洗濯聖女は派遣先で国外追放されたおかげで収入が増えました
「マリオン・ウォーカー、お前はこの国の第二王子である私、ウンベルト・チェンバレンの婚約者になろうとした偽聖女である!先日結ばれた婚約は無かったものとし、国外追放を命じる!」
唖然としたマリオンは何も言い返せないまま、近衛騎士に両側から腕を掴まれ、王宮の外まで運ばれた。
今夜はチェンバレン王国の社交シーズン最初の夜会が開かれていた。国王主催のこの夜会には国中の貴族が集まる。マリオンは夜会があるとは知らず、まさか自分が参加するとも思わず、聖女の仕事をするために指定された家を訪ねただけだった。
指定された場所に約束通りの時間に行くと、ドレスを着せられ、髪を結われ、化粧を塗りたくられた。一体誰?と思うほど変化して、マリオンは聖女出張も悪くないわ、と思った過去の自分に言ってやりたい。
「今すぐ逃げて!」
マリオンが引っ張られ、連れてこられたのは荷馬車の前だった。
「あの!私の荷物は?」
「そのような瑣末な物、こちらで処分しておくから、お前はさっさと荷馬車に乗るがいい」
近衛騎士は剣を抜いた。剣先が怪しく光る。
「そんな!あの中には聖女証明書が入っているんですけど!」
「どうせ偽造だろう?他で使われたら迷惑だから、燃やしておく。もう二度と悪さするんじゃないぞ」
「食べ物は恵んでやる」
もう一人の近衛騎士のが紙袋を投げて寄越した。
「俺のおやつだ。ありがたく思えよ?」
「あの!私の服とか靴とか!」
「教会に寄付しといてやる。とにかく一刻も早く国外に追放するように言われているんだ。荷台でじっとしてろよ?」
剣先に追い立てられるようにに馬車に乗り、マリオンは右手で支柱を掴み、左手でおやつ入りの紙袋を掴んだ。
「よし乗ったな?しっかり掴まっていろよ?」
馬が嘶いた。
荷馬車はとにかく酷い揺れだった。舌を噛まないように奥歯を食いしばった。荷馬車を引く馬の負担も大きいだろうに、近衛騎士は酷く馬を鞭打った。
あまりの揺れに目も開けられず、鞭の音と車輪のガタガタ音しか聞こえない。
なぜ、こんな事になったのか。マリオンは隣の隣の国から派遣されて来た聖女だった。マリオンが生まれ育ったサージェント王国には現在十人の認定聖女が居る。
それぞれ得意な浄化方法が異なり、その有用性や生まれた家の家格によって一位から十位まで順位付けされていた。
マリオンは布を介して浄化ができる聖女で、第八位聖女だった。魔力は多く浄化の力も強いのだが、道具を使わないと浄化できないことと市井の生まれということから、総合的な評価での八位だった。
これまでの実績はかなり多く、評価されてもおかしくはないのだが、貴族でないと上位にはなれないのだろう。マリオンは特に順位は気にしていなかったし、衣食住は保証されていたので問題はないと思っていた。
サージェント王国とチェンバレン王国の間には大きな湖を抱えるシートン王国がある。チェンバレン王国から聖女派遣の依頼が来た時、旅程の過酷さとシートン王国のとある理由から、上位の聖女が全員断ったためマリオンに話が来た。
マリオンの下位にはまだ二人居るが、二人には貴族であることを盾に断られ、結局マリオンが来る羽目になった。何のための順位か!
ウンベルト王子は聖女と婚姻を結び、王太子になろうと画策していたのだそうで、チェンバレン王国に派遣された聖女が市井の出身だと知ると手のひらを返した。
最初は親切にしてくれたウンベルトの豹変振りを思い出してマリオンは震えた。あんなに顔付きが変わるなんて。まるで魔獣のような顔だった。
近衛騎士が馬に無理をさせて急いでいるのも、帰る時間が遅くなって魔獣に遭遇するのを避けるためだ。
国境が近くなり、荷馬車の速さが落ちてきた。そこには別の騎士がいて、既に連絡を受けていたのか、素早く手続きをするとマリオンをまるで犬か猫のように国外に追い立てた。そしてマリオンは国境の外に一人ぽつんと取り残された。
「私の荷物、ついに無くなっちゃったな。まあ、おやつはあるか。大事な物があったわけじゃないけど、聖女証明書が無いのは厳しいなぁ。サージェント王国への国境が越えられないよ。とりあえず、全身に浄化魔法をかけて、っと。んー、どこかに教会ないかな?」
マリオンの浄化魔法は布を介して使う。浄化魔法をかけた状態の布は結界のような効果を持つ。つまりマリオンの周囲には結界の魔法が張られた状態で、しかも周囲を浄化しながら進んで行ける。数多の経験から効率的に浄化しようと辿り着いた方法だった。
この魔法の良い所は魔獣に襲われることもなく、なんなら街道らしき道を浄化しながら街を目指せることだ。
「洗濯魔法なんて揶揄われてたし、色々嫌がらせされてたけど、その分魔法の使い方は結構身に付いているし、きっと何とかなると思う!」
声に出して自分を励ましながら孤独な旅程を進む。
ひたすら歩いて行くと、何かが臭いことに気づいた。臭う。においがあるという事は、浄化が必要な場所があるという事だ。そう、澱んだところはとても臭い。
今回は魚臭いような、水が腐っているような臭い。人が居ようが居まいが浄化しよう、マリオンはそう決めて臭いがより強い方へ進んだ。
臭いの先にあったのは漁港だった。活気の無い漁港。美味しいものなど無さそう。マリオンは街の中を歩いて周った。通った所から浄化されて行く。
鄙びた漁港の街を、王宮で踊っていそうなドレス姿の濃い化粧の女性が練り歩く姿は、異様としか言えない光景だった。しかし歩いた所がどんどん浄化され綺麗になる。窓から様子を伺っていた人々はもしや聖女様では?と考えた。
一人、また一人と家から出て来た。やっと人に会えて嬉しくなったマリオンは、慣れた様子で聖女モードの笑顔を携えて話しかけた。
「こんにちは。長い紐のような物をお借りできませんか?」
マリオンはサージェント王国でも聖女出張で街や村を浄化した事がある。その時に浄化魔法を込めた紐で囲むと、その内側が効率的に浄化できる事に気づいた。ここでもそれをしようと思う。とにかく臭うので、なるべく早く。
人の良さそうな街の人々は次々と紐を持って来てくれた。手伝ってくれると言うので、マリオンは端から魔法を込め、どんどん紐を長くして行く。街の周囲を一度には囲めないので、届いた範囲を囲み浄化した。
その工程を何度か繰り返していると、街の一人が湖をなんとかしてほしいと言い出した。
「みんな臭いのに無理して住んでいたのね。では、漁業に使う網を貸してください。」
マリオンは渡された網に浄化魔法をたっぷり込めた。
「これを湖に広げてみてください。効果が無くなるまで色々な場所で」
「よし!俺が行ってくる!」
男性集団の中から一人出てきた。
メリルと名乗ったその男性は船に乗って網を広げた。上手い。すごく大きく広がった。そのまま湖にしばらく浸す。何度か場所を変えて投網を繰り返して戻って来た。
「次の網はこちらです」
マリオンが渡すと、古い方の網と入れ替えて浄化して行く。この工程も何度か繰り返すと周囲の臭いが減ってきた。
「魚が獲れたぞ!」
浄化作業中のメリルが魚を獲って帰ってきた。
「この魚、臭く無い!食べられるぞ!」
街の人々は歓喜した。次々と舟を出して魚を獲りに行った。
しばらくするとテーブルが用意され、魚料理が並び、お祭り騒ぎが始まった。マリオンは着ているドレスを脱ぎたいが着替えを持っていないと相談すると、漁協のお姉さんが全部用意してくれた。家も貸してくれると言うのでこの夜はその家で過ごすことにした。
風向きが変わると湖から異臭がくる。最初街に入った時よりはかなりマシになっている。原因は湖だとは思うが、まずは人が住んでいる所を浄化していこう。あれもこれもしなくちゃなどと明日からの動き方を考えているうちに、今までの疲れがドッと出たマリオンは眠ってしまった。貸してもらったベッドが心地良い。なんなら先日までいた国のベッドよりも全然良い。
朝になった。漁港が騒がしい。支度をして家の外へ行く。大漁旗がはためいていて海にも港にも活気がある。一晩ですごい変化だった。
この雰囲気だったら何か美味しいものが食べられるかもしれない。マリオンは美味しいものを食べるために生きているのだ。
「おはようございます」
マリオンが声をかけると、漁師が駆け寄ってきた。昨日見事に投網を広げた男、メリルだ。
「聖女様!おはようございます!おかげで久しぶりに大漁です。何より魚も貝も臭くない。昔の港に、戻ったみたいです」
涙ながらに言って、マリオンの手を持ってブンブン振った。
「良かったです。メリルさん、今日は違う所を浄化したいのでまた協力してもらえますか?」
「もちろんです!こちらこそお願いします!」
「そういえば、この辺に教会はありませんか?」
「教会ですか?この街にはありません。王都にはあったと思います。でももう単なる観光地です。この国の聖女様は王宮に居て街には降りては来ません」
「それでこの臭いがそのままなんですね。勝手に浄化したら失礼かと思いましたけど、特に何もされていないのなら、浄化しても気にされないかもしれません」
「縄張りみたいな事ですか?」
「私が生まれ育ったサージェント王国では教会がしっかり管理しているんです。まあ、実際に浄化に行くのは私みたいな下っ端ですけど」
「あなたが下っ端だなんて、サージェント王国はすごいんですね」
「他の国の聖女事情に明るくないのでなんとも言えませんが……さあ!早速浄化していきましょう!時間がもったいないです」
「分かりました!お手伝いします!」
「そこのあんた!ちょっと待ちな!」
恰幅のいい女性が仁王立ちでマリオンを指差している。
「私ですか?」
「そうだ!あんただよ!」
「なんでしょう?何かしちゃいましたか?」
「いーや、逆だ。していない方だ」
「え」
「まずは朝ご飯だろう!うちで食べて行きな!」
「え!良いんですか?私今お金が無くて」
「あんたはこの街の救世主だ。滞在する限り飯はうちで食べな。無料で提供するよ」
「稼げるようになったら必ずお支払いします!」
「あたしの気持ちを無下にするってのかい?」
「いえ。そんなつもりは……」
「いいから、さっさと食べな。冷えちまうよ」
「ありがとうございます!いただきます!」
「ついてきな」
「はい!あの、お名前を教えてください」
「イネスだ。よろしくな、聖女様」
「私はマリオンです。マリオンと呼んでください。今聖女証明書を持っていないので聖女と名乗れません」
「そういうもんなのかい?」
「はい。証明できないので」
「功績が聖女と証明してると思うんだが、そういうもんじゃないのか」
「そうなんです。管理されているので」
「ふーん。窮屈だねぇ。さ、全部忘れてたんと食べな」
「いただきます!え。うまっ」
「あれ?あんた街の子かい?」
「そうなんです。あ、これも美味っ。イネスさんめちゃくちゃ料理上手ですね」
「ありがとよ。あんたも苦労してんだな」
マリオンは食べるのに夢中でもう何も聞こえなかった。
食べ終わったマリオンはイネスの協力で街の人からたくさん紐をもらった。布製だともっと効果があると伝えたら、その場でどんどん布から紐を作ってくれた。紐を作る人、結ぶ人。あっという間に恐ろしく長い紐が出来上がった。
街の入り口に移動して、マリオンは紐に魔力を込めていく。街の男衆が手伝ってくれて、浄化の紐を持って街の境界線のギリギリ内側を進む。
紐を持った人が反対側から戻って来た。マリオンは紐の端と端を結んで円にし、集中してから浄化魔法を一気に込めた。
「えい!」
紐から何かが放たれた。衝撃波のような空気の塊が円の内側に向かっていく。波は中心辺りでぶつかって急上昇して消えた。おや?臭いが消えた。心なしか街が掃除されたように綺麗になったような?
久しぶりに大きな浄化魔法を使って疲れが出たマリオンは、皆にお礼を言うと早めに家に戻って休む事にした。イネスさんがお弁当を作ってくれて、持って帰って食べた。美味しくて涙が出た。
街のお偉いさんは次にどこを浄化してもらうのか計画を練り始め、街の予算を使ってマリオンに報酬を出す事が決まった。
さらにお偉いさんたちは近隣の街にも人をやって、報酬を払えば浄化してもらえると話を持ちかけた。人々は喜んでその話に乗った。
ただ、湖の浄化をどうするかが問題だった。広大な湖に小さな網を浸けていくのは効率が悪い。しかも深い。かと言って湖を紐で囲うのも現実的ではない。国土の半分が湖なのだ。方法はマリオンに相談してから決めることにしてその日は散会した。
翌朝、マリオンはイネスからその話を聞いた。
「あんたが嫌だ、面倒だって言うならあたしが責任持ってあんたをあんたの国に送り届けるよ。一応流れはあるが、逆らっても構わない。マリオンはどうしたい?」
「私は、美味しい物が食べたいです。浄化すると材料が良くなって美味しくなります。それを使ってイネスさんにたくさん美味しいものを作ってもらいたいのです。国に戻っても衣食住の提供だけで、浄化して報酬をくれるって言われたの、今回が初めてなんです。嬉しいのでもっともっと働きたいくらいです」
「とんでもない労働環境だったんだねぇ。衣食住があったってお小遣いくらいは欲しいもんだけど」
「一応あるって噂は聞いたんですけど、私の手元には来なかったんです。チェンバレン王国に行くのをみんな嫌がったので私みたいな下っ端が派遣されたんですけど、原因はこの国の湖なんです。臭うでしょう?それでみんな嫌がって……だからこれは言わば私の臭いに対する復讐です。お前のせいでこんな遠くまで来たんだぞって」
「なるほど。そう言えばこの国も昔は観光客がたくさん来てたんだけど、いつの間にか臭うようになって減ったねぇ。サージェント王国でもそんな評判だったとはねぇ」
「湖に何か原因があるのかもしれませんね。臭いは元から断たないといけませんから。私はとにかくじゃんじゃん浄化します!」
「それなら安心してこれを渡せる。浄化計画書だ。無理があったら遠慮なく言っとくれ。あと報酬がこの書類にある通りで、衣食住の提供に関する書類がこれ、布の無償提供に関する書類がこれだ。質問はあるかい?」
「すごい!きっちりしてますね!」
「この国は元々は勤勉な国なんだ。今は臭いでやる気が削がれちまってダラダラしてる奴が多いけど、臭わなくなったらどんどん変わっていくと思うよ」
「私もがんばります!」
翌日からマリオンは計画書通りにどんどん浄化していった。臭いが無くなって活気が戻った街は近隣の街に話を持っていく。浄化の輪は段々と広がっていった。
街の浄化と並行して、マリオンたちは湖の浄化方法を考えていた。網を使った方法も試していたが、街の近くが浄化できるくらいで、風向きが変わるたびに街が臭う。風がない時は臭わなくなった分、前よりも臭い。
「湖の中心部に臭いの素、澱みがあると考えるのが自然だと思うんだけど」
「そうかぁ。何があったんだっけな?」
「チェンバレン王国と戦争になりかかった頃に、臭いがどうって誰か言ってなかったか?」
「あー、先月亡くなったお爺じゃないか?お偉いさんに伝えたいって言ってたのをその後のバタバタですっかり忘れてた」
「おいおい、今際の際の願いを忘れるなんて、仕方ねー奴だな」
「そう言うなって。色々大変だったんだよ。爺さん身寄りがなくてよ」
「で?爺さんは何て言ってたんだ?」
「ええっとな、綺麗な格好したねーちゃんが湖に何かの玉をバラバラと捨てた、そっから臭うようになった、だな」
「まさか!」
「マリオンちゃん、心当たりがあるのか?」
「うん。それは澱みの玉だと思う。中途半端に浄化すると澱みが消えないで硬い玉に変わることがあるの。それを湖に沈めたんだと思う。それならこの臭いも納得できる!そういうことかぁ。この国の聖女は王宮に居るって言ってたでしょ?多分その人が捨ててるんだと思う」
「まじか。やべー奴だな。表立って文句言うと消されるかもしれねーな」
「こっちで勝手に浄化しとけばきっとバレないわよ。澱みの玉がどこにあるか探そう。きっとどこよりも臭うから分かりやすいと思う。大きな布を用意してもらうことは可能?」
「先週浄化した街の特産に木綿の布があったよ」
「じゃあ、それに浄化魔法を込めて湖に浸してみたいの。その場で浄化を繰り返せばいけるんじゃないかと思うの」
「分かった。体の負担にならないようにやるんだよ?じゃあ、澱み捜索班と布の手配班に分かれて動こうか。でもまずは食事だ」
「やったー!いただきまーす!」
いつの間にかイネスが食事を用意してくれていた。食べ終わった者から作業を始め、とびきり臭う場所を見つけてきた。臭いにやられたのかヨロヨロ、フラフラ。
翌日、マリオンたちはそのとびきり臭う場所に来た。
「すごい臭い……そりゃー、国中が臭うわ」
「澱みの匂いが凝縮されてるわ。さ!早速始めましょ!」
マリオンは布に浄化魔法を込めた。何艘かの船で布を広げて湖に沈める。布は大きく広がったまま湖底に降りていった。それに合わせて少しずつ臭いが減っていく。マリオンは遠隔で少し強めに魔力を込めた。
「かなり溜まっているみたい。しばらく通ってしっかりと浄化したいな」
「布は結構用意してもらったから何回でも試せるよ」
「準備ありがと!」
「へへっ。良いって事よ」
マリオンたちが港に帰ると街の人間ではない男が立っていた。
「マリオン!見つけた!元気そうで良かった」
「え?イーノック?どうしてここに?」
「マリオン、急でなんだが、俺とサージェント王国に来てほしい」
「今浄化の途中なの。困るわ」
「実は色々あってマリオンを探していたんだ。今とても急いでいる」
「そう言われても私も困るわ。」
「分かった。じゃあ、この街に転移の魔法陣を作るから一旦俺と行こう。諸々が済んだらまた戻ってくれば良い」
「うーん。じゃあ、せめて布に浄化魔法を込めさせて。メリルさん、明日から布を湖に沈めてもらって良いですか?毎日一枚ずつ」
「聖女様じゃなくて俺が沈めるのでも良いのか?」
「浄化速度が遅くなるけど、効果はちゃんとあるわ」
「分かった。今日みたいにやれば良いんだな?若い衆と協力してやっとくよ」
「ありがと。では浄化魔法を込めるね。澱みの玉に触れたら強めに発動するように調節もしておくね」
「相変わらずマリオンは桁違いだな。ま、そんなマリオンに並び立てるように俺も魔法の修業を頑張ったんだけどさ」
悲しいことにイーノックの言葉は誰も聞いていなかった。慌ただしく作業が進む。イーノックはマリオンが使っている家に案内してもらって、転移の魔法陣を敷いた。
イーノックが街のお偉いさんに挨拶をして戻ってくると旅支度を終えたマリオンが待っていた。
「さ、良いわよ。あなたに着いていくわ。道中ちゃんと説明してよね」
「分かった。ありがと、マリオン。魔法陣でパッと移動したいんだけど、陸路で移動しないといけないんだ」
「舟で送ってやろうか?」
メリルが言った。
「サージェント王国までは湖を渡るのが一番早いぞ。まー、まだちょっと臭うけど」
イーノックは嬉しそうに言った。
「それは素晴らしい!お願いします!帆かけ舟があれば浄化しながら渡れるぞ。マリオンはまだまだ魔力があるだろう?」
「そうね。それ、良いかも!」
「じゃあ、帆かけ舟で送るよ。マリオンちゃんこの船だ。魔力を込めるかい?」
「そうね。ちょっと集中して込めるから待ってて」
イネスがイーノックに話しかけてきた。
「マリオンちゃんはこの街の、いやこの国の救世主なんだ。大切に扱っておくれよ?最初この街に来た時はチェンバレン王国の奴に追い出されたとかで、荷物も何もなく着の身着のままだったんだ。そもそもサージェント王国でも苦労してたみたいだね」
「え!そんなことが?なるほど。やつがマリオンの証明書を持っていたのはそういう事か。安心してください。マリオンはサージェントで一番有名な聖女なんです。そんな目には二度と合わせません」
「マリオンちゃん、自分は下っ端だって言ってたよ?」
「順位は低いけど、誰よりも働いてたから一番有名なんです」
「なるほどな。元からあの性格なのかい?」
「ここでも働きまくりですか?」
「よく働くし浄化はすごいし、人気者だよ。マリオンちゃんが来てくれて、この街は生き返ったよ」
「マリオンは布を使うから洗濯聖女って言われてたんですけど、まるで街を洗濯したみたいに変わるとも言われているんです」
「あたしらの人生ごと洗ってくれたよ」
「お待たせ!行きましょう」
「じゃあ、行こう。メリルさんはもう波止場?」
「そうよ」
「待ちな!」
「イネスさん?」
「これを持っていきな!」
イネスさんはお弁当を持たせてくれた。
「ありがと、イネスさん。いってきます!」
「ああ、いっておいで。くれぐれも無理するんじゃないよ?」
「はい!」
三人は港に向かって手を振りながら帆かけ舟で出港した。舟は順調に風を受けて湖を進んでいく。マリオンの浄化魔法がかかった帆のおかげで通った所が浄化された。
「いやー、マリオンちゃんは本当に凄いな」
においが気にならない場所を見つけた三人は美味しくお弁当を食べた。
「実はチェンバレン王国の王子がマリオンの聖女証明書を持つ女性を連れてサージェント王国に来たんだ」
「え。ウンなんとかって王子?私の一瞬だけの婚約者!」
「はぁ?もしかして婚約破棄された挙句国外追放になってシートン王国に居たのか?冤罪も冤罪だな。許せん」
憤るイーノック。
「マリオンちゃんを酷い目に合わせたのはチェンバレンの王子だったのか。人を見る目がねぇなぁ」
呆れ顔のメリル。
「ウンベルト王子は、マリオンを返すから違う聖女を寄越せ、と言ってきた。最初はマリオンが失踪した、と言ってたんだが、それでは次の聖女は派遣できないと教会が断ったら、堂々と偽物を連れて来たんだ。マリオンの聖女証明書を持っていた」
「私の荷物全部没収されたから、そこから取ったに違いないわ。悪用されないように燃やすとか言ってたけど結局悪用してるじゃない」
「酷い奴だな!」
「マリオンは有名だから、国境を越える段階で偽物とバレた。今ウンベルトは教会で捕縛されているけど、一緒にいる女性が自分こそがマリオンだと言い張っている。それでマリオンに懸賞金がかけられたんだ。今いろんな人がマリオンを探している」
「え。やだ。私懸賞首?」
「最初にマリオンを教会へ連れて行った者に二千万ポルカが支払われる」
「私二千万?」
「そうだ」
「さすが聖女マリオン様だな」
メリルが揶揄うような目でマリオンを見たので、マリオンは軽くメリルを睨んだ。
「おー、怖っ」
「そういえば、イーノックはどうして私を見つけられたの?」
「よくぞ聞いてくれた。最近シートンの美味しい食材がサージェントで転売されているんだ。それでその転売屋を辿ってマリオンに行き着いた。マリオンが居る所には必ず美味しい食材がある。絶対にどこかで浄化魔法を使って美味しい物を食べていると思った」
「凄い推理だな!」
感心するメリルの横で、マリオンは真っ赤になって俯いた。ぐうの音も出ない。
「さあ、着いた。あっという間だったろう?」
「速い上に快適だったわ。メリルさん、ありがとう。じゃあ、行って来ます!」
「ああ、湖のことは任せておけ。気をつけてな」
「はい」
「メリル、助かった。ありがとう」
「イーノックも気をつけてな!」
マリオンとイーノックはメリルと別れて馬を探した。二人は馬に乗って国境を目指した。
国境ではイーノックの同行者としてマリオンは入国した。国境の騎士もマリオンを知っていたので、聖女として入国できると言われたが、証明書がないので無難に同行者とした。騎士は早馬で教会へ知らせを届け、イーノックがマリオンを発見したことが認定された。
マリオンとイーノックはなんの妨害もなく教会へ着いた。道中では馬に付いていた飾り布や自身の服に浄化魔法を使い、浄化しながら移動して来た。人が生きている限り澱みはできる。こまめな浄化が効率的だとマリオンは知っていた。
「ただいま戻りました」
「イーノック、よく見つけてくれた!あの王子、とんでもない事をしてくれた。シートン王国は臭うからと探しに行く者が少なかったから助かったよ」
「教会長、湖の中心部に澱みの玉が捨てられています。場所は特定できていて、浄化魔法をかけた布を沈めて浄化を始めています。王宮に聖女が居るようですが、その人がやったんだと思います。街には聖女は居ませんでした。聖女というか聖女もどきというか、修業をしていない野良聖女なんでしょうか?」
「知識がないのだろう。シートン王国には伝えておく。まずはウンベルト王子に会ってくれ」
「分かりました」
マリオンはイーノックを見た。
「一緒に来てくれる?」
「もちろんだ!何か向こうがしてきたら俺が守る」
「ありがと。なんか私が知ってるイーノックじゃないみたい」
「結構頑張ったんだぜ。マリオンの隣に居ても恥ずかしくないように」
「え」
「さ!行こう」
イーノックはくるりと向きを変えて歩いていってしまったので、マリオンは慌てて後を追った。顔が何だか熱かった。
教会の特別室からは騒がしい声が聞こえていた。
「俺を誰だと思っているんだ!ここからなぜ出てはいけない!お前らの要望通りマリオンを連れて来たんだから他の聖女を寄越せ!あんな庶民を寄越しやがって!」
(あー、そういうご不満があったのね)
マリオンはスンっと無表情になった。
部屋の扉をノックするとすぐに扉が開いた。
「マリオン!やはり無事だったか!ワシがおらんうちにマリオンをよその国に送るなんてとんでもない。まずは部屋に入れ。イーノック!よくやった!とりあえずマリオンの警護をせよ。この王子とんでもないぞ」
教会の長老がマリオンの肩をバシバシ叩きながら言った。痛い。マリオンは肩が痛かったが懐かしい長老の元気な様子に目を細めた。遠くの国へ長期出張をしていたので、久しぶりの再会だった。
「承知しました」
イーノックは王子から少し離れた所に椅子を置いてマリオンを座らせ、王子とマリオンの間に立った。
王子の前に座っていた教会長が話し始めた。
「ウンベルト王子、こちらが本物のマリオンです。彼女はこの国で一番有名な聖女です。確かに市井の出身ですが、聖女としての力はトップクラスです。彼女にご不満と仰るのなら他の聖女では物足りないでしょう。これ以上の聖女の派遣は不可能です」
「しかしこちらには聖女証明書を持った本物のマリオンがいる」
「その証明書をお貸しいただけますか?」
「どういうことだ?」
教会長は証明書をマリオンに渡した。マリオンは浄化魔法を込める。すると、証明書から「八」という文字が浮かんだ。
「なぜ第八位なんじゃ?お前ほどの力があれば第三位以上は確定じゃろ?」
「確かに。調べましょう」
長老と教会長の視線を受けた秘書が小さくお辞儀をして部屋から出ていく。
「では、そちらのマリオンさんにも試していただきましょう」
教会長は証明書をウンベルトに渡した。ウンベルトの隣に居た女性は涙目だった。
「いいからやってみろ!」
「無理です」
声が小さい。
「ああ?聞こえないぞ?」
「私には無理です!私はウンベルト王子に命じられて連れてこられた偽物です!」
「な!何を言うんだ!お前が本物だろう?な!そうだろう?」
「もう無理です。お許しください!」
教会長が偽マリオンに近づき、手を取って立つように促した。教会長が視線を送ると、聖騎士が近づいて来て偽マリオンを部屋の外へ連れていった。
「ウンベルト王子、聖女に関する虚偽報告はどのような罪になるかご存知ですか?」
「知らん!俺は関係ない。帰る!」
「お帰りいただくことは叶いません。王子をお連れして」
控えていた聖騎士の中でも一番屈強そうな聖騎士が近づいて来て、顔を引き攣らせた王子を教会の牢に連れて行った。
「後は国家間のやり取りになる」
教会長はマリオンに言った。
「おかえり。苦労をかけてしまってすまなかったね」
教会長に会うのも久しぶりだ。彼は世界を飛び回っている。長老と教会長が揃うのは珍しいことだ。他国の王子が来て騒いだから呼び戻されたらしい。
マリオンは俯きがちに首を左右に振った。苦労をしたのは事実だが、教会長のせいではない。気持ちを切り替えるように顔を上げた。
「到着してすぐの頃は丁重に扱われていましたが、私が貴族でないと知られた後は態度が変わって驚きました。シートン王国に入ってからはとても良くしてもらいましたし、初めて報酬をもらって仕事をしました。まだ仕事が残っているのでシートン王国に戻りたいのですが、もう帰ってもいいですか?」
「俺が転移の魔法陣をマリオンの家に仕込んでおきました」
イーノックが手を少し上げて言うと、教会長は頭を抱えた。
「イーノック、許可は取ったか?」
「いいえ?個人利用だから問題ないと思っていました」
「聖女の仕事をしてるんだろう?国際問題になるぞ」
「でも当時の私は聖女証明書が無くて、身分を証明できませんでした」
「あー、なるほど。ん?初めて報酬をもらったと言っていたよね?」
「はい。契約書もありますよ。みんな協力的で仕事が捗って捗って」
「取り急ぎ、シートン王国と交渉するからしばらくは教会で待機!その間にマリオンが無報酬だった事も調べておくから、安全のために部屋を移動してくれ。転移でシートン王国に入国するのは禁止。いいね?」
マリオンとイーノックは教会長や長老の居住区に部屋を移された。マリオンの荷物がほとんど無いと知った長老が商人を呼んで色々と揃えてくれた。今までのお詫びと全部買ってくれた。
普段働きまくっている二人が何もしないわけもなく、新しい浄化の方法を試したり、お取り寄せで長老と美味しいものを食べたり。長老は浄化魔法の使い手としてのマリオンを育て導いた人で、マリオンの成長を殊の外喜んでくれた。
一週間後マリオンとイーノックは教会長の部屋に呼ばれた。
「待たせたな。調査の結果が出た。まず、マリオンの報酬が正当に支払われていなかったことを謝らせてくれ。すまなかった。横領をしていたのは、会計部の部長だった。マリオン以外の三位以下の聖女が仕事をしておらず、マリオンが浄化した分を自分の功績にして、実績も報酬も奪っていたことが判明した。部長はその聖女たちの親からも利益を得ていた。もう拘束済みだ」
「あー、あの方々しょっ中私に絡んできて暇だなと思ってましたけど、本当に暇だったんですね」
「浄化現場に行って証言を集めた結果、全てマリオンが来ていたことが確認できた。皆感謝していたよ。素晴らしい聖女様を派遣してくれてありがとうと言われた」
「いえ、上手くいっていたなら良かったです」
マリオンは恐縮していた。ただ行くように言われた仕事場へ行って、淡々と仕事をこなしていただけだったのに。
「こちらがその時払われていなかった報酬だ。受け取り証に署名をしてくれ」
「こんなに?聖女の仕事ってこんなに支払われるものなんですか?」
「そうだ。無資格の聖女と証明書を持つ聖女の報酬は十倍の差がある。シートン王国では無資格だったからこの書類の金額だが、今後は正規料金を国が支払ってくれる。今回生じた差額分はチェンバレン王国に請求した。証明書を取り上げたことへの慰謝料も含まれる。問題が起きないようにチェンバレン王国から教会に振り込まれるから、支払われたらマリオンの口座に振り込む。これがマリオン名義の口座カードだ」
「なんかすごい話になってきて驚いていますが、諸々の手配、ありがとうございます。無知は損ですね。全く知りませんでした。みなさん貴族だから着飾って美味しい物をこれ見よがしに食べてるとばかり」
「教会に来た時から騙されていたわけだから、気付けなくても仕方ない。報酬の話題はあまり触れないものだから」
「そうですね。実績までも誤魔化されていたとは……」
「マリオンの聖女の順位が変わるよ。次の聖女の順位考査が終わったら恐らく第三位になる」
「畏れ多い事です」
「そのくらい奪われていたんだよ。教会長として気付けなくて申し訳なかった」
「なんと申し上げて良いのか分かりません」
「そうだよな。チェンバレン王国への派遣の件もすまなかった。実績が誤魔化されていてほぼ無い状態だったから尚更マリオンが行かざるをえなかった」
「実績…… あ、あの変な王子はどうなったんですか?」
「国に送り返した。今どうしているかは分からないな。マリオンには済まないが、全てお金で解決することになる。あの王子の国外追放はやめて国内で処罰されることになったから安心してほしい」
「確かに。国外追放ってある意味近隣諸国への迷惑行為ですよね」
「ははは。あ、あとシートン王国の澱みの玉だが、湖の底を浚って全て取り出した。この教会に運ばれてくるから、今回問題になった聖女全員で浄化してもらう。シートン王国は新しい契約先になったから、マリオンを派遣する予定だ」
「良かったです!すごい臭いだったんですよ?澱みの玉でたくさん魚が死んで腐って。風向きによって国の色々な所に臭いが……」
その場にいた者は皆、嫌なにおいを嗅いだように顔を歪めた。
「……後は湖底を浄化すれば完全ににおいは収まるはずだ」
「さあ、そこでこの玉の登場です」
マリオンはテーブルに白い玉を置いた。
「これはイーノックが作った魔力玉に私の浄化魔法を込めたものです。これがあれば、私が居なくても浄化作業が行えます。湖底の浄化は大変ですから、試してみませんか?」
「これは良いな。聖女がわざわざ出張しなくても浄化することができるじゃないか!お試し価格でシートンの湖で試してみるか」
「はい。あ、転移の魔法陣を置かせてもらう許可は出ましたか?」
「ああ、出してもらえた。早速行くのか?ちょっと待て。確認したいんだが、所属は今まで通りここの教会で良いか?」
「ちゃんと今までの分の報酬も貰いましたし、ここの教会の管理体制もこれから良くなるんですよね?長老と教会長にはお世話になっていますし、シートン王国に出張できるのなら所属はここで構いません」
「良かったぁ。以前のような苦労はさせないと約束するよ。これからも頼む。こちらが気付けないことがあったら遠慮なく言ってほしい」
「分かりました。こちらこそよろしくお願いします。この後早速転移しても構いませんか?」
「許可する。行く前には一筆残しておいてくれ。あと、当然ながら、シートン王国内で浄化魔法を使う許可も出ている」
マリオンとイーノックは教会長の部屋から出て部屋に戻った。
「イーノック、色々ありがとう。おかげで報酬と快適な職場を手に入れたわ。早速魔法陣を起動して街へ行きましょう!置き手紙をしておけば良いのよね。早くイネスさんのご飯が食べたいわ」
「よし、行こう!俺も食べたい。お弁当美味しかった」
「お弁当も美味しかったけど、お店で出来立て熱々で食べるとびっくりするくらい美味しいわよ」
「楽しみだなー!」
「そう言えば、イーノックの仕事はいいの?」
「言ってなかったっけ?俺、マリオンの専属騎士になったんだ。あ、そうそう、今回の懸賞、これ山分けな」
「え。現金で渡されても困るなぁ。その報酬、結構重そうだわ」
「この口座カードで現金に触れると貯金できるよ。カードのここに触りながら金額を言って、カードを振るとその分の現金が出てくる。便利だろ?俺が作った魔道具なんだ。ちゃんと防犯対策もしてあって、特に富裕層に好評なんだぜ?その人脈で転売屋を追えたから何がどう好転するか分からないよな」
「え。すごい!」
「そんなワケで、これマリオンの分」
「ありがと。なんか私急にお金持ちになったわ」
「まだまだこれからだよ」
「そうなの?」
「そうだよ。まだまだ浄化するだろ?全部報酬が出るんだよ?あ、あとさ、マリオンの傍には俺がいるから何でも頼ってよ」
「え。あり、がと?」
「鈍いなぁ。俺マリオンが好きなんだ。マリオンの隣で堂々として居られるように魔法使いの修業頑張ったんだぜ?まあ、離れてた間にマリオンが搾取されて苦労してたワケだけども……」
「私、イーノックが頑張らないと側にいられないような、そんな大した人じゃないわ」
「何言ってんの。どれだけ多くの人を救ったと思ってるんの!まあ、最初は今まで通りでも構わないし、最悪俺を選ばなくても良いよ。結局、俺はマリオンが幸せならそれで良いんだ。もちろん俺をパートナーに選んでくれる未来が一番良いけどさ」
「イーノック……ありがと。嬉しい」
「まあ、とにかく今日はイネスさんの所へ行こう!」
「そうね。まだ私、自分の事を考える余裕がないから、もう少しゆっくりイーノックとの事を考えたい。でも一応言っておくと、イーノックのことは特別に好きよ」
「それが恋愛感情だって分かったらまたそう言ってよ。俺、結論が出るまでいつまででも待つからさ。今までもずっと待ってたんだからちょっとくらい誤差だし」
「ありがと。私、ちゃんと考えるね。これからの自分の事もイーノックとの事も」
優しい眼差しのイーノックが微笑んだ。
「よし!じゃあ、切り替えて、イネスさんのご飯を食べに行こう!」
二人は転移の魔法陣を使って漁港がある街のマリオンの家に来た。玄関を出て、どちらからともなく手を繋いで、すっかり良い匂いに変わった漁港の街を歩いて行った。
完
おまけのメリル
~久しぶりに街に来たマリオンに話しかけたメリル~
「イーノックの野郎が取り返してくれた転売屋の利益のおかげで王都への販路を拡げたんだよ。この街の魚介類や近隣の野菜を食べると元気になるって評判なんだぜ。あー、そーいやマリオンちゃんとこの爺さまなんとかしてくんねぇか?イネスおば、いやイネスの姉貴を口説いて困ってんだけど。え?無理?誰も止められない?そうか、まあいっか。二人のことは確かに二人にしか分からないもんな。あ?俺?俺はチェンバレン王国へ営業に行くとこだよ。マリオンちゃんが通ってきた道、『ケモノ知らず街道』って今評判なんだよ。交易も増えそうだから乗っかろうと思って。これでもマリオンちゃんとイーノックの野郎には感謝してるんだぜ。いやいや、メリルさんなんて他人行儀な。メリルってい、あぁ、いや、気にしないでくれ。なんでもない。じゃあな。またこの街に遊びに来いよ!気をつけてな!……ちぇっ。今日はやけ酒か……」