第11話「勇者の涙」
あっけなく倒れる魔王デスロード。
俺たちは恐る恐る、魔王の下へ歩み寄った。
「や、やったのか?」
ガブアスが信じられないといった顔で誰にともなく訊ねるが、その質問に答えられる者はいなかった。
ピクリとも動かぬ魔王。
いまのところ、俺の体に異変は起きていない。
ということは――――――
「ぐ……うぅぅ…………!」
「まだ息があるわ!?」
やはりデスロードは生きていた!
ふとその脇に目をやると、輝きを失った聖剣が転がっているのが見える。
どうやら聖剣は途中で抜け、致命傷には至らなかったようだ。
「よし……これで最後だ」
ミゲルが聖剣を拾い上げ、高々と頭上に掲げる。
デスロードに、とどめを刺そうとしているのだ。
「ま、待った!!!!」
そこで俺は、待ったをかける。
このまま魔王を死なせるわけにはいかない。
俺の実の父であると同時に、俺の命そのものなのだから。
「どうしたの、マホケス?」
「いやその……これは罠かもしれない」
「罠?」
皆の表情が、怪訝なものへと変わる。
「しかしどう見ても、弱っているようにしか見えないけど……」
「巧妙な罠で、実は第二形態を残しているのかもしれない」
「第二形態!?」
聖剣を掲げたままのミゲルが、声をあげた。
「魔王ってのはそういうもんなんだ。場合によっては第四形態ぐらいまであるかも。下手に近づいたら危ない」
「でも待って! 稀に第一形態だけの魔王もいるはずよ? デスロードもそうなのかも」
「第一形態だけだと盛り上がりに欠けるから、昨今のラスボスは大体が変身を残すものなんだよ」
「盛り上がりってなに!?」
困惑の表情を浮かべる仲間たち。
よし、このまま時間を稼いで魔王が体力を持ち直すのを待とう。
俺がそんなことを考えていたら、デスロードが弱々しく口を開いた。
「…………いや、第二形態などない。貴様たちの……絆の勝利だ……」
デスロードの言葉に皆が緊張を解き、安堵の吐息を漏らした。
余計なことを…………。それに言うほど絆がある戦いだっただろうか?
だがしかし、ここで諦めるわけにはいかない。
「待てみんな!」
「どうしたんだよマホケス。もう終わりにしようぜ?」
「ガブアス、お前の気持ちも分かる。だが少しだけ考えて欲しい」
「い、いったい……なにをだ?」
「……………………………………四対一は、卑怯じゃないか?」
俺の言葉に、皆が驚愕の表情を見せた。
「勇者パーティとして、果たしてそれで良いのだろうか?」
「い、いやでも……仕方ねぇって言うか……。実際は三対二みたいなもんだったし……」
「俺たちの戦いは後世まで語り継がれるに違いない。そんなとき、【勇者たちは魔王を人海戦術で袋叩きにしました】なんて絵本に描かれるかもしれないんだぞ? 俺は嫌だな」
「そう言われてもよぉ……。じゃあ、マホケスはどうするのが良いってんだよ?」
「そうだな。とりあえず後日、日を改めて再戦という形で――――――」
俺がそこまで口にしたとき、またしても魔王が口を挟んだ。
「数を言い訳になどせぬ。ワシが敗北したのは事実だ、さっさと………とどめを刺すがいい」
ダメだ……この魔王、往生際が良すぎる!
普通、逃げたり人質を取ったりするもんだろう。
俺の親父なら往生際は悪くあれよ!
「………………………言い残すことは?」
「ない。さあ、一思いにやってくれ」
ミゲルが聖剣を握った腕に力を込める。
もはや………これまでか………。
俺の頭が諦めと死の文字で埋め尽くされた、そのときだった――――――――
「くっ………………………!」
剣を掲げたミゲルに、ある異変が起きた。
プルプルと腕を振るわせ、苦悶の表情を浮かべている。
例えるなら、急激な腹痛に襲われた。
そんな顔に見えなくもない。
次の瞬間、ミゲルは剣を投げ捨てていた。
「ダメだ………やはりできない………!!」
魔王の前で、床に膝をつくミゲル。
その瞳には、涙さえ浮かんでいた。
「ど、どうしたのミゲル………? なにがあったの?」
リリーナが不安そうに訊ねると、ミゲルは袖で涙を拭きながら立ち上がる。
そして驚くべき言葉を、俺たちへ向けて言い放った。
「みんな………すまない………。どうしても、魔王を倒すことができない! なぜなら………僕は、僕の本当の名は………………タナトス・ウィンターというのだから…………」




