第5話「拭いきれぬ不安」
毒に免疫があるから何だと言うんだ?
山育ちの俺だから、知らず知らずの内に免疫が付いただけかもしれないじゃないか。だって様々な創作物にあるだろ? 山育ちだから毒は効かない。という妙に納得してしまう設定が。
俺はそこらの魔法使いと比べれば体力はある方だし、なんなら魔法よりも杖で殴り倒した敵の方が多いくらいだ。毒に耐性があったって、おかしくはないだろう。
「マホケス、何か悩み事かい?」
唐突に、勇者のミゲルが俺に話しかけてきた。
「…………どうしてそう思うんだ?」
「口数が少ないようだし、何よりその首飾りを眺めていたからね」
ああ……そういえばそうだった。俺は悩みがあるとき、この赤い宝石の付いたペンダントを眺める癖があるのだった。
赤ん坊の俺を義父が森の中で見つけたとき、その手にしっかりと握られていたものだ。赤い宝石をあしらった、とても高価そうなペンダント。つまりこの首飾りは唯一、俺の出生の秘密を握っているアイテムということになる。
そういう思いもあってか、俺は大きくなったいまでもこのペンダントを手放せないでいるのだ。
「気持ちは分かるわマホケス。私だって、これから魔王と戦うのだと考えるだけで……体が震えてきちゃう」
「そうか……そうだね。決戦を前に心が落ち着かないっていうのは、当然のことだ。でも安心していいよマホケス。君には僕たちという、心強い味方がいるのだから。僕たちが力を合わせれば、魔王でさえ恐るるに足らないとも!」
その“心強い味方”が、いまの俺には恐ろしいんだよ。
もし俺が魔物だったと発覚したとき、同じ台詞が吐けるんだろうな?
いや、ここまで一緒に冒険をしてきたんだ。
信じろ。魔王四天王だって、苦戦しながらも倒してきたじゃないか。信じるんだ、仲間を。
そう自分に言い聞かせても、額に浮かぶ汗は止められない。
俺は不安と一緒に汗を右手で拭い取り、物を投げ捨てるときのようにピッと腕を振った。
すると次の瞬間――――――
「うわ!? なんだぁ!?」
俺たちの目の前で、焚き火がいきなり激しさを増した。
大きなガブアスの背丈すら越えそうなほど、火が舞い上がったのだ。
「びっくりした~。いったい、何だったのかしら?」
「油でも撒いたんじゃねぇだろうなぁ?」
皆が不思議そうな顔で焚き火を眺めているが、俺の頭にはひとつの仮定ができあがっていた。それを確認するために、俺は再び額の汗を指先で拭い、汗の雫を指先で弾いてみる。
「うおっ!? また燃え上がったぜ!?」
ガブアスが驚きの声をあげた。
うん。
どうやら俺の汗は――――――
【可燃性らしい】。
生まれて初めて知る、衝撃の事実だ。
脂汗という言葉はあるが、だからといって汗が火種になったという話は聞かない。
そういえば、ここに至る道中…………スライム型の魔物を倒した記憶がある。
奴は自らの体液を飛ばし、体液が触れた場所を炎上させるという厄介な能力を持っていた。
『もしかしたら俺は、スライム型の魔物なのかもしれない…………』




