表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

10/47

第10話 湖畔の別荘

 馬車から湖が見えて来た。湖畔にたたずむ城も見えて来た。


「カトリーヌ様、あちらに見えますお城で夕食をとり、今宵はそのままご宿泊いただく予定でございます」


 リリアが説明してくれた。


「素敵なお城ね。どなたのお城?」


「王室所有のお城です。殿下のお好きなお城の一つです。明朝出発して、ダンブルポートにはお昼には到着する予定です。明日の夕方は陛下と王妃様とのお食事会をご予定しております」


「分かったわ」


 明日の夜にダンブル王夫妻との顔合わせだ。ダンブル王は王国では凶王と呼ばれており、残忍非道と言われているが、ヒューイの父親が果たしてそんな人物だろうか。


 ダンブルに入ってから言葉を交わした人物は、リンク、リリア、ヒューイの三人だけだが、私に優しく、知的で思慮深いイメージを受ける。


 馬車の御者、宿屋の主人、護衛の兵士たちも素朴ではあるが、常に笑みを絶やさず、親しみやすい。皆が幸せに暮らしている印象を受ける。


 歴史は両面からの検証が必要だ。明日までにダンブルで作られた歴史書のいくつかに目を通しておこう。


「リリア、ダンブルの歴史書を用意してくれる? 学校の教科書があったら、それもお願いしたいわ」


「お城の書斎に後ほどご案内致します」


「ありがとう」


 馬車が城門を通過して、居館へと続く細い道を登っていく。左手に湖が見えた。非常に美しい城だ。


 居館の前には沢山の使用人たちが待機していた。


「カトリーヌ様、お足元にお気をつけ下さい」


 リリアが馬車から降りる踏み台を用意してくれた。


 国境での馬車移動の時には御輿が用意されていたが、ここでは使用しないようだ。カトリーヌを大切に扱うという王国へのデモンストレーションだったと後から説明された。毎回あれに乗らなくてよいと知ってホッとした。


 馬車を降りると、ヒューイの馬車の馬が厩に繋がれているのが右手に見えた。先にお城に入っているようだ。


 兵士たちは城内には入らず、湖畔で野営の準備を始めている。明るく楽しそうにしている様子が城の上から展望できた。


「カトリーヌ!」


 ヒューイが居館から走って出て来た。


「会議を抜けてきた。ここは俺のお気に入りの城なんだ。君を招待することが出来て、ワクワクしているよ」


 ヒューイが私の手を取って、こっちだよと先導してくれようとした。私はドキリとして手を引っ込めてしまった。


「あ、ごめん。つい手を取ろうとしてしまった。ビックリさせて悪かった。次から気をつけるから、安心してくれ。俺は君を大切にしたいんだ」


「すいません。私、その、あまり男性に慣れていなくて。条件反射で動いてしまいました。殿下を嫌っているわけではございません」


「ああ、分かっているよ。俺に気を使う必要なんて全くない。君にはやりたいことを自由にして欲しい。俺は君といる一瞬一瞬が幸せで、イカれてしまっているんだ。おめでたい奴だと思って、放っておいてくれればいい。さあ、リリア、カトリーヌをエスコートしてくれ」


 そう言って、ヒューイはにこにこしながら、こちらに手を振りながら走って戻って行ってしまった。確かにイカれてしまっているかもしれない。


 使用人たちが普段見られない主人の奇行に唖然としていた。リリアは完全に呆れてしまっている。


「殿下は完全に浮かれてしまっておられます。ご命令通り、放っておきましょう。さあ、カトリーヌ様、こちらへ。お部屋にご案内します。まずはゆったりと湯浴みして頂いて、お召し物をお着替えになって下さい。その後、書斎にご案内します」


 私は数名の侍女に世話をしてもらいながら、お風呂に入った。バスタブには薔薇の花びらが浮かんでいて、とても良い香りがした。


 最初のうちは侍女たちがいて落ち着かなかったが、徐々に慣れて来て、とてもリラックスが出来た。脳を休めることは重要だ。私もこの時間は無駄とは思わない。


 夕食会のドレスに着替えたところで、リリアが部屋に来た。彼女も着替えたのだろうが、女官の衣装のままだ。


「少しお時間がございますので、書斎にご案内いたします。夕食会にはダンブルポートからかけつけた将校も参加いたします。彼らのプロフィールもご用意いたしました。ご一読ください」


 私は渡された書類にさっと目を通した。今日参加する予定の三十名の将校の性別、年齢、忠誠度、略歴が記載されていた。概ね忠誠度は九十以上だが、中には二十を切っている将校もいた。


「これは?」


「はい、将校の中にはまだ殿下を後継者として認めていない者もおります。また、王国を敵視する将校もいます。ご注意ください」


「分かったわ」


 私は書斎で幾つかの歴史書のうち、特に王国に対する記述に重点的に目を通してから、夕食会のホールに向かった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ