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5話 不死鳥の姫からの頼みごと

 ノルウェル公国の都・アルカデの街。


 僕は前が見えないほどの沢山の荷物を持って、商店街の通りを歩いていた。


「荷物、大丈夫ですか? ご主人様」


 ミディアが心配そうに僕に尋ねた。


「これくらい問題ありませんよ。それに荷物を運ぶのは僕の役目ですからね」


「そうなのですか? そう言う仕事はメイドの私に任せてくださればよろしいのに……」


「構いませんってば。それにまだ必要な物があるじゃありませんか? 僕はまだまだ荷物は持てますよ」


「……そうですか。ならお言葉に甘えさせて頂きますね、ご主人様」


 遠慮がちに彼女はそう言った。


 僕は本格的に古城に住む事に決めていた。

 それに必要な生活必需品や食料を買うために、この街に来ているのだ。



 数十分後。

 必要な買い物を終えた僕たちは、街の東門から出てしばらく街道を歩いている。


「そろそろこの辺りでいいでしょうか……」


 辺りを見渡し、僕とミディアは街道を外れて人気が無い場所へと移動した。


 人がいない場所を選んだのは、僕の能力をあまり人に知られたくないからだ。


「じゃあ転移(トランスファー)で、家に帰りましょう」


 転移は全能スキルの一つ。

 古城からアルカデの街まで、おおよそ百キロは離れている。


 こんな能力を人に見られたら、後々面倒な事になるのは必須。

 だから僕はスキルを使う際には、細心の注意を取らないといけないのだ。


「……ご主人様。どなたかこちらに向かった走ってくるようでございますよ」


 ミディアが街道の方を指差している。


「え? そりゃあ走ってくる人くらいいても変じゃないでしょ?」


「……ですが、その人物は魔物に追われているようですが?」


「え!?」


 砂埃を巻き上げ走ってくる女性の後ろから、大きなトカゲの様な魔物が追いかけてきている。


「あれはサラマンダーじゃないですか!」


 サラマンダーはトカゲみたいな姿をしているけど、立派なドラゴンの一種だ。


 しかも真っ赤な体表をしたサラマンダーは、炎を吐くタイプだ。


「ミディア、荷物を頼みます」


「はい、荷物はお任せください」


 僕はミディアに大量の荷物を渡し、サラマンダーに狙いを定める。


加重(ウエイト)!」


 スキル発動と同時にズゥンと地面が少し振動した。


 サラマンダーの背中が逆くの字に曲がる。

 その場から動けないサラマンダーは、必須に手足をジタバタとさせてもがいている。


 目標の体重を、ゼロから数百万トンまで自在に変化させる事ができる能力だ。


 今のサラマンダーの体重は数百トンになっている。

 数分後。


 もがいていたサラマンダーの動きが完全に止まった。


「お見事でございます、ご主人様」

「まあ大した事じゃないさ。それよりも――」


 僕は走って来た少女に目をやった。


 彼女はハァハァと息をきらせながらも、僕に尋ねてきた。


「あの、サラマンダーは……どうなりましたか?」

「まあ、見てください」


 僕は彼女の後ろを指差した。

 彼女が目にしたのは、押しつぶされた背骨が折れ曲がったサラマンダーの成れの果て。


「え……? サラマンダーが死んでる!? な、なんで!?」


「ご主人様が貴女様を助けたのですよ」


「ええ!? この人間がサラマンダーを倒したの!?

 ど、どうやって!?」


 彼女は怪訝そうな顔をして見せた。

 サラマンダーを倒したのが僕だと信じられないようだ。


「ええっとですね……」


 僕は彼女にスキルの事を説明した。


 最初は胡散臭そうにして聞いていたけれど。

 証明として幾つかのスキルを見せると、彼女は驚いてはいたけれど一応は信じてくれたみたいだ。


「はぁ……そんな凄いスキルが存在するだなんてねぇ」


「それで……あなたはどうしてサラマンダーから逃げていたんですか?」


「うん……実はわたし、こう見えても不死鳥(フェニックス)なのよね」


「……え? あなた不死鳥なんですか!?」


「ふふん。そう、わたしは神獣・不死鳥なのよ」


 彼女は誇らしげな表情をしてみせた。


 神獣とはこの世界にいる聖獣たちの頂点に立つ存在だ。


 神獣は十種類いるが、一角獣(ユニコーン)不死鳥(フェニックス)聖龍(エンシェントドラゴン)天狼(フェンリル)は、その中でも別格の存在だと言われている。


 そんな神獣である不死鳥が、どうして人の姿でサラマンダー追われているのか。

「あのいろいろとお聞きしたいのですが……」


「なんで不死鳥であるわたしがサラマンダーから逃げていたのか、だったわよね? そこまでの経緯から話させて貰うわ」


「はい。その辺りを詳しく」


「いいわ。もしかしたらあなたの力を借りる事になりそうだし」


 そう言って彼女は語り始めた。


 彼女の名前はエミリカ、不死鳥族当主の娘だそうだ。


 エミリカの母親、つまり族長が魔王軍四天王の一人グンニグルに拿捕されてしまったらしい。


 魔王軍から不死鳥族に協力を求められたが、エミリカの母親がそれを断固として拒否したそうだ。


 エミリカはそれを勇者や英雄級の人間に助けを求める為に人間の姿になり、この街に向かってる途中でサラマンダーに追われていたらしい。


「だから、どうしても強い力を持つ人間……特に勇者に力を貸して欲しいから来たわけなのよ」


「……勇者ですか。確かに次世代の勇者と呼ばれる人たちはいます。でも彼らは魔王軍と戦っているはずですから、この街にはいないかと思いますが……」


「……そ、そうなの? うそ……じゃあわたしは全く関係ない街に来ちゃったって事?」


 彼女は両膝を突いて、ガッカリと項垂れている。


「良かったら、僕が手伝いましょうか?」


「え……? あなたが……?」


 僕は英雄でも勇者でもない。

 でも全能スキルを持つ僕なら何とかなる気がする。


 それに落ち込んでいる彼女を、僕は放って置けない。


「ええ、任せてください。まずあなたのお母様を助け出しましょう」


「あなた…まさか勇者だったりするの?」


「あはは。僕はそんなんじゃありませんよ。ただ困ってる人を助けたいだけです」


 僕は彼女の手を引っ張って体を立たせた。


「じゃ、行きますよ」


「へ? 行くってどこによ?」


「グンニグルの城にですよ。転移!」


 僕はエミリカを連れて、グンニグルの居城まで転移した。


読んで頂き本当にありがとうございます。


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