1 プロローグ
1話ごとの文量が不揃いです。ご了承ください
モリアス国が所有するブルーグラス学園に通う令嬢、ケイ・ベイクウェルが悪役令嬢と呼ばれ始めたのは彼が現れてからだった。
異世界からやって来たと言う男、アーノルド・ニューカム。顔つきは平凡で親しみが持てるものだが、いかんせん彼には魔法の才能があった。調子に乗ってしまうのも仕方がないことだったのかもしれない。
「お待ちなさいニューカム様!学園でみだりに女性と触れ合ってはいけません!」
学園の廊下を意気揚々と歩いていたアーノルドをケイが呼び止める。
「はあ?お前に関係ないだろ」
注意された本人は意に介さず、婚約者であるサリー・ストラス嬢の腰を抱いたままだ。相手が婚約者とはいえここは勉学をする場。みだりに男女がくっついていては家の名前にも傷がつくことになる。彼は別の世界から来たのでそれで良いだろうが、相手のサリー嬢はどうなのか。
「えぇ関係ありませんわね。しかしあなたが良くてもサリー様は困っておられるようですが?」
ケイが指摘した通り、腰を抱かれているサリー嬢は困ったようにアーノルドの顔色を窺っている。明るい茶色の髪の毛がふんわりと波打っていて、朗らかに笑っているお顔が愛らしい人だ。なのに、今ではそれが損なわれてしまっているではないか。
彼女の困っている様子に彼も気付いたのだろう、罰が悪そうに彼女の腰から手を離した。
「またやってるわ、ケイ様。そんなにあの2人が仲良くしてるのが気に入らないのかしらね」
周りで様子を見ていたご令嬢やご令息がヒソヒソとこちらにも聞こえる声量で話している。
「他の方に注意しているのを見たことが無いわよ。よっぽど別れさせたいのかしら」
聞こえているわよ。
噂話が大好きな蝶たちをジロリと睨むと、どこかに用事があるようなフリをして彼女らはパタパタとその場を離れていった。
「あの、ケイ様。その、いつもすみません……」
サリー嬢が申し訳なさそうな笑顔で謝る。謝るべきはアーノルドであろう。
「あなたが謝ることでは無いですよ。あなたも苦労するわね。では私は失礼するわ。ご機嫌よう」
令嬢然とした礼をとり2人に背を向ける。
先ほど周りの令嬢たちが話していたことが頭の中を反芻していた。
なぜあの2人のことだけ気になってしまうのだろうか。2人のどちらかを特別嫌っているわけでもない。単純に気になるのだ。礼儀に反することをしているとつい注意したくなってしまう。校則を破っていないか気になるし、成績さえチェックしてしまう日々だ。
他の生徒が校則を破っていようが特に気にしないので、ケイ・ベイクウェルはアーノルドとサリー嬢を別れさせようとしている、なんて噂が立ってしまっていた。
自分でもなぜこんなに気になってしまうのか分からない。
ケイはうーんと唸りながら次の教室に向かった。
ありがとうございました!