8 被害者同盟兼同志
「………………あれはいつ死んでもおかしくない。」
私の目をまっすぐに見ながら告げた神官様は固まった私に、ふわりと安心させるように微笑みかける。
「まあ、私が不浄度合いを確認できるようになった当初からあいつは真っ黒なんですよ。私の先輩が初めてあいつを見た時からそうだったと言っていましたから。それがあいつの体質なのでしょう。」
さて話はここまでだという風に神官様は椅子から立ち上がった。
あいつの食事が嫌になったらいつでも私のところにおいでなさい、私の食事もなかなかに美味ですよと微笑んだ彼は、私に黄金色の大きめの飴玉を差し出す。
「ネーベル!!……ってあれ?琴葉、目が覚めたのね、おはよう」
ノックもなしに部屋にひょこっと現れたのは可憐な少女。
職業聖女のマリア・リステア(本名:佐藤 満)だ。
「聖女様、ようこそおいでくださいました。すぐにあたたかな紅茶を用意しますから。」
「大丈夫よ、琴葉の様子が気になって来ただけだから。でも大分顔色が良くなって良かった。ありがとう、ネーベル。」
聖女こと満が、春の木漏れ日のような暖かな微笑みを神官様に向けると神官様はうぐっと軽く声をあげて、胸を押さえた。
どうやらクリーンヒットしてしまったようだ、聖女の微笑の威力の恐ろしさを改めて実感する。
「さっきね、レオさんが帰ってきて、琴葉の事すごく心配していらしたわ。」
今は目覚めた琴葉に美味しいご飯食べさせるために、部屋でご飯作ってると思うわと神官様から私に顔を向けた満に、分かったと短く答えると私はソファから起き上がる。
「神官様、ありがとうございました。大分体調も良くなりましたから、もうそろそろ失礼します。」
ぺこりと頭を下げれば、神官様は頷いた。
「礼には及びません。私もあなたとお話しできて楽しかったですよ。今度茶会でも開きましょう、軽食等も用意して。」
「ネーベルったら、すっごく甘党なの。私はあまり甘いものは得意じゃないから良ければ付き合ってあげて。」
「ちょっ!聖女様!!それは伝えない約束ではありませんか!」
「……分かりました。私、甘いもの大好きだから楽しみにしてます。では失礼します、神官さ………………。どうしました?」
神官様はなかなかに可愛らしい人だと分かったし、ついでに甘いものを食べられるなら良いなと茶会への参加を楽しみにしていると伝えた私だったが、神官様の顔を見て退室の挨拶をしようとしたところで固まった。
神官様はこれでもかという程目を見開いて私を凝視していたのだ。
「………………気持ち悪くないのですか?」
しばらくして俯きぎみに呟くようにされた質問に、私の脳内は疑問符のダンスパーティーが開始された。
「気持ち悪い……ですか?」
困ったように満を見れば、なぜかにこにこしている。
「だって………………いい大人が…しかも……男が甘いものが好きだなんて……。」
そういえばと思い出す。
私たちのもとの世界では甘党男子、お菓子系男子、スイーツ男子なんてよく言われていたし、味覚なんてそれぞれの好みの問題だろうと思う程度だったが、この世界は違うのだ。
甘いものを食すのはもっぱら女性、特に若い娘たちだ。
こちらの世界の男性でも甘いものが好きな人は一定数いるとは思うが、周囲からの風当たりが強く大手を振って食せない。
「私たちはそういう風には思わないから、琴葉に声かけて見たら?って言ってたんだけどね、ですが…とか、しかし…とかずっと言っててね。」
困ったように可愛らしく小首をかしげながら頬に手を添えていた満が、やれやれと小声で私に伝えてきた。
「味覚は人それぞれです。それに私も甘いものが好きなので、甘いものについて語れる方との会話を楽しみにしています。レオはご飯への熱意はすごいけど、甘いものへの愛情は人並みですから。甘いもの好きな男性を気持ち悪いだなんて思ってないですし、思いませんよ。」
はっきり告げれば神官様の深い霧のようなグレーの瞳に光が宿り、心なしか少し潤んでいるようにも見えた。
「同志よ!!!!これからよろしくお願いします!!!!!!!」
被害者同盟兼同志認定された私は、何故か感動+興奮した神官様と熱く握手をすることとなり、その時間は、料理が出来たとレオが呼びに来るまでの間ずっと続くこととなった。
甘いもの大好き男子好きです。
私、神官様好きすぎますね笑
次回からはレオ多めになる予定です。
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次回も明日21時更新です。
次回もよろしくお願いします。