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9 気付かれた?


 「男性恐怖症っていうのは本当なんだな」

 「嘘は言わないと言っているでしょう」


 身が入らない授業をやっと終わらせ、ケイは一目散に家に帰ってきた。


 学校生活を一通り見ていたラフルはケイが男子生徒や教師と関わらないように努めていたことに気付いたらしい。


 「家族以外で平気なのはニューカム様ぐらいね」

 「誰だ?」

 「別世界から来たっていう凄い魔法師よ」

 「ほう、気になるな」

 「また学校に行くとか言わないわよね」

 「まだ全部は見切れていない」


 と、言うことはまだ学園に着いてくる気だ。憂鬱が晴れず、ケイはソファの背もたれにぐったりともたれかかった。


 「変人と思われようが別に良いだろう。学生で居る期間など一瞬だ」

 「学園での評判がその後の人生に大きく関わることだってあるのよ」

 「お前は終始1人で居ただろう?それは良いのか」

 「うっ」


 痛いところを突かれ、ケイは痛む心臓を押さえた。ケイだって友達とお昼を食べたいし下町で遊んだりしたい。したいのだが、周りの生徒からの評価は決して良いとは言えなかった。


 男性恐怖症なのもあって男性とは出来るだけ距離を取ってきた。それは良いのだが、アーノルドに口を出しすぎたのが悪かったのか、アーノルドとサリーを別れさせようとしている悪女だ、と入学して早々噂が広まってしまったのだ。それから友達と呼べる人物はケイの学園生活に登場していない。


 「人間はすぐに番いを見つけて子供を産んでいる印象だったが、お前にはその相手も居ないのか。そのニューカムとやらがそうか?」

 「それ以上言わないで。泣いてしまうわ」

 

 本来なら学生の内に婚約者を決めるのが普通だ。だがケイはこの先結婚する予定も無い。学園を卒業したら父の仕事を手伝うか、自分で何か始めるかを選ばなくてはいけなかった。


 そう考えれば学校で変人として有名になっていた方が良いのか、いや、それでは仕事に支障をきたしてしまうだろうか。


 ケイはうーんと頭を抱えた。


 「今は考えていても仕方無いだろう。そう言うのはタイミングがある」

 

 諭すようなことを言われ、それもそうかと思い始めたが、変人扱いされる元凶は目の前にいるこいつなのである。そして上から目線なのが単純にムカつく。


 「偉そうに言うんじゃ無いわよ!」

 

 また拳が空を切る。


 「うっ、無力なのが悔しい!」


 涙を拭う仕草をすれば、ラフルがふっと笑った気配がした。


 「今笑ったわね?」


 詰め寄るが、やはりラフルはモヤなので今どんな感情なのか全く分からない。


 「気のせいだ」

 「何よ、恥ずかしがることでも無いのに」

 「今日は話を聞きたくないのか」

 「聞く!聞きます」


 ケイは慌てて窓辺の椅子に腰掛けた。ここが話を聞く定位置になりつつある。


 「今日は?いつのお話?」


 明日の学園でどんな噂が立つのかを心配することをすっかり忘れ、その日もケイはラフルの話に夢中になった。




******




 「来たわ、悪魔憑きよ」

 「1人で喋ってたんでしょう?気味が悪いわ」


 ケイは学園に着くや否や話題の的だった。通り過ぎる人全員にチラチラと見られてはヒソヒソと何やら話される。


 「悪魔憑きか。中々良い響きだな」

 「ちょっと黙っててくれる?」


 周りではケイがついにおかしくなった、との噂で持ちきりなのに対して、当の悪魔は何とも嬉しそうにしている。


 教室に着く頃ケイはすっかりノイローゼ一歩手前のような様相になっていた。


 「あの、ケイ様」


 教室に入ってきたサリーが心配そうに声をかけてくる。


 「もし困ったことがあったらいつでも話してくださいね?」


 憂うように言われ、つい涙が出そうになった。彼女は婚約者にしつこくしているケイの事を嫌ってはいないようで、他の生徒と変わらずに話しかけてくれる。


 あなたが天使か。


 「あ、ありがとう。私は大丈夫よ。心配をおかけして申し訳ないわ」


 辛うじて笑顔で返す。


 「前は顔色悪かったしな。無理すんなよ」


 サリーの隣に居たアーノルドがそっぽを向きながらぼそっと溢す。


 「あら、今日は優しいのね。お気持ちありがたく受け取るわ」


 いつもはケイの事を鬱陶しそうにしているアーノルドだが、小さくなっているケイを気の毒に思ったのか、今日は強く言い合いをするような気分では無いようだ。


 だが今日の彼はいつもと違うと言うより、ケイと目が合っていないような不思議な感じがする。背後の存在に気づいているのか。いやまさか。


 「お、これが例の」


 耳元で囁かれ、ケイはビクッと肩を震わせた。2人の前でラフルと話し始めればいよいよ頭がおかしくなったと思われてしまう。


 「こいつが好きなのか?もう相手は居るみたいだが」


 本当にうるさい。


 「もう次の授業が始まるわ、私のことは良いから、2人はどうぞお先に」


 ラフルの声を掻き消すようににっこりと促す。


 サリーは一度ケイを心配そうに振り返り、次の教室に移動していった。去り際もアーノルドはケイの背後を睨んでいるようで、ケイは背後を振り返らないように我慢しながら2人を見送った。


 ケイは急いで誰も居ない中庭に走る。小さいガゼボが置いてあってお気に入りの場所だ。


 「ラフル、お願いだから静かにしててちょうだい」

 「他の奴には聞こえてない」

 「私が気になるのよ……」


 それにあのアーノルドの態度。まさかラフルの存在に気づいていたのではないか。


 「アーノルドといったか、あいつは強いな」


 ラフルから彼の名前が出てケイはハッと自分の影を見た。そこにラフルが居るのかは分からないが。


 「やっぱり彼はラフルに気付いてるの?」

 「さあな。だが俺がここに来るのは最後にしよう」


 ラフルが悪い悪魔では無い、とは言い切れないがアーノルドと戦うことになるのは望んでいない。この契約が終わればラフルは元居た場所に帰るのだ。これ以上アーノルドと関わらない方が賢明だろう。


 


ありがとうございました!

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