ガーネダンジョンが新装開店しました
ダンジョンの新装開店?
一組の冒険者、クエスタ達がそのダンジョンに入りこんできた。
「気をつけろ、何が待ち構えているか解らんぞ」
リーダーの言葉に、仲間達が頷き、緊張しながら、進もうとした時、目の前に階段と立て札があった。
『ボスルームは、こちら』
暫くの躊躇の後、リーダーが言う。
「これは、新手のダンマスの罠だな」
無視する事にしたらしい。
そして、奥に進むとクエスタ達が何か粘つく物を踏みつける。
下を見るとそこには、スライムが居た。
「この野郎!」
戦士が斧を振り下ろすが、軟体であるスライムには、ダメージが無い。
「落ち着け、魔術師、ファイアの呪文だ」
魔術師が頷き杖をスライムに向ける。
『炎よ、集いて、敵を撃て! ファイア』
魔術師が放った炎がスライムを倒す。
汗を拭う戦士。
「やったな」
倒したスライムから光が出て、クエスタ達の胸に付けられたメタルに吸い込まれていく。
「スライムみたいな低レベルな奴でも集めれば、経験値になるからな」
戦士の言葉にシーフが言う。
「それだって、スライムなんて百匹倒しても1PDG分になるかどうかだぜ?」
「それでも、俺達、初心者には、リスクが少なくて助かる筈だ」
リーダーがそう言って、先に進もうとした時、空中に浮く少女が現れる。
「バンシーです、その鳴き声は、強力な精神攻撃ですので気をつけてください!」
僧侶の言葉に、クエスタ達が身構える中、バンシーが笑顔で言う。
『お兄さん達、初心者? あたしは、クスクスよろしくね』
クエスタ達が対応に困っているとクスクスが手を叩いて言う。
『そうだ、あたしは、ダンモンとして戦わないと。ポルターガイスト!』
その声と共に小石がクエスタに当たる。
「油断するな!」
リーダーが身構えた時、バンシーは、汗を拭うポーズをする。
『疲れた。一休みしよう』
本当にそのまま一休みしはじめるバンシー。
「リーダー、どうする?」
リーダーは、悩んだ後に言う。
「ここで僧侶の呪文を使うのは、ロスが大きいから無視して進むぞ」
クエスタ達は、一休みをするバンシーの横を通り過ぎて先に進むのであった。
そして、その先には、二足歩行をする犬にも見えるコボルトと武装した骸骨が居た。
「ようやく俺達の出番だ!」
そういって戦士が突撃をかける。
すると骸骨、スケルトンがそれを上手く受け流して言う。
『君は、いい体をしている。だが、もう少し相手の動きを見て攻撃しないと、今みたいに受け流されてしまう』
『スケさん、クエスタに助言しないでくださいよ』
そう言いながらリーダーと剣を交えるコボルト。
『すまん。見込みがある若いクエスタを見るとつい助言をしたくなるのだ』
スケルトンは、謝りながら戦士と戦う。
リーダーが指示を出す。
「スケルトンは、意外と強敵だ、魔術師、援護をしろ」
魔術師が呪文を唱えようとした時、吸血蝙蝠が襲い掛かる。
慌てる魔術師だったが、吸血蝙蝠が直に離れていく。
『グルット! 何をやってるんだよ』
コボルトの声に吸血蝙蝠が言う。
『あの者の血は、私の口に合わないのだ』
その隙に魔術師が放った炎がスケルトンに命中して、倒されて、クエスタ達の経験値となる。
『こうなったら逃げるぞ!』
コボルトは、あっさり逃げに入る。
そんな状況にシーフが言う。
「リーダー、このダンジョンなんかおかしくないか?」
それに対してリーダーは、クエスタに配布される無料冊子、クエスタの星を広げ、新人向けのダンジョン紹介コーナーには、次の様に書かれていた。
『老舗のガーネダンジョンが新人向けに新装開店、地下一階のみで、ボーナスルームの宝を持ち帰れば1000PDG。明日を夢見るクエスタよ、集まれ』
よくある新規ダンジョンのクエスタを呼び込む売り文句である。
「老舗と書いてあったが、やる気があるのか?」
リーダーが本気で悩みながら、進んでいると、地面が抜けてクエスタ達が落とし穴に嵌る。
「よし、落とし穴作戦成功」
クエスタの様子をダンジョンの全てが見える、ダンマスルームで監視していた、このガーネダンジョンのダンジョンマスタ、ダンマスの少女、十四歳の眼鏡っこ、マルメ=ガーネがガッツポーズをとる。
「情けないダンモンに混乱している所に落とし穴に嵌る、あちきの作戦の勝利だね」
それを聞いて、ガーネダンジョンのボスモンスターをやる、小さな竜の姿をしたマルメの幼馴染、セブンが言う。
『ダンモンが情けないのは、作戦でも何でもない素だろうが』
「それを言わないで」
落ち込むマルメ。
そこに、クエスタが居なくなったので、ダンマスルームに成果を確認きたダンモン達。
『あたしの演技は、凄かったでしょ』
明るく胸をはるバンシーのクスクス。
『あの若者達も次は、頑張って欲しいものです』
どこまでもクエスタに優しいスケルトンのスケさん。
『次の連中の血は、美味しいといいのだがな』
血に五月蝿い吸血蝙蝠、グルット。
『俺の活躍見た!』
嬉しそうに言うお調子者のコボルト、リントさん。
そして、ゆっくりと戻ってくるのんびり者のスライム、ノース。
倒された奴も居るが、それは、全て分身である。
ダンモンボックスに入ったモンスターは、ダンモンポイントから分身を出してクエスタを迎え撃てるのだ。
そして、クエスタも実は、このダンジョンには、入っていない。
入り口で、経験値が貯まるクエスタメタルを中心とした分身を進入させてダンジョンに挑戦しているのだ。
『しかし世の中も平和になったな。昔は、争いあったモンスターと人間が今では、こんなダンジョンごっこをやっているのだからな』
セブンの言葉に、クスクスが呑気に言う。
『平和で良いじゃん』
そんな時、チャイムがなって、小さな蛇を連れた一人の少女が入ってくる。
「こんちわ、ペンタゴンの営業、ヤバ=バーでーす!」
「いらっしゃい。クエスタメタルの換金をお願いします!」
マルメは、ダンマスルームからいける、倒したクエスタのメタルが置いてある部屋、クエスタルームにヤバと一緒に行く。
「今回は、頑張りましたね。ここらへんのは、まだ一週間経ってないから駄目として、500PDGですよ」
安堵の息を吐くマルメ。
「これで、トラップの補強が出来るよ」
それを聞いて、ヤバが言う。
「それよりも、今使ってるのと同じダンモンボックス_トリプルが500PDGの出物があるんだけど、買わない?」
それを聞いてマルメが悩むが首を横に振る。
「駄目、スケさん達の週給もあるし、新しいダンモンを雇う余力もないもん」
それを聞いてヤバが苦笑する。
「ダンマスの新規参入って金余りの貴族か高位魔族、高位龍族の名誉を狙いが普通なのに、よくやる気になりましたね?」
マルメが口を尖らせて言う。
「ガーネダンジョンは、貴女が勤めるペンタゴングループがこのダンジョンシステムを作って、さっき言ったような連中の宝を守るのを娯楽にした初期に、ダンマスにその人ありって言われたお祖父ちゃんの作った老舗だもん」
ヤバが頷く。
「確かに先代は、ダンモンボックスを始めとするダンマスが今でも使っている色々な技術やトラップを開発した有名な人ですけど、その技術を平気で他人に教えて、あげくの果てにダンジョン経営が行き詰って閉鎖を余儀なくされた筈ですよね」
マルメが不機嫌そうに言う。
「そうだけど、お祖父ちゃんの功績は、確かだよ。そしてあちきが、その功績に見合ったダンジョンに復活させれば、誰もがお祖父ちゃんを尊敬するに決まってる」
「はいはい。頑張ってくださいね」
ヤバは、メインのダンジョンとも繋がっていて、奪われて一週間以内の仲間や依頼したクエスタがとりに来ることが許されたクエスタメタル以外を回収して、トラップ補強用のアイテムの販売後、ガーネダンジョンを出て行くのであった。
「それじゃあ、トラップ設置をお願いね」
マルメがダンモン達に指示を出す。
『ダンマス殿、普通こういうのは、専門のゴーレムの仕事だと思うがな。我々は、あくまでクエスタを撃退するダンモンとして雇われているのだぞ?』
不満を口にするグルットにセブンが言う。
『そういう台詞は、まともにクエスタを撃退か捕獲出来てから言え。ガーネダンジョンが新装開店してから、お前らダンモンに撃退されたクエスタは、ゼロだぞ』
『次は、頑張りますよ!』
調子の良い事を言うリントさんを中心にトラップの設営が始まるのであった。
そんなガーネダンジョンに新たなクエスタが現れた。
「ここが、ボーナスが1000PDGの新人向けのダンジョンか、まあ、新人には、こんなちんけなダンジョンでも、大変なんだろうよ」
余裕たっぷりの態度で進む。
『ボスルームは、こちら』
入り口の立て札を見て爆笑するクエスタ達。
「こんな陳腐な罠に引っかかる奴がいるのかね?」
「馬鹿な新人が引っかかるんじゃないのか?」
そんなふざけた態度で進むうちに、リントさん達とぶつかる。
『こっからさきは、とおさないぜ』
リントさんが切りかかるが、剣士のクエスタの一撃で切り殺される。
「つまらない者を斬らせる」
舌打ちする剣士のクエスタ。
『よくもリントさんを!』
クスクスのポルターガイストでの小石攻撃が放たれるが、当然、ダメージは、無い。
『死霊と、天に帰れ! ターンアンデッド』
僧侶のクエスタの呪文で消滅させられるクスクス。
そんな中、グルットが襲い掛かる。
『多少は、美味しそうだな』
だが、忍者の投げた手裏剣であっさり倒される。
そして、ノースも焼き払われる中、スケさんが一人、善戦していた。
『おぬし達の剣には、曇りがある。クエスタなら、正道を歩け!』
それに対して、クエスタのリーダーが言う。
「ダンモンに説教される謂れは、ないわ!」
剣士と剣を交えていたスケさんの腰を横から砕く。
『無念……』
スケさんも倒れた。
その後、ガーネダンジョンのダンモンボックス、ダンモンボックス_トリプルがダンモン一体から作り出せる最大数の三体の対応するダンモンポイントから出して、一気に勝負をかけるが、クエスタ達の前にあっけなく散っていく。
「歯ごたえがまるで無いな」
「おい、こっちにクエスタルームがあるぜ。どうせ新人のだが、持って帰ればペンタゴンから金が入るぜ」
忍者の言葉に、クエスタ達が動く。
「ヤバイ! あそこにあるクエスタメタルを全部持っていかれたら、来週のスケさん達の週給が払えなくなるよ!」
慌てるマルメ。
『奴らには、自業自得だと思うがな。まるで相手にもなってないんだからな』
セブンが冷めた事を言うが、分身を何度も倒されてグロッキー状態のスケさん達を見てマルメは、そんな事をいえなかった。
そして、クエスタ達が入り口に戻っていくのであった。
「このまま出て行かれたらガーネダンジョンは、お終いだよ」
『早い、終結だったな』
あっさり諦めるセブンであった。
クエスタ達が、入り口付近の立て札の所まで戻ってきた。
「おいおい、本当にこの下がボスルームなのか?」
「俺が確認したが、隠し通路も無かったから間違いないな」
忍者の言葉にリーダーが呆れた顔をして言う。
「なんて手抜きなダンジョンだ。まあ良い、ボスルームをクリアして、ボーナスを貰って帰るか」
そういって、何の準備もせずにボスルームへの階段を下りていく。
ボスルームを見て魔術師が言う。
「なんの細工も無いどころか、大型のダンモンを縮小して無理やり入れる代わりにパワーを落す安物のボスルームじゃないか」
それを聞いて、ボスルームに居たセブンの分身が言う。
『正確にいうなら、本来の力の千分の一しかでないな』
セブンの姿をみてクエスタ達が爆笑する。
「こんなチビ竜がボスだって?」
「笑ったらまずいぞ。こんなチビ竜でも、竜をボスに据えたのは、ダンマスの最後の見栄なんだからな」
気が済むまで笑った後、リーダーが剣を振り上げて言う。
「さっさと倒して、ボーナスを貰うとしよう」
『素直に入り口から出ていれば助かったのにな』
セブンは、その一言と共にブレスを虹色の光のブレスを放つ。
その一撃で、最後尾に居た忍者以外は、全滅した。
「馬鹿な、レインボーブレスだと! それは、トップクラスの竜、レインボードラゴンにしか使えないはずだぞ!」
忍者の言葉にセブンが答える。
『そうだ。そして私がそのレインボードラゴンだ』
「嘘だ! 何でこんなちんけなダンジョンにレインボードラゴンが!」
忍者が叫ぶ中、セブンの二回目のブレスで忍者も倒されて、完全に全滅するのであった。
『これで、このダンジョンも閉鎖しなくて済むな』
何処か安堵した顔をするセブンであった。
平和なこの世界での一番の娯楽であり、最大の金が動くダンジョンシステムを運営するペンタゴングループの本社にヤバが帰ってきていた。
そして、ペンタゴングループの幹部が集まる部屋に入る。
「WRPの進行状況は、どうなっている?」
ヤバの言葉に、ペンタゴンの幹部、ダンジョンシステムのルールを作成し、違反者を裁く法治査問部の部長、テンホ=ウフが応える。
「現在のところ、このルールで問題なく動いています」
続いて、ダンジョンに挑むクエスタの育成、管理を行っている育成管理部の部長、ソウ=カンソウが報告する。
「人間側、クエスタの成長と統制は、順調です」
次に、ダンジョンを経営するダンマスへ開発した技術を提供とダンモンの派遣を行っている営業開発部の部長、キンカ=イハが報告する。
「ダンジョン技術の向上、ダンモンの進化も予定通りです」
そして、限られた空間を拡張し、ダンジョンを作る空間を生み出し、全てのダンジョンを監視する空間監視部の部長、ニイ=ナが告げる。
「今のところ、ダンジョンとそのシステムによる、他への影響は、ありません」
最後に、ペンタゴンの社長、ムショ=クキが頭を下げる。
「全ては、真極獣神八百刃様の分身で、ペンタゴンの会長であるヤバ様の計画通りに進んでおります」
ヤバが命令する。
「このプロジェクトは、進化に必要な争いと調和のコントロールの可能性を研究する重要な物だ。その為にわざわざ極神の分身たる、汝らに陣頭指揮を取らせている。このプロジェクトの結果に、今後の全ての世界の行く末が関わってくるだろう。その覚悟の元、最大限の尽力をつくせ」
幹部達が頭を下げる。
「「「「「了承しました」」」」」
そんな中、ムショが手を上げた。
「一つだけ質問させてください」
ヤバが頷くとムショが質問する。
「このペンタゴンの会長でもあるヤバ様がどうして、一営業の仕事をなされておられるのですか?」
長い沈黙の後、咳払いをしてヤバが言う。
「そうだ、そろそろ次のダンマスの所に行かないといけないから、皆、頑張ってね」
そのまま駆け去っていく。
「逃げましたね」
ニイが苦笑し、不機嫌そうにテンホが言う。
「あの現場好きの性格だけは、どうにかして欲しいものだ」
ソウが頷く。
「ヤバ様には、会長席で我々の成果を確認していただければ良いのだからな」
「そこら辺が、ヤバ様のヤバ様らしい所なんだけどね」
苦笑するキンカであった。