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妖狐の私、人間の社会で稼ぐためVtuberとして百合営業をしていたら相方の化け狸がガチだった件  作者: パッタリ


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11/30

11話 3Dモデルのお披露目と外面の良い化け狸

 「……完成した」


 事務所の収録スタジオ。

 大型モニターに映し出された二体の3Dモデルを前に、私は思わず息を呑んだ。

 銀髪に狐耳、すらりとした体躯に揺れる尻尾。クール系妖狐のシズク。

 そしてその隣には、茶髪の狸耳に、少し丸みのある柔らかそうなシルエット。甘えん坊後輩化け狸のコノハ。


 Live2Dの頃から見慣れていたはずなのに、立体になると迫力が違う。

 横を向くと尻尾が揺れる。袖がふわりと遅れて動く。

 画面の中に、もう一人の自分が本当に存在しているようだった。


 「すご……。ちゃんと私だ」

 「本当に素敵です、シズクちゃん。凛としていて、綺麗で、でも少しだけ触れたら消えてしまいそうな儚さもあって……」


 隣でコノハが、いつもの配信用の甘い声でそう言った。

 私はちらりと横を見る。

 今日のコノハは、完全に外向きモードだった。語尾は柔らかく、声は可愛く、所作は控えめ。

 家で私の尻尾に顔を埋めて「シズク殿の匂い……♡」などと限界化している化け狸と同一人物とは思えない。


 「コノハ、事務所だとちゃんとしてるよね」

 「えへへ。お仕事ですから」

 「その顔で言われると、逆に怖いんだけど」


 スタジオのスタッフさんが、にこやかに近づいてくる。


 「お二人とも、本日はよろしくお願いします。まずはモーションキャプチャの確認から入りますね」

 「はいっ、よろしくお願いします!」


 コノハがぺこりと頭を下げる。

 完璧な後輩ムーブである。

 私は内心で感心しながら、マーカー付きのスーツに着替え、収録スペースへ向かった。

 カメラに囲まれた広い床。

 正面のモニターには、私の3Dモデルがリアルタイムで立っている。


 「では、シズクさん。軽く手を振ってみてください」

 「はーい」


 右手を上げる。画面の中のシズクも、同じように手を振る。

 次に一歩歩く。尻尾が遅れてふわりと揺れる。


 「おお……! 尻尾、ちゃんと動く……!」

 「すごく自然ですね。シズクちゃん、かっこいいです!」


 コノハがぱちぱちと拍手をする。他人の前なので、ちゃんとシズクちゃん呼びだ。

 偉い。いや、普段からそうしろ。


 「次はコノハさん、お願いします」  「はいっ」


 コノハが収録スペースに立つ。

 彼女が軽く体を揺らすと、画面の中の狸耳少女もふわふわと動いた。

 大きめの尻尾が丸く揺れ、スカートの裾がひらりと揺れる。


 「……おお」

 「シズクちゃん? 今、どこを見てました?」

 「いや、3Dモデルの出来を確認してただけ」

 「本当ですか?」

 「本当です」


 コノハのモデルは、かなり出来がよかった。

 茶色い髪の柔らかさも、丸い耳も、少しむっちりした健康的な体型も、全部いい感じに立体化されている。

 これはリスナーが騒ぐだろうな、と私は冷静に分析した。


 収録は順調に進んだ。

 歩く、座る、手を振る、二人で並んでポーズを取る。

 途中、スタッフさんから「せっかくなので、お二人でハートを作ってみましょうか」と言われ、私は一瞬固まった。


 「ハート、ですか」

 「はい。お披露目配信用に可愛いと思いますよ」

 「やりましょう、シズクちゃん」


 コノハが微笑みながら言う。

 外面は完璧。だが、その尻尾だけが異様な勢いでぱたぱたと揺れている。


 「……はいはい」


 私は諦めてコノハと向かい合う。

 互いに片手を出し、指先を合わせてハートを作る。

 画面の中の二人も、同じように寄り添っている。


 「いいですね! もう少し近づけますか?」

 「近づくんですか」

 「はい、お願いします」


 業務命令なら仕方ない。

 私は一歩近づいた。コノハの肩が、かすかに震える。


 「大丈夫?」

 「は、はい。大丈夫です、シズクちゃん。とっても」

 「声、ちょっと裏返ってるよ」

 「気のせいです」


 そんなこんなで収録を終えて、数日後。

 いよいよ3Dお披露目配信の日がやってきた。


 【配信中】


 『みんなー、こんばんきつたぬー!』


 画面の中で、3Dの私が手を振る。コメント欄は開始直後から爆発していた。


 [コメント]

 ・うおおおおおおおお!!!

 ・動いてる!!

 ・シズクちゃん3Dかっこよすぎる

 ・尻尾ふわふわ!


 『ついに私たち、立体になりました!』


 私はくるりと回って、尻尾を見せる。

 ふわりと広がる銀髪と狐尻尾。

 自分で見ても、なかなか悪くない。


 『そして、もちろんこの子も一緒だよ。コノハ、どうぞ』

 『は、はいっ。皆さん、こんばんきつたぬです』


 コノハの3Dモデルが、とてとてと画面に入ってくる。

 その瞬間、コメント欄がさらに加速した。


 [コメント]

 ・コノハちゃんかわいいいいい

 ・丸い! かわいい!

 ・尻尾でっか!

 ・むっちり3Dタヌキ助かる


 『む、むっちりって言わないでください……!』


 コノハが両手で体を隠すように縮こまる。

 その動きがまた妙に可愛く、コメント欄は大いに湧いた。


 『いいじゃん。健康的で可愛いよ』

 『シ、シズクちゃん……っ。配信中にそういうことを言われると、わたし……』

 『はい、今日はお披露目配信だからね。崩れない。耐える』

 『が、頑張ります……』


 その後は、定番の3Dお披露目企画を進めていった。

 全身チェック、尻尾チェック、表情差分、簡単なダンス。

 二人で並んでポーズを取るたびに、スパチャが飛ぶ。


 『では次、事務所スタッフさんから提案された例のポーズ。二人でハート』

 『とうとう来ましたね』


 私はコノハと向かい合う。

 配信画面の中で、二人の3Dモデルがゆっくり近づく。


 『ほら、手』

 『はい……っ』


 指先を合わせ、ハートを作る。

 その瞬間、コメント欄が弾けた。


 [コメント]

 ・てぇてぇ!!!

 ・公式ハート助かる

 ・結婚会見ですか?

 ・赤スパチャ(¥10,000):ご祝儀です


 『あはは、祝儀助かるー』

 『シズクちゃん……』

 『ん?』

 『この姿で、こうして隣に立てる日が来るなんて、夢みたいです』


 コノハの声は、いつもの配信用の可愛い声だった。

 けれど、その奥にある熱だけは、私にはわかった。

 室町からずっと追いかけてきた化け狸が、ようやく同じ舞台に立っている。

 そういう、重くて面倒で、少しだけ眩しい感情。

 私は小さく息を吐き、画面の中のコノハへ少しだけ身を寄せた。


 『……私も、コノハが隣でよかったよ』


 一瞬、コノハが固まった。

 次の瞬間、狸耳がぴんと立ち、尻尾が限界まで膨らむ。


 [コメント]

 ・今のガチでは?

 ・シズクちゃん!?

 ・コノハちゃん固まったw

 ・赤スパチャ(¥50,000):ありがとう世界


 『し、シズクちゃん……っ』

 『はいはい、泣かない。まだ配信中』

 『泣いてません……! ただ、幸せで胸がいっぱいなだけです……!』


 結局、お披露目配信は大成功だった。

 同接は過去最高を更新し、スパチャも切り抜き動画もたくさん増えた。


 【配信後】


 配信終了ボタンを押した瞬間、コノハは私の方へ向き直った。

 外向きの笑顔がゆっくりと溶ける。

 呼び方も、声色も、いつものものに戻った。


 「シズク殿」

 「はい」

 「隣でよかった、というのは」

 「言葉通り」


 私はため息をつきながら、ソファに腰を下ろした。画面には、配信終了後も増え続ける高評価とコメント。

 3Dになった私たちは、確かに一つ上のステージに進んだのだと思う。

 ただし。


 「次は3Dで添い寝ASMRなどいかがでしょう」

 「やらない」

 「需要はあります」

 「私欲が漏れてる」

 「需要と私欲が一致しているだけです」


 立体になろうが、舞台が広がろうが。

 この化け狸の重さだけは、相変わらず二次元にも三次元にも収まりきらないらしい。

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