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第3話 からくり

「カトリーヌ、残念だったわね」


 私が屋敷の自室で荷物を整理していると、シャルロットが入って来た。屋敷に帰って来ていたのか。そうか、彼女は明日から秋休みか。


「シャルロット、何のこと?」


「この国の皇太子妃になれなかったことよ」


「仕方ないわ。国難ですもの」


「あら? 聞かされてないの?」


 シャルロットがいつもの意地の悪い目をしている。あまり時間を無駄にして欲しくはないので、話したいことを話させよう。


「何のこと?」


「ダンブル国には私を送る方向で話が進んでいたのよ」


「え?」


 さすがに想定外だった。


「聞かされてないのね。()()()()


「どういうこと?」


「私は王妃になりたいの。それで、この話を聞いて、前例を崩せると思ったのよ。だから、皇太子殿下と一緒に婚約者を入れ替えるよう動いたの」


「嘘でしょう? あなたが殿下と話せるわけがないわ」


 私ですら、殿下とは子供のとき以来全く話していない。


「ふふふ、よくお会いしているわよ。一度、殿下が学園祭に視察にこられたことがあったでしょう?」


「半年前のこと?」


 三月の学園祭に来られた殿下を生徒会員のシャルロットが案内しているのを見かけた記憶がある。


「そうよ。あなたも何か地味な募金ブースを作ってたじゃない。あなたのところにもお顔をお出しになったでしょう?」


「来られてないわ」


「あはは、いつものあなたを見て欲しいって、お忍びで行くことをお勧めしたのよ。幽霊みたいなあなたを見て、驚いておられたわ。今日みたいにおめかしされると困るのよ。私の姉だけあって、あなたはとてもきれいだから」


「あなた、学園祭のときに殿下に接近したの?」


「ええ。あなたを見た後の殿下は、簡単に口説き落とせたわ。私の美貌でね。二人でいつもどうすれば婚約者を私に変更出来るか考えてたわ。殺すことすら考えたのよ。でも、大好きな兄さんが守った命だから、殺すことは出来なかったわ。そんなとき、ダンブル国の話が出たのよ」


「それで私を身代わりにしたのね」


「そうよ、おかげで助かったわ。幽霊のような風貌で王妃はとても務まらないって、殿下から陛下を説得してもらったわ。国難を救うためだから、思った通り前例も崩せた。お父様もお母様も大喜びされていたわよ」


 そういうことだったのか。でも、シャルロットは私のことをまったく分かってない。


「そうね、役に立つときに役に立ててよかったわ。今の話を聞いて、殿下のもとでは私は世の中に貢献できなかったと思うから、これでよかったと思うわ」


「は? あなた悔しくないの?」


 シャルロットが信じられないという顔をしている。


「シャルロット、私は自分の幸せなんか考えちゃいけないのよ。王妃になったら、国のため、民のために尽くすつもりだった。そのために、学園でもがむしゃらに勉強したわ」


「何言ってるの? カトリーヌの成績はいつも中の下だったじゃない」


「目立つのは良くないから、いつも試験は手を抜いていたわ。でも、王妃の経歴が凡庸ではまずいから、卒業試験だけは本気でやったわよ。もう結果が出たけど、首席で卒業したわよ」


「そんな、嘘を……」


「嘘かどうかは確認すれば分かるわ。でも、王妃でないのなら無駄なことをしてしまったわ。私は無駄なことはしてはいけないの。兄さんに申し訳が立たないからね。兄さんにもらった人生は、世のため人のために使うべきなの」


「……」


「私がダンブルに行くことで、あなたの役にも立ったのでしょう? あなたは私には卑怯で卑劣だけど、国や民にはそんなことはしないわよね。私の代わりに王妃の仕事をするのだから、私以上になってね。さもなければ、私の時間を無駄にした罪を償ってもらうわよ」


「カトリーヌ、あなた狂ってるわ」


「狂ってなんかないわよ。さあ、これ以上私の時間を無駄にしないでちょうだい。明日にはダンブルに向けて出発するから、これで最後になるけど、元気で頑張りなさい」


 シャルロットは私の悔しがる顔を見たかったようだが、そこまで付き合う必要はないだろう。嫁ぐと決まった以上、時間を無駄には出来ない。私だけでも早くダンブル国に着けるように日程を早めてもらったのだ。


 シャルロットはまだ何か言いたそうだったが、淡々と荷物を詰めている私をしばらく見たあと、黙って出て行った。

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