第9話「ラストネーム」
皆が頼りにしていた、俺たちのリーダー。
ここに来て、勇者ミゲルが殺意多めの正義感を押し付けてきた。
いやしかし、それは魔王への怒りの裏返しなのかもしれない。
俺たちの誰しもが、こんな辺境まで魔王を倒しにやってきたのだ。
それぞれ、当然のように魔王に思うところがあるに違いない。
ミゲルはそれが人一倍、強いだけなのだろう。
「それじゃあ、扉を開けるよ?」
ミゲルが先頭に立ち、大扉のドアノブに手をかける。
「おう、戦闘の準備は万端だぜ!」
「私も………大丈夫」
仲間たちの緊張感が、俺にも伝わってくるようだ。
だがこの中で一番ヤバい状況に置かれているのは、考えるまでもなく俺だろう。
何としてでも、ミゲルたちを説得しなければならない。
しかし不幸中の幸いというべきか、まだ魔王幹部の四天王がひとり残っている。
魔王の前に、そいつとの戦いは必至だ。
つまり俺には、少しの時間的な猶予がある。
魔王のところへ辿り着く前に、なにか妙案を考えねば………。
「行くぞ!」
ミゲルが先陣を切り、扉の奥へと駆け抜ける。
俺たちもすぐに、そのあとへ続いた。
扉の向こうは大広間。
そして部屋の奥には――――――――――
「よくぞここまで辿り着いた、勇者どもよ」
玉座に腰を下ろした、魔王デスロードの姿があった。
「いや………………………………………………ない、それはない」
「ここで会ったが百年目! 覚悟しろ魔王デスロード!!」
「まてまて、なに普通に戦おうとしているんだ。ちょっとストップしてくれ」
「どうしたって言うんだマホケス? まさか魔王を前に、怖じ気づいたのかい⁉」
「そういう問題じゃないんだ。少しだけ、魔王に質問をさせてくれ」
困惑の表情を浮かべるミゲルから、デスロードの方へ視線を戻す。
どことなく、魔王の方も虚を突かれたような顔をしていた。
「なんだ人間、このワシに訊きたいことがあるだと?」
「最奥にいるというお約束を破るのは良いとして、なんで玄関を抜けた先が魔王の部屋なんだ? おかしいだろ。普通もっと奥に部屋を構えるものじゃないのか?」
「くく………普通ならそうだろう。だがワシは数百年を生きる大魔王よ。貴様らの考えを逆手に取り、敢えて入り口の近くに玉座を構えたのだ。大扉の前で立ち往生した貴様らは、きっと裏口の方に向かうだろうとな」
「そ、それじゃあ………まさか」
「そのまさかよ。裏口の方にこれでもかと罠を仕掛けさせてもらったが、よもや大扉の方からやって来るとはな………。さすがは勇者一行、一筋縄ではいかぬようだ」
魔王は不敵な笑みを浮かべると、豪華な玉座から腰をあげる。
全身青色の肌に、頭の両側から伸びた鋭利な角。ガブアスを優に超えるその巨体からは、凄まじい威圧感が放たれている。
「質問は終わりか? ならば、雌雄を決するとしよう」
「いや、質問ならまだある」
「なんだ、まだあるのか」
デスロードは面倒くさそうに、玉座に座り直した。
見た目とは裏腹に、律儀な性格をしているようだ。
「なぜこんなにも魔物がいないんだ? 魔王城なのに、他の魔物の気配がないようだが?」
これはずっと気になっていた。
この城に辿り着く前から、どこにも魔物の姿が見つからないのだ。
もちろん城内でも、一度も出くわしていない。
「なんだそんなことか………。部下たちは今日、祝日で休みなのだ」
「祝日⁉ ま、魔物に休みなんてあるのか⁉」
「適度な休みを与えなければ、労働基準局がうるさいのだ」
「労基が⁉」
デスロードの言葉に、俺だけでなくリリーナやガブアスまで目を丸くする。
魔物って………職業だったのか………。
「さあ、もう構わんだろう。最終決戦の始まりだ!」
デスロードが再び立ち上がる。
その直後、リリーナがそろそろと手をあげた。
「あ、あの………私もひとつ質問いいかしら?」
「あ~~もう、またか」
再び椅子に座るデスロード。
魔王ちょっと律儀すぎない?
俺のそんな疑問を他所に、リリーナは質問をする。
「四天王の最後のひとりはどこにいるの? まさか四天王までお休みなんて言わないわよね?」
おお、そうだ!
それは俺も気になっていたことだ。
俺たちは魔王を食い入るように見つめ、返答を待った。
「四天王か………」
するとデスロードは、唐突にあらぬ方向を見つめる。
そしてひとつ溜息をついてから、ゆっくりと重い口を開いた。
「そんな奴はおらん。いや、いなくなったと言うべきか………」
「いなくなった?」
魔王の瞳が、心なしか悲しそうに沈む。
「もう数十年ほど前のことになるか………。ワシの息子が、行方をくらましたのは」
「え? 息子さん?」
「タナトス………最後の四天王を担うはずだった」
ここまで旅をしてきたが、初耳だ。
魔王に息子がいて、しかも行方不明だったとは………。
「事情を知らなかったとはいえ、辛いことを訊いてごめんなさい………」
「気にするな、過ぎたことだ。だから四天王はもう誰もおらん。【混沌のカオス・スプリング】も【破滅のビッグバン・オータム】も、【破壊のデストロイ・サマー】も貴様たちにやられたからな」
「そうか、じゃあこの城には魔王しかいないってこと………………………ん?」
俺はそこまで口にしたところで、ハッと目を大きく開いた。
そして頭が答えを導き出す前に、ある違和感が自然と俺の口を動かしていた。
「四天王って………ラストネームがあるのか?」
「うむ、ワシが付けた。四季に因んだもので、消えた息子には冬の意味を持つ名を与えたのだ」
「冬の意味………それってまさか」
分かってる。
だが訊かずにはいられなかった。
魔王は再び遠い目をして、それから――――――
「ウィンター、【死神タナトス・ウィンター】。それが我が息子の名よ」
そう口にする。
次の瞬間には、仲間の視線が俺に注がれた。
そう………俺の名は【マホケス・ウィンター】。
似てるというか、そのままだ。
『もしかしたら俺は、行方不明になった魔王の息子なのかもしれない…………』




