第8話 義妹デートタイム
真白が強引だよ。
お兄ちゃん、グイグイ引っ張られてるよ。
「ちょ、ちょっと待ってよ、真白。出かけるっていっても、こんなブカブカな服じゃ外にも出られないって……あ、ズボン落ちた」
いきなり痩せたから普段、寝間着に使っているズボンがずれ落ちゃったよ。いけない、いけない……
「そんなの兄さん言い訳です! だいたい2日間も家を空けてどこに行っていたの? もしかして、例の美食家とかいうお友だちの所……に?」
さっきまで前を向いていたと思ったら、真白がいきなり僕の方へと向いてきた。
そして、僕は落ちたズボンを拾おうとパンツ一丁の状態だった。
「あ……ごめん。真白、今、ズボン履くから待っててよ」
「…………兄さんの下着姿?」
「下着姿?……いや、これはトランクスも…下着か」
真白の顔が、熟したリンゴみたいに赤い。雪化粧みたいな綺麗な肌なのに赤いや。熱でもあるのかな?
「……キャ、キャ」
「キャキャ? お猿さんのモノマネかい? 真白」
「キャアアアア/// 兄さんの変態さ――ん///」
真白の悲鳴がご近所に響き渡った。
「なんで怒ってるんだよ。真白」
「怒ってません。恥ずかしい思いをしただけです!」
まだ真白の顔が赤い、消防車みたいに赤いや。
「……家族の下着を見たくらいで叫び声をあげると思ってなかったよ。真白」
少しニヤニヤしながら、僕は真白の名前を呼ぶ。
まぁ、真白はずっと寝たきりで、外にもあまり外出してなかったから、男の子の下着姿に免疫がなかったのかな?……いやいや、そんなことある?
「つっ///……私に恥ずかしい思いをさせておいて……兄さんのあんな姿……直視したら恥ずかしくなるに決まっているでしょう」
「そうなんだ? それじゃあ今度から、真白には僕の素肌を極力見せないように気をつけるよ。ごめん」
「うぅぅ……だから、そんなこと言ってません、 兄さんは、本当に乙女心が分からない兄さんなんだら。もう……」
恥ずかしいそうに下を俯いちゃった。からかいすぎたかな?
「えっと熱でもあるの? 病院行くかい? やっぱり熱でもあるんじゃないの?」
「ありませんし、行きません! つっ/// い、いいから、早く兄さんの洋服を買いにいましょう……痩せた兄さんが似合う服を」
僕の顔をチラチラ見つつ小さい声で、そう告げる真白。相変わらず優しい妹だなぁ。
「……何ですか? 私の事をチラチラ見つめて」
「いや、なんで敬語交じりに話してるのかなって思ってさ」
「そ、それは……に、兄さんが別人みたいに変わっちゃって動揺しているだけです、 もう、全部兄さんのせいなんだから!」
なぜか怒られたよ……しかしあれだね。真白が以前よりも、元気になってくれて本当に良かったよ。
これも、イヴさんに言われて、ベビースライムのレアドロップ品『白透明のジュレ』を食べてくれたからかな?
「イヴさん……何か虹色の飴みたいなのドロップしたんだけど」
〖それは、あらゆる病気を治す万能薬になります。病弱な妹さんに食べさせれば、体調も改善するのではないでしょうか?〗
(嘘? 本当に?)
〖……推測でしかありませんが〗
なんてことをイヴさんに言われて、食べてくれたのかな?
お菓子代わり何個かあげたから、真白が食べてるところを見てはないんだよね。僕……いや、でも真白の顔色は前よりも良くなってるんだよね、実際さぁ。
僕は真白の体調を確認するために、ズズズと近づいてみた。
「ち、近い! 近いです! 兄さん。その綺麗な顔を私に近づけないで!!」
「んもぉ!? ごめんよ。真白、だから僕の顔面を手で押さえ付けないで!!」
……真白は力まで強くなったんだね。
◇◇◇
真白とのコントみたいなやり取りも終わって、やっと着替えを終えたよ。まず最初は僕の服を買いに行くことが決まったんだ。
「ブカブカのYシャツとベルトに、ベルトには新しい穴をわざわざ開けて、ギュウギュウに締め付けてなんとか履けたズボン………本当にブカブカだね。外では、ズレ落ちないようにしてね。兄さん」
「大丈夫だってば、誰も僕のことなんて注目しないんだから、それよりも真白はナンパとか気をつけなよ。美少女でモテるんだからさ」
真白は可愛い。
快斗と関わっている頃は、病気がちで顔色も悪かったけど。
僕や真白が通う中学校では、学校のマドンナ的存在なんだ。そして、僕は……不良達のサンドバッグって言われてたね。悲しいね。
「……つっ/// 兄さんは、またそう言って私を慌てさせるつもりなの?……うぅぅ/// もう! そんなことを言ったら、私よりも兄さんが気をつけてね。最近の女の子は肉食系女子ばっかりって聞くんだから」
「肉食系女子?……何それ? 肉でも捌いて食べるのかい? 僕みたいな存在を。面白い表現だね。それ」
「全然面白くないし、警戒もしてない……兄さん。無防備すぎだよ」
前よりも、真白の喜怒哀楽が激しくなったね。これも快斗の一件が解決したからかな? 良かった良かった。
「……なんで、ニヤケるの? 兄さん! 私の話を真剣に聞きなさい!」
「うんうん、ちゃんと聞いてるよ。真白は本当に可愛いね。良い子良い子」
お兄ちゃんらしく、真白の頭を撫でてあげた。真白は昔からこうすると凄く喜んでくれるんだ。
「つっ/// うぅぅ/// 人前で、私を撫で撫でしないで下さい。兄さん!」
「おわぁ!……ご、ごめんごめん。いきなり頭を触られるなんて嫌だったね。ごめん。真白」
「い、嫌じゃありません/// 兄さんはまったく。本当にまったく……(ブツブツ)」
……なんか、凄く怒られたんだけど。何で?
「でもさ、真白。僕の服を買いに行くのは良いんだけどさ。僕、お金持ってないよ。ここ数日、賞金が出る大食い選手権にも出てないしさ。金欠だよ」
「……お金ならあるよ。お母さんから、クレジットカードを貰ったからね」
真白がポケットから、謎のカードを出してきた。お菓子の付録で良い物でも当たったのかな?
「クレジットカード? 何それ?」
「えっと……私もよく分からないけど。限度額までは、好きに使っていいよって、お母さんに言われたよ。それと、今まで苦労かけてごめんなさいって」
「いや、母さんにいつも迷惑かけてるのは僕の方なんだけどさ……限度額?」
謎の単語がまた出てきたよ。
「いや、それは私もなんだけど。だいたい、兄さんはお外で自給自足ができてたでしょう? 賞金で家の家計まで支えてくれてたし……私なんて、お母さんにも兄さんにも迷惑かけてた妹だもんね……ごめんね。お母さん……(ブツブツ)」
「おっと! 話が脱線しちゃったね。それで? クレジットカードって言うのがあれば、買い物して良いんだよね? そういうことだよね? 真白」
いけない、いけない。真白の過去を……地雷を踏んじゃうところだった。
真白は、家の話しになると自分で自分の自虐を言い始めるんだった。忘れてたよ。真白の瞳のハイライトが消えかけてた。
「う、うん! それで、足りなかったら、キャッシュレス決済も併用して使いなさいって、お母さんは言っていたの! そうすればポイントも貯まるからって! 何を説明されていたから分からないけど。凄いよね? 兄さん」
「そ、それは凄いね! よく分からないけど。本当に凄いよ。真白!」
「うん! お母さんもこれで、兄さんとデート楽しんで来なさいって言って……」
「僕とのデート? お出かじゃなくてかい?」
「つっ/// な、何でもありません! 失言しただけだから!」
なんか、よく分からないけど。分かったことは1つ。白銀家がまえよりも豊かになったってことだね。
そして、真白がまた頭を抱えながら、ブツブツ何かの言ってるよ。顔を赤くしてさ……やっぱり、持病が良くなってないんじゃいのかな? だんだん心配になってきたよ。
……熱があるか確認するために真白のおでこを触ったら、また怒られるかな?
僕たちが住む白銀家は、都心の隅っこにある。隅っこでも流石は都心、少し歩けば色々なお店が立ち並ぶ場所に行けるんだ。
「ね、ねぇ、あの人達。素敵じゃない?」
「ビジュアルは良いけど……なんで男の人の方は、ブカブカの服を着てるのかしら?」
「……たしかに」
……あれ? なんか、すれ違った女の子達が僕を怪しげな目で見てない?
「……真白」
「何? 兄さん」
「もしかして、僕の今の格好ってすごく怪しいかな?」
「はい、すごく目立つし怪しいかな。それに今の兄さんはすごくすごく目立つから……早く、服屋で似合う服を買おう」
「ちょっ! 腕を引っ張らないで、服がずれ落ちる!」
「それじゃあ、しっかり抑えてて下さい! さっきみたいにずれ落ちたら、恥ずかし過ぎるからね」
真白が強引に僕の右腕を引っ張って、一番近くにあったOGって言う服屋へと入って行く。
「いらっしゃいませ~! OGへようこそ~!」
◇
店の中に入ったのはいいけど、なにすればいいのかな?
とりあえず僕か着れそうな服を見繕って、ささとダボダボな服から卒業しないと……ベルトが緩みきって、ズボンが落ちそうだしね。
「真白、とりあえずサイズが合う服を選んでくるから待ってて……真白?」
「…………………」
真白が自分のスマホを操作して何かを調べてる。
……いくら、妹でも人のスマホを覗くのは良くないから静かに見守ってよっと。また、怒られたくないしね。
「…………ずいぶんと真剣だね。そんなに熱中して何を見てんだろう……ん?」
「私が兄さんに着てほしいコーデが決まりました。服を選んだら試着室に行こう」
「いや、ちょっと待って……なんで、真白が僕に着てほしい服を着…てえぇ!?」
「兄さん。世間の兄さんというものは、義妹のお願いは絶対服従らしいですよ」
「そ、そんな、理不尽な服従があってたまるかぁ! ま、待って! ズボンがズレ落ちる!!」
「ちゃんと抑えておいて、警察が来ちゃう」
「真白が僕を引っ張るからだろう~!」
右腕をガシッと掴まれたよ。そして、真白の動きがいきなり機敏になったよ。
「……騒がしカップルね」
お店の店員さんが、僕達のやりとりを見て呆れてるよ。そんなに仲が良い兄妹に見えるのかな?
しかし、あれだね。真白は僕に対しては本当に遠慮や配慮がないな……兄妹だから仕方ないけどさ。
「兄さん……これを着て……これもいいかも、これも着て……スマホで写真を撮って保存するから」
「……あのさ、真白。そんなに着れないって、真白も服を買うんでしょう? お金足りなくなるよ」
「それは大丈夫だよ、兄さん。私の分は、さっき兄さんが、着替えている間に選んでおいたから」
「行動が早い!……た、たしかに、さっきと着ていた服とは違う」
さっきまでジャージだったのに、上着はグレーのパーカーに下は藍色のボトムスを履いている。
すごく暖かそうで可愛らしい真白にマッチした服装コーデだ。
「……ていうかさ、真白。こういう服装選びって、普通は女の子の方が時間をかけるもんじゃないの? なんで僕が、真白の着せ替え人形みたいになってるのさ?」
「兄さんは真白の着せ替え人形……その響き良いね。素敵だね……次、こっちの服を着てね」
僕の話、聞き流された?……それと真白に、とても良い笑顔で次に着る服を渡された。
そして、それを僕が受け取ると。ウッキウキでスマホを構える真白。
「……了解。すぐに着てくるよ。真白」
「うん! 楽しみにしてるね!」
すごい素敵な笑顔だった……その後も、僕の真白独占による単独ファッションショーは、真白が満足するまで続けられたんだ。
そして、最後に真白が、僕に一番着てほしかった服を着て写真を撮って撮影会終了、お会計を済ましてOGを後にしたんだ。
その後、近くのファミレスに入って昼食を取ることにしたんだ。
ずっと服を着替えてたからね。お腹が……あれ? 全然減ってない。何で?
「兄さん。見て見て~! スマホの中にかっこいい兄さんがいっぱいだよ」
無邪気に嬉しそうにスマホで撮った写真を僕に見せてくれる真白。
本当に最近は明るくなってくれて嬉しいな……僕に対しては凄く強引になったけど。
「ハハハ、それは良かったね。真白……お肉食べ……いや、野菜サラダと……野菜サラダと野菜サラダを頼もう。後は……パンかな」
あれ? ファミレスメニューのお肉のページを見た瞬間、胸焼けがしちゃったんだけど……お肉を身体が拒んでるだけど。お肉大好きのこの僕が……あり得ない。
「……兄さん? お肉いらないの? お金なら心配しなくても大丈夫だよ。お洋服を買っても、5万くらいで済んだんだし」
真白は、ずっと家の中に居たから、世間と金銭感覚のズレでもあるのかな……いや、今はそんな事を考えている場合じゃない。
「5万もしたのかい? 凄いね……いや、そんな事よりも。この僕がお肉に拒否反応を示してる?」
「急に痩せちゃったから、食べたくなくなっちゃったのかもね…………大丈夫だよ。兄さん、また体重増えると思うよ……多分」
真白の目が泳いでる。多分、真白の本音は、『太ったら駄目だからね、兄さん』って言いたいんだろうけど、僕本人には言えないんだろうね……いや、そうじゃなくてっ! 何が起こってるの? 僕の身体?
「野菜サラダと野菜サラダと野菜サラダとパン、雑炊セットをお持ちしました。以上でメニューお揃いでしょうか~?」
「……はい」
「は、はい」
駄目だった。お肉を選ぼうとしても、食べたくない気持ちになって選べなかった。
「どうしよう。真白……野菜が凄く美味しく感じるんだ。今まで、あんまり食べなかったのに凄く美味しい」
「そ、それは良かったね。兄さん……野菜を美味しく食べてる兄さんなんて、私も初めて見た気がするよ」
野菜が生きてる。美味しいよ~!……むしゃくしゃ食べられるよ~!
そう、あの時みたいに……強制異世界ダイエットで。イヴさんにシロガネの森を走り回されて、野草や木の実を無我夢中で沢山食べた時の感覚……
「ん? シロガネの森……僕が痩せた理由って、それじゃないかあぁ!!」
「シロガネの森? 何を言ってるの? 兄さん、私達の家は森じゃないよ」
「……ご、ごめん。真白、このお店の野菜サラダが美味しい過ぎて驚いているんだ」
「そ、そう。変な、兄さん……あ、ここの雑炊も美味しいよ。食べる? はぁ~い、あ~んして」
真白が自分で使っているレンゲに雑炊を乗せて、僕の口元の近くへと運んでくれた。
それをパクッと僕はなんの躊躇いもなく口に運ぶ。
「ん!……う、うん。ありがとう。真白……雑炊美味しいね」
「フフフ、でしょう?」
少しでも心を落ち着かせる為に、真白の雑炊を咀嚼する。
それにしても、イヴさんめ。僕に強制ダイエットを行わせたばかりか。
お肉に拒否反応する身体にしてくれるなんて、やってくれるじゃないか……全くもう。
「……野菜が美味しい。何杯でもいけるよ」
「……兄さん。本当に、この2日間に何があったの? 別人みたいだね」
「うん……僕もそう思うよ。真白~!」
その後、野菜サラダをもう一度注文して、ファミレスでの食事を終えたんだ。
「お洋服も沢山買って、美味しい物も沢山食べられて楽しいお出かけだね。兄さん」
可愛く微笑みながら、僕に話しかけくれる真白。
「そうだね。凄く楽しいよ……恐ろしい真実が分かっちゃたけどね」
ちなみに、イヴさんに話しかけても反応無し。
まぁ、僕が1人きりの時しか、殆んど話しかけてこないから。通常運転だけど……文句の1つくらいは言いたいかな。
「あら? あの人は……やっと見つけました! 白銀くん。お久しぶりです! こんにちは」
街中で僕の名前が呼ばれてる? おかしいな? 僕の名前を呼ぶ人なんて、家族かフードファンターの仲間達くらいなんだけどな。
「……てっ! あの人って、西蓮寺さんだ! 何でこんな所?」
「西蓮寺さんって、あの有名人の?………………あの人は兄さんの何なの? 兄さん!」
「いや、誰って……右腕、そんな強く握られると痛いんだけど、真白」
「………………あの人と、どこで知り合ったの? 兄さん!」
怒りながら何で質問攻めをしてくるんだい、僕の妹はさぁ。
「西蓮寺さんだよ。快斗達に誘拐されてた。それを助けてあげたんだ。あの廃工場でね」
「廃工場?……あぁ、あの快斗さんに掴まって、兄さんが助けた。人なんだね。それを早く言ってくれればいいのに。兄さんたら!」
「いや、それちゃんと説明したんじゃないか。真白」
僕の妹、怒ると僕の話を全然聞いてくれなくなるんだ。
それに、僕が女の子の名前を口に出して言うとすぐに機嫌悪くなるし。たまに真白が怖くなるんだ、僕。
「白銀くん! やっと会えましたね! 貴方にまた会えたら、ぜひお伝えしたいことがあったんです。本当にまた会えて良かった!」
「西蓮寺さん。久しぶりだね……」
「……(兄さん!!!)」
当たってる当たってる。肘が当たってるよ。
真白、お兄ちゃんに真白の肘がツンツン当たってるんだって……それにしても、なんでさっきから西蓮寺さんの事を、ずーっと見ている人がいるのかな?
◇◇◇
《ファミレス内》
「何だ? さっきまで騒いでた変なガキ共と合流したのか? おいおい、合流されたら暗殺できねえじゃねえか! 懸賞首 西蓮寺澪をよぉ……」
《殺し屋 サイガ》




