朝……チュン?
幸せな夢を見ていた。
とっても柔らかくて、温かい夢。でも、具体的にどんな夢かは思い出せない。
瞼の裏が明るくなっているのに気が付いて私は目を擦った。
「ん……?」
身体を包むお布団の感触と、それにしてはかなり温かい抱き枕の感触。それが妹だと気付くまでに、少し時間がかかった。
「侑希、ちゃん……」
「んーっ……おねぇちゃぁん……」
甘い声で唸りながら起き上がろうとする私にしがみつく彼女。ぐっすり眠っているようだから、無意識だろうか。
あれ? なんで侑希ちゃんが私のお布団にいるんだろう。
昨夜。
「お姉ちゃん髪サラサラ~♪」
御夕飯やお風呂などの夜の時間を二人で入れ替わりまくりながら過ごした後、沙希ちゃんはお部屋でわたしの髪をとかしてくれた。
薄暗くランプを付けた二段ベッドの下段。わたしはその淵に腰を下ろして、沙希ちゃんはわたしの後ろに女の子座りをしていた。腰あたりまであるわたしの黒い髪に彼女の細い指が通されて行くのが心地よかった。
「お手入れ大変じゃない?」
「んー、大変だけど、わたしはこれがお気に入りだから」
「うんっ。とってもかわいいよお姉ちゃん!」
沙希ちゃんは後ろからわたしに抱きついた。アンダーバストを優しく締め上げる彼女の腕。肩に乗せられた彼女の顎と、耳元を吹き抜ける吐息。
「さ、沙希ちゃんっ……」
わたしは赤くなる頬を隠した。後ろからじゃ見えないかもしれないけど、そうでもしないと姉妹を超える感情が芽を出しそうなのだ。
やばいやばいやばいっ。沙希ちゃん……!
落ち着けっ。落ち着きなさい侑希っ。
ふうっと息を吐いて、聞く。
「さ、沙希ちゃん?」
「ん?」
彼女は目を閉じたまま、首をこてんと転がす。
「どっちで寝る? 上下」
「お姉ちゃんが好きな方で良いよ~」
「じゃ、じゃあ、わたしは上にしようかな」
わたしは心を隠すために頬を掻いた。
もちろん、本当は……。
でも、お姉ちゃんだし、あんまり変なことして嫌われちゃうのも嫌。
「わたし、上がっていい?」
抱きついたまま離れようとしない沙希ちゃんに聞く。
「んーんっ。まだ、もうちょっとぎゅーしたい……」
「っ……」
妹沙希ちゃんがこんなに甘えてくるのはあんまりなかった。ツンデレってわけではないけど、あんまり年下感のない妹だったんけどな、さっき。
まあそういう時もあっていいよね。わたしもあるし。
「わかった」
お姉ちゃんとして妹を甘やかすのは大切なお仕事ですもの。それはどうぞ存分にお姉ちゃんを摂取していってくださいな。
まあ、わたしも全力で妹を摂取しているのですけれど。
いや、わたしが欲しいのは、《《沙希ちゃん》》、かな。
「お姉ちゃん?」
「ん?」
ちゅ。
「ひゃっ!?」
首元に柔らかい感触が走った。彼女の身体の内で、そんな感触がする部分をわたしは知らなかった。
「えへへ~、可愛いっ」
「んもー……お姉ちゃんで遊ばないのっ」
「えぇ? 存分に摂取していいんじゃないのぉ?」
「えっ」
なぜ、心の声を読まれているのです!?
「さっき、声漏れてたよ」
「っ!」
心臓から熱がこみ上げた。
「え、嘘……どこまで、漏れてた?」
「どこまで? そこからさらに先があるの?」
「い、いや、何でもない……」
沙希ちゃんが欲しいとかいう変態願望までは届いてないようだ。危ない危ない。
でも、だからってちゅーしなくても……。
背中にかかる彼女の体重がずっと重くなった。
「さ、沙希ちゃん……?」
すぅ……すぅ……。
ね、寝ちゃった! 寝入り早っ!
わたしは彼女の腕をそぉっと解いて、彼女の身体を支えながらそのままベッドの上に横たえた。大きな枕に埋まる彼女の小さくて顔に手を当てる。
か、かわいいなぁ……!
何の前兆もなく、胸キュンする。感情の地産地消である。
「わたしも、お姉ちゃん摂取したい……」
い、いいよね……?
私は沙希ちゃんの横に添うように寝そべって、二人で毛布を被った。それから彼女の身体をゆっくりと食んで、頭に手を当てる。
とろ、とろ、とろ、とろ、とろ、とろ、りんっ♪
「お姉ちゃん、あったかぁい……」
夏の夜の暑苦しさなんかなくて、恋の心地よい病熱が身体の中をぐるぐると回っていた。
お姉ちゃんの部屋着の襟を少しだけ引っ張る。あらわになる鎖骨とナイトブラのストラップ。その首元に唇を……。
こ、これはもしや……。
朝チュンした!?
だって私が寝た時、侑希ちゃんはお姉ちゃんだった。
それが寝ている間にひっくり返ってる。起きてるうちの最後の記憶は、侑希ちゃんの首元に唇を押し付けたこと。
も、もも、もしかして……。
「えっちなこと、しちゃった……!?」
でも、服は着てる。なんか首元はだけてるけど。
「お姉ちゃん……?」
侑希ちゃんは私の背中に回した手をどけて目を擦った。
「ゆ、侑希ちゃんっ!」
動く彼女に、今更ドキッとした。
「侑希ちゃん、私が寝てる間に入れ替わった?」
「うん。甘えたかったんだけど、そのまま寝ちゃって」
「あ、そっか」
胸のどこかにある残念を感じ取りながらも、綺麗な侑希ちゃんに安堵する。
そうだよね。そんなこと、して、ないよね……?
「お姉ちゃんお姉ちゃん」
侑希ちゃんははだけた私の肩をとんとん叩いた。
「うん? どうしたの?」
妖精は私の身体を包み込む。
「おはようっ」