第7話 〜あの組織はかなりヤバめ?〜
裕に促され乗った黒いワンボックスは、特に途中警察などに止められることもなく自宅前に到着した。
「お疲れ様でした、忘れ物など無い様にお降り下さい。万が一忘れ物などございましたら後日お届けに参ります。あと自転車は後ほど玄関前にお届けいたしますので宜しくお願いします」
感情のこもっていないAIのような口調で運転してきた白狐の面を被った男性?は勇達に降りるように指示を出した。勇はまだ目を覚さない夏菜子を背負い車を降りた。
勇達が降りて玄関に入るのを見送ると黒いワンボックスは静かに発進し夜の闇に溶ける様に居なくなる。
『ちっ、もう監視が着いているのか…まあ、手を出してこないなら少し様子見かな』
勇は脳内のマップに描かれた周辺2kmの地図上に新たに増えた黄色の点を見つけ心の中で悪態をついた。玄関の小上がりに夏菜子をゆっくりと下ろし寝かせると「ただいま」と奥に向かって声をかける。
裕は一階の奥にある母親が療養している部屋の前で進むと扉をノックし再度「ただいま」と言って入った。
「勇お帰りなさい。お迎えありがとう…あら?さっきから夏菜子の声が聞こえないけどすれ違っちゃったのかしら?」
母親の詩織が妹を迎えに行って1人だけ戻ってきた裕を見て少し不安げに呟く。詩織の呟きに裕は頭を振って否定する。
「夏菜子の奴、自転車の後ろで眠りやがって今も玄関先で寝てるよ。どういった神経をしているんだか?」
「…まあ!疲れが溜まっていたのかしらねぇ?それともお兄ちゃんが迎えに来てくれて安心したのかしら?」
「どうだか?これから起こすけどまたちょっと騒ぎそうだけどごめんよ」
詩織は勇に急に謝られキョトンした表情で玄関に戻る姿を見送った。しばらくすると裕が夏菜子を起こしたのか何やら叫び声が聞こえる。そして廊下を走る足音が近づき夏菜子が部屋に飛び込んできた。
「ママっ!聞いてよ、お兄ぃったら私をおんぶしたって言うんだよ。足とかお尻とか寝ている間に触られたぁ〜もぉー最悪…」
夏菜子は大袈裟に手振りを付けて状況を説明するとそのままベッドの上で半身だけ起こしていた詩織の腰に抱きつきブツブツと文句を言い続けた。
詩織は少し呆れながら心では感謝している夏菜子の気持ちを汲んでか何も言わず頭を撫でて、夏菜子の気持ちが落ち着くのを待つのだった。
勇は騒がしい夏菜子を母親に押し付け2階の自室に戻って着ていたアウターをクローゼットに戻しベッドに腰をかけた。
『ふぅ、さっきの記憶は無いみたいだ…何か精神操作系の魔法?でもかけられたか?
しかし、あの人達は何者なんだ?皇安局?聞いたことも、ネットにも流れて居ない組織なのにあの規模の人数と外の監視の手配の迅速さ…かなりヤバい気がする。
それに、あの千里也と言った男…レベルカンストの俺よりも確実に強い…っん?』
ベッド上で先ほどあった事を色々と考えているとスマホからメッセージを受信した時の音が鳴る。直ぐにスマホを操作し確認する。案の定、裕と名乗った男からのメッセージだった。
“やっほー勇君。僕、ユタカ分かる? 分かるよね?自転車はさっき届けておいたから回収よろ。明後日は14時に新宿南口のスタバまで来てね“
『おいおい、あんな目立つ場所で待ち合わせなんて?それに、どうして明後日の俺の時間割を知っているんだ?これは警戒レベルを上げないと』
勇は”明後日なら都合が良い“とは言ったが授業が何時に終わるとも行っていなく、14時と言う待ち合わせは授業が終わって直ぐに移動しないと間に合わない時間なのだ。
全くの一般人の個人情報をこの短時間で調べて対応して来る組織力に勇は久々に背筋が冷たくなるのを感じた。
『良くエルにレベルが上がって強くなって良い気になっていた俺に”組織力は、数は脅威よ“って注意されてたっけなぁ』
勇は異世界で一緒に魔王討伐の旅をしていた聖女の言葉を思い出し昔を懐かしむ。その後両手で頬を一発パンと叩き気合いを入れると明日に備え眠る準備をするのだった。
▷▷▷
2日後、授業を終えて直ぐに電車に飛び乗り新宿駅に着いた勇は待ち合わせ場所のスタバから少し離れた位置で周囲の様子を伺う。
「あー、人が多すぎて駄目だ。其れに新宿ってなぜだか魔力が濃いし…こんな事になるなら斥候系のスキルを少しは取得するんだった…もう時間だし行くか」
特に斥候系のスキルを持っていない勇だったが戦闘系で敵の強さを測る魔力探知や氣力探知は習得している。敵が少数であり、人が少なければ問題ないのだが日本の1番の繁華街である新宿では情報量が多く役に立たなかった。
勇が意を決して店の中に入ると入り口からよく見える席にメガネをかけた裕が手でコーヒーのカップを
弄りながらつまらなそうに待っていた。
お読みいただきありがとうございます。
今作品は全て作者の妄想で出来ております。
現実の言葉、人物、団体、組織などなどは、一切関係がございません。ご了承の上お読み頂けますと幸いです。