ダンジョンを地下二階に拡張しました
ダンジョンが地下二階になり、ダンモンをまた増やす事に
ソロバンを弾いて計算するヤバの姿を凝視するマルメ。
そして、何かを書き込みヤバが告げる。
「問題ないね。地下二階への拡張とダンモンボックス_フィフス二台の購入費に足りてるよ」
自分でも何度も計算していたが安堵の息を吐くマルメ。
「それでは、よろしくお願いします」
頭を下げるマルメにヤバが告げる。
「でも、ダンモンボックスが、合計七つになるけど、ここってダンモンは、六ですよね? 新しいダンモンを派遣しますか?」
ヤバが前回の仲介料の事で釘指されているのを愚痴で聞いていたマルメが首を横に振る。
「仲介料を払う余裕が無いんで自分で探します」
「そう? まあ、頑張ってね。あちきは、ダンジョン拡張の依頼出しておくから」
さっていくヤバを見送ってからマルメが言う。
「さてと新しいダンモンのスカウトに行かないと。スケさん、一緒に来て」
『任せて下さい。こう見えても顔は、広いですから』
こうしてマルメとスケさんは、二人で、ダンモンが集まる酒場に行くのであった。
やたら大きな入り口を入ると、様々な種類のダンモンが酒を飲み交わしている。
『取り敢えず、わしの知り合いに話をしてみます。予算の方は?』
スケさんの言葉に申し訳なさそうにマルメが右手の指を一本と左手を広げて言う。
「十五PDGしか出せないよ」
少しだけ困った顔をするスケさんだが、気楽そうな声で言う。
『知り合いは、多いですから、きっとその条件でもOKなダンモンも居ますよ』
そう言って、交渉に行くスケさん。
「拡張したばっかりでお金に余裕が無いんだよね」
大きなため息を吐くマルメ。
そんな時、再生力が自慢のトロールがマルメに近づいてくる。
『ガキ、こんな所に何しに来た!』
マルメは、笑顔で答える。
「あちきは、ダンマスをしてまして、ここには、新しいダンモンのスカウトに来ました」
それを聞いて爆笑する周囲。
『お前みたいなガキに雇われているダンモンの気がしれないぜ。第一、どれだけの金が出せるんだ?』
マルメは、恥ずかしそうに言う。
「……十五PDGです」
更なる爆笑が起こり、トロールが言う。
『そんなガキの小遣いで雇われる奴がいるかよ!』
『そこら辺にしておいたらどうじゃ?』
その年老いた声は、奥から聞こえた。
『ジジイオークが何のつもりだ!』
豚のイメージを持つ二足歩行の力自慢のダンモン、それも年老いたオークにトロールが近寄る。
『その子は、お前さん何ぞ、一撃で倒せる程の実力者だ。怒らせる前に止めておくのが賢明じゃよ』
トロールの怒気など気にした様子も無く、淡々と語る老オークにトロールが掴みかかる。
『オークの分際で、トロール様に逆らうつもりか!』
圧倒的にパワーが上のトロールに持ち上げられた老オークを見て、誰もが危険と思ったが、老オークは、あっさりとトロールの腕を振り払う。
『どうやった?』
困惑するトロールの横を通りすぎマルメが言う。
「カクさんお久しぶり。元気してましたか?」
それに対して老オーク、カクさんが頷く。
『そこそこじゃ。それにしても本当にダンマスになったのじゃな?』
マルメが苦笑しながら言う。
「始めたばかりでまだまだですけど、いつかは、お祖父ちゃんの名前に負けないダンジョンにしてみせます」
そんな和やかな空気をぶち壊すようにトロールが言う。
『無視してるんじゃねえ!』
そういって殴りかかろうとしたトロールに足払いをかけるスケさん。
『自分で気付くべきだな、単純に力負けしたことぐらい。久しぶりじゃな、息子は、元気か?』
カクさんが強く頷く。
『いまじゃ、キングオークに出世して、オークダンジョンのダンモンの班長を任されているよ』
「それは、良かったね。でも、カクさん、どうしてここに居るの? カクさんは、確かオークダンジョンでオークの教育係をやってたと筈じゃない?」
マルメの言葉にカクさんが恥ずかしそうに言う。
『息子が出世したのは、良いんだが、そうなると、現場の息子とバックアップのわしとの間で意見の食い違いなんていうのも出てきてのー。下手に家族な所為で、思い切った事が言えなくなってしまったのじゃ。だから、辞めてきた』
『そういう場合は、息子の方が外に出るのが、普通だろう。少し甘やかしていないか?』
スケさんの突っ込みにカクさんは、頭を掻きながら言う。
『大切な一人息子だからな。余計な苦労は、かけたくないんじゃ』
そんな二人の会話を聞いていて思いついたのかマルメが言う。
「それだったら、いまフリーだよね? うちに来ない? 十五PDGしか払えないけど、スケさんも居るよ!」
それを聞いてカクさんが笑顔で言う。
『それは、良い。息子の養育費の事もあって、オークダンジョンに移籍したが、もう息子も一人前、自分の生活費だけならそれで十分だ。やらせてもらうよ』
「やった!」
飛び跳ねるマルメであった。
そしてガーネダンジョンの拡張も終わり、翌日から再開の日、カクさんが他のダンモンに紹介された。
『一緒に働く事になるオークのカクじゃ、よろしくな』
カクさんの自己紹介の後、マルメが言う。
「カクさんは、以前にガーネダンジョンにいた事があって、その時は、スケさんと一緒に序盤のキーポイントだったイエローゲートを護っていたんだよ」
『そんな老人が役に立つのか?』
グルットの言葉にセブンが苦笑する。
『まともな戦闘能力が無いお前達よりましだろう』
睨み合う、セブンとグルットを横目にワーハが言う。
『若輩ですが、よろしくお願いします』
そんなワーハを見てカクさんが言う。
『ワーホワイトタイガーのワーハくんだね。話は、聞いているよ。君には、体力を使わなくても力を出す特訓をしよう。他のメンバーもパワーアップの為のメニューを考えてある。一緒に頑張ろう』
『特訓、するんですか?』
嫌そうなリントさんにクスクスも頷く。
『あたし、面倒なの嫌!』
「暇なときに出来るレベルだから、協力して」
マルメが手を合わせ、自主参加という事でカクさんによる、特訓が行われる事になった。
数日後、ダンマスルームにグルットが飛び込んでくる。
『あのカクさんという新人、辞めさせろ!』
「何かあったの?」
マルメが聞き返すと、グルットが言う。
『私に動物を使った吸血練習をしろと言って来たのだ。後輩の分際で生意気だ』
それを聞いてセブンが睨む。
『お前の攻撃力は、それしかないんだ。それを強化しておいて問題は、無いだろうが』
『強化するとしても、やはりそれ相当のターゲットでなければ私のプライドが許さないのだ!』
グルットの意見を聞いてマルメが困った顔をする。
「そうは、いってもうちが予算無いこと知ってるよね? ここは、我慢してくれない?」
『絶対に断る』
グルットは、そういって、特訓拒否を続けるのであった。
更に数日後、ダンマスルーム。
『やった! 初捕縛だ!』
嬉しそうにはしゃぐクスクス。
『よくやった』
カクさんも満足そうに頷く。
『俺だって活躍したんだぞ』
リントさんも胸を張る。
そしてマルメが何も言わないノースを褒める。
「ノースも頑張って相手を分断してくれたよね」
体が微妙に赤くなるノース。
『特訓の成果が出たって所だな』
スケさんの言葉にワーハが頷く。
『カクさんの指導は、本当にためになります。私も以前より体が楽になりました』
そんな中、セブンは、少し離れたところに居るグルットを見て言う。
『一匹、大して成長してない奴も居るがな』
『五月蝿い!』
ダンマスルームを出て行くグルットであった。
そんな中、カクさんがマルメの見ていたダンマス生活を覗いてしまう。
『オークダンジョン、敗れる?』
慌てるカクさん。
『お嬢さんすまない、少し出てくる』
カクさんの言葉に頷くマルメであった。
オークダンジョンのダンマス達のダンモンボックスを使って倒された時の反動の治療室。
『大丈夫か!』
カクさんが息子のキングオークのキンに声をかける。
『親父か、情けない姿を見せちまったな』
悔しそうに言うキンにカクさんが言う。
『相手は、それほど強かったのか?』
キンは、拳を握り締めて言う。
『確かに強かった。だけど、ちゃんと班の奴らが指示に従ってくれさえいれば、負けなかった!』
『落ち着いて!』
治療班のダンモンがキンに近づき、落ち着かせる。
治療室を出たカクさんに嘗ての部下が言う。
『今回、キンくんは、オーナーに頼まれ、仕方なくろくな教育をされていないオークだけを従えていました。彼らもカクさんの教育を受けていれば、こんな事には?』
カクさんは、首を横に振る。
『それを言うな。わしは、もうこのダンジョンの教育係では、無い。これからは、キンやお前達の時代だ。お前達が頑張れ』
『次は、絶対に返り討ちにしてやります』
部下の言葉に頷き、カクさんがオークダンジョンを後にする。
ガーネダンジョン、ダンマスルームでセブンが言う。
『オークダンジョンをクリアしたクエスタ達は、オークキラーって呼ばれる、低級狩り専門のクエスタみたいだな』
マルメは、ダンマス生活のクエスタ特集記事を見ながら言う。
「そう、装備を軽量化し、強い相手からは、逃げ、弱い奴を相手に地道に経験値を貯めるタイプ。数で勝負していたオークダンジョンは、彼らにとって、良い稼ぎ場所だったでしょうね」
『気に入らないな』
セブンの言葉にした時、ヤバがやってくる。
「マルメちゃん、何か注文ある?」
マルメが立ち上がり言う。
「クエスタの星に乗せているガーネダンジョンの情報なんだけど、少し変えてもらえますか?」
「構わないと思うけど、どうするの?」
ヤバの言葉にマルメが言う。
「なに、こっちには、凄いオークが居るって載せるだけですよ」
首を傾げるヤバであった。
クエスタの星のガーネダンジョンの情報が更新された後。
「ここが、例のダンジョンか?」
戦士の言葉にリーダーである魔術師が頷く。
「そうだ、ボスは、強いが、殆どのダンモンは、雑魚らしい。そいつを倒して、クエスタルームでクエスタメタルをゲットすれば良い」
エースの戦士も頷く。
「ここで強敵なのは、ワーホワイトタイガーだけ。あとは、強いって態々明記してあったオークぐらいだろうぜ」
僧侶が頷く。
「ワーホワイトタイガーは、逃げれば追いかけて来ないって話ですし、いくら強くてもオークには、まけません」
魔術師が自信たっぷりに断言する。
「俺達の通り名は、オークキラーだからな」
こうして、ガーネダンジョンに侵入していく、オークキラー達。
入り口で直にワーハが襲撃をかける。
「いきなりかよ! 逃げるぞ!」
駆け出すオークキラー達。
それを見送った後、ワーハが言う。
『予定通り、後は、スケさんとカクさんにお任せします』
そして、いくつかのトラップを潜り抜けて、オークキラー達は、クエスタルーム傍まで来ていた。
「この先がクエスタルームだな」
魔術師がそう言った時、目の前にカクさんとスケさんが立ちふさがる。
「オークにスケルトンか、敵じゃないぜ!」
エースの戦士が切りかかるが、その一撃を受け止めるスケさん。
『まあまあの腕前だが、驕りが剣を鈍らして居る!』
そういって、鋭い暫撃を放つスケさん。
「あれは、中々やるみたいだぜ。援護するしかないな」
そういって戦士達が加勢に入ろうとした所にカクさんが割り込む。
『この勝負は、邪魔させん!』
大振りの攻撃に戦士たちは、近づく事も出来ない。
「ならばこれならどうだ!」
魔術師が呪文を唱える。
『雷よ、進みて、敵を撃て! サンダー』
通常のオークなら一撃必殺の攻撃魔法。
しかし、カクさんは、それに耐えた。
「馬鹿な、たかがオークがサンダーに耐えるだと!」
困惑する魔術師。
そうしている間にもエースがスケさんに破れ、スケさんは、次のターゲットに狙いを定める。
『次の相手は、誰だ!』
こうして、一人、また一人とクエスタ達が敗れていき、遂には、リーダーの魔術師だけになってしまった。
「スケルトンとオークがこれほど強いなんて嘘だ!」
『わしらも成長するのだ!』
カクさんの振り下ろした棍棒が魔術師を倒す。
ダンマスルームでセブンが驚いていた。
『あの二人、物凄く強いじゃないか?』
マルメが頷く。
「そうだよ。元々スケさんは、防御力が低いだけで剣の腕前は、超一流だから、戦士系のクエスタが一対一で勝てる奴は、少ない。複数で攻められると弱いんだけど、それをカバーするのがスピードは、無いけどパワーと防御力がやたら高いカクさん。あの二人が護ったイエローゲートを突破するには、頭と強い連携が必要だって言われてた。雑魚を倒して喜んでる奴らに勝てる相手じゃないね」
戻ってきたカクさん達を皆が褒める輪から離れていたグルットにカクさんが近づいて言う。
『ダンモンには、成長する可能性がある。お主もその可能性にかけてみないか?』
グルットは、そっぽを向いて言う。
『どうしてもというなら仕方ないから特訓をやってやろう』
あくまで偉そうな態度を止めないグルットに回りが爆笑するのであった。
ペンタゴングループ本社の食堂。
手作り弁当を食べていたニイの所にヤバがやって来て手を合わせる。
「給料日までで良いからお金貸して!」
それを聞いて困った顔をするニイ。
「ヤバさん、大人しく会長席に座っていれば、ちゃんと役員報酬だすってテンホ部長達も言っていますよ」
ヤバは、遠くを見ながら言う。
「現場があちきを待ってるんだよ」
大きなため息を吐いてニイが言う。
「とにかく、お金を貸すなってきつく言われていますから」
「いいじゃない、あちきとニイの仲なんだから!」
ヤバは、必死に頼み込むのであった。