1 レオのあったかシチュー事件
爵位とかを考えることに疲れてのんびり気ままに書きたいと思い連載スタートしました。
冒険も大好きですが、こういうゲームは初心者状態なので、冒険ゲームファンの皆さんには謝りたいこと沢山です。
まあ、そういう設定なんだな程度の温かい目で見守っていただければ嬉しいです。
テレテレテッテッテー
夜明けとともに目覚めの音楽が脳内で響き渡る。
恐ろしいほどの大音量で脳内に響いているが、そんな大音量にも慣れつつある今日この頃。
慣れって恐ろしい。
アラームがなくても寝坊することはないからありがたいとさえ思い始めてしまっている。
「お。もう起きたのか?今日も早いな」
既に朝の支度を済ませて剣の手入れをしていた赤髪イケメンがこちらを振り返る。
私より遅く寝て早く起きるこの人は一体いつ寝ているのだろうか…と考えるが、もともと睡眠時間が短い人なのだろう。
眠そうだとかぼんやりしているだとかそういう表情を見たことがない、常に爽やか男である。
今日も今日とて爽やかだ。
「おはよ。私より早く起きてる貴方には言われたくないのだけど?」
眠い目をこすって伸びをするとそれもそうかと、これまた爽やかな笑顔が返ってくる。
「顔洗って来いよ、その間に飯用意しといてやるから。」
「………うん、そうする。昨日のコケッコーの卵使うの?」
「ん?当たり前だろ。……そんな嫌そうな顔すんなって。見た目あれだけど、めちゃくちゃうまいんだぞ?ってか俺が作った料理でまずいものなんてない。俺の腕を信じろ信じろ。」
「んーーーーー。まあ、レオの料理はいつもおいしいけど…。」
だろ?と自慢げな表情でニカッと蜂蜜色の瞳を細めた爽やか君は名をレオ・アレット・フォートという。
レオは元々は聖騎士団として王城勤めをしていたかなりの実力者なのだが、色々あって今は私の旅に同行してくれている。
ちなみに彼と魔物退治の旅を始めて、今日で10日目。
はじめは魔物の凶悪な見た目に気絶しまくり、脳内で流れる大音量のBGMのせいで頭痛に悩まされ…と辛い毎日を送っていた私だったが、それでもここまでやってこれたのはレオのおかげだった。
なんてったって、飯がうまい。
私はいつまでも忘れないことだろう………。
魔物退治の旅、初日。
気絶から復活した私を、体の内から優しく温めてくれたシチューの味を。
*****
「ほら、腹減っただろ?飯作っといてやったからな、たくさん食ってたくさん寝て、体力回復させねえと。俺の飯はうまいぞ。騎士団でも俺が飯当番の時はすごい列出来てたんだからな。」
誇らしげに話しながら、彼は木の器によそったシチューを私に手渡した。
口に含むと優しくてどこか懐かしい味がする。
ドレスコードのある高級料理店で出されるような気取った味ではなく、愛情を感じられる優しい味。
とろっとろの野菜と、優しい甘さのトウモロコシの粒が入っている。
そしてなんといってもお肉。
少し大きめにカットされたお肉は、これまたとろっとろだ。肉のうまみが口いっぱいに広がり、そして溶けてなくなる。
綿菓子のようにだ。
「どうだ?うまいだろ?」
「うん。すごくおいしい…。」
思わず頬がゆるみ、口元に笑みが浮かぶ。
私の表情を確認して、レオも微笑むと衝撃の一言を発した。
「俺の料理は騎士団1だからな。お前が飯屋開いたら毎日通うって仲間にもよく言われてるんだよ。で、この肉もサイコーだろ。さすがファイアウルフ。こいつさあ、普通に調理しちゃうと固くてまずいから食用にされてないんだけど、こうやってちゃんと下処理してやって、蜂蜜とレウラリアの実から採れるエキスで漬けてやるだけでとろっとろになるんだよ。」
レオは料理について嬉しそうに語る。
蜂蜜色の瞳が嬉しげに甘さマックスに細められ、キラキラ輝いている。
少女たちが今の彼を見たら頬を桃色に染めて恋に落ちてしまうことだろう、美形の微笑は恐ろしい限りである。
が、そんな事どうでもいい。今はまず、言いたいことがあった。
「ファイアウルフ………?」
「そ、ファイアウルフ。こいつ実はめちゃくちゃうまいのに皆もったいないよなぁ。毛皮と牙だけ取って肉は放置してくんだよ。」
レオは騎士団時代に討伐のために入った森で、モザイク処理必須の肉が放置されている状況を何度も見つけていたらしい。そこで、食べられないかと試行錯誤を繰り返し辿り着いたのがこの方法らしい。
「レウラリア使うのはなかなかいいアイディアだよな。最初は失敗しまりでさ。ある日まずい肉食いすぎて腹壊したんだよな。んで、痛みの感度下げる効果あるレウラリア食ってから、その日も失敗した肉食ったんだよ。そしたらびっくり。口の中で肉がとろけて消えちまって!!」
いやあ、あの時の感動は忘れられないよなーと素敵な思い出を懐かしむレオ。
「…………ねえ、今日私の前に現れた魔物何て名前だったっけ?」
若干涙目になりつつ問いかけた私にレオは目をぱちくりと瞬かせた。
「ファイアウルフだけど?」
今食ってるやつと気の器に入っているシチューを指さしながら告げる彼にめまいがした。
思い出されるは私が気絶する原因となった魔物。
真っ赤な炎を吐き出しながら彷徨う3つの頭。
3匹いたわけではなく、1つの体に3つの頭が付いている。
黒い毛皮は針のように鋭く、その毛皮の犠牲になったのであろう何かの肉と骨が挟まっていた。
炎とおそろいの紅の瞳は、光が一切なく黒い深淵を覗き込んだかのよう。
そんな頭がおかしくなりそうなおぞましい姿をした魔物を今、私は腹に収めてしまったのか……。
レオがこちらを不思議そうに見ている。
「なんだなんだ。俺説明しただろ?戦闘前に。こいつはファイアウルフって名前で、うまいぞって。」
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連載開始記念で10話まで毎日21時更新いたします。