第6話 〜実は良い人?〜
勇に蹴りを入れたスーツ姿の男が背伸びをしながら裕に近づいてくる。先ほどとは打って変わって機嫌が良さそうに和かに話している。
「今日の配信はもう終わったんですか?僕も見たかった…今夜はタワーを投げてないですよね?」
「今夜の配信は近況のお話だけだったよ、もちろん投げてないさ。最推しでも無いのに毎日投げてたら最推しの方々に迷惑だろう?」
勇には何の話をしているのかさっぱりわからなく裕とスーツ姿の男を交互に見ていると何処からか狐のお面をかぶっていない女性が近づいてきた。
「馬鹿男共!さっさと区切りをつけて帰るよ。こっちは帰りを待ってくれている家族がいるんだ。何時迄も推し活の話で盛り上がってんじゃないよ」
「「ごめんなさい」」
女性に一喝されると裕達は素直に謝り女性は一つため息をついてそれ以上怒りをぶつける事はなかった。そして勇に近づいてくると右手を差し出してきた。少し戸惑ったが、勇も右手を差し出し握手をする。
「今夜は巻き込んでしまって済まないね、私は刻野里見だ、宜しくな。ほらお前も名乗るんだよ」
「そんなに怒るな、俺は神崎千里也だ。その、あれだ。いきなり攻撃して悪かったな…」
里見に言われ渋々千里也は名前を名乗り先程勇に蹴りをいれた事を謝罪してきた。勇も真正面から謝られるとそれ以上は怒る事も出来ず、「大丈夫です」とだけ答えた。
「じゃあ、そろそろ黒狐隊が到着するから撤収しよう。車を出すから勇くんは乗って行ってね、自転車は後で玄関先に置いておくから中にしまって置いてね」
裕の提案に勇は素直に従った。流石に夏菜子を背負って自転車で帰るわけにも行かず、かと言って転移するのも目立ちすぎるからだ。
夏菜子が寝かされているテントの前には3台の黒いワンボックス車が止まっていた。勇は指示のあった車に夏菜子を移動させて裕達と別れた。ちなみに運転手は白狐の面をかぶっていたが特に警察などに止められることもなく、勇の自宅前に到着した。
「それでは山田様、私達はこの辺で。妹様の先程公園で見た記憶は暗示により普通に自転車に乗って帰って来た記憶にすり替えています。
しかし、余り思い出すようなキーワードが続くとフラッシュバックする可能性があるのでお気をつけ下さい。その際は別の方法もありますので、ご相談下さい」
白狐の面を被った人は録音でもされているかの様に流れるように説明をするとすっと消える様に立ち去ったのであった。
勇は腕に抱えていた夏菜子をゆっくりと家の中に運び玄関に座らせると肩を揺らして起こす。
「おい、馬鹿妹っ!起きろっ!」
「うん?えっ、な、何? 家?いつの間に?」
戸惑う夏菜子に勇は自転車の後ろでいつの間にか眠ってしまったのでゆっくり落とさないように帰ってくるのが大変だったと説明をして今日は疲れているのだから早く風呂に入って寝ろと口早に説明をして母親の休んでいる部屋に移動した。
「母さん、ただいま。ちょっと途中夏菜子が寝ちゃって時間がかかった。心配かけてごめん」
「お帰りなさい。お迎えご苦労様、あなたも身体が冷えていると思うからお風呂で温めてから眠るのよ。私は先に休ませてもらうわ、おやすみなさい。いつありがとうね」
勇の母は息子を見て優しく微笑むとゆっくりと状態をベッドに倒して眼を瞑った。勇は「おやすみ」と言って扉を静かに閉めて自室に戻った。
勇はベッドに腰掛け静かに目をつむり「ステータス」と呟く。瞼の裏に青白いウィンドウが写り出される。
『やっぱり、HPが100も減っている。千里也と名乗った男のダメージが防御を抜けてきたんだ。俺の事を“ひよっこ”と呼びやがって…何者なんだ?』
皇安局第3課とか名乗っていたなと思い出しスマホを取り出し検索ページで“皇安局”と検索をしてみたが関連がありそうな情報は出てこなかった。
『“異世界からの帰還者”…そんなに大勢いるなんて…せっかく平和な日本(世界)に帰って来れたのに…夏菜子達の安全を守るために帰って来たんだ、此処で引き下がる訳がない』
勇は“明後日の午後であれば可能です“と短いメッセージを裕に送ったのだった。
お読みいただきありがとうございます。
今作品は全て作者の妄想で出来ております。
現実の言葉、人物、団体、組織などなどは、一切関係がございません。ご了承の上お読み頂けますと幸いです。
更新は週3回を目標に更新します。
宜しくお願い致します。