第4話「記憶違いなら良かったのに」
アンデッドに比べれば、爬虫類系の魔物の方がまだマシな気がする。
愛嬌という意味でも、どちらかと言えば爬虫類系であって欲しい。
最悪、勇者パーティのペット枠として残ることも――――――
「きゃあ! オオトカゲだわ!!」
「オレっちにまかせろ!! そりゃ!!」
そんなことを考えている俺の前で、こともあろうに俺の前で。
ガブアスの正拳突きが、木の枝に止まっていたオオトカゲの腹部に命中する。
哀れオオトカゲは、地面に墜落し絶命した。
「ありがとうガブアス。私……爬虫類が苦手で」
「次に似たようなのが出ても、オレっちが正拳突きをお見舞いしてやるから安心しな! ガッハッハ!!」
ガブアスよ。
俺にもその正拳突きをお見舞いするつもりか?
お前の丸太のように太い腕から繰り出される突きなら、オオトカゲでなくとも絶命することうけあい。
「せっかく仕留めたんだから、焼いて食っちまおうぜ!」
俺のことも、そうして丸焼きにするつもりか?
その大きな口と歯で、噛み砕き咀嚼しようというのか?
「リリーナも食うか?」
「い、いらないわ。言ったでしょう、爬虫類はダメなの!」
そうだ。
爬虫類じゃダメだ! ダメダメだ!!
俺は爬虫類系の魔物などではない。断じてない!
外見だって、一般人と大差ないはずだ。
野暮ったいローブを着てはいるが、目も耳も鼻も、どの角度から見ても普通の人間。
魔王城を目前に控え、ナイーブになっているだけなんだ。
「気を取り直して、干し芋でも食うか」
無駄に物が入る大きな布袋の中から、道中の市場で買った干し芋の袋を取り出す。そしておもむろに手を突っ込み、取り出した干し芋に齧り付いた。
「僕はオオトカゲをいただこうかな」
「おお! 食え食え! ガッハッハ!」
「やっぱり男の人はたくましいわね。私はパンでも食べることにするわ」
食事の時間は憩いのひととき。
やはりどんなに辛く苦しいときでも、食事を取るだけで心はいくらか満たされるものだ。
俺のくだらない不安も、このひとときで吹き飛んでしまうに違いな――――――
「ちょ、ちょっとマホケス!! あなた何を食べているの!?」
突然、リリーナが血相を変えて訊ねてきた。
何を食べているのかって? そんなの、誰が見てもただの干し芋………………ってあれ?
手元を見て、愕然とした。
俺が市場で干し芋と思って買っていた物は、乾燥した毒キノコだったのだ!
まったく気付かず、口に運んでしまった。
「それは即効性の猛毒キノコよ!! 一欠片でも飲み込んだら、あっという間にお陀仏だわ!!」
おい、なんで市場でそんな物を売っているんだ。
取り締まれ、そんな店。
「なんだとぉ! オレっちの正拳突きですぐに吐き出させてやるぜ!!」
こんなにも早く正拳突きの機会がやってくるとは思わなかった。
なんとしても、突きだけは阻止しなくては。
「ま、待ってくれ! ちょっとストップ!! 止まれガブアス!!」
ガブアスは前に、俺と似たような状況の老人に張り手を見舞い、全治数ヶ月の重傷を負わせた挙句、『いっけね!』で済ませた前科がある。
「俺なら無事だ。ほら、なんともない!」
「う~ん…………猛毒キノコなら、とっくに症状が出ていてもおかしくはないね」
「本当に……? 私の記憶違いだったのかしら?」
狐につままれたような顔で、リリーナが首を捻っている。
だが俺は知っていた。彼女の言う通り、このキノコが猛毒であることを。
故郷の森で遊んでいた俺に、義父が教えてくれたからだ。
『このキノコは猛毒だから、絶対に口に入れてはいけないよ』と。
なぜ俺は、このキノコを食べても大丈夫なのだろう?
成人男性の致死量を遥かに超えているはずなのだが…………。
『もしかしたら俺は、毒を使う系の魔物なのかもしれない…………』




