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トウトウトゲドロボウ  作者: 染必至(そめぴつじ)
本編
11/18

この国の秘め事 中編

「鼻から傷つける気無かったんでしょ?」

 給湯室でヤカンに水を注ぐ慧斗の背中は物静かで、梅吉のかけた言葉に一瞬の戸惑いも見せない。

 先程鋭い爪で、二人の女性を脅したオスの背中とは思えない。

 きゅっきゅと水道の栓を閉めると、ふちに手を付き、しばし押し黙っていた。

「もし、それがそうだったとして、それを聞く事に何の意味が有るんだ?」

 声を荒げてはいないが、穏やかではない。

 慧斗はもう一つのヤカンを蛇口の下に置き、水道やガスコンロの上の戸棚を開いて何か無いかと物色した。

「周りのみんなの気を晴らす為にワザと怒ったんでしょ?」

「いやいやいや、いやいやいや、怒ってたのは本当だよ。」

 振り返った慧斗の前に身体を貫く様な二つの眼があった。

 慧斗は梅吉が自分の軽い口調に流されてはくれないと気付き、小さく溜息を付く。

「…そうだよ。こんな事になって、怒りを何処かにぶつけたくて仕方ないやつだっているんだ。あの武仁とか言うのなんか特にそうなんじゃないか?だけど真面目だから声を荒げたり、暴れ出したりは出来ない。理性が人間の生物的な感情を否定するからだ。自分がした事でも無い事で、自分も自分の周りの人も傷つけられて…、それで怒っても仕方ない何て、怒りを我慢するしか無い何て…、マジでしんどすぎるだろ。」

 梅吉はただ真顔で慧斗の話を聞いていた。

「わかるよ。大人らしくないよな。」

「…違う」

「ん?」

「そんな事思ってない。」

「そぉっか。」

 慧斗は梅吉たちにあって初めて目を細めてくしゃりと笑った。

「ねぇねぇ何で化け狸なのにアイドルになったの?有名になったら身元バレやすく何じゃん?」

「ははは、まぁ確かにそうなんだけどな。」

 笑って話を濁そうとする慧斗だったが、また真っ直ぐ自分を見据える梅吉の視線に肩を落とした。

「さっきも徳人が言ってただろ?芸能界にはわりと多いんだ、村社会だしな。だから必要が無いなら、お互いの化けの皮を剥がそうなんてしない。結構オレらには居心地が良いんだぜ。」

「本当にそんだけですか?」

「何だ?オレを尋問したいのか?」

「そうじゃないけどさ。」

 慧斗は蛇口を止め、腕を組んで梅吉に向き直った。

「…実はさ」

 慧斗の声が少し低くくぐもった、梅吉が暗い中耳をそばだてる。

「俺たちは狸による世界征服を目論んでいて…」

「いやいやいや…」

 梅吉が顔の前で手を縦にして左右に振った。

 そのノリの良い様子に慧斗が景気よくお腹を叩て笑う。

 そしてまた話し始めた。

「俺たちはさ、みんながより住みやすい国を作りたいんだ。ここで暮らせて幸せだって国をさ。だから人間社会でも名を売って”化人協会”でも影響力を持ちたいと思ったんだ。」

「”化人協会”?」

「俺たちみたいな妖と人間のあいの子や、常人とは異なった能力を持つ者が所属する。そういう異端な存在の集まりだ。この世界の均衡を守る事を主な活動目的とされている。」

「へぇ何かかっこいい。」

「あはは、俺もさ憧れた歌手が、地元の日蘇の出身だって聞いて、それで憧れてこの世界に入ったんだ。『つのなし★ひろ』って言うんだけど知らないよな?」

「う~ん、知らないな。」

「一回聞いて見ると良いよ。歌い方がろうろうとして今のアイドルの歌い方と全然違う。」

「ちょっと、ちょっと、アイドルがアイドル批判ですか?」

「いやぁアイドルはアイドルの良さがあるんだろうけど、昔の歌謡曲歌ってる人は全然違うんだよ。立ってるだけで真っ直ぐ前を見てるだけで拳が伝わってくる。特につのなし★ひろさんは声がホントイケメンなんだ。」

「それじゃまるで顔はイケメンじゃないみたいに聞えるよ。」

「あはははははは!そうは言ってないけどさ…。」

「オレあんま音楽は分かんないけどお兄さんがそんなに言うならちゃんと聞いてみるよ。」

「ホントかぁ?」

「ホントホント『つのなし★ひろ』でしょ?覚えた覚えた。」

「『つのなし★ひろ』さんだ。ちゃんとさん付けで呼べよ?」

「はーい。」

 梅吉の生返事に溜息を付くと、梅吉が持って来たヤカンを受け取り、蛇口の下に置いてまた水を入れた。

 そして給湯の上の戸棚を開けきょろきょろ中を見渡す。

「茶葉とか無いかな。茶位だしたい。ああ、あったあった。」

 梅吉も水場の下の戸棚を開いた。

 しかし下の戸棚にあったのはプラスチックの箱に入った工具と、懐中電灯だった。

「ああ、良いもん見つけたじゃん。」

 梅吉は言われて口端をあげた。

 お湯の煮立ったヤカンに慧斗が適当に茶葉をふりかける。


 梅吉と慧斗はヤカンを両手に持ってよっちらおっちらもと来た通路を歩いた。

 慧斗はその上で頭に三枚お盆を乗せ、更にその上に数十個の湯飲みを重ねて乗せている。

 慧斗が歩く度に湯飲みが鈴のように音を鳴らすので梅吉はちょっとひやひやした。


「そうだ、トイレの場所教えとく」

 通路の途中真っ暗な中立ち止まった慧斗が、ヤカンを持ったまま壁側を懐中電灯で照らした。

「こっちは何?」

 梅吉はトイレの隣の部屋を覗いた。

 ドアが開けたままにされている。

「ああ、衣裳部屋だよ。」

「どうしてドア開いてんの?」

「換気扇も止まってるからな、衣装がかびたりしけったりしないようにしてんだ。ここは音が漏れないのは良いけど、その分空気もこもるから。」

「へぇ~、あ!あの黒の衣装テレビで見た事ある。」

 壁際にかけられた衣装を目にし、梅吉が声をあげた。

「黒子の衣装だな。オレも好きだ。いるのにいないみたいな。品の良い影の立役者の色だ。」


 二人は元居た部屋の前に着くと梅吉は歩み出てドアを開いた。

 中に入るとさっきの通り中は狸だらけ。

 そして追加されて狐と獺と猫と蛇と狼とカラスとイタチが狸の輪の中に加わっていた。

「やっだぁお客さんふえてるじゃな~い。」

 慧斗がお道化た口調で言っても、その場の誰も便乗しなかった。

 慧斗は諦めて部屋の端に移動する。


「はぁ、よっこらしょっと。茶~入れて来たぜ~。」

 コンロの上にヤカンを置いて慧斗が言った。数多の上のお盆と湯飲みもその横に置く。

「熱いし、少しこのまま置いてさまそうぜ。みんな汗だくだし。」

「ああ、悪いな慧。」

 恩途が座ったまま慧斗に声をかけた。

「恩、コンビニで勝ってこなかったのか?」

「有ったんだけど、踏み荒らされててさ。俺たち三人の分だけなら良かったけどわざわざ足を運んで助っ人に来てくれた同胞たちにそんなん配れないだろ?でもやっぱ買っとけばよかったかな?」

「え?」

 慧斗の質問に答えた恩途の言葉に、マツタケウメはぎょっとした顔になった。

 梅吉は自分が寝入ってしまって数時間。青い妖精の化け物が会場から放たれて外がどうなってしまったのか、梅吉は何も知らない。

 それは何も梅吉だけじゃない。末恵も武仁も移動を遮断された人全て。

 妖精の出現を妨ぐ為、電気が遮断されこの舞踏館で足止めを食らっている全員がそうだ。

 今になってさっき自分が目覚めた被災用テントでの薄暗い不安感が梅吉の肌をひやりとさせる。

 慧斗は梅吉の目から不安を垣間見ると、無言で梅吉の両手からヤカンを受け取っりガスコンロの上に置いた。

「大丈夫だよ。」

「確かにコンビニでも電気を伝って妖精が現れていたけど、俺たちが倒しておいた。既に行った時には電気の点いてる冷蔵庫はガラスが割れてめちゃくちゃだったけどな。」

 恩途が説明を加えると、梅吉達の不安が薄らぐ。

 それと同時に武仁が口を開いた。

「あの怪物の妖精たちは今どうしてるんでしょうか?ここに結界を張って来ないのなら、今何処へ?」

 胡坐をかいて腕を組んだ徳人に視線が集まる。

「東塔タワーだ。」

「よりによって電波塔を?」

 東塔タワーは都心で名のある観光名所の一つだ。

 今はその役割を東塔スカイツリーに代替わりさせたが、電波塔自体の施設はまだ残っている。

「ああ、妖精たちが集まっている為、入り込むのが難しいとカラスから伝令が来ている。他の化人協会の方々は地元の者を守るので手一杯だそうだ。」

 それを伝えに来たであろう狸以外の獣達が肩を落とした。

「オレオレ詐欺の一件がなきゃもっと集まったかも知れないのにな。」

 カラスの一言に他の獣たちみんなが肩を飛び上がらせた。

「どういう事?」

 尋ねた梅吉の顔が青ざめていた。

「オレオレ詐欺は流行り出してから何十年も経ってるのに、無くならないどころか、増えているだろ?人まねの上手い妖が人間と手を組んで詐欺行為をしてるようなんだ。」

 カラスは何の感慨も無さそうに説明した。

 何も言い返してこない梅吉に首を傾げ、片羽を上げる。

「しかも此処数年でオレオレ詐欺被害は3倍に拡張されてるんだ。もしかして君も被害にあったのか?」

「いいやおれは…」

 梅吉の腕が震えていた。

「いえ、特に無いです。」

 武仁が梅吉の横に立ち代わりに答えた。

 武仁が梅吉の腕を握ると、同じ様に反対の腕を末恵が握った。

「気持は分かるが、今それ言っても仕方ないだろ?」

「いや、そうだが、どうにも悔しいな。人間のやる事何てわたしゃあ自業自得と思うけど、関係ない人間が被害にあっちゃぁかなわないよ。」

 猫が恩途に向って前足をちょいちょいさせていった。

 その猫は三毛猫で、見ると尻尾が数本あった。

 徳人が溜息をつく。喉を詰まらせたように唾を飲み込むとゆっくり重い腰を上げた。

「さぁ、そろそろ舞を再会しないと。結界が解けてしまうよ。」

 真剣な面持ちのまま口端を上げた徳人に続き、狸たちが全員腰を上げた。

 同じく、狐と獺と猫と蛇とカラスとイタチが立ち上がった。

「さぁ、さぁ、さぁ、さぁ!」

『さぁ、さぁ、さぁ、さぁ!』

 慧斗が景気を上げる様に声を上げ両前足の肉球天井に向けてあげると、狸たちも同じ様に声を重ねた。

 重い空気に熱がこもって、その場の陰気さを飲み込んだ。

 慧斗の一声でフラストレーションがモチベーションに染め変えられる。

 後から来たらしい獣たちも顔をほころばせる。

『さぁ、さぁ、さぁ、さぁ!』

 声が熱気になって室内の空気を揺らす。

 熱風が立ち上がり、梅吉達の衣服をはためかせた。

 そして狸達の獣達の周りから炎が燃え上がり獣たちは炎そのものになる。

 徳人は美しい白い狸の如来に、慧斗は青の、恩途は赤の狸の明王になった。

 三人が、三匹が部屋の中央で舞う。

 紅い炎が渦を巻き、天井まで延びると、色に金を帯させた。

 火になった狸たちがその光りを受け、姿を地蔵に変える。

『さぁ、さぁ、さぁ、さぁ!』

 しゃりん、しゃりんと錫杖の先を床に付けながら地蔵たちが徳人たち三人の周りに円を描きながら、いっぽいっぽ進む。

 中央で白い如来に扮した徳人が、胸の前で手を使い菱形を作った。その形のまま、肉球のついた手のひらを頭上に掲げ、何かを押し出すように、いっぽいっぽ踏みしめながら舞う。

 回りながら、左足を強く踏みしめ、右前足を上に、左前足を下にし肉球を正面に見せたまま動く。

 その脇で、青と赤の明王に扮した慧斗と恩途が剣を持って、徳人と同じ様に一歩一歩踏みしめながら舞っていた。

 何かを祓ってるのだと梅吉と末恵と武仁にも分かった。

「あ、思いだしたおれトイレ行こうと思ってたんだ。」

「じゃあ、私も」

「今更過ぎないか?じゃあ、俺も」

「じゃあ、って何だよ。」

 マツタケウメ三人は仲良くトイレに向った。

 懐中電灯を持った梅吉が先頭を歩く。

 男子トイレ女子トイレに向う前に梅吉は末恵に懐中電灯を渡した。

 お陰で末恵は、見えないところを懐中電灯で照らし出す事が出来た。

 末恵はトイレから出るとトイレの隣の衣裳部屋を覗いてみた。

 ドアが開けられたままだったので、遠慮がちに首だけ中に入れ周りを照らし眺める。

「末恵何してんの?」

「わっ?」

 蝋燭で照らされた武仁の陰った顔に驚き飛び上がる末恵。

「あれ?ウメちゃんがいない?」

 トイレから出てきた武仁の後ろを、末恵がきょろきょろした。

「まさか、アイツ一人で出ていったのか?」

 武仁が慌てて周りを見渡す。

 すると、衣裳部屋からかさかさビニールカバーの擦れ合う音がした。

 末恵が衣裳部屋の中を懐中電灯で照らすと、部屋の左側でフックにかけられた衣装の羅列がもぞもぞしてるのが見えた。

 武仁がその影をじっと見つめると動きが止まる。

 武仁は勇み足で中へ入りその影を掴んだ。

「こら!勝手に着たらダメだろ。」

 梅吉は武仁に頭部を片手で掴まれ、出入口へ引き出された。

「え~、だっておれの来てた服ダサかったんだもん」

 梅吉は出入口の前で仁王立ちになった。

 梅吉はさっきまで、手術中に患者が切るような簡易的な服を着ていた。

 武仁が仕方なさそうに溜息をつく。


 つられて衣装部屋に入った末恵が、衣装を懐中電灯でてらし、しげしげと見つめている。

「わぁ、これ可愛い。私でも着れそ。どうかなウメちゃん?」

 服にライトを当て、末恵は梅吉に向き直った。


 バタン。


 振り向くと、梅吉がドアを閉めた。

 直後ガタガタとドアノブが音をたて揺れ、真っ暗な中ごとんと落ちる。



★★★★★



 日和の国の各地で電波の青い妖精は出現していた。

 唐突に通話やネット回線が強制的に切断された事で、怒りや不安が人々の中に生じ、それは身近なモノへの罵倒となって、青い妖精を更に引き寄せてしまう。

 常人とは異なった者たちが、神通力により、離れた場所との意思疎通を測ったが、妖精の激しい邪気に棹され、容易に連絡を取る事が出来なかった。

 各々が自分や自分の目のつく場所を守るので手一杯だ。

 

 梅吉は東塔タワーが占拠されていると聞き、そこに東風がいる事を直感した。

 多分、輝夜もそこにいると。

 梅吉は舞踏館園内の外にあるレンタル自転車を留め置かれてる処から工具で外すと、全速力で東塔タワーに向った。


 わおーーーーーーーーーーーーーーんん!


 自転車に乗った梅吉が月に向って吠えた。

 その遠吠えを聞いて、誰も人間の声だとは思わないだろう。

 遠吠えは夜風を突き抜け、満月が浮かぶ空まで駆け抜けると、数多の獣の耳に届いた。

 すると梅吉の身体が変化した。耳は頭部に移動し毛が生え、爪が伸び、尾と牙がのびる。

 

 わんわんわんわんわんわん!

 がぁがぁがぁがぁがぁがぁ!

 きぃきぃきぃきぃきぃきぃ!

 にゃんにゃんにゃんにゃん!


 梅吉の遠吠えに呼応し、周りの獣達がたちが主人の元を離れ集まって来た。

 犬猿鳥猫、その他よくわからない生き物たちが、飼い主の手を離れて梅吉の元へ集う。

 梅吉は自分が白太からしっかり力を受け継いだ事を確認すると、獣たちを率いて東塔タワーへ向って駆け抜けた。

 レンタル自転車の前のマップにご丁寧に「東塔タワーまで自転車で約27分」と書かれていたので、梅吉は迷う事無く、真っ直ぐ目的地へ突き進んだ。

 内樹通りから桜羅門を抜けれると、他の照明が何一つ無い中、東塔タワーだけが青々と輝いているのが見えた。 


 梅吉が遠吠えをした同刻。

 東塔タワーにいた東風が食事を終えたところだった。

 タワー内の電波送受信施設で捉えた従業員達を脅し、電波塔に操作をさせた後、従業員達の肺のみをもぎ取り食い散らかし、床で胡坐をかいていた。

 東塔タワーの青い鉄工の骨組みと表面のガラス窓が、煌々と青く輝く。

 タワー内で青い光が不規則に舞う。青い光の正体は互いに生き生きと戯れている青い妖精たちだ。

 ワット数を落とした照明が柔らかく灯り、盆踊り曲や、定番のサマーソングが流れている。

 親指サイズの小さな青い妖精達は、一階の広場に建てられたやぐらで盆踊りを踊り、フードコートで談話し、お土産物売り場やアトラクションではしゃぎまわっていた。

 東風は大きな電波の羽を広げ、フードコートを飛び回り、売店の冷蔵庫から牛乳パックを取り出すと、ストローで中身を吸い込み、先程食べたものを水圧で胃の中に押し込んだ。

 羽で空を切り、一階広場のやぐら頂上に降り立つ。

 そこでは、青い妖精達が太鼓を叩き、輝夜が笛を奏でていた。

「お待たせ」

「ネェ、コノコタチハチイサイママナノ?」

 小さいまま自分の周りを飛び回る妖精達を見ながら輝夜が東風に尋ねる。

「コイツらは、まだ花から生れて間もないからな。自由に遊び回った後に、睡眠を取る事を繰り返さないと自我は育たないんだ。」

「ソウ」

 やぐらの端に手を付く輝夜の両肩に東風が両手を添える。

「大丈夫。数か月後にはみんなそれぞれ大きくなって、きっと楽しい家族になるさ。」

 輝夜は、口端を上げた。 

 その時。


 バーーーン!


 扉を勢いよく開いて現われたのは梅吉だった。そして何百何千の獣たち。

「行け!」

 梅吉が叫ぶより早く獣たちが青い妖精に飛び掛かった。

 一階で低空飛行していた青い妖精達は突然の事に逃げ遅れ、獣たちに引きちぎられていく。

「何だ、梅吉遊びに来たのか?」

 梅吉が声の先を見上げる。

 東風は輝夜と朱いやぐらの最上部にいた。柵に片足を乗せ、顔をのぞかせる。青白い身体で、真赤な着物を羽織っていた。

 その横で輝夜も真っ白な浴衣を身に纏い、笛を手にしてる。

「お前、東風なのか?」

「お前こそ、そのケモミミどうした?何かのコスプレ?」

 梅吉は眉をひそめた。

 目の前の東風は確かに東風なのだが、どう見ても今目にしているのは二十代半ばの青年だ。

 梅吉の驚いた様子に東風が不敵に笑うと、青い妖精の女の子たちが黄色い声を上げた。

 東風はやぐらの下で逃げ遅れ、獣に食いちぎられていく仲間を見ながら溜息をつく。

「ひでぇ事するよな。やり方が強硬すぎる。人類皆兄弟だろ?」

「兄弟は他人の始まりなんだよ!お前らだってさっき人を襲ってただろ!?」

 やぐらを登って来る梅吉の顔を見て東風は歯を出し微笑んだ。

「俺たちはされた事をし返してるだけだ。」

 言葉は通じるのに会話が出来ない。

 梅吉は歯がゆさに下唇を噛んで目を釣り上げた。

 東風はそんな悔し気な兄弟の表情を、目を釣り上げ、心底嬉しそうに見下している。

「ははははは!でも、本番はこれからなんだぜ?」

「何だって?」

 梅吉はやぐらの中腹部分で足を止めた。

 上に登ろうとするのに、妖精達がハエの様にたかってくる。

「今さっきここの電波塔の電波送受信施設を復旧させたところだ。ここにいる輝夜が破滅と混乱の歌を歌い全国に流す!国は大混乱だ!その混乱のさなかに乗じて、妖精達が人間を食らう!もぅこの国は俺たちのもんだ!」

「っつ!そんな事、電気が切られている今は出来ない筈だろ!?」

「出来るんだよおぉ!馬鹿垂れがあぁ!胎児だった妖精たちは肉体を持ってる!つまりこいつらが普通にテレビやスマホを点けに行けばいいだけのことなんだ!」

 獣から逃げおおせ、飛び回る妖精達が梅吉を一瞥してせせら笑った。

 交差しながらひらひら瞬く青い光り。

 梅吉の身体に張り付いてくる妖精を鳥たちが必死で捕えようとするが、小さくすばしっこいので中々掴まえられない。

「それに、お前、見た事ないか?消してあるテレビが突然点くホラー映画。こいつらもきっと可能だ。楽しみだぁ…色んな遊びができる。」

 面白がっている東風に心底腹が立ち、梅吉は妖精に纏わりつかれたまま、やぐらの表面を四肢の先で掴み、勢いよく最上部まで上った。

「楽しみだぜ!あの手この手で、俺達を疎外した奴らを脅えさせていたぶれるなんて!」

 東風は梅吉に向って着ている羽織を投げ付ける。

 梅吉は視界を阻まれたまま東風に手を伸ばした。

 東風は青々輝く羽を広げると、梅吉の差し出した手から逃れ、輝夜の手を取り飛び立った。

 梅吉が顔に掛かった羽織をはぎ、周りを見渡すと東風はもう其処には居なかった。

 やぐらの下を見回し東風を探す。

 すると、東風が室内の脇に一直線に飛び、エレベーターに乗って上部に向うのが見えた。

 梅吉は急いで追いかけようと、やぐらから飛び降りた。

 其処へ一匹の妖精が梅吉の顔面に突進してきた。

「うわっ!?」

 っと、言う間に梅吉は後ろにひっくり帰りやぐらの屋根に背中打ち付ける。

「ぐえ!」

 脊柱を思い切り打撲した。

 妖精たちが隙を付いて、束になって梅吉に降りかかってくる。

「くそっ!あっち行け!」

 梅吉が叫ぶと、妖精達はピタリと動きを止め、散って行った。

「え?」

 梅吉は呆気に取られる。

「…そうか…、おれは東風と双子だから」

 どうやら妖精達は自分達の司令塔の東風と同じ声質の、双子の梅吉の声に反応したらしい。

 梅吉は立ち上がり、ごくりと唾を飲んでから立ち上がった。

「ごめん」

 今更と思いながらも謝罪する。

 小さく呟いて、大きく息を吸う。

 「ここにいる妖精達!全ての動きを止めて、獣たちに噛み砕枯れろ!」

 次の瞬間。妖精達がピタリと動きを止め、次々に獣に噛み砕かれていった。

 梅吉は獣たちがうめき、妖精たちが叫び声を上げる中、室内の脇に向って走り、東風達の隣のエレベータに乗った。


 東塔タワーのエレベーターはガラス張りだ。

 先に上に向っていた東風はガラスの向こうで、隣のエレベーターの車輪が動いてるのに気が付いた。

「大丈夫俺がついてるよ。」

 夜の暗闇が入り込んでくるガラス張りのエレベーターの中、不安げな輝夜の肩を東風がしかと抱いた。

 東風と輝夜が向う電波送受信施設は、地上から250m上がった特別展望台中央にある。

 東風は最上部へへ辿り着くと同時に、全てのエレベーターを破壊し、落とした。

「ぐわああぁっ!!がはっ!」

 まだエレベーター内にいた梅吉が突然の揺れに襲われ、天井に身体を打ち付ける。


「さぁ、国中に君の歌を聞かせて。」

 国中の液晶画面が東塔タワーから流した電波で強制的に点いた。

 その液晶画面に映し出されたのは、東塔タワーと、その上の美しい満月。

 電波塔送信施設から曲のイントロが流れ始めた。



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