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第33話 陽動作戦

 トーマス中尉たちは、カトリーヌたちから一時間ほど遅れて、インシュランに到着した。


 ヒューイへの置き手紙には「ゾルゲに会って来るね」としか書かれていなかったため、どうやって会うつもりなのか、見当がつかない。


 大人数での行動は目立つため、集合時間と集合場所だけ決めて、トーマスは連れて来た隊員たちを町のあちこちに捜索に行かせた。


 そして、トーマス自身は、先日からマリアンヌを監視するために町に派遣していた部下たちと合流することにした。


 トーマスは部下たちが拠点にしているはずの酒場の個室に入っていった。


 部屋には女性隊員のサーシャが一人残っていた。


「トーマス中尉、どうされたのでありますかっ」


 サーシャが立ち上がって敬礼した。


 トーマスはサーシャに座るように促し、自分も席についた。


「カトリーヌ様が一時間ほど前からインシュランに来られているはずだが、それらしい目撃情報はないか?」


 サーシャは驚いた。


「カトリーヌ様がですか? そういった情報は今のところないです」


「そうか。では、マリアンヌについて報告してくれ」


 サーシャは気まずそうな顔をして報告を始めた。


「マリアンヌは三日前に娼婦に化けて警備隊施設から出て行ったようです。我々は今朝それに気づきました」


「どういうことだ?」


 マリアンヌは化粧がうまく、娼婦そっくりに化けていて、娼婦本人としか思えなかったらしい。念のため、マリアンヌが扮する娼婦を尾行したが、そのまま娼館に入って行ったという。


 今日の朝、本物の娼婦が警備隊の施設から出て来て、騙されたことに気づいたらしい。


「前に諜報部から同じような話を聞いたぞ。同じ手に引っ掛かったのか?」


「化粧がとにかく上手くて、身のこなしの少し下品なところまで真似していて、本当に本人そっくりだったのです。前はあまり似ていなかったらしく、諜報部の奴らは、また今度も騙されていました」


 マリアンヌの居場所は分からないということだ。トーマスは頭を切り替えた。


「まだ町に残っているか、もう町を出たか、どちらかだが、こういう場合は最悪のケースを想定しよう」


「まだ町に残っていて、カトリーヌ様の居場所も分かっていて、しかも暗殺できる手勢を持っている、ってのが最悪のケースでしょうか」


「あと、ゾルゲとも協力している、ってのも想定しておこう。殿下の軍は早くて明日、最悪は三日後に到着だ。こちらも最悪を想定しておこう」


 そのとき、飲食街の方から爆音が聞こえて来た。


 トーマスとサーシャは外に出た。音のした方を見ると、もうもうと煙が立ち上っている。


 二人は急いで現場に向かった。飲食街は酒場からすぐ近くだ。娼館街とは反対方向になる。


 現場に着くと、食堂の二階から煙が出ていた。炎も少し見えた。火事のようだ。


「何があったんだ?」


 トーマスは近くの買い物帰りらしい女性に聞いた。


「分からないわ。突然大きな音がして、私も見に来たばかりなの」


(まさか、カトリーヌ様が!?)


 トーマスはすぐに建物の中に入ろうとしたが、サーシャが止めた。


「なぜ止める? カトリーヌ様が巻き込まれていたらどうする!」


 サーシャは冷静だった。


「中尉、これは恐らく陽動作戦です。タイミングが良すぎませんか? 見てください。仲間が集まって来てしまっています」


 トーマスが辺りをみると、見物人が増えて来ており、その中に仲間の顔がちらほら見えた。


「まずいっ。ゾルゲのところに向かうぞっ」


 トーマスは集まって来た仲間たちにも視線で合図を送り、警備隊施設の方に急行した。


 サーシャの予想通り、この火事は、カトリーヌの護衛たちをひきつけるためにマリアンヌが起こした陽動作戦だった。


 ただし、火事の現場に引き寄せるためではなく、ゾルゲのいる警備隊施設に護衛たちを向かわせるのが目的だった。


 このとき、カトリーヌとリリアは娼館街にいて、娼館のおかみとゾルゲに会うための打ち合わせをしていたのである。

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