第4話 兄と義妹の絆
嫌だよ。
「ハァ……ハァ……お母さん。急いで!……コホッ……」
「待ちなさい! 真白ちゃん。そんなに急いで走ったら、咳が止まらなくなるわよ! 待って!」
「駄目……急がないと。兄さんが、快斗たちに殺されちゃう」
「蓮が……殺される?」
兄さん……嫌だよ。
(……お兄ちゃん……お父さんが死んじゃ……お父さんが……ゴホッゴホッ)
(泣かないで……落ち着いて、真白。僕が父さんの分まで、真白を守ってあげるから。だから、そんな悲しい顔をしないで)
兄さん……兄さん……死んじゃ嫌だよ!
(お兄ちゃん。快斗さんに、また殴られたの? 昔はあんなに仲が良かったのに……どうして快斗さんは、お兄ちゃんを苛めるの?)
(……快斗にも、色々な事情があるんだよ。大丈夫、僕は身体が普通の人よりも頑丈だから、なんともないよ。それよりも僕は、真白の体調の方が心配だよ)
無事でいて……私の大切な人。
(流石、真白。名門校の特待生だなんて、凄いじゃないか。僕とは全然違うや)
(………違うよ。特待生になれたのも全部。兄さんのお陰。兄さんは私にとっての……)
やだよ、兄さん……こんな理不尽なことで、お別れなんてしたくないよ。お兄ちゃん!
「あそこは……白銀工場があった場所よね?
なんで、パトカーや消防車が止まっているのかしら? ねえ? 真白ちゃん」
私の隣にお母さんが、何か言っている。けど、今の私にお母さんの話を聞いている余裕なんてない。
「………ハァ……ハァ……お兄ちゃん……」
「あら? 真白ちゃん。あれ、蓮じゃないかしら?……その近くには、警察官と女の子……?」
「え?……お兄ちゃん……無事だったの?……コホッ……良かった……お兄ちゃん!」
「あっ! 待ちなさい。真白ちゃん! そんなに走ると、発作が止まらなくなるわよ!」
お母さんが私を心配して、何か言ってくれている。ごめんなさい、お母さん。
今は私の体ことなんてどうでもいいの。
今は……今は、お兄ちゃんが無事ならそれでいいの。
◇◇◇
「倒せた。あの僕をずっと苛めていたやつ等を……快斗をぶん殴っちゃった。手、まだ痛いや」
快斗の顔面を殴ったせいかな?
頭がハイになってる……なっているけど。
「人を初めて殴っちゃったよ。父さん……ごめんなさい」
空を見上げて、一言そう告げる。
死んだ父さんに謝罪するために――――
快斗をぶっ飛ばした数分後、助けた女の子が息を切らして戻ってきた。
息切れしてる、遠くまで行ってたのかな?
「警察と病院に連絡してきました……ハァ……ハァ……この辺一帯は圏外だったので、公衆電話から通報してきました……この人達を、貴方が倒したんですか?」
「いや……自滅したんじゃないかな。興奮して、足を滑らせて顔面から転んだんだよ。きっとね」
「足を滑らせて顔面をですか……それにしては、殴られた後がありますね」
「気のせいじゃないか? それよりも、これを着てくれないかな?……その、目のやり場困るからさ」
女の子が着ている制服は、あっちこっちナイフか何かで切られた後がある。
着ているというよりも、制服の切れ端を羽織っているに近い。
僕は、着ていた上着のパーカーを脱いで彼女に手渡した。
冬場にTシャツ一枚は寒いけど、この子に恥ずかしい思いはさせたくない。
「目のやり場ですか?……きゃあ/// ごめんなさい。私としたことが、気づけなくて、すみません」
「いや、こちらこそ。すぐに渡せなくてごめん」
「いえ、こちらこそ、危ないところを助けて頂きありがとうございました。私の名前は、西蓮寺澪と申します」
西蓮寺澪? 西蓮寺澪っていったら、雑誌モデルや女優で活躍している有名人じゃないか。真白がファンの女優さんだ。
雑誌を僕に見せて、私もこうなりたいってよく言ってるもんね。
どおりで、どこかで見たことある顔だと思ったんだ。
「……あの、お名前をお聞かせ頂いてもよろしいですか?」
「え? 僕のかい?……その? なんでだい? こんな醜い体型の僕なんか名前なんて、知っても……」
「私の命恩人さんが、そんなことを言わないで下さい。貴方の体型は、とても魅力的だと思いますし。貴方は私にとっての英雄です。ですので、貴方のお名前を教えて頂けませんか? 騎士さま」
悪戯っぽく笑いながら、僕を見つめる女の子。スカートの両端も摘まんで、異世界のお姫様がよくやるポーズをしている。
この場を和ませるために言ってくれたんだと思う。
そして、その効果はあったよ。僕の心を少しドキッとさせて、ぐちゃぐちゃだった心を少し落ち着かせてくれたんだ。
「白銀……白銀蓮です。よろしく」
「白銀ね?……白銀蓮さんですね! 分かりました。貴方のお名前は一生忘れません! 大恩人さんですから!」
名前を教えただけで喜ばれるなんて、そんなことが、この世の中にあるんだね。知らなかったよ。
「……この人達。どうしましょうか?」
「多分、半日は起きないと思うから、このままでも大丈夫だよ。そうなるように、ちゃんと手加減して倒したからね」
「は、はぁ……分かりました。白銀くんが、そういうならそうなんですね。(倒しちゃったて、私に言ってよかったんでしょうか? 白銀くん)」
その後は、西蓮寺さんと話しているうちに、警察と救急車が来て、僕は、西蓮寺と一緒に事情聴取を警察から受けていたんだ。
「なるほどねぇ。登校中、異能使いの天草快斗とその仲間達に、拉致されて廃工場に連れ込まれたと……西蓮寺家のご令嬢様が……馬鹿か。こいつ等は?」
「はい。その拉致現場を目撃した白銀くんが私を助けようとしてくれたんですが。一緒に捕まってしまい、通りかかった正義の味方が、彼等を倒して去っていったんです」
「正義の味方ねぇ……なるほど?」
事情聴取をする警察官の人が、どこか納得していない顔をしている。
西蓮寺さんいわく、異能やスキルを使える子供は地球では珍しい為、自分の異能の力を悪い大人に利用される可能性があるとか。
だから、僕が異能やスキルを使って快斗達を倒したのは、西蓮寺さんと話し合って、隠しておくことにしたんだ。
「ふむ……色々と腑に落ちませんけどねぇ。こいつ等がやった、犯罪を暴いた方が利益がありそうだし。聞くのは止しときます」
「……そうですか。それはなによりです」
西蓮寺さんと警察官が、顔は笑っているのに。
火花を散らしているようにしか見えない……あー、早く帰って真白のところに戻らないといけないのに。
「西蓮寺家の令嬢の誘拐、強姦未遂、異能も使えない一般人への暴行、不法侵入、異能の違反発動…………殺人か。大犯罪者ともだねぇ。コイツらは……最悪最悪と……」
「え? 警察官さん。今、殺人っていいました」
僕の聞き間違いかな? なんで、快斗がやった殺人を警察官が知っているんだ?
「ん? いや、これは失礼……失言ですよぉ。失言……聞こえたのなら忘れて下さいよぉ。あたしぃの名前は黒木メイヤ。なにか困ったら頼ってくれてもいいんでねぇ。蓮くん。君のお父さん。白銀さんの仇を取ってくれて、ありがとうございました」
怪しく笑う警察官さん……なんで僕の父さんのことを、白銀さんなんて言うんだろう?
……この警察官、だんだん怪しい人に思えてきた。
「黒木さん。アナタはいったい…」
警察官に質問しようとした瞬間。背中に誰か抱きついてきた。
「兄さん! 無事だったの? 心配したんだからね!」
「真白? なんで、真白がこんな、ところにいるんだよ。家で安静にしてろって言ってたじゃないか!」
「うん、言われたね。言われたけど……それよりも、私は兄さんが心配で心配で仕方なかったの! 本気で心配だったんだから。死んじゃったんじゃないかと思ったの………生きててくれて、本当に良かった……うぅぅ……」
「真白……ごめん」
真白は、僕に抱きついてたまま泣き出してしまった。
しまったな。
真白に心配かけないために、一人でここまで来たのに、まさか追いかけてくるなんて思いもしなかった。
「白銀くん、良かったですね。妹さんを守れて……(グスンッ)」
「………西蓮寺さん。申し訳ないですけどねぇ。署まで事情聴取の続きいいですかね?」
「えぇ、行きます。ちゃんと彼等に受けたことを全部話します。それに、家族との感動の再会を邪魔するのも野暮ですから」
「……そうですねぇ。それじゃあ、白銀くん。また、どこかで会えたら楽しくお話しましょうぉ。アイディオ~ス」
「失礼します、白銀くん。今回、助けて頂いたこと、必ず貴方に報いると誓います。本当にありがとうございました」
西蓮寺さんと黒木は、僕に別れを告げた。その後、2人でパトカーへと歩き始めた。
「あ、うん。さようなら、西蓮寺さん。黒木さん」
「……ハァ……ハァ……あ~! 蓮、居た~! ちょっと! いきなり、家から出ていって、心配したのよ! おまけに、真白ちゃんまで、家を飛び出してくし。お母さん、心配したんだからね!」
「えっと?……母さんまで、来たの? なんで?」
息切れさせて、疲れきった顔で僕たちの方へと、母さんが向かって来る。
「大切な家族だからに決まってるでしょう! 全くもう。心配かけないでよね! 心臓に悪いんだから!」
「ご、ごめんなさい。母さん……以後、気をつけるよ」
「そんなの当たり前でしょう~! 本当に心配したのよ~! ねぇ? 真白ちゃん」
「うん……すごくすごく心配したんだよ。兄さん……生きててくれて本当にありがとう」
「真白……母さん……うん。心配してくれて本当にありがとう」
僕と真白は、涙を流してお礼を言い合った。そして、母さんはそんな僕たちに優しく抱きかかえて、一緒になって泣いていた………
◇◇◇
ここは、西蓮寺財閥が所有する都内のホテルの一角。現在、この場所で密談が行われていた。
「なに? 澪が攫われて、強姦されそうになっただと!? 澪は! 澪は無事だったのか?」
「は、はい! 通りすがりの異能使いに助けられ、現在は警察署で事情聴取を受けています」
「……そうか。娘が無事で良かった。取り乱してすまんな。金子君」
「い、いえ、お子さんがそんな目にあわされたら、誰でもそうなりますよ。西蓮寺会長」
さっきまで、か細い男性の胸ぐらを掴んでいたのは、大企業西蓮寺グループ会長の西蓮寺扇。西蓮寺澪の実の父親である。
そして、か細い男は、とある学校の教師。田中一郎という男である。
「それで? 娘を攫った奴らの名前や職業は掴んでいるのか? 人数は?」
「はい、勿論……西蓮寺澪さんを攫った人数は、合計5人です。主犯格は天草快斗、天草財閥の次期社長になる予定の男です」
「天草財閥の子供だと!?……あの不良息子か…あのクソガキ。俺の可愛い娘になんてことを…潰す……どんな手を使っても……潰してやる。天草のクソガキ」
西蓮寺扇は、数いる子供達の中でも、澪のことをとくに溺愛していた。その怒りは、怒髪天を軽々と超えた。
「あの……先ほどのお話に戻りますが。やはり、異能の力がある澪さんには、ぜひ我が校のカリキュラムを受けて頂きたいのです。それに我が校は、あらゆる最新のセキュリティがありまして……才能ある西蓮寺澪さんには、ぜひともご入学を……」
「つまり金か……いくら必要なんだ? 経営不振か?どれくらい必要なんだ?」
「い、いえいえ、そうではありません! 西蓮寺会長の娘さん。西蓮寺澪さんには、才能があります。ですので、どうか我が校に入学を! 異能者育成学校……への入学をして頂きたいのです!」
田中一郎は、西蓮寺扇に向かって土下座をした。床へと頭をつけて、全力の土下座である。
「澪を異能者の教育学校に入学か……なら、権利もうちで買い取ろう」
「……へ? 西蓮寺会長。今、なんとおっしゃいましたか?」
「だから、その異能者育成学校の権利を俺が買い取る。学校名も西蓮寺澪高等学校にするか?……いや、それでは、澪に怒られるな。西蓮寺高等学校だな。これで、決まりだ」
西蓮寺扇は、一度決めたことは覆さない男である。
「い、いえ、あのですね。西蓮寺会長……そのような勝手なことは……たしかに、我が校は年々資金繰りがですね……」
「もう決めたことだ。逆らうな! 俺がルールだ。さぁ、これから俺の娘が、快適に高校生活を過ごせるようにしていくぞ。そして、お前は馬車馬のように働け。田中」
「ひ、ひいぃ!! 畏まりました! 西蓮寺会長!!」
「馬鹿野郎。俺は会長ではない。今度から俺のことは、西蓮寺校長と呼べ。田中!」
「ひいぃ!! そ、そんなぁぁ!!」
……こうして異能者育成学校は、西蓮寺扇の手に落ちた。
◇◇◇
場面代わり、ここは異世界”ステラ” 白銀の館の近くの森の中。現在ここには、リゲル王国の騎士団が駐留していた。
「……可笑しい」
「どうされました? アグニル騎士団長」
「いや、新人騎士達の鍛練のために、ベビースライムをおびき寄せているんだが。全然姿を見せないんだ。リール」
「あんなどこにでも繁殖するベビースライムがですか? そんなこと起こるわけないじゃないですか。働き過ぎて疲れてるじゃないですか? アグニル騎士団長」
リゲル王国が誇る、リゲル騎士団を率いる、アグニル騎士団長と副団長のリールは困惑していた。
リゲル王国に、どこにでもいるはずのベビースライムが一切見当たらない為である。
「いや~! 昨日の訓練の時はいっぱい居たんですけどね。どこにいったんですかね?」
「こんなこと、リゲル王国の歴史で起こったことがあるか? シロガネの森周囲一帯とはいえ、危険度最低値のベビースライムが現れないなんて」
「だから誰かに狩りつくされたんですよ。西の国の彷徨いエルフとかに」
「……奴が居なくなったのは、2日前のことと聞いたぞ。それならば、まだリゲル王国へは辿りつけないだろう」
「……ですね。どうします? そんなに気になるなら、シロガネの森一帯を騎士団で調査しますか?」
最初は楽観視していたリールも、アグニルの深刻そうな表情を見て、考え方を変えた。
昨日の夜、シロガネの森では何かの異変があった。
全滅するはずがない。
1万匹は軽く生息していたベビースライムの行方はどこにいったのかと。
「ベビースライムの核の中には、時たまレアドロップアイテムで、万能薬にもなる『白透明のジュレ』がある。それを狙っての乱獲討伐だった場合、もしも敵国に『白透明のジュレ』を奪われた場合どうなると思う? リール」
「その国に莫大な利益に繋がりますね。それだけじゃない。いくら、どこにでも居るベビースライムでも、凄まじい量のドロップアイテムです。売れば一財産稼げますね」
「ポーションにも加工できるからな……独占されたら厄介だ。ベビースライムを乱獲した奴を突き止めよう。リゲル王都には、そう伝えるように」
「……はい、アグニル騎士団長」
先ほどの緩かった空気は消えた。
リゲル騎士団は、ベビースライムの乱獲した犯人を探す為。シロガネの森を大捜索することに決まったのだった。
◇◇◇
〖天草財閥の御曹司であり、異能者、天草快斗容疑者及び、その仲間達が引き起こした誘拐事件ですが、取り調べが進むに連れて、これが初犯でないことが分かり。番組が独自に取材で警察側は、天草快斗容疑者は、過去に殺人を何度も繰り返していたとのことです。これにより、天草財閥は………〗
テレビから、快斗が引き起こした誘拐事件について流れてくる。
どのチャンネルを流しても、天草財閥か快斗がこれまで起こした事件の特集ばかり放送しているんだ。
「……快斗さんのニュースばかりだね。兄さん」
「うん……とんでもない事ばかりやってたんだね。快斗達」
流れているニュースを、真白と一緒にボーッと見ている。
快斗が捕まったことで、平和になった日々。脅しも苛めもない穏やかな日々が、ここ数日続いている。
「そういえば、母さんはどうしたんだい? 工場の仕事は夕方からだろう?」
「分からないよ。お母さん、最近は市役所に行って忙しそうにしてるんだもん」
「市役所?……なんで?」
「ん~? 権利が返ってきたって喜んでたかな」
「権利?」
「うん……凄く喜んでた」
権利って何? どういうことだろう。凄く気になるな。
「……そんな事よりも。真白、布団で寝てなくていいの? 僕と一緒にテレビなんか見たいたら、持病が悪化して」
「それがね。兄さん! 真白、最近、すごくすごく体調が良いの!」
真白がいきなり僕との距離を詰めてきた。つうか、速……真白って、こんなに俊敏に動けたっけな?
「うわぉ! なんで、いきなり近づいてくるんだよ。びっくりするなぁ」
「あ! ごめんなさい。兄さん………だからね。真白、日に日に元気になってる気がするんだ。ふんっ!」
腕の筋肉なんて、あんまりないくせに力こぶを作ってるよ。可愛い妹だな。ハハハ……
「それは良かったね」
〖それでは、貴方はダイエットをしましょう〗
「……それは良くないね~! 絶対に嫌だよ」
「? 兄さん。誰と会話しているの?」
数日前から、僕の脳内に響き渡るの呪いの言葉。
〖妹の真白さんも、元気になりました。次は貴方の番です。マスター白銀蓮、太りすぎからの脱却を進言します〗
「……とんでもないことを言うんじゃないよ、イヴさん。僕はデブ。僕のアイデンティティを崩壊させないでほしいな」
〖これは決定事項です。マスター白銀蓮のダイエットを異世界”ステラ”で行います〗
「はあぁぁ!? 嫌だよそんなの!」
「?……だから、誰と話しているの? 兄さん」
こうして、僕は異世界にもう一度行って、ダイエットすることが決まったんだ。




