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第46話 どっちがいいか

 私は各種政策の打ち合わせの後、トーマス中尉を呼び出して、シャルロットの女王としての働きっぷりの報告をしてもらっていた。


「シャルロット様は、王国を統一されてからは、さらにお忙しいそうで、お体を壊されないか心配です」


「あの子は執務時間をきちんと決めていないのかしら」


「一日七時間と決められているようですが、最近は夜遅くまでお仕事されておられます」


「ひょっとして、トーマス中尉はその間、ずっとシャルロットと一緒にいるの?」


「もちろんです。それが私の仕事ですから」


「それよっ」


「何がでしょうか?」


「あなた、シャルロットの仕事に付き合うのではなく、息抜きをさせてあげるようにしなさい。例えば、レストランに食事を誘うとか、オペラを観に行くように誘うとか、そういうのもあなたのお仕事よ」


「え? お相手は女王様ですよ。私のような若僧がお誘いするのは恐れ多いです」


(この子は一体いつになったら、シャルロットの好意に気づくのかしら。あなたと一緒にいたいから、シャルロットは残業しちゃうのよ)


「いいのよ。誘いなさい。分かったわね」


***


 トーマスはシャルロットが仕事に根を詰め過ぎないよう何とかしてあげたいと思っているが、女王を誘うのはかなりの勇気がいった。


(どうやってお誘いすればいいんだよっ。ああ、今日もシャルロット様はこんなに遅くまで……。ああ、横顔がお美しいなあ。いかん、いかん、大変失礼なことを考えてしまった。反省しろ、俺)


「トーマス中尉、どうされました?」


「あ、いえ。シャルロット様、いかがでしょうか。今日はお仕事を切り上げて、お忍びで飲みに行ったりしませんか? シャルロット様には似つかわしくないかもしれないのですが、私がよく行く居酒屋にご案内します」


(思ったよりも自然に言えたぞっ)


 シャルロットは手にしていた書類をばちんと叩きつけた。


(しまった、お怒りを買ってしまった)


 そう思ったのは、トーマスの大きな勘違いであった。


「行くわっ、今すぐに行くわよっ!」


「は、はいっ」


***


 数日後、ヒューイがゾルゲとの軍事的な打ち合わせが早く終わったというので、私とシャルロットの打ち合わせが終わるまで、トーマス中尉とシャルロットの進展具合を確認するようヒューイにお願いした。


 聞くつもりはなかったのだが、トーマス中尉がヒューイを案内した部屋での会話は、私たちにまる聞こえだった。


「トーマス、お前、シャルロットを居酒屋に誘ったのか? すごいな、お前のチョイスは」


「殿下、私は洒落たお店なんて知らないんですよ。でも、食材が新鮮で美味しくて、小綺麗な居酒屋で、私の中では最高レベルのお店なのです。女性客も多いんですよ」


「そうか。それでどうだった?」


「どうっていいますと?」


「シャルロットは喜んでいたか?」


「多分なのですが、楽しそうにされておられたと思います」


「多分てなんだよ。相手が楽しいかどうか、わからないのか?」


「笑ったり、怒ったり、泣いたり、とにかく大変でしたが、最後に私の手を握って、本当にありがとうって、嬉しそうでした。多分、楽しかったのではないでしょうか」


「それは楽しかったんだろう。もっと誘ってあげろよ」


「ええ、いい息抜きになるように思いましたので、実はもう何度かお誘いしています。昨日は冒険者がたむろしている宿屋の飲み屋にお連れしたんです」


「お前、本当にすごいな。場違い感出てなかったか?」


「それはもう、あんな綺麗な人が行くところじゃないですよ。飲んでた冒険者たちは、シャルロット様があまりにも美人過ぎて、酔いが醒めちゃってましたよ。でも、シャルロット様が行きたいっておっしゃったんです」


 シャルロットを見ると、顔を赤くしているが、トーマスから美人と言われて、少しニヤついている。


「トラブルは起きなかったか」


「全然大丈夫でした。シャルロット様って、飲むと面白いんですよ。感情豊かで、誰とでも明るく話すので、あっという間に冒険者たちから大人気になってました」


「そう言えば、学園にいたときも太陽のように明るかったな。陽のシャルロット、陰のカトリーヌって言われてたんだぞ。カトリーヌは美しさを隠していただけなんだが」


「殿下、それで、女性冒険者たちが私に変なことを言うのです。シャルロット様が私のことを好きだと。バレバレだというのですよ。もうシャルロット様に不敬過ぎて、気が気でなかったです」


「む、お前、カトリーヌの話は完全スルーか。いい度胸しているじゃないか。まあ、いい。俺も大人だ。今日のところは我慢しよう。だが、お前にははっきり言わないと分からないようだから、この際、はっきり言っておこう。シャルロットはな、お前のことが大好きなんだよ、トーマス」


 シャルロットが部屋を飛び出して行こうとしたので、私が止めた。武芸に秀でた私にシャルロットは手も足も出ない。


「は? 殿下まで何をおっしゃって……。シャルロット様は私にお優しいですが、私にだけではなく、皆にお優しいです。勘違いしては失礼ですよ」


「勘違いの鈍感男はお前の方なんだが……。それで、お前はシャルロットをどう思っているんだ?」


「殿下、シャルロット様は世界一可愛いらしい女性ですよ。素直で可憐で……。女王様でなかったら、プロポーズしてますよ」


 シャルロットが驚いて私の顔を見ている。シャルロットの目が輝き出した。


「む、カトリーヌの方が可愛いが、それはこの際置いておこう。じゃあ、プロポーズしてみろよ。きっとOKしてくれるぞ」


「は? 殿下、まだ色ボケ中ですか? アホなこと言ってないで、いい加減、ちゃんと国のために働いて下さいよ」


「こいつ、黙って聞いていれば。シャルロットなんて、カトリーヌの足元にも及ばないから、お前ぐらいがちょうどいいって、言ってるんだよ」


「あ、あ、あ、何て失礼なことをっ。シャルロット様は、軍人を平気で殺すカトリーヌ様のような冷酷美人ではないですよっ。慈悲深い女神様のような人と釣り合う人間なんていないですよっ」


(れ、冷酷美人……)


 思ったよりも精神的ダメージを受けた私のガードを振りほどいて、シャルロットが部屋を出て行こうとしている。


「何だと、貴様っ。言っていいことと悪いことの区別もつかなくなったか。カトリーヌの方がいいって百人中百人が答えるぞっ」


「それはダンブルでの話です。王国ではシャルロット様がお顔も人気もダントツで一番なんですよっ」


「こいつっ」


「あっ、殴った。殿下が殴った。職権濫用だ。パワハラですよ!」


「何を言う。たまたま手が当たっただけだ。あっ、また手がっ」


「ヒューイ様、私のトーマスに手を出すのはおやめになって!」


「シャルロット様!?」


 トーマスはようやくシャルロットが自分に好意を持っていることを知ったのであった。

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