豪華なお宝を設置しました
ダンジョンの奥にある宝。今回は、それにまつわる話です
マルメは、かなり緊張した雰囲気で席についていた。
その隣では、人の姿に変化したセブンが座っていて言う。
「そんな緊張するな、今回、駄目でも次にすれば良いだろう」
「セブンは、解っていない! お宝がダンジョンの格を決めているといっても過言じゃないんだから!」
握り締めた拳を突きあげ、熱く語るマルメに疲れた顔をして相槌を打つセブン。
「はいはい。それで予算は、どれだけあるんだ?」
突き上げた拳を下ろし、席について小声で言う。
「……二千五百PDG」
「現在のに2.5倍だな。がんばった」
セブンは、棒読みで褒めた後に続ける。
「それで、相場は?」
マルメは、視線を逸らして言う。
「一万PDGぐらいで落札される物が殆ど」
セブンは、諦めきった顔で言う。
「掘り出し物があると良いな」
無言で頷くマルメであった。
「もう少しだったのに……」
落ち込むマルメにセブンが言う。
「もう少しって最終落札価格は、三千いっただろうが」
それを聞いて不機嫌そうにマルメが言う。
「オークションって言うのは、やり方しだいなの。きっとサクラが居て、値を吊り上げて居たのよ!」
根拠の無い理屈をこねるマルメだったが、そんな中、本日最高額の品物を落札したダンマスが横を通る。
「あれが、たった八千万PDGで買えるなんて、安かったな」
そのまま愛人の女性をつれていくダンマスを見てセブンが言う。
「あるところには、あるもんだな」
頷くマルメ。
「あの人、ターン=コベさんは、確か、帝国の第二皇子で、次期後継者争いの一環でダンマスやってる。ダンマスとして名を上げるためなら、お金なんか気にしないタイプなんだよ」
「そうなのか?」
セブンの言葉にマルメが説明を続ける。
「ターンさんのセンダイダンジョンは、地下二十階まであって、一階当りの広さもうちの十倍以上、通常のダンモンにドラゴンを使うなんてことまでしてる」
流石にセブンも驚く。
「ダンモンとしてドラゴンを雇うなんていくら必要なんだよ?」
マルメが具体的な数値を見せて言う。
「そのクラスを百体以上雇ってるんだよ」
「本気で金がある所には、あるんだな」
セブンが正直な感想をあげていると、そのターンが一人の職人に話しかけられる。
「ターン殿下! さっきのあれは、違うのです、贋作なんです!」
その言葉に素早くオークションハウススタッフが現れて職人を追い出す。
「お騒がせして申し訳ございませんでした」
にこやかに言うスタッフにターンが言う。
「今の話は、間違いだろうな?」
スタッフは、手を擦り、頭を下げて言う。
「当然です、ターン殿下に買っていただいた『片目の武将像』は、真作です!」
「そうだろう、そうだろう!」
ターンは、満足そうにオークションハウスを出て行くのであった。
その騒ぎに首を傾げながら外に出ると追い出された職人が居た。
「どうしよう!」
困惑している様子にマルメが声をかける。
「さっきの人、どうしたの?」
それを聞いて職人が答える。
「ターン殿下のお買い上げいただいた像は、贋作なんだよ」
マルメが眉を顰める。
「嘘? だって、オークションハウスの方で鑑定したって話だったよ?」
職人が頷く。
「鑑定したのは、本物。それを元に高名な芸術家に作って貰った贋作が今回のオークションに出品されていたんだ」
「変な、話。贋作と事前に言ってあるんだったら何の問題ないじゃん?」
マルメが極々当然な事を言った時、職人をたたき出したスタッフが来て言う。
「事前に出品作品は、贋作って事になっていたんだ。それを、沢山のお客様が居る前で、ターン殿下が間違いない本物って言ってしまった。今更贋作だって言えるかよ。そんな事になったら帝国に喧嘩を売る事になる。館長も頭を抱えて本物を渡さないといけないって困りきっていた」
頬をかくマルメとセブンであった。
ガーネダンジョンのダンマスルーム。
「そんな話があったんだけど、オークションハウスの方も大変だね」
マルメの言葉に営業に来ていたヤバが溜め息を吐く。
「またやられたか」
それを聞いて、小竜モードのセブンが言う。
『またかとは、変な事を言うな』
ヤバが肩をすくめて言う。
「実際、多いんだよ、そういう権力を盾に、オークションハウスを困らせる輩。ダンジョンが乱立するなか、高名なお宝の確保は、困難なの。そんな状況だから、本物を確保し、高名な芸術家にその贋作を作らせて、数を増やそうとしてるの。本物をオークションハウスが握っている間は、おすみつきの贋作にも価値があるから、そこそこ需要があるの」
「なるほどね。でも予想額も高かったよ」
マルメの言葉にヤバが頷く。
「当たり前、いくら贋作だって言っても、高名な芸術家に作らせているしね。本物を手に入れられない代わりとしてクエスタからの買取額も良いのよ」
セブンが溜め息を吐く。
『どういった所で偽者だろうが、本物には、敵わない』
「だから、贋作とわかって購入してから、文句をつけて本物を手に入れようとする奴が多いの。オークションハウスとしては、贋作を多く作ってそれなりの利益を見込んでいるのに、対価があるからって真作を売るのは、損失しか無いって事」
ヤバの説明に、マルメが納得する。
「なるほどね。でもそんな非道をほうっておくのも問題だね」
笑みを浮かべるマルメにヤバが言う。
「何か手があるの?」
マルメが昔使っていたクラスタメタルを取り出して言う。
「正攻法だよ」
数日後、センダイダンジョンの前に、眼鏡を外したマルメと魔法剣士モードのミハルが居た。
「本気で二人でここに入るんですか?」
緊張するミハルにマルメが余裕をもって答える。
「大丈夫、あちきに任せといて」
こうして、マルメとミハルがダンジョンに侵入した。
センダイダンジョンのダンマスルーム。
「また、新しい、クラスタか? 小娘二人? 馬鹿にしおって直に退散させてやる!」
そう言ってターンは、ドラゴン達を向かわせるのであった。
「凄い!」
驚くミハルの前では、襲ってきたドラゴンを単独で全滅させたマルメが居た。
「そう? たかがノーマルドラゴンだよ? 大体ね、ドラゴンを通常の通路で使うって感性がおかしいの。ドラゴンを使うなら、ドラゴンが十分に動ける広間を作らないと。動きを封じられたドラゴンなんて、初端のブレスさえ避ければ、楽勝だよ」
あっさりそう言うマルメにミハルが手を叩く。
「なるほど、それだから、ガーネダンジョンでは、セブンさんが小さい姿のままなんですね?」
マルメが視線を逸らして言う。
「本当だったら、もっとボスルームも拡張しないといけないんだけど、そこまで予算が無かったの」
なんともいえない空気が流れる中、マルメ達のばく進は、続く。
センダイダンジョンのダンマスルーム。
「何でこうなるんだ、どれも何万PDGも出して雇っているダンモンだぞ! 第一、どうしてトラップが一つも発動しない!」
わめき散らすターン。
「そこ、トラップあるから気をつけてね」
マルメの指摘にミハルが感心する。
「どうして、トラップの場所がそんなに簡単に解るんですか?」
マルメが苦笑する。
「素直すぎるんだよ。ダンジョンのトラップって言うのは、設置者の思惑が出るの。たとえば、ここってずっと直線でしょ? 大玉トラップがあるんだけど、どうしてだか解る?」
ミハルが首を横に振るとマルメが言う。
「簡単、一度起動した後の再設置が楽だから。他にも、獲物の回収が楽な落とし穴とか、後始末が楽なトラップが大半なの。理由は、簡単、高価なトラップを買っても、それを設置するのは、業者の人間で、そういった後処理の事が先に出るし、慣れと言うか、習慣が出るんだよ」
全てのトラップをスルーしながらマルメが言う。
「ダンジョンのトラップで大切なのは、思考を読ませないこと。単純なトラップの積み重ねでも、予想外なトラップには、反応出来ないもんだよ」
「そうですよね、ずっと落とし穴が続いて、地面に集中してる時、落下物トラップって見事に嵌りますからね」
ガーネダンジョンに実際にあったトラップを思い出すミハルであった。
センダイダンジョンのダンマスルーム。
「ボスルームまで来たか! しかし、ボスルームに居るのは、ただのドラゴンじゃ無いぞ。契約料に一千万PDG払った、ダークスタードラゴンだ。あんな小娘に負ける謂れは、無い」
自信たっぷりに宣言するターンであった。
広大なボスルームに入ったミハルが顔を引き攣らせる。
「なんですか、あのドラゴン!」
涙目で訴えるミハル。
「これは、珍しい、セブンと同クラスのドラゴンのダークスタードラゴン。確か、複数属性を操る闇属性の龍だよ」
『愚かな人間め! ここで我がブレスの前に消え去れ! ダークブレス』
闇がマルメ達に迫る。
『吐息よ、我が前から反れよ! アンチブレス』
マルメの呪文に答え、ブレスがマルメ達からそれる。
『我がブレスをそらすとは、中々やるな!』
ダークスタードラゴンの言葉にマルメが言う。
「こっからが見せ所だよ」
刀をかかげるマルメ。
『硬き鱗を打ち砕く力を宿せ! スケルブレイク』
マルメは、刀に魔力を籠めると、一気に接近して、ダークスタードラゴンの逆鱗を貫いた。
『馬鹿な!』
逆鱗を貫かれ、暴走を開始するダークスタードラゴン。
「後は、暴走が終わるまで待つだけだね」
マルメが余裕たっぷりに言うとミハルが恐る恐る確認する。
「なんで、ドラゴンの弱点の逆鱗の場所なんて知ってるんですか?」
マルメは、平然と答える。
「あちきは、全龍殺しの称号を持ってるもん」
それを聞いてミハルが目を見張る。
「嘘! 全クエスタの中でも二十人も居ない、全ての種族のドラゴンを倒した、全龍殺しの称号を持ってるんですか!」
普通に頷くマルメであった。
ボーナスルームで『片目の武将像』を手にしたマルメが言う。
「これは、贋作なのは、知ってるよね?」
『それは……』
戸惑うターンにマルメが言う。
「そこで物は、相談だけど、ダンジョンのテスト用に贋作を使ったって事にしない? あくまでテスト用に使う本物って事にしておくのよ」
それを聞いてターンがマルメの思惑に気付く。
『私にそんな茶番をしろと言うのか!』
マルメが頷く。
「まともに、小娘二人にお宝奪われたと噂されるより、ましでしょ?」
長い沈黙の後、ターンが答える。
『解った。その通りにしよう』
そして、マルメは、『片目の武将像』の贋作を持ってセンダイダンジョンを脱出するのであった。
『それで、どうして、その贋作がボーナスルームにあるんだ? ダンマスになった以上、クエスタとして稼ぐつもりは、無いって言ってたよな? これは、違うのか?』
ガーネダンジョンのダンマスルームに居たセブンの答えにマルメが言う。
「クエスタの稼ぐつもりは、無いのは、本当だよ。だから、あれは、事情と共にオークションハウスに無償で返却したよ。まあ、その時、中古の贋作が手頃な値段で売っていませんかと聞いたけどね」
贋作と明言してあるが、真作が出回っていない『片目の武将像』目的のクエスタの増加にホクホクのマルメの言葉にセブンが呆れた顔をする。
『屁理屈もそこまでいけば立派だよ』
「さて、ダンジョン強化の為に今日も頑張るよ!」
好調に気を良くするマルメであった。
法治査問部の部長室。
「それで、例の件は、どうなってるの?」
ヤバの質問にテンホが答える。
「権力を利用して不当な取引を行った場合、その権力の元、例えば帝国にペンタゴングループから経済的な制裁が行われる事が決定した旨を裏から流しておきました」
それを聞いてヤバが言う。
「PDGによる管理システムに影響ある非合法な取引だからね。よろしくお願いね」
それに対してテンホが言う。
「それにつきましては、会長には、これからパーティーに参加して頂きます」
「えー、どうしてそうなるの!」
文句を言うヤバがテンホは、淡々と答える。
「今回の決定が一部長でなく、会長の意向にそった物だと示すためです」
嫌そうな顔をするヤバにテンホが止めをさす。
「全ては、このシステムを効率よく運用するためです」
「解ったわよ」
大きく溜め息を吐いて、会長用のスーツに着替えるヤバが呟く。
「せめてパーティーに卵料理が出てくる事を楽しみにするしかないよね」
「食事なんて食べている時間は、ありません」
テンホの冷たい一言に涙するヤバであった。