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第6話 偽者疑惑

「ヒューイ皇太子殿下は、実は二年間貴国の王国学園に留学しておりました」


「初耳だわ」


「カトリーヌ様のノートを授業中に何度か盗み見したことを謝っておいてくれ、と殿下から依頼されております」


 スピリングのアイデアを記載したノートを盗み見たのか。だが、実用化は簡単ではなかったはずだ。


「ヒューイ皇太子殿下は私のことをご存知なの?」


「はい、苦労してようやくお迎えすることができたのです。首都で待っていられず、一緒についてくると仰せられて、留まっていただくのが大変でした」


「そんなにお待ちなの?」


「はい、それはもう。こんなにお美しい方であれば当然でございます」


「美しい? 私が?」


 ここ最近よく言われる。シャルロットでさえそう言っていた。だが、私にはどうでもいいことだった。


「はい。我が国には美女が多いですが、カトリーヌ様は誰よりもお美しいです」


 だが、おかしい。私は学園では幽霊と呼ばれていた。仮に私が美人だとして、留学中に私が美人だと気づけるだろうか?


 いけない。時間の無駄だ。私は会話を打ち切り地図を見始めた。


「今いるのはこの辺り?」


「はい、その通りでございます」


 リリアはすぐに話題の切り替えについて来た。私はリリアが気に入った。頭が良く、詰まらぬ詮索をしないのがいい。


 地図を見ながら、各州の人口や生産物や特産物などの説明と課題の提示を求めると、リリアがすらすらと答えてくれる。私はその博識に舌を巻いた。


 私はリリアの話をノートに取りながら、思いついたことを書き足していった。


「ダンブル国では女官もこんなに博識なのかしら」


「私は女官の姿をしておりますが、女性諜報部隊クノイチの筆頭を務めさせて頂いております」


「なぜそんな優秀な人が私の女官に?」


「我が国にとって、カトリーヌ様が至宝のお方だからでございます。カトリーヌ様がご必要な物は全てお揃えします」


「どうしてそんなに? 正直戸惑っているわ」


「ヒューイ殿下のご判断に間違いはないからです。今、カトリーヌ様を二千人の兵士で護衛して首都までお送りしておりますが、王国にカトリーヌ様を取り戻させないためです」


 確かに私は一生懸命頑張って来たが、いくらなんでも買い被りすぎではないか?


「買い被りすぎよ」


「ヒューイ殿下の目に間違いはございません」


 部下にここまで絶対的な信頼を得ているヒューイという人物に私は興味を持った。兄が死んで以来、人に興味を持ったのは初めてだった。


 そのとき、馬車がゆっくりと停止した。馬車の外に伝令がいるようで、リリアが馬車を降りて対応しているようだ。


 リリアが馬車に戻って来た。少し困惑した表情だ。


「あの、カトリーヌ様、ヒューイ殿下がこの先の宿までお越しになっているようです。本当にカトリーヌ様かどうかをすぐに確認されたいと仰せです。誠に申し訳ございませんが、馬に乗り換えていただけますでしょうか」


***


 これより数時間前、早馬に乗った報告官が東宮殿に入り、ヒューイの御前に進み出た。


「ヒューイ様、カトリーヌ様が国境の関所にご到着されました。さすがヒューイ様の奥方になられるお方。眩いばかりにお美しいお方です」


(何? 美しいだと? まさかシャルロットの方を替え玉にして来たのか?)


 ヒューイは不安になった。王国がカトリーヌの実力に気づいたのかもしれない。


「そいつは恐らく偽者だ。俺が行って確かめる」


 ヒューイはそう言って席を立った。

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