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File 1

もっと資料を集めて。隅々まで見て。どこかにキーは落ちている。

「嗚呼、何と美しく儚いことか!」

鈴蘭は叫んだ。

「今ここで私によって絶たれた命の尊さよ。この鳥は仲間から餌を奪い、意味も無く蟲を啄み、挙句の果てには我々人間様に手を出したのである。しかし死ぬ前にまた悪さをしたのだ!私の腕の中で私によって血を流し失っていく熱。段々と冷たくなるこの体が、いや死体が!私にはとても愛おしく思えてしまうのだ!これこそ、この鳥が犯した最高で最悪の罪ではないのだろうか!なんと…君はなんと罪深いなんだ!」

鈴蘭が初めて”動物”を殺した瞬間である。



鈴蘭が玄関戸を開け、学校へと向かう。勿論「いってらっしゃい。」などという声は聞こえない。いつもお弁当を作って玄関まで見送ってくれていた四番目の父親とは二週間前に縁が切れて今どこにいるのかさえ分からない。連絡先は持っているが特に話したいこともないし、連絡したとして何か変わるかと言われれば何も変わらないのでするつもりはなかった。昨日の夜に出掛けた母親は朝になっても帰ってこなかった。これはまた新しい男でも捕まえたのだろう。こういう時の母親は早くても三日は帰ってこないので母親の安否よりも自分の食事代がリビングに置かれてなかったことの方が気になっていた。自分のお小遣いからはあまり出したくないので、スーパーで賞味期限ギリギリの30%オフになった菓子パンでも買おうかしら、などと考えていた。鈴蘭は今日から新しい学校に転校するのだが、特にそれについて心配事は無かった。母親が離婚と再婚を繰り返す度に転校して住所が変わっていた鈴蘭にとっては慣れた事だったのだ。特に前の学校に仲の良かった友達などはいなかったので悲しくもなんともなかった。

予定より十分早く学校に着くと、朝練中度と思われる野球部やサッカー部の声と汗っぽい匂いが鼻についた。「結局どの中学校でも体育会系は元気で五月蠅いのね」とボソッと吐き出すと、数名の男子が鈴蘭の方を向く。彼女の声は確かに透き通る声だから、例え小さな声でも彼らの耳に届いてしまったのだろう。鈴蘭はそんな目線も気にせず職員室へと向かった。

「じゃあ普瑠那さん、今日から貴女の第二の家になる二年二組に向かいましょうか。」

見たところ副担任の教師らしい。パーマをかけた髪に赤い眼鏡、似合わないピンクの膝丈タイトスカート。見ただけでも「この学校こそ世界一素晴らしい学び舎であり、みんながこの学校を愛している。」と信じて疑わないような女だと分かる。実際教室を”第二の家”などと言っている時点で鈴蘭の予想は当たっているのだが。実際に教室に行っても誰も良い顔はしてなかった。それは鈴蘭というクラスカーストを乱す可能性のある存在か朝から学校という学び舎がいかに素晴らしいかを唾を飛ばしながら語り続ける女か、はたまたその双方か。兎に角誰も鈴蘭を歓迎してないことは誰が見ても、あぁ間違えた、副担任の女以外は気付いていた。

担任でもない癖に長々と綺麗事を並べ続けるLHRが終わり、授業が始まる。特に悩むこともなく、近くの席の人との交流も難なく終えた。因みに今受けてる授業は現国、副担任の女である。「授業が終わればクラスカースト上位の女の子達に圧を掛けられて、仲間に入るか尻に敷かれるのか決まるんだろうな。」などと考えながら授業を聞き流す。すると突然、耳障りな叫び声が聞こえた。ふと前を見ると副担任が甲高い声で喚いている。それにつられてみんなが叫びながら教室から出ていく。ふと見ると教室の中で”鳩”が飛んでいたのだ。

その時、鈴蘭の中で何かのストッパーが外れた。筆箱の中から覗いたのは少し刃が錆びて欠けているカッター。彼女に先生の「早く逃げなさい!」と言う声は聞こえていなかった。彼女の脳内を埋め尽くしているのは”教室を飛び回る鳩の鳴き声”と”右手に握りしめられてるカッター”、そして”殺せ”というどこか懐かしい、聞き覚えの無い声。鈴蘭はその声に言われる通り、本能のままに動いた。鈴蘭はスポーツはどちらかというと苦手な方だったし、鳩と戦ったことなんて無かったのに、身体が何かを覚えていた。それは言葉では表せないけれど、まるでこのように体を動かすのが初めてではない気がした。不思議と口角が上がる。まるで自分が自分ではないような感覚だった。だが不思議と嫌だとは思わないのだ。むしろこの時を、この感覚をずっと待ち望んでいたかのような。




「一発で仕留める、私には出来る。」




そう言った途端に教室をバタバタと飛び回っていた鳩が血しぶきを上げてどさりと床に落ちた。鳩の周りには大きな血だまりがじわじわと広がる。鈴蘭は近づいて鳩を抱き上げる。まだ生暖かい体を大切に抱きかかえて、新品のスカートに血が染み込むことなど気にせずに見惚れる。教室の外から一部始終を見ていた生徒はただ彼女と”鳩だったもの”を静かに眺める。鈴蘭が口を開いた。

冒頭に戻る。

作者処女作でございます。

二次創作にしか触れてこなかったクソヲタですが、良く夢に出てくる殺人をテーマに小説を書かせてもらってます。

投稿は気分でやるので、偶に確認して下さったら嬉しいです。

本作完結致しましたら、続編も考えておりますので皆様の大好きな小説シリーズになればいいなと思っております。

また完結したらその時に書き直させてもらいますね。

皆様に素敵な悪夢を。

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