雨宿りの夜
夕立は、予告もなく降ってきた。
駅まであと数分だったのに、空は一気に暗くなって、雨粒が叩きつけるように落ちてくる。
「最悪……」
悠真が舌打ちするより早く、怜央は彼の手首を掴んだ。
「こっち!」
引っ張られるまま逃げ込んだ先は、小さな神社の軒先だった。
屋根は低く、二人で立つには少し狭い。
肩と肩が、自然に触れ合う距離。
「……近いな」
悠真が言うと、怜央は肩をすくめた。
「仕方ないだろ。濡れるよりマシ」
制服のシャツは少し湿って、肌に貼り付く。
怜央が動くたび、腕が擦れて、悠真の胸が妙にざわついた。
沈黙を破るように、ぽつりと怜央が言う。
「おまえさ、最近…俺のこと避けてる?」
「は?」
悠真は思わず視線を逸らした。
図星だった。
「避けてねぇよ。ただ……」
言葉に詰まる。
近すぎる距離と、雨音が、余計に心臓をうるさくする。
「ただ?」
怜央が一歩、距離を詰めた。
もう、逃げ場はない。
「……近くにいると、変なこと考えるだけだ」
言った瞬間、怜央の目が少し見開かれる。
それから、小さく息を吐いた。
「奇遇だな。俺もだよ」
ぽつ、ぽつ、と雨が石段を打つ音だけが響く。
怜央が、ゆっくりと悠真の頬に触れた。
「触るの、嫌なら言え」
指先が、熱を帯びている。
悠真は一瞬ためらってから、首を振った。
「……今だけなら」
その言葉を待っていたみたいに、怜央が距離を詰める。
唇が触れるか触れないか、ぎりぎりで止まる。
「キスも?」
低く、確かめる声。
「……軽くなら」
次の瞬間、ほんの一秒だけ、唇が重なった。
深くもなく、激しくもない。
ただ、確かに“好き”が伝わるキス。
離れたあと、二人とも黙っていた。
雨は、まだ降り続いている。
「……雨、止まないな」
悠真が言うと、怜央は照れ隠しみたいに笑った。
「止むまで、ここにいよーぜ」
肩が触れ合ったまま、二人は空を見上げる。
触れない約束は、今夜だけ、少しだけ曖昧になっていた。




