プロローグ
勢いで書いてしまいました。
そして、その勢いで投稿しちゃいました。
2014/3/10 指摘のあった箇所を修正しました。
仄暗い森の中、一つの魂が漂っていた。ふわふわと漂う魂はボンヤリと意識を取り戻す。
「ここは……?」
見覚えのない森の中、空中を漂う自分に気付くが、特に驚く事も無い。
「そうか……私は死んだのか……」
魂は自分の死を納得していた。どうやって死んだのか、何故死んだのかまったく思い出せなかったが、狼狽える事も無く、恐怖も感じない。未だに夢の中を漂っている感じさえした。
「私はどうなるのだろうか……」
そんな事を考えながら木々の隙間から見える空を眺める。日の光が暖かく、とても心地が良かった。
「このまま漂うのもいいかもしれないな……」
再び眠気が襲ってきたので、すんなりと意識を手放す。完全に意識を失いかけた時、誰かに触れた感触がした。魂は少しだけ意識を起こし確認をする。そこには自分を両手で包む者が居た。黒いローブを着て顔もフードで良く見えなかった。
「……あなたは死神か? 私を狩りに来たのか?」
魂が問いかけるとローブを着た者は首を横に振る。そしてゆっくりと口を開く。
「魂よ、あなたはこのままでは消滅してしまうでしょう。そうなる前に、どうか私の力になってくれないでしょうか?」
魂は何を言っているのか分からなかったが、再び眠気が襲ってくるのを感じうつらうつらとローブを着た者に答える。
「……私で力に、なれる………なら……」
魂はそう言うと意識を失う。
「ありがとう。本当にありがとう……」
ローブを着た者は大事そうに魂を持つと、その場を後にした。
◆
魂が再び目を覚ますと、目の前にこちらを覗き込む顔があった。白髪混じりの老女が真剣な表情でこちらを見ている。黒いフード付きローブを着ているので、前に出会った人物だろうと推測した。老女の後ろが天井だったので自分が仰向けだという事は分かった。
「―――――――」
老女は何か話しかけている様だったが、魂には全く聞こえなかった。
「何を言っている? 聞こえない……」
こちらがそう答えても聞こえている様子はない。真剣な表情で魂とその周りを見ている。しばらくすると老女は安堵した表情を見せる。とても優しそうな微笑みを浮かべ魂の視界から消えた。魂はさっぱり意味が分からなかったが、眠気が襲ってきたので再び寝る事にした。
◆
再び意識を取り戻すと、またこちらを覗き込む老女が居た。そこで魂は自分の異変に気付く。今まではぼんやりとした視界だったのだが、今ははっきりと見ている。上下左右に視界が動く。生前の目で見ている感覚だった。何が起きたか分からず視界を動かしていると、老女が嬉しそうに微笑んだ。魂は改めて老女を見る。前に見た時より白髪の量が増えているような気がした。
「ちゃんと見えているかしら」
今度はしっかりと老女の声も聞こえた。
「…………っ?」
だが、逆に魂は話せなくなっていた。混乱してキョロキョロしていると、老女も理解したのか優しく話し掛ける。
「今はまだ喋れないのよ。もう少し我慢してね」
そう言うと老女は視界から消えた。何やら騒がしい物音は聞こえてきたが、天井を眺めてばかりいたら飽きてきたので、魂は再び眠る事にした。
◆
魂が目を覚ますと、風景は一変していた。まず、自分が起こされている事。石の壁に囲まれた部屋で、何やら大きな作業台に座らされている様だった。座らされている視線の高さだったが、体の感覚はまったくなかった。老女が再び視界に入ってくる。白髪交じりだった髪は完全な白髪になっていた。
「おはよう。ちゃんと見えてる?」
「……見えている。っ!?」
魂は自分が言葉を発した事に驚いた。
「フフフ。ちゃんと喋れるようにもなっているわね」
老女は魂の声を聞いて喜ぶ。そして魂の後方に声を掛けた。
「それじゃランスロット、しばらくこの状態を維持して頂戴」
「畏まりました」
老女が声を掛けると、後方から男の声が返ってきた。魂は後ろが気になったが、振り返る事が出来ずに確認が出来ない。
「それじゃあなたにちょっとテストして欲しいの」
「テスト?」
魂が聞き返すと、老女は金属の腕を持ち上げてみせる。金属の骨組みに様々な部品が付いた物。その腕が自分の方へ繋がっている事に気付いて驚く。
「これは!?」
「これはあなたの腕よ。今感覚を繋げるから……」
老女はそう言うと魂の視界の右端へ手を伸ばし、何かを操作する。すると自分の中になかった右腕の感覚が蘇る。
「!?」
蘇った感覚に合わせて右腕を動かそうとすると、目の前にあった金属の腕が動き出す。始めは痺れたような感覚だったが、次第に普通の感覚で動かせるようになっていく。ゆっくり指を動かしていると、老女が話し掛けてきた。
「どうかしら、ちゃんと動く?」
「え? ……ああ、問題無いと思う」
「それはよかった! それじゃ他の部位も付けていきましょう」
老女は嬉しそうに歩き出す。
「あっ」
慌てて魂が呼び止めると、すぐに老女は振り返った。
「何かしら?」
「名前……聞いていなかった」
「あら、そうだったわね。夢中になってて忘れていたわ」
老女はクスクスと上品に笑う。
「私の名前はマーリンよ。よろしくね。後ろにいるのはランスロットよ」
「ランスロットと申します。よろしくお願い致します」
後ろから落ち着いた声で丁寧に挨拶をされる。
「よ、よろしく。私は……」
言いかけて自分の名前が思い出せない事に気付く。
「すまない。名前が思い出せない……」
申し訳なさそうに言うと、マーリンは笑顔で首を横に振る。
「いいのよ。そのうち思い出せるかもしれないもの。慌てる必要無いわ」
「そうか……」
魂が返事をするとマーリンは部屋を後にした。
それから目の前で作業をするマーリンを眺めて過ごす。作業の邪魔をしてはいけないと思い、極力自分から話さない様にする。そこで自分が機械の体になっているという事実を知る。マーリンは魔術師であり機械技師であると聞く。他にも薬学や錬金術という物にも詳しいらしい。ただ、説明を聞いても魂には良くわからなかった。
「う~~ん、やっぱり名前がないと不便よね」
突然マーリンは作業の手を止めて言い出す。そしてコメカミに指を当てて考え始める。
「…………エレインっていうのはどうかしら?」
「エレイン?」
魂としては名前を思い出せる気配がなかったので、新たな名前を拒否する気は無かった。
「いいと思う。それでは今日から私の名前はエレインにしよう」
「ええ、改めてよろしくねエレイン」
マーリンはエレインを見て微笑むと再び作業に没頭していった。
◆
それからエレインは再び仰向けの状態で過ごしていた。どれほどの月日が過ぎたのかは分からない。
(今日もまた天井を眺めて過ごすのか……)
特に苦痛とは感じないが、流石に飽きたなと感じていたエレイン。そんなエレインにマーリンが声を掛ける。
「エレイン、今日の最終調整を行った後、あなたはしばらく意識を失う事になるわ。次に意識を取り戻した時は完成して自由に動けるようになるはずだから」
「わかった」
意識を失う事はいつもの事なのであまり気にしなかった。それよりも完成が近いという事が楽しみだった。マーリンはエレインの手を両手で握って微笑みかける。
「完成したら、あなたの好きな様に生きてね。せっかく繋ぎとめた命なんですもの。でも、色々な困難もあるかもしれない。私を恨んでもらっても構わないわ」
マーリンの手に力が籠る。マーリンの目には涙が浮かんでいた。エレインはマーリンの手を優しく握り返す。
「感謝こそすれ、恨む訳がない。私を救ってくれてありがとう」
エレインはマーリンに微笑みかける。それを見てマーリンはポロポロと涙を流した。
「ありがとう。あなたに出会えて本当によかったわ」
「私もマーリンに出会えてよかった。しばしのお別れだ」
「…………ええ、そうね」
マーリンはとても寂しそうな顔を一瞬見せるが、すぐに笑顔に戻る。
「それじゃランスロット、お願いね」
「畏まりました。すべてお任せ下さい」
「おやすみなさい。エレイン」
マーリンの声を最後にエレインは意識を失った。
他の連載中作品もあるのにまた増やしてどうする。
とか、思ったのですが、楽しくなっちゃって……すみません。