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第29話 〜 日常生活?〜

まだ陽が上らない早朝、(イサム)は目を覚ました。ベッドから上半身だけ起き上がるとベッドサイドに置いてあるスマホをとり目覚ましアラームの設定をOFFにした。


時刻は5時30分、2月のこの時間はまだ日の出前で部屋の中に差し込む朝日もなく暗い。【暗視】スキルを持つ勇は部屋の明かりをつけずに運動用のジャージに着替え始めた。


10分後、まだ寝ている母親と妹を起こさないように【隠密】スキルまで使って静かに玄関から外に出る。外の気温は2度、吐く息が白い。スマホを空間収納(ストレージ)に入れ走り始めた。


20分程走ると広めの公園に到着する。この公園には冬の早朝にも関わらず数名のランナーや犬の散歩に訪れる人がちらほらと見える。そんな人達から離れるように公園の奥の方に移動する。


周りに人がいない事を目視と【探索】のスキルを使って確認してストレージから剣を取り出す。取り出した剣を正眼に構え一歩踏み出して真っ直ぐに振り下ろす。


ブンと空気を切り裂く音がした後、一拍あいて切り裂かれた空気が地面に落ちている木の葉を散らした。30回ほど素振りを行うと今度は運足と合わせて集団戦闘をイメージした型稽古を始めた。


この形稽古は、勇が異世界に転移した先で戦闘を教えてくれた剣の先生から教えてもらった型だった。形稽古を3度ほど繰り返すとスマホのアラームがなり帰宅時間であると告げる。


勇は剣をストレージにしまい、代わりにタオルと昨晩用意したボトルを取り出し汗を拭きながら水分補給を行った。その後はまた家までランニングで帰る。


「ただいま」「お帰りなさい」


玄関の扉を開けながら帰宅を告げるとキッチンから母親の詩織が返事をする。最初の頃はなんで急に早朝からトレーニングを?などとあれこれ聞かれたが半年も続けていると何も言われなくなった。


帰宅したままでバスルームに移動して汗をシャワーで流す。昨晩も風呂に入っているので汗を流すだけなのですぐに上がり、歯を磨いていると妹の夏菜子(カナコ)が寝癖をつけながら脱衣所に入ってくる。


「お()い、おはよ…早朝から良くやるわ…」


「…」


「可愛い妹が挨拶しているんだから何か言ったら?」


歯磨きをして返事ができない勇に夏菜子は幾分目覚めた表情で説教を始める。勇は歯磨きのスピードを上げて終えると反論をした。


「お前なぁ、見ればわかるだろう?歯を磨いているんだから返事なんて出来るわけないだろうが?」


「お前って言うな、お前って!」


「わかったよ、夏菜子おはよう…これで良いだろう?はい、お待たせしました」


早朝トレーニングをして折角スッキリした朝なのに喧嘩をして気分を下げたくなかった勇は早々に謝罪をして自室に戻った。脱衣所からは夏菜子の何かを言っている声がしていたが気にしない事にした。


自室に戻り制服に着替えリビングに向かう。母親の詩織がキッチンでお弁当と朝食を作っていた。


「おはよう、母さん。まだ本調子じゃ無いんだから無理しちゃダメだよ」


「おはよう、勇。大丈夫よ、今朝は気分がいいの、今日のお弁当はのり弁よ。楽しみにしていて」


今朝の詩織はすこぶる体調と気分が良いのかそう言うと朝の子供番組で流れる定番曲を口ずさみながらお弁当の仕上げに戻って行った。


詩織の体調は自宅療養に切り替えた後、勇が持っていたエリクサーで回復した。しかし、パートナーである父親を亡くしたショックは精神面のダメージが強く、落ち込み何も出来なくなることがまだしばしばあるのだった。


勇も夏菜子も出来る限り家事を分担し行ない、詩織が動けない時はカバーし合っていた。そんな状態だったので、先日皇安局に就職が決まった事を伝えるととても喜んだ。


皇安局の事は秘匿なので、表向きの国家警備局で要人警護みたいな事をする事になった。国家公務員と同じとだけ伝えると、何故か納得していた。


後々、加恋(カレン)にその様子を言うと加恋がが勇に持たせた緑水晶でできた数珠に持っている人の言う事を納得する術式が付与されていたと教えてもらいビックリしたのだった。


「今日は仕事が無いから、帰りに買い物出来るけど何か買ってくる?」


「そうなの…そうねぇ…作れたらカレーを作りたいと思っているから鶏肉の手羽元を200gといつものカレー粉をお願いね」


勇は「了解」と答えながらトースターで焼いたパンにマーガリンとハチミツつけて食べる。そしてコーヒーを飲み干して朝食を終え「ご馳走様」と言って使い終わった食器をシンクに入れてた。


「はい、今日も気をつけて行って来なさいね」


詩織はとても和やか笑顔で作ったばかりのお弁当を勇に渡す。勇は「ありがとう、行ってきます」と行ってキッチンを出て行った。


洗面所でいまだに前髪のセットを続けている夏菜子に「遅れるなよ」と一言かけて自室からカバンをとり玄関に向かった。


靴を履き終わると室内の方を向いてもう一度少し大きめの声で


「行ってきます」


と言って玄関を開けて出発した。心の中では「今日もちゃんと帰ってくるから」と言うのであった。

お読みいただきありがとうございます。

今作品は全て作者の妄想で出来ております。

現実の言葉、人物、団体、組織などなどは、一切関係がございません。ご了承の上お読み頂けますと幸いです。

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