桜の紙飛行機
やったよ! みんな春の陽気で祠に来てくれる。桜の木の下でお花見してどんちゃん騒ぎ……でも、ボクは祠から出られない。みんなは桜に夢中なよう。誰かボクと遊ぼう! 春を訪れさせた魔王だよ!! ……遊ぼう。ねぇ。
――!
突然白い紙飛行機が飛んできた。コツンとボクの頭に当たる。誰が一体こんなことをするのだろう。腹が立ってビリビリと紙飛行機を裂いた。すると、紙くずと一緒に沢山の桜の花びらがボクの足元に落ちてくる。もしかして、ボクへのおくりもの?
……違う。ボクが欲しいのはコレじゃない。
ボクは友達が欲しい。桜なんて自在に咲かせられる。欲しいと思えばすぐに手に入るんだ。ねぇ、気づいてよ。ボクが孤独だってこと。怖がらないで欲しいってこと。ここに存在して君たちを見ているんだってことを。
「ワォーーッ!!」
「な、なに!?」
突然の遠吠えに振り返ると溢れていた涙が散らばる。狼女と人間の女の子、それから大きな一角のモンスターだ。何しに来たんだろう。もしかして怒ってるのかな。急に冬から春にしちゃったこと。
「なぜ泣く! 男らしく凛としろ!」
「……男らしさとは何かを簡潔に述べろウィリー」
「嫌だね。カーヴァ」
「二人とも、シフ様の前だよ!」
ダメだ。この三人の会話についていけない。彼らはボクをからかってるの?
「驚きましたかシフ様」
女の子は自分のことをベルシーと名乗ってきた。煩いのがウィリー、大柄な一角のモンスターがカーヴァ。どうやら彼らはボクのことを驚かせにわざわざ来たらしい。それでも、ちょっと嬉しかった。みんなが桜で浮かれている中ボクのことを見てくれている。ボクのことを考えてくれている。ちょっとした冷やかしであって信仰ではないと思うけれど……
「ねぇ、ボクと君たちは友達になれるかな?」
素直な質問を彼らにぶつけた。カーヴァが言った。
「冬を消してくれるのなら……」
ボクは悲しくなった。それはできない。今日暖かくした分、明日は極寒になってしまう。季節外れの桜も雪の重みで折れる。それを伝えるとカーヴァはガッカリした表情を浮かべた。ごめんね。本当に、ごめんね。それが魔王の役目だから。
「シフ様、冬にできる遊びってないのですか?」
ベルシーが尋ねてきた。ボクは夢の中の話をした。雪だるまを作ったり地面に絵を描いたり、みんなで雪合戦したり……と、そんな話を夢中になってしてしまった。冬は外に出たくないよね。こんな話をしても無駄なのに……
「雪合戦! 面白そうだな!」
「私、絵を描くの好きよ」
「……俺なら世界で一番大きな雪だるまを作れるかもしれない」
三人はボクの話を聴いて、冬に興味を持ったようだ。そしてそれをみんなにも広めてくれるらしい。明日極寒の冬になってもボクを恨んだりしないかなぁ。不安に思いながら足元の桜の花びらを見つめる。そのあと色々話した。人間とモンスター、怪獣の違いとかお化けはいるのかとか興味深い話でいっぱいであっという間に一日が過ぎていった。
三人とお別れのとき。ボクはまた冬を訪れさせなければいけない。
「今はさようなら春、来たれ冬よ」
茜色の空が段々と薄暗くなっていく。そこに雪がしとしと降る。なんだかボクの涙みたい。