表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/7

エレイン起動

さすがにプロローグだけは寂しいのでっ。

【魔力供給安定、動力源及び各部位正常……】


【起動確認後、個体名"エレイン"を最重要保護個体とする。スリープモードからノーマルモードへ移行】






「おはようございます。エレイン様」


 落ち着いた男性の声と共に、エレインは意識を起こす。視線をグルリと回すと、いつもと同じ石の壁に囲まれた部屋だった。


「おはようランスロット。もう、起きて大丈夫か?」

「はい、起きていただいて結構でございます」


 ランスロットの声に合わせてゆっくりと体を起こす。体の感覚に問題が無い事を確認すると、足を下す。足と床に触れると、キンと音が鳴った。エレイン改めて足を見る。スラリと伸びた細い脚は人間と同じような曲線になっているが、見た目は淡い金色をした金属だった。エレインは特に気にせず、そのまま立ち上がる。


「何か問題はありませんか?」

「ん……大丈夫だな」


 エレインは前後左右に体重移動をして問題が無い事を確認する。体の各部位を動かしてみても違和感は無かった。


「調整が必要ならば、いつでも仰ってください」

「ああ、ありがとうランスロット」


 エレインは自分が寝ていた作業台を見る。カプセル状になった作業台の頭部側には箱状の大きな装置が付いており、左右から大きな2本のアームが伸びている。他にも幾つもの小さなアームもありどんな作業でもこの場で熟せる様になっていた。この装置が今まで喋っていたランスロットだとエレインが知ったのはマーリンに組み立てられていた途中だった。当時は相当驚いたが、改めて考えれば自分も似たような物だと納得していた。


「マーリンは何処に?」


 エレインはこの場にマーリンが居ない事に気付く。いつもなら真っ先に顔を見せるはずだった。


「マーリン様はあちらでございます」


 ランスロットはアームで右隣の部屋を指した。言われるがままエレインは隣の部屋へと入っていく。部屋の中には人一人が入るカプセルが置いてあった。透明な素材で蓋をされたカプセルの中でマーリンは眠っていた。


「マーリン?」


 エレインが声を掛けても起きる様子はない。


「エレイン様、マーリン様はお亡くなりになりました。昨日の事でございます」

「えっ?」


 エレインは改めてマーリンをよく見る。確かに呼吸をしている様子がなかった。


「マーリン様は元々高齢、しかも病を患っておりました。エレイン様を完成させた後、眠るように息を引き取りました」

「そんな……」


 床に着いた両膝がガキンと音を立てる。自分がマーリンの負担になったのではと悔やむ。そんなエレインを慰めるかの様にランスロットが話し始める。


「マーリン様はとても満足された様子でした。マーリン様もエレイン様が悲しむ姿は見たくないでしょう。どうか元気をお出しください」

「……ああ、そうだな」


 エレインはマーリンの顔を見る。安らかな寝顔を見てエレインはゆっくりと立ち上がる。


「マーリン様のご遺言ですが、薔薇園に埋葬して欲しいそうです」

「薔薇園?」


 初めて聞く名前にエレインは首を傾げる。


「そんな所があるのか」

「はい、地上にございます」

「…………ここが地下だと今初めて知ったよ」


 この階の一部しか知らないエレインはここが地下だと初めて知るのだった。ランスロットのいる部屋に戻ると、ランスロットが中央の扉を指す。扉を開けると幅3m程の廊下が伸び、途中左右の壁にいくつか扉があった。さらに先には両開きの大きな扉が見える。


≪エレイン様≫

「うぉっ!? 何だ?」


 急に頭の中から声がした。


≪エレイン様、魔力を使った無線通信で話し掛けております。こちらならばどんなに距離が離れていても問題ありません。エレイン様も使う事が可能でございます≫

「そうなのか。えっと……」


 エレインは記憶の中から使い方を探す。エレインの頭の中にはエレインの"記憶"とは別にデータとしての"記録"が入っていた。エレインとしては思い出すという動作と大して変わらず扱える。この辺りの事は事前にマーリンから聞いていたので問題は無く、機械の体になってから覚えようと思えば何でも完璧に覚えられた。ただ、魂の状態時に曖昧だった記憶は、機械の体になっても曖昧な記憶として残ってしまっているし、生前の記憶は無いままだった。

 エレインは頭の中でランスロットに話し掛ける。


≪……聞こえるか?≫

≪はい、結構でございます。こちらを使えば、いざという時にすぐに連絡出来ます≫


 無線通話の方法を覚え、エレインは廊下の奥の扉へ進む。扉を開け階段を上ると、再び同じ大きさの扉があった。扉を開け外へ出ると、木製の建物の中だった。


「これは屋敷……か」


 自分が出た場所が大きな上り階段の裏だと気付き、表に回ってみると、広いロビーになっていた。


「これは立派……だが」


 建物内は埃や蜘蛛の巣などで汚れに汚れていて、人の住んでいる様には到底見えなかった。


≪マーリン様も地下に籠りっきりでしたので、屋敷の方は放置してございました≫


 エレインの呟きにランスロットが答える。普通に喋ってもランスロットに聞こえている様だった。


「薔薇園の方は大丈夫なのか?」

≪はい、そちらは私が制御出来る様に環境を整えておりましたので、今でも問題ございません。薔薇園は裏手にございます≫

「……制御出来るのか」


 エレインは言われた通り裏口から外へ出る。


「おお……」


 外に出たエレインは思わず声に出してしまう。透明な建物の中は一面薔薇が咲き誇っていた。赤、黄、青など様々な色の薔薇が綺麗に区分けされている。中央には小さな噴水があり、そこから水が各区画に行きわたるようになっている。


≪晴れた日などは屋根、壁を収納する事も出来ます≫


 ランスロットが言うと、建物の四隅の柱が動きだし、屋根が折りたたまれ、壁と一緒に地面へと消えて行った。


「あの壁は割れないのか」

≪はい、保護魔法を掛けておりますので余程の事がない限り大丈夫でございます。あと手入れの機械もございます≫


 言うと同時に噴水が1m程浮き上がる。そして下から車輪の付いた機械が現れ、通路を進んでいく。途中で止まると、鋏の付いたアームが伸びて薔薇を一本切る。切った薔薇は落とさずにそのまま回収して再び噴水の下へと戻って行った。


≪四隅の柱と、先程の手入れ車にはカメラが付いておりまして、それで私が管理しております≫

「……すごいな」


 自分の常識に無い事が起こり、半ば放心状態のエレイン。


「こういう事、事前に記録に残していないは何故なのだろう」


 エレインはふと疑問に思ってしまった。エレインは建物内のシステムを殆ど知らない。


≪マーリン様は恐らくエレイン様を驚かせたかったのではと推測いたします≫

「……ふふ、そうか」


 それを聞いて思わず笑ってしまう。そういう茶目っ気は確かにあるなとエレインは思った。


「それで、埋葬はどの辺りがいい?」

≪薔薇園内、一番奥に用意してございます≫


 そう言われ、エレインは薔薇園の中へと入る。石畳の通路を進むと、奥に何も植えていない区画があった。既に穴が掘られており、後は埋葬するだけの状態だった。ちなみに掘ったのはランスロットの操作する先ほどの手入れ機だった。

 エレインは地下に戻るとカプセルを開け、マーリンを抱きかかえる。感謝の気持ちを噛み締めながら薔薇園へ行き、マーリンを埋葬した。


≪倉庫に墓石を用意してございます≫

「わかった」


 地上へ出る時に通った廊下の途中にあった部屋の1つが倉庫だった。倉庫には様々な素材や部品が置かれていた。エレインは倉庫に入り、墓石を見つける。


「……こんな大きな物どうやって倉庫にしまったんだ?」


 鉄とは違う良くわからない金属で出来た高さと幅1m、厚さ30cmの石碑と、同じ素材で出来たタイルが数十枚置かれていた。身動きが取れないランスロットには無理な事だ。


≪マーリン様が、魔法で浮かせて運んでおりました≫

「なるほど……というか、マーリンは生前から用意していたんだな」

≪死期を悟っていたのでしょう≫

「……そうか。墓石には名前しか彫ってないが、いいのか?」

≪何か追記いたしますか?≫

「そうだな。せっかくだから感謝の気持ちを書いておきたいな」

≪わかりました。ではこちらにお持ちいただいてよろしいですか?≫

「あ、私はまだ魔法を使った事が……」

≪エレイン様ならそのまま持ち上げる事が出来ると思います≫

「え?」

≪お試し下さい≫


 ランスロットに言われ、エレインは墓石を掴むと力を込めて持ち上げようとする。だが上がる気配がなかった。


「む……無理じゃないか?」

≪エレイン様、出力制限が現在5%になってります。5%だと人間の一般男性並みの力しか出せません≫

「出力制限の変更か……」


 エレインは頭の中で項目を探す。


「30%くらいにしたら楽に持てるかな?」

≪問題無いかと≫


 出力制限の項目を見つけ、5%を30%に変更する。改めて墓石を持ち上げようとすると、簡単に持ち上がってしまった。


「うわ、軽っ」


 あまりに簡単に持ち上がってしまい、若干バランスを崩しつつも落とす事無くランスロットの元へと運んで行く。


「はい、確かに。では何と彫りましょう?」

「そうだな……」


 エレインは腕組みをしながら考える。


「……"我らの母、ここに眠る"でいいんじゃないかな。あと命日か」


 ランスロットはもちろん、エレインにとってもある意味生みの親だった。エレインとして生まれ変わらせてくれたマーリンはエレインにとって母と呼んでもいい存在だと考えている。


「わかりました。ではそう彫らせていただきます」


 作業台に置かれた墓石に綺麗に文字を彫って行く。アームをいくつか使って彫っているが、具体的にどうやって彫っているのかはエレインにはさっぱりわからなかった。作業は十数分で終わり、完成した墓石を薔薇園まで持っていく。墓石を置き、周囲の土の部分にはタイルを並べて完成させると、エレインは墓の前でしゃがみ込む。


「マーリン、本当にありがとう。どうか安らかに……」


 しばらくその場に留まった後、エレインは薔薇園を出て行く。


「さて、色々しなきゃいけない事は山積みだな」

≪エレイン様≫


 屋敷の中に入ったエレインはランスロットの声に立ち止まる。


「どうした?」

≪服をご用意いたしておりますが≫


 そう言われたエレインは自分の姿を見る。


「……そうだな。服を着るか」


 人間で言うなら素っ裸の状態のエレイン。本人はこのままでも問題無かったが、「用意してあるのなら」と地下に戻って行った。

次回、エレインが服を着ます。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ