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バンシーが猫耳を装備しました

スランプに陥ったマルメ

 ガーネダンジョンのダンマスルーム。

『また、逃げられたね』

 クスクスが何気ない様子で言うと、マルメが不満そうな顔をする。

「もう、なんでトラップに引っかからないの!」

 リントさんも首を傾げる。

『そうだな、前までは、けっこう掛かって居たのにな』

 グルットが辛辣な言葉を吐く。

『お前の腕前が落ちたか、パターンが読まれたかだな』

 落ち込むマルメを横目に見ながらセブンが言う。

『根本的な問題で、ダンモンがまともにクエスタを倒せないって事実がある事を忘れていないか?』

 ワーハが申し訳なさそうな顔をする。

『私がもっと戦えれば』

 マルメが首を横に振る。

「良いんだよ、クエスタに出し抜かれたのをダンモンの所為にするのは、二流のダンマスだってお祖父ちゃんもいってた。あちきは、一流のダンマスになるから、なんとかしてみせる」

「そういうことなら、あちきが力になれる。今月のお買い得、トラップの一覧だよ」

 いきなり現れたヤバの差し出すリストに目を通すマルメであった。



 真夜中のガーネダンジョン、骨だけなのに剣術の練習をサボらないスケさんの所にカクさんがやってくる。

『指摘してやらなくて良いのか?』

 それにスケさんは、苦笑する。

『解っていっているから、お前も言わないんだろう?』

 カクさんがしみじみと言う。

『トンボメ様は、素晴らしいダンマスだった。あの人以上のダンマスは、二度と現れないだろう』

 スケさんは、練習を再開する。

『私は、あの子ならなれるかもと思っている。だから、自分で壁を越えて欲しいのだ』

 カクさんが辛辣に告げる。

『あれは、本当の意味のダンマスになっていない。この壁を越えて初めて本当のダンマスになれる筈だ』

 熟練者、二人は、まだまだ若輩のマルメを暖かい目で見守るのであった。



 その後も、様々なトラップを用意するのだが、どれも上手く効果を表さない。

「何がいけないんだよ?」

 スランプにどっぷりと嵌るマルメが放り出した雑誌、ダンマス生活を拾い上げようとクスクスが手に取り、歓声をあげる。

『この服、可愛い!』

 そこには、ダンジョン内で経営されるメイド喫茶の記事があった。

「なんで、ダンジョンまで来てメイド喫茶なんて入るんだろう?」

 マルメが呆れた顔をしていると営業に来ていたヤバが言う。

「結構、評判だよ。因みに利用中は、休戦って事で、クエスタとダンモンが仲良くティータイムをする事もあるんだって」

 眉を潜めるマルメ。

「何を考えているんだか。クエスタの目的って言うのは、ダンジョンを攻略する事なんだよ!」

 不機嫌な顔をするマルメにノースが近づき、何かの意思表示をする。

「何?」

 するとノースは、クスクスの持つ雑誌を指す。

「まさかと思うけど、メイド喫茶をやりたいなんて言わないよね?」

 ノースが落ち込んだ雰囲気を醸し出す。

 そんな中、クスクスが言う。

『あたし、この服だったら着てみたい』

「あのね、ダンジョンは、そんな事をする場所じゃないの!」

 そんな中、ヤバが請求書を見せて言う。

「そんな事を言って、次の支払い大丈夫なの? 今だったら格安セットがあるよ」

 請求書の金額と格安セットのローン額を睨み悩むマルメであった。



 数日後、ガーネダンジョンに熟練者パーティーが侵入してきた。

「このダンジョンのトラップは、中々強力だが、細心の注意を払えば大丈夫だ」

 リーダーのナイトの言葉にシーフが頷く。

「俺の腕の見せ所だぜ」

 その言葉通り、シーフは、マルメが張り巡らせた様々なトラップを見事に突破していった。

「もう直、クエスタルームの筈だ。そこにある、クエスタメダルを回収して、脱出をするぞ」

 ナイトの言葉にファイターが悔しそうに言う。

「俺達のレベルじゃ、ここのボス、レインボードラゴンには、勝てないからな」

 そんな時、クレリックが前を指差す。

「リーダー、あれは、なんでしょうか?」

 ナイトは、そのドアを見て、困惑する。

 ファイターがあまりもの事に棒読みする。

「……猫耳喫茶ニャンニャン?」

 シーフがドアを念入りにチェックする。

「トラップじゃないみたいだぞ」

 ナイトが腕組して悩みながらいう。

「この頃、ダンジョン内で中立地帯としてお店を出すって所が増えてきたそうだが。何故に猫耳なんだ?」

 困惑するナイトだったが、シーフが拳を握り締めて言う。

「何を言っているんだ! この世界に猫耳少女以上の存在がいるものか! 入るぞ!」

 躊躇なく扉を開けるシーフ。

「待て!」

 慌てて制止するナイトだが間に合わず、シーフは、店の中に入ってしまう。

『いらっしゃいませ! 猫耳ウエイトレスのクスクスです!』

 猫耳の上、ウエイトレスの服を着たクスクスが応対に出た。

「猫耳ウエイトレス!」

 感激するシーフ。

『四名様ですか?』

「はい」

 思わず答えてしまうナイト。

『奥の席にどうぞ!』

 掃除担当のノースに案内された席は、綺麗に掃除されていた。

 クスクスが水とメニューを持ってやって来た。

『ご注文がお決まりになったらおよびください!』

 頭を下げて去っていくクスクスを凝視するシーフを無視してファイターがメニューを見る。

「意外と品揃えが良いな」

「本当、パフェまでありますよ」

 甘い物が大好きなクレリックが喜ぶ。

「俺は、コーヒーだけで良い」

 そして、運ばれてきたコーヒーを一口飲みナイトが驚く。

「なんだ、この味は!」

 思わず立ち上がりクスクスを呼び出すナイト。

『何でしょうか、お客様?』

「このコーヒーを淹れたのは、誰だ。こんな極上のコーヒーは、味わった事が無いぞ!」

 それを聞いて奥でコーヒー豆を挽いていたスケさんが言う。

『私ですよ。気に入って頂けて光栄です』

 ナイトが駆け寄る。

「そのコーヒー豆が極上品なのだな!」

 スケさんが首を横に振る。

『うちは、そんな物を使えるほど、儲かっていませんよ』

「だったらどうして、こんなに美味しいのだ!」

 真剣なナイトに対してスケさんは、複数のコーヒー豆を見せて言う。

『ブレンドです。安い豆でもブレンドしだいでは、極上のいっぱいになるのです。幸い、私には、時間だけは、いっぱいありましたから様々なブレンドを実際に試して、いまのブレンドにたどり着いたんです』

「ブレンドかー。いい体験をさせてもらった。また寄らせてもらうぞ」

 ナイトは、そういって席に戻り、コーヒーを堪能するのであった。



 ダンマスルームでセブンが呆れた顔をしていた。

『何で猫耳喫茶なんだ?』

 マルメは、目をそらして言う。

「だって二番煎じをしたくなかったんだもん」

『しかし、スケさんにあんな特技があったとは、意外だ。てっきり剣一筋だと思っていた』

 リントさんの言葉にカクさんが苦笑する。

『色々とあるんだよ。先代の時も前線に出れず、裏方に回っていた時期があってな。その時、少しでも役に立つためって料理全般を修行したんだ。因みに私は、今回の喫茶店に使われているもの意外にも大工仕事には、自信があるぞ』

『ダンモンとしても自覚がないのか?』

 グルットが文句を言うが、セブンが言う。

『スケさんの下で料理を勉強して、戦えない時のサポートをしようとしているワーハを見習ったらどうだ?』

 そして、クエスタ達が満ち足りた表情で出て行く。

「このままだと、またクエスタルームまで到着されちゃうな」

 小さく溜め息を吐くマルメにリントさんが気楽に言う。

『いいじゃないか、又きてくれるって言ってくれてるんだ。きっと常連客になってくれるさ』

『喫茶店の利益で、ダンジョンが経営出来ると思っているのか?』

 セブンがリントさんを睨んでいた時、クエスタ達がトラップに引っかかった。

「あれ、どうしてあれに引っかかるの。さっきの同じ様なトラップには、引っかからなかったよね?」

 首を傾げるマルメにカクさんが説明する。

『猫耳喫茶に入り、一度緊張から開放されたからだ』

 手を叩くマルメ。

「なるほどね。意外な効果が出たわね」

 そんなマルメに対してカクさんが言う。

『意外と思っているのは、お前だけかもしれない。ダンマスの仕事は、クエスタとの戦いだけじゃない。元々クエスタだったお前は、どうしてもクエスタ中心に考えているが、こういう副業も必要なんだ』

 それを聞いてマルメが昔のガーネダンジョンを思い出す。

「そういえば、何故かお祖父ちゃんの頃は、ダンジョンの中に遊園地があったっけ」

『どうやって作ったんだ?』

 セブンの質問にカクさんが遠くを見て答える。

『あれは、大仕事だった』

『カクさんの仕事ですか』

 リントさんが納得し、マルメが頬をかきながら言う。

「カクさん達は、あちきのこの頃のスランプの原因を最初から気付いてたんだよね?」

 カクさんが頷く。

『スケさんも気付いていたが、自分で気付いて欲しかったから今まで黙っていた』

 それを聞いてマルメが頭を下げる。

「ありがとう。これであちきもまた一歩お祖父ちゃんに近づけたよ」



 数日後、猫耳喫茶ニャンニャン。

「良い店だな」

 ソウがスケさん自慢のコーヒーを飲みながら呟くと横で立っているヤバがいう。

「マルメちゃんは、また一段、ダンマスの頂点に向かって階段を登ったよ」

 ソウが再度チャレンジに来たクエスタ達を見ながら言う。

「そうみたいだな。しかし、それでも、まだ先は、遠い」

 ヤバが頷く。

「そうだよ。でも、あちき達は、あせっては、駄目。少しでも成果があるならそれを確実に見守っていく。そしてその先に求める物がある」

 真剣なモードな二人だったが、ソウがヤバの頭の上の猫耳を指差す。

「それで、どうしてお前がここでバイトをしているんだ?」

 ヤバは、哀しそうに言う。

「食費がピンチなの。営業の帰りに暫く手伝えば、賄いを食べさせてもらえる約束なんだよ」

 大きく溜め息を吐くソウを尻目に、次のお客の所に行くヤバであった。

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