第28話 〜 反省会?〜
待機室の入り口で立っている勇に裕が自分の隣に座るように手招きをする。千里也と裕はソファーに向かい合って座っていて裕は長椅子タイプのソファーのため隣が空いていた。
勇は楽勝とはいえダンジョンでの戦闘で疲れ(精神的な)が多少あったので家に帰って休みたかったが、先輩達の要望を無視するわけにもいかず渋々従った。
「勇くん?加恋さんから聞いたよぉー巌さんに噛みついたんだって?」
「いえ、俺は…あれは向こうが悪いです…試験とはいえあんな目にあわされちゃ黙っていたら隙を見せる事になりますから…」
「まぁ、あの試験は胸糞が悪くなるけど…噛み付く相手を見極めるのも大事だよぉ〜」
裕は手札を1枚テーブルの所定位置に置いて何かをコールした後、勇の頭をポンポンとなでる。頭を撫でられ少し安心している自分に気づいた勇は直ぐに照れ隠しで「やめて下さい」と頭をずらして裕の手を跳ね除けた。
「ちっ、そうゆう所だよっ!ひよっこ、お前は人の好意に甘える心のゆとりが無いんだ。だから巌の爺さんにも平気で噛み付く。爺さんは現在、いや現代の皇安局最強だ。俺と裕が束になっても3分持たないくらいな…」
千里也は「負けだ」と忌々しげにテーブルに持っていたカードを全て投げ出した。
『どうゆうことだ…この2人が同時に挑んでも3分しかもたない?ありえない…』
「まぁ、信じられないのも無理無いけど…初対面だと孫に甘々なおじいちゃんにしか見えないしね。多分だけど今月中か来月早々に呼ばれる“限界突破”訓練で嫌と言うほど分かるから楽しみにしててよ。訓練が終わって落ち込んじゃったりしたら、その時は優しくは慰めてあげるからっ」
裕はそう言うと先程と同じ様に勇の頭を優しく撫で始める。千里也の忠告もあり今回は大人しく撫でられていた。
「よし、そろそろ出ないと間に合わなくなるから準備しろよ」
千里也はカードゲームの負けを吹っ切る様に勢い良く立ち上がり伸びをした。それに続き裕も立ちあがりスマホで何かを調べ始める。
「それじゃぁ、俺はこれで…」
「何言っているんだ??お前も行くんだよ!それとも行かないのか?」
「これから“ねこねこ”ちゃんの対バンライブがあるんだよ。入局試験合格祝いだから行くよね?」
「もちろんです!!」
先程まで家に早く帰って休みたいと考えていた勇だったが、“ねこねこのライブ“と聞いて一瞬に心が切り替わり、先日受けた感動が心を気持ちを一杯にさせていく。
そして、空間収納に纏めてあった”ねこねこ“応援グッズを直ぐに取り出し準備万端であることを2人にアピールする。
「「良しっ!行くぞっ!」」「はいっ!」
3人はそれぞれの推しのイラストが描かれているTシャツに着替え、推しのメンバーカラーで名前が書かれているマフラータオルを首に掛ける。そして、ペンライトと推しのメンバーカラーのビブの入った“ねこねこ”のロゴが入ったお揃いのトートバックを肩にかけて意気揚々と待機室からライブ会場へ出発した。
「おい、あれ…」「えっ?増殖している?」「…」
白狐のお面を掛けた職員たちが3人の姿を見て口々に驚きの声を上げた。3人の聴力であれば有に聞こえていたが、そんな雑音は一切聴こえていなくライブ会場に突き進んだのだった。
▽▽▽
先日と同じように3人は“ねこねこ”が出演した対バンライブの後、ライブ会場近くのファミレスに来ていた。
「はぁー、もこちゃん最高でした。あのライブの時の煽り…思わず思いっきり叫んじゃいましたっ!」
「あのなぁー…ひよっこ、気持ちは分かるが限度があるぞ…俺達は思いっきり叫んじゃダメだろう…」
「そうだよ〜今日の対バン結構大きな会場だったけど勇くんが叫んだら一瞬静かになったもんね」
2人は先程のライブ途中での出来事を思い出しため息を吐いた。本日のライブの最後の曲とあって勇が推している塔本モコが何度かライブを盛り上げるために煽りを入れた後、最後に「お前ら限界まで声出せっ!」と煽った。
会場の他の同志達や他のグループを応援しに来ていたファンの盛り上がりが凄く、それに当てられた勇が【身体強化】で強化された声で叫んでしまったのだ。
3人はまた会場の1番後ろで参戦していたのだが、直ぐに千里也が勇を抑え込み、裕が気配遮断の魔法を使って事なきを得たのだ。
「すっ、すみません……反省しています」
「気持ちは十分過ぎる程分かるから…1回だけは見逃す。でも次をやったら一緒には参戦しないぞ」「うん」
千里也の注意に裕も頷いて同意をした。勇はテーブルに頭がつくほどに頭を下げ「はい」と返事をする。
「…っで、どうっだった?今日の対バンライブは?」
「最の高でしたっ!この前は歌っていなかった新曲?も聞けたし、その新曲?の歌詞を聞いてアイドルって本当はすごい大変なんだって思いました」
勇は本日対バンライブで“ねこねこ”ちゃんたちが歌った曲。アイドルが抱えている悩みや不安、そして宣戦布告とも取れる強い決意を歌った曲の感想を声量を抑えつつも感じた熱い感情を込めて語った。
「あの曲は音楽プロデューサーが他のアイドルに書いた曲のカバーなんだ。俺も好きな1曲だな、アイドルってキラキラしているものと思われがちだが、今の時代のアイドル達は本当に一生懸命に努力して、努力して頑張って、頑張ってステージに立っているんだとしみじみする曲だよ」
「顔と声が可愛ければアイドルになれるなんて、そんな幻想の時代はとっくの昔に終わっていて。歌もダンスも容姿も喋りも出来て漸くスタートラインと言うのが現代のアイドルの実状…それをよく表している曲で、僕たちファンも誠心誠意推しをおうえんしなくちゃって思うよね」
「はい」
今夜も終電間際まで3人は推しへの愛を語るのだった。
お読みいただきありがとうございます。
今作品は全て作者の妄想で出来ております。
現実の言葉、人物、団体、組織などなどは、一切関係がございません。ご了承の上お読み頂けますと幸いです。




