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1.三分間の冒険

初投稿です。ゆっくり書いていきます。よろしくお願いします。

「おや、目を覚ましたようじゃな」


 まぶたを開けると、金ピカな天井が視界に飛び込んできた。

 比喩じゃない。天井は一面の金色だった。

 金の雲の彫刻が流れるような躍動感であしらってあり、金の翼と金の肌を持つ二頭身の萌えキャラっぽい彫像があちこちに彫られている。

 偶然そう見えるだけか、あるいはそう設計してあるのか、無数の二頭身の彫像は揃って巨大にデフォルメされた瞳を俺に向けていた。


 あまりの眩しさに目を細めながら上体を起こす。遅れて、俺はこれまで床に寝かされていたことを知った。


 そこは見るからに豪華な部屋だった。シャンデリアが吊り下げられ、壁にかかった巨大なタペスリーには国が徐々に豊かになってゆく経過を記したらしき物語が語られている。

 中央には金ピカの椅子にふくよかなおっさんが座っており、彼を仰ぐように数人の黒いローブを被ったコスプレの人々が控えていた。どうやら、俺は彼らに水をかけられて起こされたらしい。


「ここは?」

「ようこそ。勇者様。ここは異世界じゃ。貴殿は異世界に召喚されたのじゃ。朕たちの視点で言うと、貴殿が異世界から召喚されてきたとも言えるな」


 これまた金ピカの椅子に座り、金ピカの糸を編み込んだ服を纏ったおっさんが答えた。

 ん? 今、このおっさん、なんて言った?


「今、異世界と言ったか?」

「そうじゃ。異世界じゃ。貴殿の世界で幻想とされてきた魔法が存在し、亜人が人間と手を取り合って暮らし、人を脅かす魔獣が闊歩する、異世界じゃ。そして、この世界の人類は魔王によって危機に立たされておる。貴殿を召喚したのは他でもない。魔王との戦いに協力を願いたいのじゃ」


「た、戦いだってッ!? 親父にも殴られたことのない俺に、人を殺せというのか?!」

「いや、相手は人ではない。まずは落ち着きなさい。戦いの相手は人ではない。

 魔王とその配下の魔族たちじゃ。残虐で冷酷で、心を持たない異形の怪物じゃ。

 彼奴等は圧倒的な魔法の力で人類の生存圏を侵しておる。

 貴殿にはこれから、彼奴等を退治する旅に出てもらう」


「た、旅だって!? 一人で旅行したことのない俺に、一人で旅行しろというのか?!」

「旅行ではない。魔王討伐の旅じゃ。

 望むなら王国最強の騎士も供につけよう。

 しかし、それでも旅は辛く険しいものになるだろう。

 魔族は恐ろしく強い。単体で国家の全軍事力に相当すると言われるほどじゃ。

 まして、その首魁たる魔王ならば尚更だろう」


「そ、そんな強大な敵を相手に、一体どう立ち向かえっていうんだ。俺は何の特技もない、ただのイケメンだぞ」

 絶望に沈み俯く俺に、金ピカのおっさん(どうやら取り巻きの様子を見るに王様らしい)までも顔を曇らせる。

 その間を埋めるように、隣にいた白い修道衣と白髪のおっさんが口を開く。


「多くの召喚者たちは、異世界からの召喚時に女神様から恩寵を授かります。

 恩寵に恵まれた者は、魔術とも科学とも違う、自然法則を超えた超越的な力を操るのです。

 我々は声を『女神の祝福』と呼びますが、あなた方の世界の言葉でわかりやすく言うと『スキル』というものです。

 そのスキルによっては、魔族と互角に戦うことも夢ではないかもしれない」


 いや、つまりスキルなんてものがあったとて基本的には魔族より弱いってこと?

 それに、魔族と互角になったところで、魔王はそれよりもっと強いんだろう?

 そんなの、やっぱり無理ゲーじゃんか。


 白いおっさんは懐から手のひらサイズの青い水晶玉を取り出した。

「さあ、手を出して。女神の祝福を鑑定するアイテムです」

 そして、有無を言わさず俺の手を取り、澄んだ色の球体の上にかける。


 俺の手が触れるや否や、水晶玉に文字が浮かび上がった。


「あ、あれ......。おかしい。あれ? こんなはずじゃないんだけどな」

 それを見た白いおっさんの顔はみるみるうちに冷や汗をかき、白く変色してゆく。

 何々? 怖いこと言わないでよ。俺の体どこか変なのかと思っちゃうじゃない。


 怖くなって俺もその水晶玉を覗き見ると、言葉を失った。


『No. 1 【豪運】

 No. 2 【無限魔力】

 No. 3 【無限体力】

 No. 4 【全魔術網羅】

 No. 5 【毎秒レベルアップ】

 No. 6 【毎秒残機増加】

 No. 7 【不老不死】

 No. 8 【超再生】

 No. 9 【無敵状態】

 No. 10 【火山召喚】

 【以下、省略】』


「いや、省略すんなよ!」


 省略の部分をタッチすると、どうやら下にスクロールできるようだった。

 スクロール、スクロール、スクロール。

 それでもなかなかスキル一覧は止まらない。

 ようやく最下部に辿り着き、その左に記された数字を読み上げる。


「......100」

「ひゃ、ひゃくぅ?」

 王様がポカンと口を開けている。


「総数、百! すべてSSS級レベルの祝福です!」


 白いおっさんが悲鳴混じりに叫ぶと、王の間は騒然となった。


「多すぎじゃろ......」

「嘘に決まっている」

「故障しているのだ!」


 誰かが測定ミスの可能性を疑うと、すぐさま白いおっさんの部下らしき人間が新しい水晶玉を取りに部屋を出た。

 誰もがスキル鑑定の結果を信じていなかった。

 スキルが超自然的な力を司るものとは言っても、これほどあからさまに強力なものなど、信じられるはずもなかった。


 俺はその間もスキルをスクロールしていた。

 そして、あるスキルに目が留まると、俺はあんぐりと口を開けた。

 白いおっさんもそのスキル名を見ると、顎を外すほど口を開けて喉の奥からカエルみたいな声を出した。


『No. 35 【魔王消滅】

 説明:この世界で猛威を振るう魔王を消滅させるボタン。人間工学を追求した押しやすくかつ押したくなるデザイン。一万回押しても壊れない耐久性は折り紙付き。』


 そんなのあり?

 さっき始まったばかりの異世界召喚物語、このスキルで終わっちゃうよ。

 この世界の人たち、魔王との戦いで数百年も消耗してたんでしょう。

 こんなぽっと出の男の指先一つで平和になっていいの?


 ってかなんなんだよ、人間工学を追求したデザインって。一万回押しても壊れないって。

 魔王を消滅するボタンは一回押せば十分だよ。


 俺はおそるおそる手を上げて、未だに騒然としている王の間の人々の注目を促した。


「あのー。今から魔王倒すね。そしたら、旅とか出なくても良いでしょ?」

「な、何を言うのじゃ......」

「これからスキルを一つ使うから、それがうまく作用したら、俺のスキルは本物ってことで」


 そして、俺は空中に現れた赤いボタンを押した。

 指が吸い込まれるように押しやすく、指先の触れる面が柔らかに歪曲していて、何度でも押したくなるようなボタンだった。


 --次の瞬間。


 高窓から見えていた灰色の空が、一瞬にして白い光に包まれた。

 光は窓から入って王の間に降り注ぎ世界からあらゆる色彩を消していった。

 金ピカの王様も、白いおっさんも、黒いローブの陰気な人たちも、白い光の中では形すらわからない。

 ただ一箇所だけ、天井の金色の萌えキャラたちだけが、巨大な目を反射させている。


 若干遅れて、地面を揺らす爆発音が響く。建物全体が軋み、柱がぎぃぎぃと音を立てる。

 しばらく揺れが続き、ようやく静まったかと思うと、大扉の開く音がした。


「申し上げます!」

 空間を満たしていた光が消え、目が普段の明るさに慣れると、そこにいたのは銀の甲冑を着た兵士だった。

「王国各地から連絡です! 空を覆っていた魔王の毒の灰が消えました! オエテラ火山の活動が休止しました! 巨大隕石が魔王城に落下しました! 魔王が、死滅しました!」


 王様や白いおっさんたちが恐る恐る俺に視線を移す。

「え、え、英雄、じゃ?」

「まさに......女神様の化身」


 ええ......マジ?

 本当にあのボタン一つで魔王死んじゃったの?


 ボタン一つ押すために俺は異世界に呼ばれただけじゃん。

 参ったな。この先、どうしよ。


 こうして、俺は異世界に召喚されて三分で魔王を倒し、世界を救った勇者となったのだった。

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