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第3話 一夜漬けの英雄


 真白……


(ほら、蓮。新しい家族の雪乃さんと真白ちゃんだ。仲良くするんだぞ)


(うん、父さん……白銀蓮です。よろしくね)


(雪乃です。これからよろしくね。蓮くん)


(……ゴホッ……真白っていいます。これからよろしくお願いします。蓮さん)


 今、待っててくれ真白。兄さんがきっと……


(蓮、真昼。驚かないでね……お父さんが、死体で見つかったんですって、警察からは自殺って連絡がきたの)


(待って、母さん! 父さんはそんな人じゃない! 父さんは自殺するような人じゃないよ!)



(お父さんが自殺?……ゴホッ……ゴホッ……)


(真白!? 母さん。いきなり真白の発作が!)


(私がお父さんのことを伝えたせいで……すぐに救急車を呼びましょう!)


 真白が、明るく暮らせる未来を作ってやるから!


(……私の代わりに、いつもいつも酷い目にあわせてごめんね。兄さん)


(なにいってんだよ。僕たちは家族じゃないか、なんでも頼ってくれていいんだよ。真白……)


 異世界での特訓中、ずっと家族のことを考えていた。

 

 とくに真白とのこと……昔のことを……渡さない。

 

 守り抜く、絶対に快斗の奴にこれ以上、家族を奪われてなるものか!




 廃工場に着く三時間前、僕はまだ異世界側で修行に励んでいたんだ。


「ありがとう、色々と助かったよ。少し痩せられたし。昨日の自分よりも良くなれた」


〖はい、それは良かったです。一夜だけの特訓でしたが、貴方の強くなりたいという信念と欲望を垣間見れて楽しかったです〗


「……もう、異世界なんて来ないよ。さようなら、イヴさん」


〖…………いえ、私は地球でも、マスターのサポート役です。これからも末長くよろしくお願いします〗

「え?」


 異世界での特訓が終わった後、スキル【世界渡り】で地球へと帰還したんだ。


 その後は、母さんと真白の分の朝食を作って、真白の体調を確認するために部屋に向かった。


「真白、ただいま。昨日の夜は、心配かけたね」


「……おはよう、兄さん。私、やっぱり兄さんを殺されたくない……だから、これから快斗さんの所に行く……ね……」


 悲しそうな顔をしないでくれよ。


 真白……そんな表情を俺は見たくない。


 いつも朝の挨拶をしてくれる時は、もっと明るいはずなのに。

 これもすべて、快斗からの手紙が原因だ。


「いや、その心配はないよ。快斗の件は真白、僕がなんとかしてくる。真白は、母さんと家で待機していてくれ」


「つっ! なんとかするって、無茶だよ! あの人は異能の力があるんだよ。だから……ゴホッゴホッ!!」


「興奮しすぎだよ。横になって休んでるんだ。真白……大丈夫。もう、弱かった昨日の僕じゃないんだから」


 興奮しすぎて、また持病の発作が……【回復】発動。


「ゴホッ……え? 兄さん……あれ? 私の身体……」

 

 これで少しは、真白の体調も良くなったかな……早く、精神的に楽にしてあげないと身体にも影響が出てくる。急いで快斗たちの所に行かないと。


「快斗たちの所に行ってくるよ。真白は、母さんと一緒に家いるんだぞ。後のことは兄さんがなんとかしてやるから……」


「ゴホッ……待ってよ。兄さん! 行っちゃだめ! 兄さんが快斗さんの所に行ったら殺されちゃう………」


 静かに真白の部屋を後にする。


 真白には悪いけど、今回の手紙や僕への殺害の件は、人間としての許容範囲を越えているよ。


 今回ばかりは許さない。

 ずっと我慢してきたけど、もう無理だ。今日は、快斗たちに反撃する。


「おはよう。蓮、朝ごはん作ってくれたのね。ありがとう。昨日はごめんね。残業のせいで遅くなっちゃったの」


「母さん……おはよう。ちょっと出かけてくるから。真白のことをよろしくね」


「蓮?」


「終わらせてくれるよ。色々と……」


 僕は、母さんにそう伝えて外へと出た。


 そして、庭に落ちていたある物を回収し。廃工場へと向かう。


「行っちゃった……終わらせる? 何をかしら? それにあの子。昨日より、少し痩せたかしら?」


「……コホッ……お母さん。兄さんが……」


「真白ちゃん? 貴女、動いて大丈夫なの? また、いつ発作が起きるか分からないんだから、布団で横になっていないと駄目じゃない!」


「コホッ……うん。でも、大丈夫だよ。さっきよりも体の調子がいいの。それよりもお母さん、兄さんが……」




◇◇◇


 数十分走って、廃工場に着いた。昨日みたいな息切れはなし。


 昔、父さんが経営していた工場。

 天草財閥に買い取られるまでは稼働していた工場。


「その後、父さんは天草会長に気に入られて、天草財閥の経営する会社の社長になるはずだった。それを知った快斗は……いや、今考えることじゃない。戦いに集中しないと。サポートよろしくね。イヴさん」


〖…………はい、マスター〗


 イヴさんは、僕が一人の時にしか話しかけてこない。

 僕が家にいる時も、静かに家族のやり取りを見ていたんだ。


「………おい! 真白はどうした? なんで、テメエがここに来るんだ? クソ豚野郎」


「快斗。手紙を見たよ」


「あん!? 勝手に俺の顔を見て喋ってんじゃなねえぞ。豚! 俺の真白は、どうしたって聞いてんだよ! 豚!」


「真白は来ないよ、代わりに僕が来た。君をこらしめる為に」


「何言ってんだ? テメエ……醜い豚野郎が調子に乗りやがって、ぶっ殺すぞ!」


 快斗がキレて、近くにおいてあったドラム缶をおもいっきり蹴りあげた。



 大丈夫、怖くない。


 もう怖がらない。


 僕は心まで快斗に負けてない。


 だって、僕は家族を……真白を守らないといけない。


 なんたって僕は、真白のお兄ちゃんなんだから。


「……テメエ、何だ? その覚悟が決まったみたいなつらは、その面やめろ。テメエの親父みたいに見えて腹が立つ」


「父さんの最後も、こんな顔をしていたのかい? 快斗。君は現場にいたんだもんね。それは忘れられない記憶になるよね」


「豚……テメエ。やっぱり知ってたな。殺す」

「やれるものなら、やってみろ。僕は、もう我慢しない。君を絶対に許さない」


 お互い、怒りの感情をぶつけ睨み合う。


 すると、快斗の仲間たちが僕へと話しかけてきた。


「おいおい。豚君なんだよ。反抗的な、その目つき? 昨日、俺らにボコられたこと忘れちゃったの? なぁ? おい!」


「止めとけ、止めとけ。豚が人語を、喋れるわけないだろう。なあ? 豚野郎。ブーブー!」


「「ギャハハ!!おもしれぇ!!」」


 いつも、快斗と一緒にいる4人が僕を見て、大笑いする。

2人が女の子を拘束、もう2人は女の服を脱がしている?


「………貴方達。下品過ぎます。人の容姿をそんなに酷く言うなんて……最低です」


「何を言ってんだよ。マドンナちゃん、これから俺達とずっと楽しいことをするんだろう?」


「日が暮れるまで遊んでやるから、覚悟しときな。可愛い子ちゃん。ギャハハ!!」


「つっ! 何もかも最低な人達ですね」


 あの顔。

 昨日の夜の真白みたいに諦めたような顔だ。

 

 そうか、あの女の子も真白みたいに脅されて連れてこられたのか。こいつ等は本当に……


 女の子を人質に取られてると色々と不味い。先に女の子を助けて、逃がしてあげないと。


〈投擲レベル10〉発動。


「これが〈投石レベル1〉から進化して、強くなった石投げだよっ!」


「!? 豚!テメエ! なにを勝手に動いてんだ! おい!」


 快斗に気づかれたけど、もう遅い。


 僕は快斗の子分二人に向けて、懐にしまっていたテニスボールを投げつけた。


「ハハハ! ブーが何か投げ……がばぁ!?」

「何か投げた? 豚君に投球なんてできるわけないだ……ごあぁ!?」

「……え? な、何が起こったですか?」


 全力で投げてしまうと、顔面を骨折させてしまう可能性を配慮して力を抑えたけど。

 テニスボールが顔面に当たった瞬間、うめき声上げて意識を失った。


「君、今のうちに逃げて! そして、警察と救急車を呼んでくれないかな」


「えっと……でも、貴方はどうするんですか?」


「僕は、コイツらに用事があるんだ!いいから、早く逃げて大人を連れてきてよ!」


「……わ、分かりました。助けてくれて、ありがとうございます!このご恩は必ず返しますので……」


 捕まっていた女の子に声をかける。


 見たところ、新宿西中の制服を着ているから、登校中に快斗たちにさらわれたんだろうね。


「はぁ~! 俺達が逃がすと思ってんの? 君みたいな上玉の女の子を…さぎゃぁ!?」


「そうそう。大人しくから…だぎゃあ!?」


 僕の方に背を向けて、女の子を追いかけようと残りの二人が動きだしたので、油断していると思ってテニスボールを今度は勢いよく投げた。


 2人は、気絶して地面へと這いつくばる。


「木村、伴田、何をやってんだ! こんな豚野郎の攻撃で……テメエ!! 何をした? ごらあぁ!!」

 

 仲間4人を簡単に無力化されて、怒り狂った快斗が僕へと殴りかかってくる。


「……遅いよ。快斗」


 〈徒手空拳レベル10〉。

 昨日の夜、ベビースライムを小石で、ずっと叩きつけていた、〈拳術レベル1〉が進化して得られたスキルだ。


 このスキルを使えば、昨日まで拳の技を一切使えなかった僕でも……


「スゥー………」


 快斗との間合いを見極めて、カウンター攻撃のタイミングを見極める。


 まだ……まだ……まだだ。


 ギリギリを見極めろ……一番のタイミングで渾身の一撃を叩き込むために。

 

「ハハハ!! なんだ? 豚がいっちょ前に拳法家気取りか? 笑わせんじゃねえぞ。蓮の分際でよう! 異能『硬化』。いつもみたいに、テメエは俺のサンドバックになってりゃあ、良いんだよ! 調子に乗るんじゃねえぇ!!」


「……ここ! 『王虎おうこ』」


 八極拳に似た動きで、雑な快斗の攻撃を受け流し。強烈な一撃を快斗の腹部へと決めた。


「馬鹿か? 異能で全身を硬化させた俺にそんな、肉デブの攻撃が当たるわけ……があぁぁぁ!!痛えぇぇ!!」


 快斗の口の中から、唾液が止めどなく溢れて出てくる。


 両手で腹部を抑え身もだえしながら、地面を転がり始めた。


「はぁはぁ……この……クソ豚野郎!!……何だ? その力は? 昨日は、さんざんぶっ飛ばしてやったのに……たった一夜で、俺の硬化を破る力を……おえぇぇぇ!!」


 腹部の痛みが激しかったせいで、胃にあった物を吐き出し始めた。

 あと数発殴打すれば、気絶しそうだな。


「過去の罪を認めて、仲間たちと一緒に自首しなよ快斗。それと、僕や真白……いや、僕の家族、関係者に手を出したから、君をこの世界から消す」


 ドスの効いた声で、地面に跪いた状態の快斗へと告げる。昨日の段階では、言えなかった言葉を。


「クソ豚野郎の……蓮の分際で俺を見下ろすな。ぶっ殺すぞ!……おえぇぇぇ!!」


 また、吐き始めた。

 鋭い目つきで睨んできても怯まない。


 おそらく、快斗は真白を強姦した後、僕を殺そうとしたんだろう。


 真白が見ている前で、僕を殺そうとしたんだ。


「さっき逃がした女の子が、警察を呼んでくる。そうしたら、君達の人生は終わる。異能者が一般人に手をだしたんだ……それに君達は《《人殺し》》。異能者の殺人は無期懲役が現代異能社会の常識……一生、冷たい牢屋の中で過ごすといいよ。快斗くん」

「……うぇぇ!! 吐き気が止まらねえ……クソォォ……蓮……テメエエェェ!!」


 すこし、挑発気味に告げた。

 自分の父親を殺されているだ。それくらいは言う権利は僕にもある。


「さよなら、快斗。僕は遠くで君達がどうなるかを見ているよ……それと、真白には一生近づくな。近づいた瞬間、僕がお前の息の根を止める」

「うるせえぇぇ!! うるせえぇぇんだよ!!! 豚野郎!! 『硬化』+〈殴りレベル1〉。死ねえぇええやあぁぁ!!クソォ豚野郎おおォォ!!」


 いきなり立ち上がった快斗が、僕に向かって殴りかかってくる。右手を黒く染まっている。


「だから遅いって……〈かみこぶしレベル1〉―――」


 僕の右手が真っ赤に燃える。快斗を倒せと轟き叫んだ。


「オラアァァ!!豚ああぁぁ!!」


「僕は豚じゃないか! 白銀蓮……真白のお兄ちゃんだあぁぁ!! 快斗おぉぉ!!」


 快斗の不規則な動きを簡単にかわし、快斗の懐へと入る。


 そして、喰らわせたのは、黄金の拳。拳術スキルの最大の『極限』と『技巧』を合わせた必殺の一撃。


「『黄金拳』」


「がはぁ!? 何だ? 豚野郎のこの力はぁ!?………ぎゃあああああ!!!」


 快斗の顎へと喰らわせた。

 そして、快斗は声にならない声で叫びながら、宙へと吹き飛んだんだ。


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