった。と、考えられます≫

「気持ちが伝わる……か」


 エレインは自分の掌を見つめる。魂や魔力の流れ等の体の仕組みについてはあまり実感が無くよく分からなかったが、魔力を通して相手に気持ちが伝わるのであればそれは素晴らしい事なのではと思えた。


「ただ、相手の気持ちが分からないがな」


 そう思ったが、一方的にでも伝えられるだけマシかと思い直した。


「相手の気持ちは自分の眼と感覚で察するしかないものな」


 そう呟き、親熊の方を見るる。目があった親熊はゆっくりと起き、顔をエレインに近づけてきた。


「っ!」


 エレインは思わず身構えるが、親熊の表情は依然落ち着いた様子だった。親熊はエレインの首筋や手の匂いをクンクンと嗅ぐとクルリと後ろを向き、巣の方へと戻って行った。途中エレインに襲いかかる時に放り出していた狼の死体を咥えて。


「警戒を解いたようだな」


 エレインは洞穴に入っていく親熊を見ながらホッと安堵する。


≪エレイン様、裏に飛んで行った狼はどうしましょう?≫


 ランスロットに言われ、最初に飛んできた狼の死体を思い出す。


「うむ、恐らく親が食べるのであろうな。持って行ってやるか」

≪畏まりました≫


 ランスロットが返事をすると待機していたハウリンガーが素早く岩の裏へと駆けて行く。そして狼の死体を咥えてすぐに戻って来た。


「自動人形とはいえ、狼が狼を咥えて食料として渡しに行くというのはなかなか見ない光景だろうな」


 違和感に苦笑しながらもハウリンガーと共に洞穴の入り口へと向かう。先程見えていた小熊達は奥へと入ってしまったのか見当たらなかった。

 洞穴の前に行くと、親熊が中から出てきた。親熊はハウリンガーを見て警戒の色を強めるが、エレインの横で大人しくしているハウリンガーに襲いかかる事はしなかった。

 親熊が狼を咥えてなかったので中に置いてきたのだとエレインは考える。


「ほら、もう1匹の狼も持って来たぞ」


 エレインがそう言うと、狼の死体を咥えたハウリンガーが前へと出て地面に狼の死体を下す。親熊はそれをジッと見つめるとハウリンガーの首を咥えて持って行こうとする。


「違う違う! ハウリンガーは私の仲間だ!」


 見た目より数倍は重いハウリンガーをズルズルと無理やり引きずって行こうとする親熊を慌てて止める。親熊はすぐに口を離し、エレインを見る。


「こっちの死体な? こっちを持って行け」


 エレインは狼の死体と洞穴を交互に指さし説明する。すると言いたいことが理解出来たのか、ハウリンガーを調べるように匂いを嗅いだ後、「グァフ」と鳴いて狼の死体を咥えて洞穴へと入って行った。


「ふう、落ち着いてる状態ならなんとなく言ってる事が伝わるのだろうか」

≪知能は多少あるようですね≫

「先程は子供を守る為に必死だったのだろうな」


 そう思うと不思議と親熊に愛着がわいてしまうエレインだった。


「それと、ハウリンガーも少しは抵抗しなきゃダメだぞ?」

「ワフ……」


 されるがままだったハウリンガーを見ると顔を俯かせて小さく鳴いた。


≪自分が餌と認識された事を理解出来なかった様です≫

「行動が理解できずに思考が停止したという所か」

≪様々な状況下での迅速な判断については今後の課題でございますね≫

「そうだな。それはハウリンガーだけで無く私もだがな」


 そう言い笑顔でハウリンガーの頭を撫でる。


「よしよし……ん?」


 ハウリンガーの頭を撫でていると、洞穴の中から小さな2つの毛玉がこちらの様子を伺いながら姿を現した。


「おお、これは……」


 それを見てエレインはピタリと動きを止めて小さく唸った。

次話も出来上がり次第投稿します。

次回もよろしくお願いします。

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