1話 出会い
高校生の時に趣味で書いた物です。
読みにくい点あるかと思いますが、ご了承下さい。
20XX年、十二月五日に、
私達は出会った。
いや、再会した。という方が正しいかな。
その出会いは、私の運命を大きく回転させてゆく……。
菜々野 まつり、中学一年生。これが主人公の私の紹介だ。
「あー、クリスマスにデパートで一人かー!
彼氏欲しいなぁ。」
そう、まつりは虚しくもクリスマスに一人でウィンドウショッピングをしていたのだ。
するとまつりはエスカレーターを上がって
周りを見渡し、
キラキラした雑貨屋へと足を向ける。
人とすれ違うたびに身を細めながらも、
まつりはある棚の前で足を止めた。
襟巻きのコーナーだ。
「わあ、可愛い……。」
まつりは目を輝かせた。
そこには、赤、青、緑の襟巻き、マフラーなどが飾ってあった。
どれもふわふわしていて暖かそうだ。
そして、まつりはおずおずと後ろを振り返り、その人に言った。
「選んで欲しいなぁ……守護霊さんに……。」
恥ずかしそうに、限りなくうつむきながら、まつりは言った。
「はい?何ですか、本当に……。」
守護霊さんは、拍子抜けて、困り顔だった。
そう、私には、守護霊さんがついていて、お話出来るのだ!
「お、お願い!」
「何故そんな事を強いるんですか。」
まつりはダメ元で、守護霊さんに選んで欲しかったのだ。半ば、強制的でもあるが……。
守護霊さんは、渋々、ある襟巻きを指差した。それは、緑色に茶色のチェックが入った襟巻きだった。
「わあ。」
まつりはそれを手に取り、恥ずかしながら小走りで会計に向かった。
デパートの帰り道、まつりはその襟巻きを首に巻いた。
「うふふ。彼氏にプレゼントされたみたい。」
「あったかいなあ……。」
まつりは、満足気に色白の肌を赤く染めた。
これが、私と守護霊さんとの初めての思い出……。
「ふう、ふう……。緊張する……。」
まつりの姿は、学校にあった。
そう、この日は、三学期での目標を大勢の人の前で発表する日だったのだ。
「はーい、みんな、本番始めるよー。」
「わー。」
「う……、先生が呼んでる。」
まつりはその時、緊張で具合が悪かった。
「大丈夫だよ。君なら出来る。」
守護霊さんが言った。
「うん!頑張る。」
まつりは守護霊さんに励まされると、とても元気になれるのだ。
そして、発表は大成功だった。
こんな事が、よくあった。
「怖いなあ、大丈夫かなあ。」
春になり、まつりは中学二年生になって、持病で病院に入院していた。つまり、夜間のトイレが怖いのだ。
「大丈夫。一緒に行こう。」
守護霊さんは、とても穏やかに言った。頼もしかった。
おはようとおやすみの挨拶もするし、悩み事も全部守護霊さんに話した。
「あのね、今日学校で悲しい事があったの……。」
「どうしました?」
「……、んー、やっぱいいや。」
まつりは、あっかんべをしてはにかんだ。
「は……?」
「あははは!ぽかーんとしてる。」
守護霊さんは困り顔で、少し恥ずかしそうにそっぽを向いた。
その時、守護霊さんの目の下まである
黒い前髪が風に揺れた。
まつりは、絵を描く事が得意な少女だった。
自慢げに守護霊さんの似顔絵を描いて、彼に見せた。
守護霊さんは、顔に紅葉を散らして困っていた。それを見てまつりは笑った。
守護霊さんは、詩や、小説を書く人だった。今日も、何か文章を書いている様だ。
守護霊さんは、照れながら『君が好き。』とだけ書かれた紙を、まつりに見せた。
まつりは恥ずかしそうに、顔を赤らめて微笑んだ。
ある日二人は、
学校の庭の階段に腰を下ろしていた。
ころころと転がっている小梅を拾い、ぽんと投げた。
すると小梅は地面の木材に当たり、
ころころと気持ちのいい音を立てる。
まつりは投げて、落ちた小梅を拾い集め、また投げて遊んだ。
守護霊さんは幽霊だから、物に触れない。
でも、木について落ちそうな小梅を落としてくれて、ころころ転がった。
二人はそれを見て、笑った。
まつりは嬉しかった。触れ合えないはずの守護霊さんと交わった様な気がして。
「もう、春ですね。」
ぽつりと、守護霊さんが呟いた。
見上げると薄ピンク色の桜が、
青い空を覆うように咲き誇っていた。
風が吹くと、花びら達は優しく宙を舞い踊った。
私達は打ち解けた。喧嘩も出来るくらいに。
そして私は、守護霊さんに名前をつけてあげた。
『おとのさん』と。
まつりは、おとのさんの事が好きだった。おとのさんも、まつりの事が好きだった。
私達は、結ばれていいはずだ。
こんなにこんなに愛しているのに……。
初夏の頃、まつりは病院を退院した。また、家での生活が始まる。
「おとのさんのお陰で、
入院生活もなんとか続けられた。
本当にありがとう。私って幸せ者だなぁ……。
こんなに頼もしい人がついてて。」
まつりは微笑みながら、毎日付けている日記を開いていた。その日記は、ほぼおとのさんとの思い出を綴った物だった。
しばらくの沈黙の後、おとのさんは口を開いた。
「もう、この恋は終わりにしましょう。」
「……え?」
まつりは、頭が真っ白になり、胸がぎゅう。と苦しくなった。
「君は僕とじゃ、幸せにはなれないよ。」
まつりは、俯いたままおとのさんの言葉を待った。
「君は人間。僕は幽霊。まず、生きている世界が違うのです。それに、触れ合う事も出来ない。君が僕を感じられるのは、きっと第六感でだけ。
一緒に出かけたとしても、君は僕を感じとれず、君の瞳にも映らず、触れられず……。そんな寂しい思いはさせられないから。」
「…………。」
「僕は、君の側に居られるだけでとても嬉しい。君を守り続けることができたなら、僕はもう何も要らない。」
おとのさんは、優しくそう言った。
まつりは、俯いたままだった。
今、おとのさんはどんな顔をしているのだろうか……。
怖くて、まつりは顔を上げられなかった。
「おとのさんは……、本当それでにいいの?ずっと前から、私のこと好きだったんでしょう?」
「恋は、同情じゃありません。そんなものは要りません。」
(い、言い返せない……!)
「でも、嫌だよ。おとのさんよりいい人なんて、この世にいないよ!
だってだって、
私の為だけに居てくれる存在なんだもん。
私だけに憑いてるんだもん。私をずっと守ってくれるし……!
私の事一番分かってくれてるの、
おとのさんだけなんだもん……。」
「離れるなんて、嫌だぁ……。」
まつりは、ぐすぐすと泣き出した。
(でも、私はちゃんと分かっていた……。これしか道はないのだと。
これが、おとのさんが私に出来る、最高の愛情なんだと。)
「僕よりいい人なんて、この世には沢山います。」
「そんなの嘘だよぉ。そんな人、居ないよぉ。」
「じゃあ、約束します。
僕より素敵な人と、
絶対に絶対に結んであげます。」
彼は、確信を持って言った。
「僕は守護霊で、君の運命が分かります。 この先の未来も、見る事が出来ます。
君を、絶対にその人と幸せにしてあげます。」
まつりは顔を上げて、
おとのさんを見た。涙でぼやけては、キラキラと頰に落ちた。
「……、絶対、絶対!約束だからね!」
こうして、まつりとおとのさんは離れ、まつりは新しい恋を探す事にしたのだった……。
(ねぇ、おとのさん……、あの襟巻きを買った帰り道、私は振り向かずに後ろにいる貴方に手を伸ばしたよ。
あの時、おとのさんは……、私の手を、握り返してくれたの…………?)
菜々野 まつり、高校一年生。時は、現在に戻る。
あれから変わった事と言えば、オンさんという怨霊が増えたって事くらいかな……。
今日もオンさんは、まつりの肩にべったりくっついて離れない。
「死のうよ。おい。」
と、まつりに取り憑いて、毎日まつりを殺そうとしてくる。
まさか、このオンさんとレイさんが、同一人物だなんて、誰も思うまい……。




