ルーキークエスタが侵入してきました
へっぽこクエスタは、ダンマスも困らせます
その日、一人のクエスタがガーネダンジョンに挑んで来た。
「あたしは、出来る。あたしは、出来る」
彼女の名前は、ミハル=ケット。
今年十七になる、魔法剣士のクエスタである。
そして、恒例の看板を見る。
『ボスルームは、この下です』
脂汗を垂らすミハル。
そして大きく深呼吸をして言う。
「まずは、クラスタルームを探すのが先よね」
ボスルームから視線を外し進んでいく。
ダンマスルームでその様子を見ていたマルメが眉を顰める。
「あれってルーキーだよね?」
セブンが頷く。
『そうだな。しかし、一人というのは、珍しいな』
マルメが悩んでから言う。
「それだけ自信があるのかも。ここは、スケさんに行ってもらって実力を測るしかないね」
『驕れる新人に現実を見せるのも、ダンモンとしての役目』
そう告げて、スケさんがダンモンポイントからミハルに元に向かうのであった。
首がおかしくならないか心配になるほど首を左右に振りながら進むミハル。
その前に立ちふさがるスケさん。
『若きクエスタよ、己の実力を考えず、単独でダンジョンに挑んだその事を後悔させてやろう』
「出たなダンモン!」
剣を構えて呪文を唱えるミハル。
『炎よ、剣の刃と化せ! ファイアーブレード』
剣に炎がまとわりつくのを見てスケさんが言う。
『なるほど、魔法剣士なのだな。良いだろう、相手してやろう』
剣を交えるスケさんとミハル。
そして、弾き飛ばされる炎がまとわりついた剣。
それでも油断無く構えるスケさん。
睨み合う二人だったが、緊張が限界まで高まった時、ミハルが泣き出した。
「もうお終いだ! あたしは、もうクエスタをクビになるんだ!」
大泣きするミハルにスケさんが動揺する。
『油断させてようとしても無駄だぞ!』
しかし、ミハルは、その場にしゃがみこみ大泣き始めるのであった。
ダンマスルームでその様子を見ていたマルメが頬をかく。
お茶を入れてきてクスクスを見てセブンが言う。
『お前もあのくらい泣いてみろ』
不満そうな顔をしてクスクスが言う。
『でも、笑うかどには、福来るって言いますよ』
バンシーとは、思えない発言を聞いていたマルメが諦めて顔をして言う。
「その人をダンマスルームまで連れてきて」
困った顔をしていたスケさんが救われた様子で、泣き続けるミハルを連れてきた。
「えーと、クエスタメタルを持っているって事は、正規のクエスタですよね?」
マルメの、自分より年下の少女の言葉に泣きながら頷くミハル。
「そうですが、もう駄目なんです。次、倒されたら、クエスタメタルを没収するって言われているんです」
それを聞いて首を傾げるマルメ。
「そんな事ってあるの?」
セブンが呆れきった顔をして言う。
『俺に聞くな。俺が対戦したクエスタは、殆どが万越えクエスタなんだからな』
そんな中スケさんが言う。
『わしは、何人か見たことあるぞ。PDGが一貯まるより先に何度もクエスタメタルを奪われたクエスタは、クエスタメタル取り上げになっておった。基本的には、倒され、ダンマスからペンタゴンに回収された時に経験値がクリアされるのだが、その際、ダンマスに支払われるPDGが切り上げの為に、未熟なクエスタを使用した不正が行われた為に出来たルールだった筈じゃ』
『スケさん、物知り!』
クスクスが感心するとマルメが頷く。
「スケさんは、お祖父ちゃんがダンマス時代からこのガーネダンジョンに居る古株だからね」
それを聞いてセブンが未だ泣き続けるミハルを見て言う。
『詰り、こいつは、そんなクエスタ育成環境が整った現在では、死にたいのルールに引っかかる無能って事か?』
ミハルがその言葉に再び大泣きを始める。
「そうです! あたしは、パーティーの皆の足を引っ張るしか出来ない無能なんです!」
大きなため息を吐きマルメが言う。
「随分と面倒な奴が進入してきたよ」
その後、色々とあったあげく、大人しく入り口から帰ってもらう事になった。
翌日、クスクス達が、普通のクエスタ達と戦ってる中、ミハルが現れた。
『あれって、昨日の人だよね?』
クスクスが珍しく困った顔をする。
『意外と綺麗じゃないか』
リストさんが呑気なことを行っている間に、敵パーティーの戦士の一撃でリストさんを倒した。
しかし、そこでトラブルが発生した。
倒したダンモンの経験値は、その場に居たクエスタ、全員に割り振られる。
偶々そこに居たミハルも例外では、無かった。
そしてそれをしったクエスタが睨む。
「お前、邪魔するな!」
なんと、ミハルに攻撃を開始するクエスタの戦士。
「キャー!」
予想外の事に頭を抱えてしゃがみこむミハル。
『止めたまえ、相手は、まだひよっこなのだ』
クエスタに優しいスケさんがその戦士の剣を受け止める。
「ダンモンのクセにクエスタを庇ってるんじゃない!」
他の戦士がスケさんの腰骨を砕き、倒す。
「スケさん!」
ミハルが泣き叫ぶ。
そしてその経験値を受けて、ミハルが呪文を唱える。
『炎よ、十字と化し、敵を撃ち払え! クロスファイア』
強烈な十字の炎がその場に居た、敵味方関係なく燃やし尽くすのだった。
ダンマスルームでその様子を見てセブンが言う。
『おい、あいつ、魔術師としての腕前は、かなりの物だぞ!』
マルメが頷く。
「いくらなんでも今時、経験値が一PDG分も貯まらないクエスタなんて居るわけ無いもん。あの魔術の才能を見込まれてクエスタになったんだろうね」
そして、泣き続けるミハルを見てマルメが言う。
「スケさん分身が倒れて疲れてるだろうけど、また連れてきてくれる?」
『……了解した』
こうしてミハルは、スケさんに腕を引かれ、再びダンマスルームにやって来た。
「ねえ、それだけの魔術の腕前があるんだったら、魔術師になれば、パーティー組んでもらえるよ」
マルメの言葉に涙を拭いミハルは、固い決意を語る。
「いえ、あたしは、立派な魔法剣士になるんです。そう、あたしが通うクエスタ学校をスキップ卒業したマルメ=ガーネさんの様に!」
それを聞いてクスクスが驚く。
『マルメさんと同姓同名だ!』
グルットも驚く。
『ダンマス殿と同じ名前のクエスタか。一度、会ってみたいものだ』
するとセブンが言う。
『本人だぞ、こいつが十四の若さでダンマスなんてやってるのも、クエスタとして大きな稼ぎがあったからだ』
スケさん以外が驚く。
「本当ですか!」
ミハルが詰め寄ってくる中、マルメが言う。
「まあ、両親との約束で、クエスタとして一人前になるまでは、勝手な事は、許さないって言われてたから、頑張ってスキップ卒業しただけなんだけどね」
囁きあうリストさんとグルット。
『本当なのか? 一流どころのクエスタと言ったら、こんなちんけなダンマスをやる数倍は、稼げるぞ』
『第一、ダンマスなんてやってたら、クエスタの実力なんて使い道ないぞ?』
「そこ、黙ってるように」
マルメが黙らせてから言う。
「とにかく、自分の理想を求めるのならまずは、成果を出すことだよ。魔術師としてある程度の経験値を溜めて、それから魔法剣士を目指したら」
その言葉にミハルが頷く。
「解りましたマルメ先輩!」
目を輝かせるミハルであった。
その後、ミハルは、たびたび魔法剣士としてガーネダンジョンに来ては、スケさんに剣術指南を受けて帰っていくのであった。
その様子をダンマスルームで見てセブンが嫌味たっぷりに言う。
『うちぐらいだろうな、倒せるクエスタをそのまま帰すお人よしのダンモンとダンマスが居るのは?』
マルメは、無言で視線を逸らすのであった。
数日前のペンタゴン本社での会話。
テンホ法治査問部長の所にソウ育成管理部長が来て言う。
「そろそろ、あのクエスタの取り消し制度をなくした方が良いかもしれないな」
テンホも頷く。
「そうだな。しかし、あんな制度に引っかかる者が居るのか?」
ソウが肩をすくめて言う。
「どんなに育成制度が整っても規定外のやつは、居る」
ミハルが恐れていたルールは、この二人のやり取りで取り消しが内定していたのであった。