後日談
「こうして、狸に救われた日和の国の人間たちは、狸を崇拝するようになり、日和の国は狸が納める様になりましたとさ。」
「子どもたちに嘘教えないでくれる?」
病院の子ども広場で慧斗が子ども達の相手をしていた。
まだ要安静の状態なのに、度々病院から脱走を測るので、同室の九条刑事がこうして同伴して動いている。
「元気そうですね。」
やって来たのは梅吉と武仁と末恵だった。
「良いんですか?病院内歩き回って、慧斗さん芸能人でしょ?」
「大丈夫~大丈夫~受付の子がそういうの断わってくれてる~。」
「最初バレた時は凄かったけどね。マスコミとかファンとか一気に押し寄せて。」
思いだしただけで辟易としてしまうのか、九条刑事が肩を落とした。
「それを一括した医院長まじかっこよかったぁ~」
どんな時でも楽しそうな慧斗に、九条刑事がやれやれと溜息をついた。
梅吉が東塔タワーで東風を倒し、無事帰宅したその朝、日和の国の電機は無事復旧した。
こんな大惨事になって、今後どうなるかとマツタケウメの三人は不安で仕方なかった。
しかし不思議な事に青い妖精の起こした大騒動は、まったくどのテレビ局も話題に上げる事は無かった。
国内の電気が一斉に止まった事も、単なる停電という事になっている。
次の日もその次の日も。
まるで、それを口にする事さへ、考える事さへ恐ろしいとしてるように。
かわりにお茶の間を賑わしたニュースと言えば、日和の皇室の姫君が数年ぶりに日和の国へ帰って来た事だ。
このお姫様、ちょっとした食わせ者で、諸国を旅し、その先で各国の王太子と適当な口約束だけの婚約をしては、のらりくらりと立ち回り、自由な恋と旅を満喫しているじゃじゃ馬であった。
相手のプロポーズに気負いして、ついつい生返事をしてしまう性のか?男を手玉に取って楽しむ癖なのか?それは定かでは無いが、色々と話題の尽きないお転婆なお姫様である。
突然、母国に帰って来たと思いきや、報道陣の前で足を組んで座った事で、『皇室が国民の前で足を組んだ!?』と新聞の見出しで大きく揶揄され、長時間のフライトで腰が痛かった等と言う話が出たかと思うと。相変らずこの島国の国民はみみっちいともらされたとか、なんとかかんとか、あれよあれよと皇室の姫君様の話は広まって行った。
ついには、父である皇子自らが報道陣に謝罪し、娘に「上げ足は上げるから取られるのですよ。」と、丁寧に叱咤された事まで記事になった。
数日間、待ちたくも無いのに、自分達が関わったニュースがテレビに上がるのをマツタケウメは待っていたが、拍子抜けだった。。
しかし一方でSNSにおいては、あの日の事件を”青い妖精事件”と称し、ネタとして上げられていた。
そしてその話に関して妙な噂が広まっている。
それは、”電鬼遇風”という架空の小鬼の話だ。
何でも、電気の小鬼である遇風は、邪悪な言霊が大好物で、風評被害を起こしてる本人の元へ、電気を伝って訪れては、その者の気を奪い放心させてしまうという。
しかし、それらの話を公に自ら口をするものは今いない。
小鬼達は今日も電気と電気の間を飛び回り遊び惚けている。のかも知れない。
「それにしても、会わない間に随分背が伸びたね。」
「まぁはい。」
梅吉は九条刑事に言われて声をどもらせる。
事件の件で散々助けてもらったとはいえ、やはり梅吉は九条刑事が苦手だった。
「ほ~んと!顔も凛々しくなったんじゃない?」
「へへっ!そうかな?」
慧斗には嬉々として微笑む梅吉。
「何この反応の違い…。」
九条刑事はしょんぼりうな垂れた。
「ウメちゃん、1カ月で7センチも伸びたんですよ!」
まるで我が子の成長を喜ぶように末恵が自慢げに言う。
「1カ月か~あーあ、何本仕事落としたんだろ。」
天井を見上げる慧斗の病院服の裾を子ども達がひっぱる。
慧斗は微笑んで頭を撫でた。
「僕、大きくなったらケイト君のお仕事手伝ってあげる~」
小さな男の子が咥えてる指を外し喋り出した。
「はははぁ~ホント~?」
「アタシも!アタシも!秘書になってあげる!」
ツインテールの女の子が両手を上げ、ぴょんぴょん跳びはねた。
「僕、運転手。」
「ははは、ありがと~、予定積めないでね~」
慧斗は顔をほころばせた。
「慧斗さんは天性のアイドル気質だね。」
事件の日負傷し、力を使い果たした慧斗と九条刑事は東塔23区外の日蘇市の病院に搬送された。
ここには多くの化人協会の人間が在籍しているからだ。
九条刑事は数日で意識を取り戻したものの、慧斗は一週間昏睡状態にあった。
今入院して1カ月やっと外へも出れる様になった。
「あ、そろそろ歌番組の再放送始まる~」
慧斗がきょろきょろすると、未来の秘書を名乗り出た女の子がテレビのリモコンを差し出した。
「うむ。」
「お前はテレビの為に子ども広場に来てんのか?」
「そんなんじゃないけどさ。ここは大きいテレビがあって良いよね?」
「やれやれ」
九条刑事は苦笑いした。
慧斗がテレビのチャンネルを合わせると、歌番組に出るゲストの顔がズラリと左から右エ映った。
「あ、輝夜さんだ。」
末恵が声を上げた。
輝夜は白雪の双子の妹で、黒髪ストレートの肩まで伸びた髪が美しい。
隣にアイドルのノリトとオントも並んで座っている。
「最近シャンプーのCMにも出てたよな。」
本当はこのテレビに映っている輝夜が白雪だと言う事に梅吉達は気が付いていた。
白雪の所属しているプリンセス事務所は”青い妖精の事件”後、売れないアイドル候補のアダルト出演を強制していた事が、表ざたになった。同時に社長が自殺したという報道があり、多くの役員が自主退職をした。
また、プリンセス事務所と裏で手術や実験の取引をしていた海原病院も、”青い妖精事件”で大火に飲まれ、裏取引の首謀者であったであろう関係者は火災で亡くなったとなっている。
今プリンセス事務所は若手の育成担当をしていた黒井華倫が社長の任に就き、事業の立て直しを図っている。
「そう言えば、僕の母さんプリンセス事務所で人事やってるんですよ。」
武仁が思いだしたように言った。
「そうなの!?」
九条刑事が声を上げる。
突然の事に思わず尻尾が出てしまい、慌ててそれを隠して消した。
「…あ、いや、それは良かった…ね?」
九条刑事がぎこちなく首を傾げるのを見て、武仁は目を丸くしてから満足気に微笑んだ。
「じゃあ、おれたちそろそろ行きます。」
「え?もう行っちゃうの?歌聞いてけば?」
「あはは、ここ都内から遠いんで、その番組見て帰ったら夜になっちゃうんですもん。」
ぎこちなくお誘いをお断りする梅吉の顔を見て、慧斗が残念そうに肩を落とした。
梅吉達が病院の受付でサインをすると、ガラス窓から夕陽が差し込んできた。
だだっぴろい草原の向こうに夕陽が沈んで行く。
「ここ、ホント東京か?」
「ははは、日蘇は広いからな…。」
オレンジ色に、眩く反射するガラスの自動ドアに梅吉の姿が映った。
自分以外の誰かに見えて、梅吉は眉を潜める。
(背が高くなって最近東風に似てきた。)
「何見てんだ?行くぞ?」
「毛穴でも気になった?」
武仁と末恵が先に自動ドアを通り、映っていたモノが消えた。
「ウメはお年頃だな~」
「何だよ。同い年だろ。」
「夕陽が目に沁みますねぇ~」
茶化す武仁の後を梅吉が追う。
末恵は二人がじゃれ合うのを横目に空を見上げた。
大きな夕陽が梅吉達のいる景色全体をオレンジ色に染めていった。




