第6話「山育ち」
新たに浮上した、スライム疑惑。
まさかの方向からのエントリーだ。
毒に耐性があるのも、ある意味では納得の種族。
しかし惜しい。人型のスライムもいるにはいるが、そのどれもが透き通った体を持っていた。
当たり前だが、俺の体は透けてはいない。
怪我をすれば血も出るし、分裂すればそのまま絶命するだろう。
スライム疑惑、残念ながら落選です。
所詮は知能を持たない単純生物。
俺がそんなモノであるはずがないのだ。
「おっ? おいみんな、アレを見てみろよ!」
ガブアスが突然、木の上の方を指さした。
「あら? なにかの果物かしら」
「多分な! アレ食えるんじゃねぇか?」
嬉々とした声をあげるガブアスのとなりに並び立ち、俺も樹上の果実を見上げる。
「ああ、あれはプペンペの実だな。リンゴとバナナを混ぜたような、甘くて少し酸味があるのが特徴の果物さ。もちろん食えるし、栄養も満点だ」
「おおっしゃ! さっそく食おうぜ!」
ガブアスが意気込んで木の前まで走るが、樹上を見上げて眉をひそめた。思ったよりも果実の位置が高く、肉体派の彼でもおいそれと登れるようなものではなかったのだ。
プペンペの木はツルツルとした樹皮が特徴なので、手や足を引っ掛けて登ることができない。
「ちっくしょう……。オレっちじゃあ、どうしようもないぜ!」
地団駄を踏んだガブアスは、次に迷わず俺の方を向いた。
「頼むぜマホケス!」
両手を合わせ、拝むような仕草を見せるガブアス。
ハァ……まったく仕方がないな。
「ヤーー!!」
俺は気合を込めて跳躍する。
そして地上から十メートルほどの高さにある枝に掴まり、ひらりとその枝に跨った。
「さっすがマホケス! いつ見てもすげぇジャンプだぜ!!」
「ハッハッハ。魔法とジャンプなら任せてくれ」
鼻を高くしながら、俺はプペンペの実をもいで地上へ落とす。
ふっ。
俺がカンガルーやカエル型の魔物かもしれないと考えたそこの君。
残念ながらそうはいかない。
なぜなら俺には『山育ち』というアイデンティティがあるのだ。
山で育ったのだから、跳躍が凄くてもなんら不思議ではない。
「ねぇマホケス! そこから魔王の城は見えないかしら~?」
下からリリーナの声が聞こえたので、俺は魔王城のある北の方を向いた。
「ああ、見えるぞ。ここから大体14kmほど先に、それらしき城が見える!」
「さすがはマホケス! 双眼鏡いらずね」
「余裕余裕! 山だと普通さ」
視力が一般人より少し優れているのも、山育ちなら普通なのだ。
「マホケス。敵の気配なんかは分かるかい?」
「そうだな。フォークと皿のぶつかる音が聞こえるから、食事中ってところだろう」
「さすがはマホケスだ。すごい聴覚をしているね」
「ハッハッハ。山育ち山育ち!」
五感が優れるのも、山育ちの特徴さ。
俺は木から飛び降り、いくつかもいだプペンペの実を皆に配った。
「ありがとよ! にしてもマホケスよぉ、そんな力をどうやって身につけたんだ?」
「どうやってって……そりゃ山で普通に」
「オレっちも山育ちだけど、ジャンプ力は上がんなかったなぁ」
え?
うん………………………………………………………………え?
山育ち????
「ちょっと待てガブアス……。あんたは大陸一の道場の出身だろ?」
「おうともよ! その道場ってのが不便なことに山奥に建っててな。ガキの時分から遊ぶ所って言ったら、山しかなかったんだ。そのせいでいつも迷子になって、いまみたいに野宿したもんだぜ! ガッハッハ!」
「そうだったのか……。ガブアスも、山育ち…………」
ああ…………本当は知ってたさ……。
山で育ったからといって、人間が十メートルも垂直跳びできるはずはないって……。
耳だって、となりの部屋を歩く蜘蛛の足音が聞こえるのはおかしいって……。
知っていたさ。
ということはつまり、つまり俺は――――――
『もしかしたら俺は、合成型の魔物なのかもしれない…………』




