共同戦線1 列車の問答
「合同任務の場所は、ルーベルシュテインよ。明日の、午後の列車で移動してね。」
そう昨日の魔術省でマーシャから言われた4人は、列車にて目的地に向かっている。
帝都ウィリーハインから、東に列車で4時間移動すると広大な紺碧の海と共にこの街は見えてくる。
帝国第3の都市と云われ、様々な産業で成り立つ巨大複合都市である。
優秀な国家魔術師を数多く輩出しており、都市の名前のルーベルシュテインは、直近の魔術大戦で目を見張る活躍をした伝説的な聖魔術師ラーノルド・ルーベルシュテインから取られている。
大戦中は、凄惨な市街戦が繰り広げられ街も壊滅的被害を受けたが、逞しい人々の努力と、国からの支援で、あっという間に復興を遂げ、戦火の色も今や街中には見る影もない。
ちなみに、ルートの出生はこの街であるから、里帰りの様相も呈している。
4人は、パートナー同士隣に座って、対面座席に向かい合うように収まっている。
一番初めに口を開いたのは、レイナ。
「ルーベルシュテインは、ルートさんの故郷ですよね?。」
答えたのはリンジー。
「そうよ。ルートは、あの街の今やスターよ。凱旋ってわけ。」
ルートは、話を聞いていない様に車窓に流れる景色を、銀色の瞳に写している。
「聖魔術を、専攻したのもルーベルシュテインさんの影響なんですか?。」
「そうね、それにご両親も聖魔術師だったから、ルートにとってはレールの上を通るように当たり前の事だったのよ。」
「ちげぇよ、闇魔術の才能が無かったんだよ。」
スワンソンが悪態を吐く。
「スワンソンさん失礼ですよそんな言い方。それより、今回はご両親とはお会いになるんですか?。」
「そうだな、花ぐらいは供えに行きたいな。」
ルートは、車窓から目を逸らすことなくポツリと呟いた。
「ルートのご両親は、大戦で亡くなったの。ルートは大戦中、帝都に居たから最後は看取れなかったらしけどね。」
やはり、リンジーが答える。今度は気まずそうに。
「すいません。そんな悲しい事があったとは私、知らなくて。」
ルートが視線をレイナに向ける。
「いや、気にしないで。立派に国の為に尽くしたんだ。悲しむような事ではないよ。」
レイナにはルートが一瞬微笑みかけてくれたような気がした。気の所為かもしれないが。
ルートの視線はまたもや車窓に戻った。
レイナも、気まずそうに目線を窓の外に移した。それを、目聡く見ていたスワンソンが場を取り持つため、任務の話を始めた。
「今回の任務は、平たく言うとどういう事なんだ?。」
「話、聞いてなかったの?任務中の国家魔術師が何人か行方不明になってて、それに堕天使【フューラ】の反応もあったから探査をするっていう事よ。」
リンジーが、呆れた様に話した。
「それで、なんで合同任務なんだよ?お前達だけでもいいじゃねーか。」
「あんた、学校で何をならってきたの。聖魔術師のなれの果てである堕天使【フューラ】に、対抗できるのは、相反する力を持った闇魔術師、そう、今回はあんただけなのよ。それに、魔物も居るかもしれないし、場所も場所だから、私達も一緒に行くことになったの。」
「それに、魔女狩りの噂もあるってマーシャが言ってたしな、こういう時は原則、単独チームだけでの任務は避けるんだよ。ドアホ。」
ルートが、今度は悲壮を孕んだ声でポツリと呟いた。
「魔女狩りか。・・・アホは、余計だ、馬鹿野郎・・・。」
スワンソンも、低く呟いた。
「あっ、街が見えてきましたよ。ほら。」
レイナが、少女のように目を輝かせている。初めてこの街に来たからだ。
「着いたらまずは、聞き込みからだな。」
ルートが、次第に近くなる街に視線を向けて言葉を発した。
「そうですね。聞き込みですね。」
それに、レイナが答えた。
「ただいま。トウサン、カアサン。」
ルートは、ロザリオを力強く握り、この日一番小さな声で呟いた。
聡くスワンソンは、その言葉を聞き逃さなかった。
そして、ロザリオを額の前に運び、祈りを捧げた。この街と。ルートの両親に。