帝都1 苛立ちと出会い
帝都ウィリーハイン
ヴォルヘスザーヘン帝国の首都である。この広大な国のほぼ真ん中に位置している。
国家魔術師のほとんどが居住しており、街中にはロザリオをたなびかせた魔術師が沢山往来している。
さらにこの街の真ん中には、豪奢なレンガ造りの魔術省が鎮座している。他の建築物と比べてもかなりの大きさである事が分かる。魔術省より大きな建物といえば、皇帝の住む、ディザーティデン城と、世界中の魔術書が集まる、国立魔導図書館ぐらいである。
西南の町、ニタリでの任務を終え、スワンソンとその相棒レイナは、魔術省の三番窓口に居た。
任務報告と、抗議の為に。
三番窓口には、スワンソンの顔馴染のマーシャ・リターナーが座っており、フレームの細い眼鏡を細白い指で、しきりに押し上げている。机に置いた書類とスワンソンを目線が行き来しているからだ。向けられる視線は、億劫そうなものだ。
「スワンソン、貴方、自分のしでかしたこと分かってるわよね?町を、一つ消したのよ。・・・尻ぬぐいをする身にもなってよね。同期の人間だからって頼られてばかりでは困るわよ。」
いかにも呆れた様に視線を向けてきている。
「あの町はもう、手遅れだった。・・・困るだって?お粗末な仕事をしているお前らが悪ぃんじゃねーか。」
スワンソンは、苛立ちを隠さず、マーシャの顔を見る。
「スワンソンさん、あまり魔術省の方を責めるような言い方は。」
レイナが、話に口を挟む。だが、それは間違いだった。
「貴方も悪いんですよ、レイナ・スカーレットさん。任務地の、探知も白魔術師の仕事ではないんですか?貴方が自分の仕事を全うしていれば、町は消えずに済んだし、人の命も少なからず助かったはずよね?。」
責められる対象がレイナに移った。
「それは・・・そうですけど・・・。」
レイナは、床に視線を落としゆっくりと目を閉じた。自分への失望で。
「そうですけど、じゃないわよ。初任務だったからって魔術師としての自覚を持ってもらわないと困るわ。貴方が、しっかりしないとスワンソンにまで、危険が及ぶのよ。」
レイナの頬に、涙が伝う。
糾弾されて傷付いて涙が流れたわけではない。自身の不甲斐なさが、とても悔しかったのだ。
「初任務の魔術師を危険に晒したのは、どこの誰だと思ってるんだ?。よくそんな事が言えるな。」
そんなレイナを庇うように、強い口調でスワンソンが苛立ちをマーシャにぶつけた。
「こいつは、自分の仕事を慣れないながらも、しっかりやっていた。少なくとも見てもいない、命も懸けない、此処の馬鹿共には、上から物を言う権利はないはずだろ。」
かなり、血が頭に昇っている。魔術省の、現場の惨状を知らない奴らは、本当に嫌になるのだ。
「初任務だからって関係ないわよ。ロザリオを皇帝陛下から賜った其の日から、貴方たち国家魔術師は、帝国に身を捧げ、国民の命を守らなければいけないのよ。そこに、経験なんて言い訳はきかないわ。」
マーシャも、相当熱くなっている。言ってることは間違ってはいないのだ。
「それに、スワンソン、その子には優しいのね。前のパートナーにもそのぐらい優しくしていれば辞める事は無かったのかもね。」
三人がそれぞれ目線を逸らした。色々な感情が、入り乱れ始める。
「そんなんじゃねーよ。それにあいつには、この仕事は向いてなかったのさ。」
スワンソンは、レイナの白いロザリオを見つめ、低い声で呟いた。
「あれ、スワンソンさんじゃないですか。ほら、ルートさんこっち。」
大きい声が、不意に背中に浴びせられた。
スワンソンと、レイナが振り向くとそこには、白のロザリオを首から下げた、ショートカットの少女が立っていた。その、半歩後ろに、銀色のロザリオを下げた銀髪の男が銀色の瞳で二人を見つめていた。