第8話「勇者の権化」
「気を取り直して、慎重に行こう」
俺たちは警戒しながら、魔王城内へと進む。
魔物の気配こそ感じないが、至る所の不気味な装飾が目に入る度に、精神が擦り減るような気分だった。
「誰もいないわね……」
「普段は禁物だぜ。この先に、魔物がわんさといる可能性もあるからよ」
皆の声が自然と小さくなる。
目の前には、赤い絨毯の敷かれた長い廊下。
突き当りに、両開きの扉が見える。
「遂に、遂にデスロードを倒せるんだな………。腕が鳴るぜ」
ガブアスがにやけながら言った。
確かにこのまま進んでしまえば、いつかは魔王の部屋まで辿り着くだろう。
そうなった場合、起こる可能性は――――――
一、魔王が勇者に敗れ、俺と魔王がジ・エンド。
二、魔王が勝利を収め、俺を含めたパーティがジ・エンド。
詰んでいる。
俺が詰んでいる。
例えるなら、デスゲーム作品にモブとして参加するぐらい詰んでいる。
「ぐっ………………」
俺は奥歯を強く噛んだ。
もうこのまま引き返した方が良い気さえする。
しかし待てよ?
素直に仲間に打ち明けるという手もあるのではないだろうか?
俺の命が掛かっているのだから、魔王への攻撃を止めてくれるかもしれない。
一筋の光明が見えた気がした。
よし、遠回しに皆に訊いてみよう。
「なあ皆、こんなときに何だけど………ひとつ訊いても良いかな?」
俺は皆の顔を見ながら口を開く。
すると仲間たちは、どこか不思議そうな顔を俺の方へと向けた。
「どうしたのマホケス? なにか気になることがあったの?」
「いやその、もしも………もしもの話なんだが、もし仲間の誰かが魔王に捕まって人質となったとき、皆はどうする?」
「人質が盾にされた場合かい?」
「ああ、まあ………そんなとき」
皆は少し考える素振りを見せてから、顔を上げた。
「私は………」
リリーナは迷っているようだ。
その表情が物語っている。
だから俺は食い気味に言った。
「リリーナはどう思うんだ?」
「私にはやっぱり、仲間を攻撃なんてできな――――――」
「もし僕が人質になったら、みんな僕ごとデスロードを倒してくれ! 人々の平和の為なら、僕は喜んで自分の命を差し出すよ!」
俺以上の食い気味で、ミゲルがリリーナの言葉を遮った。
なんてことだ。
「え、ええそうね………。みんなの平和の為なら、仕方ないわよね」
案の定、リリーナの貴重なアシストが露となって消える。
ミゲルよ………お前の正義感は素晴らしい、尊敬する。
だがそれを仲間にまで当てはめるのはやめてくれ。俺は馬鹿な死に方はしたくない。
そりゃ俺だってこの旅に同行したぐらいだ、命を捨てる覚悟ならとうにできているさ。
仲間を守ってとか、『俺のことはいいから、先に行け!』と逃がす為とか、『さよなら、ミゲルさん』とか自爆するような死に方なら望むところだ。
だが魔物だった場合、『魔王を倒したぞ!』と歓喜する仲間の傍らで、俺はひっそりと息を引き取っている。仲間たちの中には、魔王を倒した興奮で心臓発作でも起こしたのだろう………と憶測する者もいるだろう。
それはあまりにあんまりだ。
せめて最期ぐらい格好良く死にたい………と考えるのは、そんなに罪なことだろうか?
「平和の為なら、オレっちだってこの命………惜しくねぇぜ! ガッハッハ」
おっと、思考が脱線してしまった。
頭を戻そう。
いまのこの流れは実によろしくない。
質問を変え、流れも変えなければ。
「じゃあ、もしデスロードが命乞いをしてきたらどうする? 心を改めると誓ったとしたら?」
俺はミゲルを避けて、ガブアスに問いかけた。
「おお、なるほど。そういう場合もあるよな。もしデスロードが実はそんなに悪い奴じゃなくて、改心して本気で謝るってんなら、オレっちは――――――――」
「魔王がいる限り、真の平和は訪れない! いままで犠牲になった人々の為にも、僕たちは魔王を倒さなければいけないんだ!」
またしても、ミゲルが口を挟んだ。
なんてことだ。
「まあ………そうだよな。オレっちたちが、勝手に許すわけにはいかねぇよな! 目が覚めたぜ!」
案の定、ガブアスの気が変わってしまった。
ミゲルめ………余計なことを………。
もはや勇者の権化。
常軌を逸した正義漢だ。
この男は狂気的なほど、平和にとりつかれている………。
「さあ、話は終わりだよ。僕たちの手で魔王デスロードをころ………打倒しようじゃないか!」
絶対にいま物騒な言葉を言いかけたよね?
直接的な表現はまずいと思って、言い直したよね?
一体なんなんだこの男は………。
『もしかしたら俺は、とんでもない男の仲間なのかもしれない…………』




