4 主従
時はユニスの周囲に氷壁が発現する直後に戻る。
「何で、戻ってきてください」
ユニスは出来たばかりの氷壁に両手を叩きつけながら、叫ぶ。
(このままでは、いくらお兄様でもあの数の兵とお父様達に潰されてしまう)
ユニスの中で無力感が沸き起こる。
(私の中の悪魔よ、お兄様の言うように私に価値があるというなら、石ころではないなら、ここに現れ、汝の阻む壁をぶち壊せ)
と、ユニスはひたすらただ自分の気持ちを拳に込めながら、氷壁に血が出るのも構わず、叩きつけた、この間わずか10秒。
すると、手の中が光だした。そう、それはエザトリーが与えた石が輝いている。
その光はごっそりユニスの中の魔力を抜き取り、形ができ、発現した。
ユニスは脱力感に襲われながら、そこにできた者を見た。
それは灰色一色の服装で不機嫌そうな男だった。
男は面倒くさそうな顔をしながら、右手に持った木刀を無造作に横に一閃。
氷の牢獄はガラス細工の如く破壊された。
キラキラと氷の残滓が漂う中で木刀男は
「お前か俺を呼んだのは」
ユニスはただ頷いた、声を出す余裕もなかった、理解したのだ、この者は自分が呼んだ存在で抗えないものであると。
その答えを聞いて、男は満足したのか、素手の左をまるで剣でも持っているかのようにユニスの首を一閃。
その動作で男は指一本触れていなかった、そんな子供が遊びでやるような動作で、
ユニスの呼吸が止まった。
(何ですの、実際に首が斬られたわけではないですのに、触っても首が繋がっている事も分かりますのに、
何でこんな現実感を持って首から血が噴き出す感覚が来るんですの)
「くたばれ」
とユニスのそんな様子を男は興味を失って木刀を投げ捨て、目線を外した。
(ここまでですか)
傷一つない中意識を失いかける中、視界に広がったのは兄が自分の顕現させた氷が破壊された影響で倒れている様子だった。
(は?)
ユニスと停滞していた時間が動きだす。そして、おまけにただの木刀で氷壁を一刀両断するバケモノが兄へ歩き出す姿。
それ以外にも動いている状況はあるがユニスにはそれしか見えていなかった。
(だめだ、私はよくとも、お兄様だけは)
「―――――――――――」
ユニスは声にならない声を上げる、どうすればこの偽物の感覚を黙らせられる。どうすれば、、、、、、
そうだ、ユニスは這いずりながら男が投げ捨てた木刀を掴んだ。
(2回も見たなら、出来る筈だ、やれる)
そのままユニスは左肩に一閃
繰り返すが、振るったのはただの木刀だ、プラス不思議な事に一切の魔力をユニスが出力できないにも関わらず、ユニスの左腕は切断された。
意味不明な状況が続く中、その腕がとぶ瞬間を全員が注目した。あの召喚された男も目を飛び出さんばかりに見開き、ユニスを凝視していた。
「そこまで、驚く事ではないでしょう」
ユニスは左肩が血をドバドバ出しながら、立ち上がり、続けた。
「あなたの一閃を私は2回も、しかもその内の1回は私自身が食らいました。それならば、それを再現するのはそこまで難しい事ではないです。ただその通りにすればいいのですから、そして、」
ズキンズキンと血が噴き出る度に熱と痛みが増していく、左肩を意識しながら、
「この本物の痛みを味わえば、あなたの偽物の傷口なんて消してしまえますよ、さて、あなたに名前を与えましょう」
ユニスは最後の力を振り絞り、男の手に木刀を向けた。
「あなたはデランド、その名に従い、病める時も老いる時も、私に従え」
そうすると男のいや、デランドの右手とユニスの持つ木刀が触れるそうすると、お互いの手に何か祈るような形の紋章が現れた。
「しょうがねーなー、まあ、曲がりなりにも俺の技術をあっさり使って見せたんだ、あんたを主人と認めてやるよ、この従者になんなりとご命令を」
デランドは面倒くさそうな態度から一転わざとらしく跪いて、問いかけた。
「全部壊して」
「了解」
ユニスはそこまで、言って、フッと糸が切れたように意識が落ちた。