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5 願い事



 「で、なんであなたがここに居るわけ?」

 「随分な言い草じゃないか、私たちの仲だろう?」


 満身創痍で帰ってきた私たちを両親は泣きながら出迎えてくれた。今日は疲れているだろうから、話は明日にしようと自室に来たのだが。


 なぜ部屋に黒いモヤが漂っているのだ。


 「もう自由になったんだからどこへでも行けば良いでしょ?」

 「冷たいことを言うな」


 初対面の時より馴れ馴れしいと言うか、媚を売られている感じがして大変不快だ。せっかくお風呂に入ってさっぱりしていたのに。後は寝るだけという所を邪魔されてはイライラしてしまうのも仕方ない。


 「何か困ったことはないか?肩でも揉むか?」


 何か企んでいることが明白で思わず半眼で睨んでしまう。


 「本題を言いなさいよ」

 「ちっ」


 舌打ち。聞こえてる。


 「貴様、悪魔の召喚についてどのくらい知っている?」


 元の尊大な態度に戻った。


 ケイは今回のために粗方悪魔召喚について調べていたが、記憶の神殿に入るために、悪魔を縛っている場所から解放するための方法しか確認していなかった。


 「やはりな」

 「やっぱりって?」

 「我を解放したと言うのに何も言ってこないからおかしいと思ったのだ」


 彼が何の話をしているのか未だ理解出来ずにケイは首を傾げた。


 「悪魔召喚というのは等価交換だ。召喚された悪魔は、何か貰う代わりに3つ願いを叶えるまで元の世界に帰れない」

 「へえ〜知らなかった。じゃあ未だに帰れてないってことはまだ願いが残ってるってこと?」

 「そう言う訳だ」

 「後何個なの?」

 「……こ……」

 「え?」


 いきなり声量が下がったのでなんと言ったのか聞き取れなかった。ケイは少し彼に近寄り耳を傾ける。


 「2個だ!!!!!」

 「うるさっっっっ!」


 いきなり大声で返されて鼓膜が破けるかと思った。願いの残り数というのは悪魔の吟遊にでも関わるものなのか?全く意味がわからない。


 「もうちょっと静かにお願いできるかしら?気づいてないみたいだけど、もう夜なのよ」


 は〜うるさかった、とケイはベッドに腰掛けた。


 「知っとるわ。馬鹿にするなよ小娘」


 先ほどまで恥ずかしそうにしょもしょもと小さくなっていたモヤはまた大きく膨らみケイの近くへと漂ってきた。


 「それで、その願いが何なのよ?」


 寝る体勢に入りそうなケイにモヤが焦り始める。


 「あの魔法陣、貴様が書き換えたろう。だから今の我の所有者は貴様になっている」

 「あら、そうなの」

 「あらそうなのではない、貴様が願いを言わなければ我は元居た場所に帰ることもままならん」


 顔の周りをヒュンヒュンと飛び回るので鬱陶しいことこの上ない。夏場の蚊のようだ。


 「わかったわよ。じゃあ一個め」

 「おい、今言うのか?」

 「うるさいわね、一個めは……あなたが飽きたりもういいやって思うまで私の話し相手になること。まぁ自己判断で良いわよ。もう一つは、それが終わればあなたは自由にどこでも行けるようになること。故郷に帰るでも、旅に出るでも好きにしなさい」


 正直もう眠くて真剣に考える気にもなれなかった。ケイは大きいあくびをして布団に潜り込んだ。悪魔が自分と話すことを望むはずもないだろうし、きっとすぐにどこかに行ってしまうだろう。


 ベッドの傍らで動きが完全に止まったモヤに気付くことなく、ケイは眠りに落ちていった。

 

  

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