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自身の容姿と服選び

サブタイトルの捻りの無さ。

「地下に来たが、良かったか?」

≪はい、屋敷内は服はおろか家具さえ置いておりません≫


 地下に降りている途中に行き先が合っているか聞く。


「マーリンも地下に籠っていたし、そうなるか」

「お帰りなさいませ。まずこちらで土で汚れた体を洗浄したします」

「ん? ああ、頼む」


 ランスロットのいる部屋に入ると、作業台に寝るように指示されエレインは作業台に横になる。マーリンの埋葬時に土で汚れた体はランスロットのアームで瞬く間に綺麗になった。

 

「洗浄完了致しました。服はこちらの部屋にご用意しております」


 起き上がると、マーリンが寝かされていた部屋とは反対の部屋に案内される。中には大きな洋服箪笥が並んでいた。別の一角には靴や帽子、アクセサリーなどの置かれた棚が揃っていた。壁には大きな姿見も用意されている。


「ここは衣裳部屋という所か?」

≪はい、マーリン様がエレイン様の為に用意しておりました≫

「そうか」


 自分の為にと言われると感慨深くなる。エレインは箪笥の一つを開けて中を確認する。


「……まぁ、こうなってるだろうな」


 エレインは中に掛けられた服を見て、改めて納得をする。中には女性物のドレスが並んでいた。エレインは壁の姿見に映る自分の姿を改めて確認する。


「どこからどう見ても女だものな。私は」


 スラリと伸びた四肢、豊満な胸、細く括れた腰。出る所はしっかり出ているが、身長も高めなおかげで全体的にスマートに見える。ただ、人間特有の曲線を描く体は淡い金色の金属で出来ていて、各パーツの繋ぎ目のラインが体中を走っている。関節部も凹凸は目立たないが、球体が入っている様に見えた。シルエットだけならば人間とまったく変わらないが、実物を見れば一目瞭然だった。


「自動人形か……」


 自分の姿を眺めながら、エレインはマーリンの言葉を思い出す。自分の様な機械を"自動人形"と呼ぶ事を。


「動きも人と変わらないのものな。それに……胸から上はよく出来ている」


 エレインは鏡に近づいて上半身を見つめる。鳩尾辺りから胸、首、そして頭部、背中に渡り、人の肌の様になっていた。色は淡い肌色、触れば本物の肌の様に柔らかい。柔らかいのは表面だけの様で、指を押し込むと中の金属の感触が伝わる。


≪胸部、頭部は生体スキンを施しております≫

「生体スキン?」


 ランスロットの言葉に首を傾げる。


≪生体スキンを施すことで、表面上ですが人間と同じ外観にする事が出来ます。エレイン様に施されたのはマーリン様の特別製で、もし外傷などが出来た場合でも自動修復する様になっております≫

「へぇ……本当に生き物の様だな」


 そう言いながら面白そうに生体スキンに触れる。胸の膨らみの柔らかさは特筆するものだった。


「生体スキン自体の感覚は無いから触れられても気付かないか」


 自分の胸に触れながら呟く姿を鏡で見て少し呆れる。


「何をやってるんだ私は……」


 自虐的に笑うと、今度は鏡に顔を近づける。


「顔は本当によく出来ている……」


 鏡の中に映る顔は自然では不可能であろうと思われる程整った顔だった。ゆったりとウェーブのかかった艶のある髪は体と同じ淡い金色で、肩の辺りまで伸びた髪は上品さが伝わってくる。全体的に可愛いというよりは、凛々しく美しいといったイメージを受けた。エレイン自身は自分の顔なので整っているなというくらいの印象だったが。


「口の中も人と変わらないな」


 口を開いて中を見ると、歯と舌があった。舌も自由に動かせる。唾液は出ない様だった。


「物を食べたりも出来るのか?」

≪はい、食事も可能です。必要というわけではございませんが、味覚も再現出来ております。食べた物はすべて体内で魔力に変換されるので、排泄の必要はございません。生き物には害である毒、薬等も当然ながらエレイン様には無効でございます≫

「それは凄いな……」


 一通り口や鼻を見た後、眼を見る。


「だが、さすがにこの目は機械とばれるか」


 自分の瞳を見て困った顔をする。黒い瞳孔は問題なかったが、金色の虹彩部分には瞳孔を囲うように三つの小さな宝石が見える。赤、青、緑に輝く宝石のおかげで人間らしさ半減だった。遠目なら気付かないだろうが、面と向かって話せばすぐ気付かれるだろう。


≪視覚の追加機能の為でございます≫

「追加機能?」


 目を見ているエレインにランスロットの説明が始まる。


≪青は望遠、顕微機能。緑は魔力探知、スキャン機能。そして赤は……≫


 一拍置いくランスロット。


≪催眠、魅了機能でございます≫

「はぁっ!?」


 思わず素っ頓狂な声を上げる。


「えっ? それ危なくないか? 私さっきからずっと自分を見ているが……」


 鏡で自分の目を見ていたエレインは狼狽える。


≪ご安心下さい。エレイン様には効果はございません。効果があるのは生物のみでございます。それに他者でも効果は一時的なものでございます。個人差はございますが。エレイン様が意識的に起動させなければ発動致しませんので、ご安心下さい≫

「そ、そうか、うっかり発動出来ないな。見た目の事もあるし、目を隠せる物があれば……。っとその前に服を探すか」


 エレインは再び箪笥の前に立つ。


「う~む、出来ればスカートよりズボンとかそういう方が、動きやすそうでいいのだがな」


 エレインは魂だった頃より前の記憶が無い。自分の性別すらどちらなのか分からなかった。ただ、なんとなく女装より男装の方が落ち着く気がすると思った。


「ランスロット。やはり自動人形だと知られるとまずいのだろうか?」


 エレインは体を確認している時から気になっていた事を聞く事にした。自分という存在はどういう扱いなのか。自動人形が当たり前で、その辺に沢山いるようなら金属の肌を露出させても問題無い。世界での自動人形の扱いが知りたかった。


≪マーリン様が仰るには自動人形は貴重ではありますが、ちょっと珍しい程度、だそうでございます。ただ、エレイン様の様に命令する主が居ない者、しかも高性能で人間の様な自我を持った者というのは居ないとの事です。数十年前の情報でございますので、今現在の事は未確認でございます≫


「そうか。それでは、やはり自動人形だと気付かれない服装がいいな。ズボンとかの方が……こちらは何が入っているのだろう」


 目の前の箪笥は諦め、隣の箪笥を開く。中にはシャツや、ズボンが入っている。


「お、あるじゃないか。だが……これは作業用という感じがするな」


 先程の煌びやかな服に比べ、こちらの箪笥にはシンプルな服が並んでいた。厚手で丈夫そうな、地味な色合いの物が多い。


「動きやすそうだし、これにするか」


 エレインは箪笥の中から茶色の革のズボンと白いワイシャツを取り出す。両方共にサイズはエレインにピッタリだった。


「これもマーリンの手作りなのかな」


 ボディラインにぴったり合ったズボン姿を鏡で見ながら呟く。


≪マーリン様からの指示で私が作らせていただきました≫

「ランスロットって何でも出来るんだな。凄いよ」


 ランスロットからの答えに唸る。


≪ありがたきお言葉。もし破損致しましたら仰ってください。可能な限り修復いたします≫

「ああ、ありがとう。後は靴と……」


 エレインは靴の置いてあるコーナーから短めのブーツを取り出して履く。別の棚から薄手の革の手袋を見つけ、それを付けると、最後にアクセサリーを物色する。


「仮面かなにかあればいいのだけど……おっ」


 棚に並ぶアクセサリーの中にアイマスクがあるのを見つける。目の周りのみを覆う仮面で、数種類並んでいた。


「これが一番良さそうだけど、肝心の目が丸見えじゃな……。何かで穴を塞げられればいいのだが」

≪マジックミラーなどいかがでしょうか?≫


 何で塞ごうかと考えていると、ランスロットから提案があった。


「マジックミラー?」


 聞いた事のない名前だった。


≪片側から見ると鏡の様になっておりますが、反対からは透けて見る事が出来るという素材でございます。加工は私が致しますが、いかがですか?≫

「そんな便利そうな物があるならそれにしようか」

≪では仮面とガラスをお持ちください。ガラスは倉庫にございます≫

「わかった」


 エレインは倉庫へ行き、ガラスを持ってくる。仮面は白地のシンプルな物を。


「それじゃよろしく頼むよ」

≪畏まりました≫


 材料を受け取るとすぐに作業に入る。作業は20分程で終わった。完成品を受け取り、早速かけてみると、掛ける前と変わらない視界だった。


「へぇ、これはすごいな」


 鏡状になっていたガラスが装着して反対から見ると普通のガラスになっている。魔法のような現象に若干テンションが上がるエレイン。

 

「面白いものだな。……さて、とりあえず、これでかなり人間っぽくなったんじゃないか?」


 衣裳部屋へと戻り、すべてを身に着けた状態で姿見を見る。自動人形だとすぐに分かる部分が見えなくなった。


≪問題無いかと思われます≫

「この際、怪しさは……目を瞑ろう」


 普段から仮面を付けてる奴はどう考えても怪しいと思ったが、諦める事にした。


「私の体の機能をランスロットは知っている様だが、私の記録にその辺りのデータが入っていない理由があるのか?」


 ランスロットの部屋に戻ったエレインはふと浮かんだ疑問を口にする。


≪はい、それはマーリン様からの指示でございます≫

「マーリンの?」

≪マーリン様がご自分で教えたいとの事でしたので、エレイン様の記録には入っておりません≫

「……そうだったのか」


 エレインの起動前にマーリンが亡くなってしまったので、もはや叶わない願いだった。エレインとしても非常に残念だった。


≪亡くなる前にマーリン様よりその役目を仰せつかっております。ご自身の体や機能の事で分からない、もしくは気になる点がございましたらいつでもご説明いたします≫

「ああ、よろしく頼む」


 頼もしいランスロットの言葉に笑顔で頷いた。

仮面を付けた男装の麗人の完成です。

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