状況判断が死線を分ける
歓迎会から5日が過ぎた、
隊員達も現地に慣れたのか? 肉体強化の訓練にも余裕が出て来ていた。
「最近、トイレに逃げ込む奴が減ったな(笑)」
「逃げ込んでいる訳じゃないっすよ!」
「そうっすよ!」
「「「(笑)」」」
歓迎会の夜、自衛官全てにある物を飲ませた!
納豆菌と特殊な腸内細菌を配合したフリーダム特製ジュースだった。
泥水や野生動物などを口にする為、どうしても胃腸の調子が崩れ
下痢や嘔吐、発熱などの症状が予想されるが、
このジュースを飲むと腸内の菌が活性化し、食当たりなどの免疫力を上げ、
症状を抑える効果があるのだが、
この特製ジュース自体が飲むと数日、下痢を起こすので、
訓練中に隊員達が頻繁にトイレに駆け込んでいた!
「腹が痛くならないので耐えられますが・・・」
「本当っすよ、踏ん張ると漏れそうで大変だったすよ!」
「「(笑)」」
腰まで泥水に浸かりながら土嚢を持ち上げ山積みしては崩して行く、
それを何度も何度も5日間続けていた。
訓練は単純で地味、それでも自衛隊員は愚痴を溢さず、
健気に毎日訓練を続けている・・・そして彼等の唯一の楽しみが風呂だった!
沖縄とは言っても、そろそろ冬の季節、泥水は身体の芯に厳しかった。
「ふ〜♪ 天国♪♪」
「「(笑)」」
「自衛隊に入隊したての頃、毎日の訓練がキツかったが、
ここの訓練は地味でキツいな(笑)」
「あぁ、だけど腰回りが一回り、でかくなったよな♪」
「おぉ、今だったらトラックも押せそうだけどな(笑)」
「確かにな、たった5日でこうも違うのか?」
「訓練と食事だろう?」
「そうだな・・・」
美味い食事は送迎会まで無いと言われていたがそうでもない、
毎日2回、7時と18時に食事が来る、
肉中心の食事だが不味くはない、ただ量が多い、多過ぎて拷問に近い量だ!
傭兵達は平気で平らげる中、ただ負けずに喰らい付きなんとか完食する自衛官、
味わって食す事が出来なかった。
食後、腹ごなしとして、8時からランニングが10km!
傭兵達は40分程で完走するが、自衛官は1時間も掛っていた。
時速10kmを遅くはない、
平坦な道ではない、足場の悪い荒地でこの速度なら自衛官としては合格だった、
然し、ここでは通用しない愚痴だった。
「脳で考えるな、身体で反応して代謝で補え!」教官からの言葉が、
自衛官達にも少しずつ理解できる様になって来ていた。
「あれだけ喰っても夜には腹が減るんだよな(笑)」
「俺なんか夕食まで我慢出来ない時もあるぞ!」
「「「(笑)」」」
昼の時間帯に休憩がある、60分程の時間だけど自由にしていい、
だけど何もない、購買する店がない、自動販売機も何もない、
あるのは自然だけで傭兵達は蛇などを捕獲して焼いて喰っている。
決して美味くないが、野生の正気を補給出来る気がするのと、
夕食の飯がいっそう美味しく感じる為、隊員達も捕獲したりしている。
傭兵達に捕獲のコツを尋ねると簡単な答えが返って来た!
「敵だと思えばいい、
敵の位置を先に察し、気付かれずに仕留めればいいだけ(笑)」
理屈は分かるが・・・まだ身についてはいない様だった・・・。
6日目の朝、
本日から訓練内容が変わると伝えられグランドへ向かうと、
自分達が持ち込んだトラックが!
「今日から5日間、こいつを押し続けてもらう!」
「おぉ!」
「今度は負けねぇぞ♪」
「「おぉ、(笑)」」
どんな沼地でも押し続ける覚悟を見せていた隊員達、
鍛えられた肉体に自信が満ちていたが教官が水を差す!
「勘違いするな! 5日間だ!」
「5日間?」
「5日連続!!」
「分かった様だな! 最低速度を時速5kmとする!
何人で押しても構わんが5台全て5日間押し続ける様に!」
「「「隊長!」」」
「落ち着け!」
渋谷や各隊の隊長が集まり教官に質疑を問う・・・すると、
各隊の隊長が運転席でハンドルを操作、グランドを5日間周回する事、
食事は1日2回提供するが、トラックを停車させる事は認めない。
「どうやって?」
「押す人数を変えればいいでしょう?
来た時と違い1台を20名で押す必要はないでしょう?」
「なるほど・・・」
何人で押しても構わない、時速5kmを維持出来るのなら一人でもOK、
その間に、食事なり休息なり部隊の判断で対応する様命令する。
「時速5km、5日で600kmかぁ!」
「やるしかない!」
「準備しろ!」
「「「押忍!」」」
最初は体力があるので、
各隊どれだけ少数で時速5kmを維持出来るかを確認する!
「8名か」
「「「「ウチの隊もだ!」」」」
6名なら3チームに分け、補助も2名出来たが8名だと2チームしか出来ない、
補助に4名いるがどうしたものかと考える・・・そして、
「◯◯! ◯◯! ◯◯! ◯◯! ◯◯!」っと名前を呼び、
4名の班を5つ編成して1時間毎にローテーションをずらして行く、
「最初は左側を◯◯! 右側を◯◯! 1時間後!◯◯が左側と交代!」
「押忍!」
「そして1時間後右側を◯◯!と交代だ!」
「了解!」
2時間ずつ押し続け、その間他の班は休息なり食事を行い身体を休める
これが自衛隊員の出した答えだった。
他の部隊も同じ様に部隊を分けて、
各班で交代しながらトラックを押し続けた!
1日目は順調に進んだ、
休息中の隊員達には食事の他風呂にも入る余裕があったが、
2日目、3日目と過ぎて行くと段々時速5kmの維持が困難になっていった!
「どうしてだ?」
「それほど疲れてはいないんだが?」
「!!」
3日間、トラックを5台押して歩いていたグランドの地面が、
トラックの重さや隊員達の踏ん張りで地面が削れ轍が出来て荒れていた!
「地面か!」
「轍にタイヤが引っかかってスピードが維持出来ないんだ!」
事前に事態を予測して隊長はトラックを操作していればグランドは荒れず、
轍などで足が取られたりタイヤは引っ掛かったりしなかったが・・・
「俺のミスだ!」
グランドに引かれている最短のコースを選んで操縦していた為、
内側の地面が荒れている、
このまま内側を走るか? 距離は増えるが外側を選ぶか?
隊長の決断を隊員達が押しながら待っていた。
「今回は時間だ! 距離じゃない! 外側を走るぞ!」
「「「了解しました!」」」
5日間グランドを走ればいい、
その為平坦な場所を選ぶ決断は決して間違ってはいなかった・・・雨が降るまでは
4日目の早朝、雨が降り出す! グランドは一気に水分を含み泥濘に!
あの時、内側を走り続けていれば、外側の地面は硬く水分を弾き、
半日程度ならそれほど悪路に変わらなかっただろう、
然し、トラックで走った地面は内側同様に泥濘足を取られていた!
「◯◯! 部隊を2班に分ける! 10名で押せ!」
「押忍!」
10名ずつの2班に再編成し悪路の中必死に5kmを維持していた。
交代時間を必死に考える隊長、1時間では疲れが解消されない、
でも2時間では負担が大きいっと頭をフル回転させていた・・・。
「◯◯! 2時間維持出来るか?」
「・・・やります!」
「◯◯! お前達はどうか? 可能か?」
「可能であります!」
「よし! 2時間交代で任務を続行する!」
「「了解!」」
雨は昼過ぎには上がった、それでも地面の状態はどんどん悪化して行く
初日の泥沼までは行っていないが、足首まで埋まるので隊員の疲労も激しかった!
夕方、日没した暗闇、必死に押し続ける班を思い浮かべながら、
必死に夕食を胃袋へ詰め込む!
脳で考えるな身体で反応する為、
身体に動いて貰う為に飯を代謝で補う為に、必死にエネルギーを詰め込んでいた!
「交代用意!」
「「おぉ〜!」」
交代した途端に倒れ込む隊員、 日が沈むと雨の影響か?
周辺の森が涼しい風を当てて来る!
身体が一気に冷える! 手足が一気に硬直する!
疲労も影響しているが、自然の恐ろしさを感じながらも必死に押す、
4日間繋いで来たトラックを、ただ必死に前へ押して行く!
風呂に入り身体を温めても直ぐに冷える、
それでも隊員達は諦めない、アドレナリンが湧いている様子も無いが、
彼等には意志を保つ支えがあった、決して崩れない屈強な意志が!
空が明るくなって来た! 5日目に入ったが教官から止めの合図はない!
5日間なのだから今日1日まだあると思う隊員達に、甘い妄想は消えていた!
朝食を済ませ交代し押し続ける・・・!
「止め!」
教官の声が聞こえた瞬間歓喜の声が聞こえた!
「「「「「おぉお!」」」」」
トラックを車庫に戻し、本日の訓練を終了とすると聞いた隊員、
「終了?」
「まだ昼前だぞ?」
「いいのか?」
「♪♪♪♪」
明日から新しい訓練が行われるので、
本日の訓練を終了し、各自体調を整えよ!と命令が出た!
早速全員で風呂に入る自衛官、風呂で疲れを癒しながらみんなで労を労った!
「5日間もだぞ?(笑)」
「J◯Fかよ俺達は(笑)」
「「(笑)」」
風呂に浸かりながら身体の異常を自覚する!
気のせいじゃない身体の節々が癒される、指の感覚や感触の違い
なにか研ぎ澄まされた感覚が身体から感じ取れていた。
「隊長・・・」
「なんだ?」
「この風呂って、毎回綺麗なお湯っすよね?」
「あぁ? ・・・確かにな?」
「5日間いつでも入れたっすよね?」
「そうだな・・・」
「温泉?」
「沖縄にある訳ないだろう?」
「そうっすよね・・・」
気にしていなかった湯船のお湯、
疲労が一気に消える、疲れが癒される、活力が漲る・・・不思議なお湯だった。
明日も0時に更新いたします。




