第43話 兄の想い出
「トーマス中尉、ヒューイ殿下と姉はいつもあんな感じなの? 真面目に話していたかと思うと、突然イチャつき始めて……」
「あれは全然マシですよ。シャルロット様がいらしたので、かなり我慢されていたと思います。いつもは完全に二人の世界を作ってしまわれていて、それでいて、話している内容は小難しい政治の話だったりします」
「そう。あの姉が、あんなに甘いとろけるような表情をするなんて、とても驚いたわ」
「カトリーヌ様は殿下がいないときは、輝かんばかりの美しさで、神々しくさえ見えるのですが、殿下が一緒だと、甘えん坊のデレデレで、あんな感じなってしまわれます……」
「私、姉が怖くて仕方なかったのだけれど、今日の姉を見て、何だか安心したわ。姉も人間なのね」
「殿下も普段はキリッとして、男から見ても惚れるほど格好いいのですが、カトリーヌ様の前ではいつもあんな感じで、目尻と眉が下がりっぱなしです」
「ええ、学生の頃、学園に留学されていたヒューイ殿下に恋したことがあるのだけど、今日の殿下には全くときめかなかったわ」
「我々部下にカトリーヌ様のお話をされるときもあんな感じで、いかにカトリーヌ様が美しく聡明であるかをとくとくと説明されるのです。何度も聞かされるので、適当に聞いていると、ものすごい勢いで怒り出すのです。もう本当に何とかして欲しいです」
「姉は皆さんにはどうなのかしら」
「お優しいです。カトリーヌ様の護衛業務は、軍の中で最も人気があるのですよ」
「確かにね。私も公務をしっかりやっていれば、あんなに頼りになる姉はいないと思うわ。私は幼いころ、綺麗で優しく頭のいい姉が大好きだったのよ。兄が亡くなるまではね」
「お兄様のご不幸はお聞きしています」
「私は兄も大好きだったのよ。ちょっと抜けてたけど、姉と私をとても可愛がってくれたわ。私の理想の男性は兄なのよ。兄が死んだのは姉のせいではないとは頭では分かっていたけど、感情的にはどうしても許せなかったわ」
「どんなお方でした?」
「剣の修行を目を輝かせながら、一生懸命やっていたわ。剣が好きだったのよ。あと、ユーモアがあって、いつも姉と私を笑わせていたわ。兄が死んでから、私も姉も心の底から笑うことはなくなったけれど、それ以前はよく笑っていたのよ」
「カトリーヌ様はよく笑われますよ」
「そう、きっとヒューイ殿下が姉の心をとかしてくれたのね。私の心をとかしてくれる人は現れるのかしら」
「私は以前のシャルロット様は存じ上げませんが、今のシャルロット様であれば、いくらでも現れると思います。それぐらいは、愚鈍な私にだって分かります」
「そうかしら……」
(もう、私はあなたが好きなのに……。愚鈍で全く分かっていないじゃないのよぉ)




