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第1話 兄の死から十年

 私はカトリーヌ。アードレー侯爵家の長女だ。今年で十七歳になり、明日学園を卒業する。


 兄のレイモンドは十年前に亡くなった。


 私が八歳のとき、車道に飛び出した私をかばって、馬車にひかれて死んでしまったのだ。


 両親の注意に耳を貸さず、私がふざけて車道に飛び出したことが原因だった。


 アードレー侯爵家の大事な跡取りを失った両親は、その日以来、私を敬遠するようになり、私の一つ歳下の妹のシャルロットだけを可愛がるようになった。


 妹とはそれまでは仲が良かったのだが、両親に言われたのか、使用人に教えられたのか、妹から兄を殺したと罵られ、ことあるごとに嫌がらせをされるようになった。


 兄を死なせてしまったショックに加え、家族からも見放されて、孤独のどん底に突き落とされた私だったが、兄の命と引き換えにもらった人生をこれぐらいの逆境で台無しにすることは出来なかった。


 私は兄がくれた時間をひとときも無駄にしないよう懸命に努力し始めた。


 屋敷では、使用人たちを引き連れたシャルロットから執拗に虐めを受けたが、侯爵令嬢という立場上、公の場に姉妹揃って出ることが多いため、体罰はしないように両親から厳命されていた。


 逆に言うと、体罰以外はお咎めなかった。十二歳で全寮制の学園に入るまで、毎日のようにシャルロットから虐めを受けたが、私も妹も子供でよかったと思う。


 お漏らしさせられたり、閉じ込められたり、大切なものを壊されたり、男の子の前で裸にさせられたりしたが、所詮子供のいたずらだった。


 私が学園に入学した後、一年遅れでシャルロットが学園に来たが、虐めは再発させなかった。虐めは私の時間を著しく無駄にするため、私は一年の間に対策を講じていたのだ。


 シャルロットが入学してしばらくして、私がトイレに入ったところで、シャルロットの取り巻き数人が私の服を脱がしに来たが、猛特訓した武術で返り討ちにした。


 私はこれ以上時間を無駄にしたくなかったため、シャルロットに釘を刺しておいた。


 「シャルロット、使用人はここには呼べないわよ。今度、同じようなことをしたら、あなたのその可愛い目をくり抜くわよ」


 シャルロットは私に抵抗されるとは思っていなかったようだ。初めて見せる私の凶暴な一面を見て、完全に怯えていた。


「お、お父様にいいつけるわよ」


「目をつぶされてもいいのなら、いつでもどうぞ。それとそこの四人。侯爵令嬢に手を出して、タダで済むと思っているのか? お前たちの家の名を教えろ。アードレー家の長女の名で告訴してやる」


「も、申し訳ございません。シャルロット様に脅されて、抵抗できませんでした」


 共犯者たちは口々に同じようなことを言うが、本当に長女の名前で告訴できると思っているバカどもだ。放っておけばよかろう。


 結局、シャルロットの虐めはこれが最後となった。


 シャルロットは私には異常な行動をするが、外面はいい。明るくて、人当たりも良く、容姿も非常に優れている。そのため、すぐに学園のアイドル的な存在になっていった。


 そして、どうやらシャルロットは、学園内で私と関わるのはマイナスと計算したようで、その後、私と接することは少なくなって行った。


***


 兄の人生を奪った私には、表舞台で晴れやかに振る舞う資格などないと考えていた。そのため、学園内で私は目立たぬよう心がけ、友だちは作らず、将来役に立つ人間になるよう一心不乱に勉学に励んだ。


 陽の妹シャルロットに対して、陰の姉カトリーヌ。私たちは学園で、陰陽姉妹と呼ばれた。


 シャルロットのいる教室の前をたまたま通り過ぎたとき、下級生たちの陰口が耳に入った。


「幽霊先輩が姉だなんて、シャルロットかわいそう」


「姉は選べないから仕方ないわよ」


 私は清潔にしているつもりだが、目立たぬように長い髪をそのまま束ねもせず、顔を隠すようにしているため、学園では「幽霊」と呼ばれていることは知っていた。


 こんな私ではあるが、学園卒業後に皇太子の婚約者となることが内定している。


 アルデリア王国では、皇太子妃は五つある侯爵家から代々選出されてきたが、今の皇太子と年齢的に釣り合うのが私とシャルロットしかおらず、前例に従い、序列が上の私が選出される予定だった。


 私もそのつもりで政治、経済、法律など、がむしゃらに勉強してきたし、武道にも引き続き打ち込んできた。兄の命で得た時間を一秒たりも無駄にしたつもりはなかった。


 将来は王妃となって、世のため人のために尽くす、それが私が兄のために出来る最高の償いだと信じて頑張って来たのだ。


 だが、私には一抹の不安があった。今の私は、屋敷でも学園でも、蔑まれ、軽んじられている。普通に考えて、将来王妃になる人には、もっと違った対応になるのではないか。


 私の不安は的中する。


 王室とアードレー家は、前例を打ち破る秘策を水面下で画策していた。

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