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第7話 義兄デートタイム


 疲れた。


 地球に戻ったら、明日のお昼はステーキは食べたいかな。楽しみだね。ステーキ大食い大会。


 沢山食べないとね。痩せちゃったからさ。


 今回の苛烈なダイエットという名の極限レベルアップは過酷だったよ。


 お腹が空きすぎて、何度も餓死するかと思ったしね。


〖忠告します。なるべく異世界"ステラ"での交流は控えることをオススメします。とくに各国の王族や貴族は、貴方のことを知れば利用しようと近寄る者も出てきますので、いいですね?〗


 イヴさんが怒ってる?……さっきまでは静かだったのに。


「いや……ソフィー様を探しに騎士の人達が集まって来てさぁ」


〖言い訳は不要です。マスターは私のお願いに絶対服従なのです〗


 ……この案内役さん。だんだん口が悪くなってきてるのは、僕の気のせいかな?


 それにしても、ブラックウルフの群れのボスを倒した後、あんなことになるなんて思わなかった――――



「やりましたわ。レン様、素晴らしいご活躍でした」


「あ、ありがとう。ソフィー様……あんまり、くっ付けないでくれるかな? 落ちたら危ないよ、ここは崖の上だからさ……誰か来る!?」


 一瞬だった、一瞬で僕の間合いに入られていたんだ。


 二人の騎士が、僕の前後に剣を構えて急に現れていた。そんな、一難去ってまた一難なんて……聞いてないよ。


「えっと……あの? 貴方たちは何なんですか? なんで、僕に剣なんか向けて……危ないですよ」


「貴様、このお方をリゲル王国の第一王女だと知っての狼藉ろうぜきがっ! 答えろ」


「答えによっては、首を落とします。お覚悟を……姫様、今のうちにこちらに避難をお願いします」


 凛々しい茶髪の騎士と丁寧語の騎士? この人達はこっちの異世界の住人なのかな?


「待ちなさいっ! その方から離れるのはアグニル、リール。貴方達の方です。その方は、私の命の恩人! 早急に離れなさい!!」


 ソフィー様が大声を放った後、すごい大きな声だったから、両手で両耳を塞いだ。


 声に力が宿っていたんだ……異能の力? 音の魔法か何かかな?


「………これは失礼致しました,ソフィーリア様」

「失礼致しました!」


 ソフィー様の声を聞くと。騎士さん達は剣を納めてソフィー様にひざまずいた。


 あのポーズってたしか、臣下の礼だったかな? 苛められていた時に、快斗にやれやれ言われていたから覚えてるよ。結局、一回もやらなかったけどさ。


「私に謝罪してどうするのですか? 謝罪をするならば、レ…レーン様に言いなさい。レーン様は私を助けてくれたのですよ!」


「……畏まりました。レーン殿、先程は大変失礼致しました。貴方に剣を向けたこと、深くお詫び申し上げます」


「申し訳ありません。リゲル王国の姫君は、ソフィーリア様しか残っておらず、私達も心配で心配で仕方なかったのです」


「あぁ……そうだったですね。それは必死にソフィー様を守りたくもなりますよね」


 リゲル王国の姫君がソフィー様だけ? そんなのあり得るの? 


 たしか、中世の王族って血筋を絶やさないために、何人も子供を産むって学校の授業で習った気がするけど。ここは異世界だから、常識が違うのかな?


「……リール。余計なことは言うな。レーン殿に迷惑がかかるぞ」


「は、はい。すみません。アグニル騎士団長」


「レーン様への謝罪、ありがとうございます。それから、アグニル騎士団長、リール副団長、ご迷惑をおかけしました。ごめんなさい」


 さっきまで怒っていたとソフィー様が、今度は謝った。僕に剣を向けたことに対しての怒りが収まったのかな?


「姫様! ええっ! 心底心配したのですよ! 貴女は何故、いつもいつも城から逃げ出すのですか? 私は常日頃から、姫様の無事を考えいなければいけないのですか?」


「あ……えっと……ごめんなさい。アグニル……ちゃん……そんな怒らないで下さい」


「……姫様。アグニル騎士団長は本気で心配しているんですよ。貴女がいつ暗殺されるかもしらないと、心配しているのです。行方不明になったり亡くなった他の姫様たちのように、なってほしくないのです」


「心配……ですか。それは、ありがとうございます。アグニルちゃん……でも、私は……」


 なんだか、すごく気まずい雰囲気になってる。僕、もう地球に帰っていいかな?


〖……以上がレベルアップ後のステータス変化です。続いて、特殊個体ブラック・アルファ・メイルのドロップ品を回収したアイテムを表示します〗


「え?……うん、了解……」


 ソフィー様たちのやり取りを見ている間に、イヴさんの説明が終わっていた。


 そして、僕の目の前には、ステータス画面が表示されていた。


「……レアドロップ品?……『黒狼のまところも』。何これ? これだけ、他のドロップ品と名前が違う」


ドロップ品『ブラック・アルファ・メイル』

◎黒狼のまところも(装備品)

◎黒狼の毛皮

◎黒狼の全骨格

◎黒狼の血液

◎黒狼の肉塊


 他は普通のドロップ品なのに、この黒狼のまところもだけ、装備品って、ステータス画面には表示されてる。何でだろう?


〖そのアイテムは!……マスター、すぐに、黒狼のまところもを装備して下さい。この場から脱出します〗


「脱出? いやいや、何を言ってるのさ。イヴさん、僕がソフィー様をさらった疑いは晴れてるんだから。逃げる必要なんてないよ」


〖……いえ、巻き込まれるので逃げることをオススメします。そして、来ました〗


「来た? 何がだい?……!」


 強い殺意を感じた。空の上からとてつもない殺意を。


「やっと見つけた。今、仇を取ります。死んで詫びなさい卑怯者。神器発動――――」


 フードをまとったエルフが、強力な《《何か》》放とうとしているのかな? さっきよりも僕への殺気が高まっているような……



「……誰? 長耳……銀髪のエルフ? ソフィー様! 空に誰か居る! すごい殺意を僕たちに向けてきているんだ」


「レーン様? いったいどうなさったんですか……あの方は、エレンミア様? なぜ、こんな場所に?」


「……エレンミア」


「……我々を狙ってのことでしょう。逃げましょう! エレンミアは、神器を放つ気です。リール! 何をしている! 早く脱出するぞ」


「はい! アグニル騎士団長! 飛びます!……暗殺姫エレンミアこのタイミングで現れますか」


 ソフィー様たちが逃げる用意を始めてる? あれ? もしかして僕は助けてもらえない感じかな? 嘘でしょう?


「レーン殿。姫様をお救い頂きありがとうございました! このご恩は必ずいつかお返し致します。ですので、まずはお互いこの死地を生き残りましょう。それでは!」


「な、何を言っているんですか! アグニルちゃん! レーン様も一緒に避難を……」


「……飛びます。『躍動』」


 3人が消えた?……いや、一気に移動したの? 3人の気配がまだ、この場所にあるのは何でだろう?


〖マスター、緊急事態です。至急、黒狼のまところもを装備して下さい。お願いします、じゃないと死にますよ。いいんですか? 真白さんに会えませんよ? 天国に来ますか?〗


「いや、行かないよ! 分かった。着ればいいんでしょう? 着れば!」


〖はい……それが、この場の最適解です。装着確認――――黒狼纏い発現します〗


【ルオオオオオォォ!!!】


 何にこれ? 身体が……身体能力が急激に上がった?


「消えなさい……『漆黒哀愁ジェットブラック・ソロウ』」


 強大な紫の光線が空から降って来る。そして、僕は四足の手足で地面を這いながら回避した。




――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――



「なんてことがあったのに、生き延びた僕って運が良いのかな? ねえ? イヴさん」


〖調子に乗らないで下さいマスター、あれは装備品の性能が良かったため、たまたま逃げられただけです。貴方の力ではありません〗


「ぐぅ……はい。分かりました」


〖素直で大変よろしいです。マスター〗


 イヴさんの毒舌がまた始まったよ。


 ブラックウルフの群れの追いかけ回されていた時は、話しかけても一度も喋ってくれなかったのに、なんで僕のダイエットが終わった瞬間に、また普通に喋り始めたんだろう。


「そういえば。ブラックウルフに追いかけ回されている間に、頭の中に聞こえて来た声って何だったんだろう? ねえ、イヴさん。何か知って……」


〖白銀の館へと到着しました。スキル【世界渡り】を発動します。本日のダイエットお疲れさまでした。明日からも、訓練に精を出しましょう。マスター、それでは地球へと帰還します〗


「いや、ちょっと待って! まだ、イヴさんには聞きたいことがあったのに……」


 また会話をさえぎられたよ。まったくもう。


 ……いや、これで地球にやっと帰れる。真白に会えるよ。それと、大食い大会にもやっと出れる……あれ? 僕って異世界に何日間いたんだっけ?




◇◇◇


〖―――――――!!!〗


 ジリジリジリと、使い古した目覚まし時計が鳴っている。


 あれ? 僕は、異世界にさっきまで行っていて帰って来たはずなんだけど。


「寒っ!……布団の中? あれ? おかしいな? いつもなら、こんな寒気なんて感じないのに。なんたって、僕には厚い脂肪があるんだから……」


 寝ぼけた状態で布団から起き上がる。寒い、そりゃあそうか。

 

 今は寒い2月で、もう少ししたら中学校を卒業する時期なんだから。


「……そして、僕は都内でも有数の不良が集まる高校に行く……また苛められないといいな。いや、そのお陰で真白は、あの学校に特待生として入れるだから、良かったじゃないか……僕の将来よりも真白の将来の方が大事なんだし」


 真白には異能の才能があった。

 それに僕よりも勉強ができる。


 だから、ちゃんとした環境で勉強すれば、難関とされている異能者だけが、入学できる学校にも入れるんだ。


 僕は、真白がちゃんと勉強できるように、朝は新聞配達、放課後は都内で開かれる賞金が出る大食い大会に出まくって、お金を稼いでいた。それは、高校生になっても変わらないだろうね。


「いや、私欲もあったね。僕は食べるのが好きだし、完食するだけで皆褒めてくれたし喜んでくれた……激太りしたけど」


 その結果、真白には母さんの知り合いの家庭教師が付いた。そのお陰で、あの学校の特待生として合格したんだ。


 異能の勉強をちゃんとして、社会に出れば食べることには困らないし、お金だって沢山稼げるようになる。


 そうなれば、真白は幸せな人生を送っていけるよ……僕は……そうだな。


 このままフードファイターっていうのもありかな? 


「アメリカって、結構高い賞金も出るから、フードチャンピオンとかになったら、大金が手に入ったりするかな?……あれ?そう考えたら、僕の将来も明るいのかな?ハハハ。そうだと嬉しいな……そろそろ起きよう」


 色々と考えていたら、ボーッとしていた頭の中もスッキリしてきた。

 

 布団から出で立ち上がって……前に壊した壁の方を見る。


「……あれ? こんな所に鏡なんてあったけ? 向こう側は空き部屋なんだけ……ど?……うわあぁぁ!!」


 鏡に映る自分を見てびっくりした。この痩せた人は誰?


「兄さんの声?……兄さん! やっと帰って来たの? 2日間もどこで何をしていたか、ちゃんと真白に説明してくれないと困るよ! 部屋、入るからね」


 僕の部屋の扉から、真白の声が聞こえてくる。ま、まずいよ、この姿を真白に見られるわけにはいかないのに。


「い、いや、待ってよ、真白。今はその駄目なんだ!」


「だ、駄目って何かな? もしかして、女の子でも連れ込んでるの? 兄さん!」


「なんでそうなるんだよ。だけど今は駄目なんだ。今は僕の部屋に入って来ないでくれ。真白!」


「むっ! 何言ってるの? 真白は兄さんのことが、すごく心配だったんだからね。お兄ちゃん!」


「だから駄目だって! 真白!!」


 僕が駄目だと言っているのに、扉を開けて真白が部屋に入って来た。そして、鏡に映る僕の姿を見つめて、フリーズする。


「えっと誰?………もしかして兄さん? なの?」


「う、うん……真白のお兄ちゃんだよ。痩せたけど」


「えっと……え? 本当に痩せたお兄ちゃん?……ええぇぇぇ!?」


 真白の声が、ご近所に響き渡った。


◇◇◇


 真白に家のリビングへと連れて来られ、現在、緊急家族会議中なんだ。主催者はもちろん真白。


「あらあら、まぁまぁ……いきなり痩せたわね。蓮~! 耳元と鼻立ちは、若い時のお父さんそっくりね~! あっ! でも顔立ちは夢ちゃんそっくりよ。流石、親子ね」


「いや、母さん。あの……」


「昔はね。お父さんを取り合って、親友の夢ちゃんとよく競いあってたのよ。でも、私が海外に行っている間にお父さんを取られちゃってね、そこから色々とドロドロでね。私も結婚して、真白を産んだんだけど、上手くいかなくて、別れちゃったのよ~!」


「あ、うん。何度も聞いたよ。その話は……それでさ……」


「………………」


 母さんが僕の話を聞いてくれない。そして、真白は僕の様子を静かに見ている。


「その後も色々とあってね……夢ちゃんに、お父さんと蓮をお願いって言われたのよ。懐かしいわね~!」


 母さんが僕の顔を至近距離で見て、なぜか喜んで過去の重たい話をテンション高く話している。


 あぁ、ちなみに夢ちゃんというのは、僕を生んでくれた本当の母さんの名前なんだ。


「うん……それでさ。僕がいきなり痩せたことなんだけど。僕、自身もよく分かってないんだ。だから……」


「まぁ、良いんじゃないかしら? 気分転換みたいなやつでしょう? それよりも、お母さん。これからパートだから、真白ちゃんのことをよろしくね。色男君~! フフフ、久しぶりに良いもの見れたわね。じゃあね~!」


「あっ! 待ってよ。母さん、まだ話は終わってな……行っちゃった」


「………………」


 母さんが行っちゃった。あんなテンションが高い母さん久しぶりに見た気がする。


 そして、気まずい。真白は、僕の顔をジーッと見つめて沈黙している。こっちから話しかけてみようかな?


「あ、あの真白……ちょっといいかな?」

「……出かけします……」


 小さい声で真白が何か言ってる。聞き取れなかったけど。なんて言ったんだろう?


「え? 今なんて言ったの? 真白」


「だから、兄さんが本物の兄さんなのか確かめる為に一緒にお出かけします! 良いよね? 兄さん!」


「は? 僕と真白がお出かけ? 何で? そんなまずいよ。出かけてる時に、真白の持病でも悪くなったらどうするのさ! 発作なんて起きたら、僕は心配で……」


「発作はもう起きません! だから、兄さんは私とデー……お出かけします! これは決定事項。お出かけするの!」


 真白は、僕の手を握って玄関の方へと歩き出した。


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